15:三日目/男島01
川に沿って三人の男子が道なき道を進んでいく。
隊列はこうだ。
先頭に地図を手にした佐々木咲也。
真ん中に無手の滝川ツルギ。
そして殿に全員分の荷物を持った大鳳示炎。
「本当に大丈夫ですか、大鳳さん?」
咲也が立ち止まって声をかける。
「構いません」
しかし示炎の答えは端的で、それ以上の問答を許さない。
咲也は苦笑して話題を切り上げた。
再び手元の地図を見る。
「そろそろ川から離れます。なのでここで水を汲んでいきましょう。大鳳さん、ちょっと荷物を」
咲也は渡されたリュックの中を漁り、まず支給品の水筒を取り出した。
続けて数本の竹筒を出す。
上部の節に穴が開けられており、そこには枝を削って作った蓋が刺さっている。
お手製の水筒だ。
「これに水を溜めます。おそらくそれで残り日数分にはなるかと」
「なるほど」
ツルギはうなずく。
ここまで川沿いを進んできたのは何よりも水分不足を恐れたためだ。
大きな文明は常に川沿いで興ってきた――というのも、今なら体感を経て納得できる。人は水から離れられない。今までそれを意識できなかったのは文明の力があったから。水道というものを考え出した先人の知恵と、それを張り巡らせてきた人々のおかげだ。
「大鳳さんにはさらに負担をかけることになりますけど」
「オレも少し持とうか?」
「問題ありません。拙にお任せを」
頑なではあるが、咲也を殴ってしまったことに責任を感じているのだ。不良然とした見た目と戦闘狂にも近い性格の割に、ひどく律儀な男であるらしかった。
「では、水汲みを兼ねていったん休憩しましょう」
そうして水筒を水で満たした後休息の時間となったわけだが、咲也は自作の地図とにらめっこしながらルートの検討をしている。
何も考えずについてきているだけのツルギは申し訳なくなったが、当の咲也の表情は明るい。生き生きとしている。ここ数日顔を見ていない二人の少女を思い出す。彼女たちもよくこういう顔をしていた。
「楽しそうだな」
「はい。最近は寝ても覚めてもこの地図のことばかり考えてます。出発前は眠れませんでしたね。小学校の遠足以来ですよ、こんなの」
「なるほど、オレにとっての武術みたいなものか」
……それと、ここ最近は麻矢と塔子のことも、自然とよく考えてしまう。
いつの間にか自分の中の深くに食い込んでいる。
「ええ。こういうのを愛と言うんでしょうね。僕の中で一番大きいのは冒険愛なんです」
「――愛」
思わず復唱する。
「ちょっと大げさでしょうか」
「いや」
あるいはこの気持ちもそうなのだろうか。
胸の中に灯る、この静かな熱も。
「あと、こうして多人数で冒険するのは初めてなんですよ。それも楽しくて。やっぱり一人のときよりテンションが上がります」
「冒険――とは言いますが」
そこで口を挟んだのは示炎だった。
「どうなのですかね。確かにサバイバル実習と銘打ってはいますが、しょせん安全な箱庭で遊ばされているだけではありませんか。だから五日なのでしょう。絶食しても死にはしない程度の日数だ」
彼はさらに自分の荷物の中を探り、リタイアボタンを取り出す。
「何よりもこのボタンです。これを押せば救助が来る。ならば今、なぜサバイバルをする必要があるのです。こんなものはぬるま湯です」
そう言ってリタイアボタンを思い切り遠方へ投げた。
「これをして初めて遊びではなくなる――と拙は思いますが、いかがです? 咲也殿」
「おい、それは――」
「あはは。そうですね。確かに」
なかなかキツい言動だったが、咲也は笑って肯定した。
「……なぜ笑うのですか」
「いや、真面目だなと思って。ただの授業なんだから適当にやろうって考えてたら絶対出ない発想ですよ、それ。なんだかんだ言っても貴方はサバイバルについて考えているし、正面から取り組んでいるじゃないですか」
「――――」
示炎は驚いたように目を見開く。
指摘されたことが意外だったのか。
もしくは、咲也が真正面から皮肉を受け取りながら、それでも素直に返してきたのが意外だったのか。
しばらくじっと咲也の顔を見ていた示炎だったが、不意に視線をそらし、ぽつりと言った。
「――かも、しれませんね」




