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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
サバイバル実習編~鳥に当たらぬ道理はない~
33/59

09:二日目/男島02








 ――サバイバル実習、二日目、昼過ぎ。


 滝川ツルギは緑深い山中にいた。

 左脇には腕くらいの太さの枝を多数抱えている。拠点づくりのために資材を集めているのだが、枝ぶりや材質的にそぐわないものも薪にするつもりで拾っている。


 その合間に空を見上げた。

 木々の葉に阻まれてほとんど見えないが、隙間から漏れ出す光から太陽が高度を落とし始めているのがわかる。


「こりゃ急がないとな」


 初日の夜をすごした仮拠点に別れを告げ、水の流れをたどって山道を登り、小川にたどり着いたのはしばらく前。日の高さから見て十時くらいのことだったろう。


 川底が見えるくらいに澄んでいて、質量ともに申し分ない。

 河原には手頃な石が転がり、近くの林には無数の倒木。

 キノコや山菜もあちらこちらに見える。



 ――これから四日間を過ごす本拠点として、不足のない場所だった。



 そこで、まずとりかかったのは火の準備だ。

 河原で大きめの石を集めてかまどを作り、細い枯れ枝を入れた。

 火起こしには河原で拾ってきた竹の破片を使った。よく乾燥し、真っ白になっているものだ。まずはそれを二つに分ける。それから刃を立てて表面を削り、竹の繊維で火口を作る。

 片方にナイフで切れ目を彫り込んで、もう片方をこすりつける。

 キコキコという乾いた音が響く。

 原始的な摩擦式火起こし。

 木材でやるのが有名だが、実は竹の方が適正が高い。

 火口も同時に用意できるし、なにより断然着火しやすい。


 かくしてツルギは『火の確保』に成功した。

 水は少し歩けばいくらでも確保できる。食料はその辺のフキやセリを採ればいい。探せばヘビやトカゲも捕れるかもしれない。


 ならば次にするべきは拠点の設営。

 ツルギは手頃な倒木を四角に組んで藤の蔦で結び、その上に太い枝を並べて土台を作った。地虫と寝冷えを避けるための高さのある床だ。

 とは言え床だけでは心もとない。

 だから、次は壁と屋根を作るべく追加の資材を集め始めて――現在に至る、というわけだ。


「――おっと」


 枝を拾う最中、倒木の側面に見慣れたキノコの姿を見つけた。

 シイタケだ。

 見渡せばかなりの数が生えている。

 キノコ狩りといえば秋だが、実はシイタケは春でも採れる。これを春子と呼び、秋に採れるものよりも美味とされる。


「ありがたい」


 シイタケと、その周辺に生えていた大きなフキを何本か採取する。

 左脇に枝、右手に食料を持ったまま、暫定拠点へと向かった。

 到着と同時に荷物を下ろし、軽く肩を回す。

 続いて首を、それから手首を回す。

 体がほぐれてくると同時にうずうずとした感覚が湧き上がってくる。 


「――少し、鍛錬したいな」


 トレーニング機材もなく、相手もいない状況ではできることは少ない。

 しかもやりすぎればサバイバルに支障が出る。

 そうわかっているのに、体がうずく。

 不自由で、思うような鍛錬ができない状況だからこそ、無性に鍛錬したくなる。

 それはさながら、忙しいときに限って宿題や勉強をしたくなる感覚と似ている。


 もしかしたら、このサバイバル授業にはそういう目的もあるのかもしれない。

 さらに言うなら、武人が山ごもりするのも同じ理由かもしれない。

 ツルギは師匠の顔を思い出す。

 彼は言っていた。


『こんな時代なのに山ごもりで修行しようっていう、そういう真面目で馬鹿なヤツにだけ教えることにしてるんだよ』


 そういえば師匠と出会い、その武術を叩き込まれたのもこんな感じの山の中だった。そこでツルギは貴重な小学生の夏休みを一年分潰して武術を伝授されたのだ。




 ――無影血刀流を。

 バリツと呼ばれる技法を使って、人でないものと戦うための武術を。




 考えているうちに、うずきが衝動のレベルまで強まってくる。

 自然と体は構えをとっていた。

 手近な樹を仮想敵とした。

 ツルギの胴回りより太く、高さは見上げても頂上がわからないほど。

 だが、敵は強大なほどいい。

 全身を連動させ、力を編み上げ、小柄な体躯からは過剰なほどの膂力を生み出す。


「はあっ――!」


 撃ち出された拳は樹の幹にめりこみ、押しこみ――へし折る。


 バキバキと音を立てて、背の高い樹木が倒れていく。

 その先の笹薮の方で、


「うわわっ!?」


 という悲鳴のような声が聞こえた。

 それを受け、とっさに回し蹴りを放って樹の倒れる方向をずらす。




 ずしん、と樹が倒れる。




 一拍遅れて笹薮がガサガサと揺れ、その中から男子生徒が姿を現した。


「ふぅ……武系の人はすごいですね、本当に……」

「――キミは」

「あ、覚えててくれたんですか、僕のこと」

「もちろんだ。オレは一度戦った相手のことは忘れない」

「あれを戦ったって言っていいのかわかりませんけど……逆に、そんな僕を覚えているんだから本当なんでしょうね」


 そうだ。はっきり覚えている。

 彼は先月行われた記章争奪戦で、ただまっすぐツルギに向かってきた。

 体格には恵まれず今は強さもないが、腹が据わっていて邪念がない、武系に向いている――そんな印象が強く残っている。

 だが、一つだけあのときとは違うこともある。


「じゃあ、せっかくなので自己紹介もさせてください」


 小柄で細身でどこか頼りなかった少年はそこにはいない。

 小柄で細身だが、充実したエネルギーを全身から放っている。

 水を得た魚のように。

 あるいは植物に囲まれた八嶋麻矢のように。

 『好き』と『自信』にあふれている。


「――佐々木咲也。趣味は冒険、特技はサバイバルです」




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