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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
サバイバル実習編~鳥に当たらぬ道理はない~
28/59

04:一日目/男島02







 無人島での生活を考えると、浮上してくる問題は大きく分けて三つある。


 水と食糧の調達。

 自然の中における危険の回避。

 そして――住居だ。


 さて、無人島と聞いたとき、拠点候補として洞窟を思い浮かべるものもいるだろう。

 理がないわけではない。とりあえず雨風が防げるし、設営の準備が少なくて済む。


 ――だが、問題も多い。


 温度の低さ、地虫やコウモリの糞などによる衛生状態、大型の獣がねぐらにしている危険性――そのリスクは枚挙に暇がない。

 そこで武系第二席、倉本臣が拠点設営地として目をつけたのは、港から見えていた竹林だった。


 まず第一に、竹そのものが魅力的だ。

 建材に使えるし、コップや串を作ることもできる。

 乾燥した竹さえあれば火起こしも容易だ。

 タケノコは貴重な食糧にもなる。


 第二に、竹林のそばには川があることが多い。

 日本では川の氾濫を防ぐため、古くから竹が植えられてきた。この島でもそうだ。今でこそ無人島だが、かつては人が住んでいたのだろう。それを臣は去年の経験で知っていた。

 運がよければ水の問題も解消できる。


 第三に、これは多分に私的な理由だが、竹林そのものが好きだから。

 倉本臣の実家は合気柔術の道場をしている。そしてその道場の裏には広大な竹林が広がっており、幼少時はそこで祖父に武術の手ほどきを受けたものだ。


「この歳で郷愁というのもおかしな話だが――原体験は心に根づく、ということなのだろうな」


 原体験。

 始まり。

 例えばそう、好敵手たる滝川ツルギがよく話している『悪魔との出会い』のような――

 と、そうして臣の思考は自然と小柄な宿敵のことにシフトしていく。


「ツルギか――」


 ヤツはどこに拠点を構えたのだろうか。

 食糧は足りているだろうか。

 変なヤツに絡まれてはいないだろうか。

 ああそうだ、このサバイバル実習が過酷を極める理由のひとつ。鍛錬を名目とした武系生徒同士の私闘など、いかにもヤツが標的とされそうではないか――


「……いや、いかんな。これではヤツの言うように母親か何かのようだ。俺は断じてそんなものではない。気を回しすぎている」


 眉間を指で軽く揉みほぐし、臣は自分の作業に戻る。

 ナイフで伐採した竹を蔦で組んでシェルターの骨組みを作っていく。

 重要なことは二つだ。

 地虫と温度低下を防ぐために地面に接しないベッドを作ること。

 雨風や外気を防ぐために天井や壁を作ること。

 それほどしっかりしたものでなくてもいい。見たところ天候は悪くない。初日はベッドと、骨組みに葉っぱのたくさんついた枝をかけた臨時シェルターで構わない。少しずつ手を入れて居住性を上げていけばいい。


 序盤は体力と精神力を温存しなければならない。

 臣はそれを去年のサバイバル実習で学んだ。


 ――そう思い返しながら作業を続ける臣の耳に、雑音が届いた。


 草木をかきわける音。

 枯れ葉や枝を踏みしめる音。


 臣は軽く眉根をよせた。

 この竹林に目をつけた人間が他にもいたのだ。

 さもありなん。立地がよすぎる。場所取り競争になってもおかしくはないと思っていた。

 穏便にことが進めばいいが、血気盛んな武系生徒のこと、私闘を挑まれる可能性もある。

 その場合は風紀委員として冷静に諭さねばなるまい。

 この実習の要点はあくまでサバイバル技術の向上にあって、武術の鍛錬ではないのだから。


 音が近づいてくる。

 足音が軽い。体重が六十キロを切っている。武系の男子としては軽量の部類に入る。臣の脳内で候補者が三分の一まで絞られる。加えて、ペースからして体力の温存を考えていない。おそらくサバイバル実習未経験の生徒。

 と、すると――おそらくは一般コースの生徒。


「――見つけたぞ、倉本臣」

「お前は――確か忍術同好会の」


 先月行われた記章争奪戦で臣に戦いを挑んできた一般コースの生徒。

 類まれなるコンビネーションで手を焼かせてくれた双子の片割れだった。


「ふん、どうやらボクのことを覚えているようだな。それなら安心して借りを返せるってもんだ」

「借りだと?」

「そうだ。聞いているぞ。この島では校内私闘禁止の校則は意味を為さないって。借りを返す絶好のチャンスじゃないか」

「ふん。どこぞの愉快犯にでもそそのかされたか」


 しかし臣はそこに興味を抱かない。

 行動するのはあくまで本人だ。その意思決定を尊重する。

 自分で決めたことを貫くのも、その応報を当人が受けるのも、至極当然のことだ。


「それで、二人がかりで勝てなかったお前が、一人で俺に意趣返しだと?」

「あれは乱戦だったからだ。ボクの本当の実力じゃない」

「戯け。実力とは状況を作る力を含むものだ」

「う――うるさいっ!」


 童顔の男子生徒は顔を赤くして吠えた。


「とにかくボクは決めたんだ! この実習中にお前と滝川ツルギに借りを返すって!」

「――なに?」


 臣は眉をひそめた。


「待て。なぜそこでツルギの名が出る? お前には関係あるまい」

「ないものか! アイツは記章争奪戦でボクらの部長をボコボコにしたんだぞ!」


 忍術同好会の部長。

 臣は風紀委員として当然のごとくその顔を見知っている。

 そういえば先の争奪戦では見かけなかった気がする。


「それはボコボコにされる方が悪い――とは言わんが、ルール内のことであれば遺恨を挟むのは筋違いだな。ましてや当人ですらないのでは正当性が絶無だ」

「正当性なんか知らない。ボクは部長の恥辱を雪ぎたいだけだ。だからお前の次は滝川ツルギだ」

「――ふん。もう俺に勝ったあとの話か。皮算用の早いことだな」


 臣が構えを取ると、彼は軽く体を震わせる。

 実力差がまったくわからないわけでもないらしい。

 それでも退く様子はなかった。むしろ闘志は漲っている。

 ならばすることはひとつだ。


「言っておくがこれは私闘ではないぞ。教育的指導だ」


 誰かに言い訳をするように臣はそう告げた。

 さらに心の中で続ける。


 ――俺は断じてツルギのことを守ろうとしているわけではないぞ。

 そんな過保護ではない。

 断じてないのだからな。




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