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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
サバイバル実習編~鳥に当たらぬ道理はない~
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21:三日目/女島04









「――それで、蓼科冥と間違えて八嶋麻矢を連れてきた、と」

「申し訳、ありません……」


 両手をついて頭を下げる長髪の剣士に、綴喜ゆらは深く息を吐いた。

 そんな様子を麻矢は黙って見ていられなかった。


「まあまあ、ゆらさん。間違いは誰にでもあるものです。ここはどーんと大きな器を見せて許してあげましょうよ」

「誰目線なんだ貴様。立場をわかっているのか?」

「いや、こうなるともう開き直るしかないじゃないですか」


 多少の強がりはある。

 綴喜ゆらがどんな人間なのかも、麻矢にはまだわからない。

 だが、あのツルギが認めていたし、前回誘拐された塔子は結局無傷だった。

 そのことを頼りに、麻矢は開き直ることにした。


「ふん。……まあ、貴様に言われるまでもなく、咎めだてするつもりはない」

「ゆら様――」

「クルミ。お前は何も失敗していない。お前が蓼科冥を捕らえても逃しても、どちらでもいいように陣を敷いてある。その上でお前は『冥の連れに毒使いがいる』という貴重な情報を持ち帰ったのだ。褒めこそすれ、咎めるものかよ」

「私の未熟な腕前をも計算の上だったとは。さすがです。ゆら様は本当に頭のよいお方――」

「それはやめろ」


 小牧のヤツめ、広まってるじゃないか――とよくわからないことをつぶやき、改めてクルミと呼ばれた剣士に目線を向ける。


「下がれ。ご苦労だった。温泉で疲れを抜いてくるといい」

「ありがとうございます。では、そうさせていただきます」


 頭を下げて退去するクルミを見送って、麻矢は言った。


「優しいんですね」

「事実を言ったまでだ。それよりも、貴様。あれだけ言ったのに蓼科冥の側につくとはな。図太い女だ」

「それは……冥は中学からの友達で、ほっとけなくて……」

「友人は選んだほうがいいぞ。選べるだけの数がいるならな」

「友達は選ぶものじゃありません。なるものですよ」

「見解の相違だな」


 吐き捨てるように言ってゆらは視線を外した。

 麻矢もつられてその視線の動きを追う。



 ――そこには、小さな集落があった。



 木材を組んだシェルターや一般コースの生徒のテントがいくつも立ち並んでいる。

 いくつか人影も見える。皆それぞれに作業をしている。

 蛇を捌いている者。

 魚を燻している者。

 蔦を編んでカゴを作っている者。

 そこに薪を拾ってきた生徒と山菜を摘んできた生徒が合流した。

 今後の予定だろうか、何か話し合っている。


「すごいですね、ここ」

「何も特別なことはしてない。人がいて、得意なことをさせていれば自然とこうなる、というだけだ。マンパワーさえあれば大抵のことは解決する」


 なるほどそういうものか――と一瞬納得しかけたが、そんなことはない。

 麻矢は海岸で生活する一般コースの女子たちの様子を見ていた。とてもこんな様子ではなかった。あの子たちはただ魚や牡蠣を焼いてはしゃいでいた。

 いかにマンパワーがあっても、そこに明確な目的意識を持たせて動かせる人間がいなければ、ここまで前向きかつ効率的には活動できない。


「――貴様は確か料理が得意だったな?」

「はえ?」


 唐突に話を振られて麻矢は間抜けな声を出した。

 それから慌てて話の内容を咀嚼する。


「や、はい。まあ、それなりにできるつもりですけど」

「それなら貴様には料理番をしてもらおう。うちの人間はほとんどがそのへんからきしでな」

「ここで料理を――?」

「いや、なに。おれは別に貴様を戻してやっても何ら痛痒はないんだが――さらわれた手前、すぐに帰っても気まずかろう?」

「……それは、そうですね」


 塔子と冥とポニーテールの人の元に、今から何事もなかったかのように帰ったら。

 たぶんめちゃくちゃに気まずい。

 いや、きっと無事を喜んでくれはするはずだ。そう思う。

 けれど、変な空気が流れそうなのもまた確かだ。

 であれば提案通り少しここで囚われのお姫様をやっていたほうがいいかもしれない。


(いや、お姫様じゃなくて料理人ですか)


 囚われの料理人。

 ……あんまり可愛くない。

 が、自分にはちょうどいいぐらいの肩書かもしれない。


「実のところ食材はそれなりに確保しているが、調味料に難儀していてな」

「ははあ。なるほど。サバイバル料理最大の問題ですよね」

「そこで貴様に頼みたい。塩焼きと塩スープ以外の料理を」


 調味料が塩しかないと、献立がひどく限られてくる。

 塩を振って焼くか、塩を入れて煮る――その二者択一になりやすい。

 そこにブレイクスルーを起こすには、たくさんの手間暇とそれなりの料理の腕がいる――というわけだ。


「どうだ、できるか?」

「わかりました。やりましょう」


 麻矢は即答した。

 別に料理人としてのプライドとか自負とかそういうものはない。

 そもそも麻矢は薬師であって、己をヒーラーだと自認している。料理人はせいぜいサブジョブだ。

 そういうことではなく、一つ思いついたことがあったのだ。




 ――それは、きっと自分にしかできない『戦い方』。





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