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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
サバイバル実習編~鳥に当たらぬ道理はない~
27/59

03:一日目/男島01







 船から無人島に降りた生徒たちの取る行動は、概ね二通りある。

 浜辺を生活の拠点とするためその場に留まる者と、内陸部を拠点とするために森の中に入っていく者。

 浜辺は流木や漂流物のような資材が豊富であり、魚や貝や海藻など食料も獲りやすい。反面、水の確保に手間がかかる。それはほとんど唯一にして最大の懸案事項だ。

 初夏の気温で寒さの心配をする必要がない以上、最も優先すべきは水の確保である。


 ――サバイバルには3の法則と呼ばれているものがある。

 極めて大雑把ではあるが、生命の危機に瀕する事態をまとめたものだ。

 即ち、


 空気のない3分。

 温度のない3時間。

 水のない3日間。

 食料のない3週間。


 である。

 空気と温度が保証されている以上、次に優先されるべきは水、というわけだ。

 ゆえに滝川ツルギは定石として内陸へ進むことを選んだ。

 鬱蒼とした木々を分け入って、より奥地に進んでいく。

 地面は凹凸が激しく、木の根がときおり土から露出し、意識しなければ足を取られそうになる。


「――いい鍛錬になるな、やっぱり」


 五日も漫然と過ごしていては体が鈍る。

 こうしてきっちりと体を動かさなくては。

 しかし、そうするとその分の水と食料が必要になる。調達の難易度が上がる。その上で拠点を作り、火を起こし、道具を作ったりしなければならない。とにかくやることが山積みだ。

 ゆえにサバイバル実習は難しい。

 そういう様々な能力を養成するために実施されているのだろうが、本当に一般コースの生徒にできるのだろうか。


「いや、それはさすがに傲慢か。肉体的に強いこととサバイバルに向いていることは別問題だしな」


 案外塔子なんかもバリバリ適応していたりするのかもしれない。

 だから今考えるべきは他の誰かの心配ではなく自分のプランだ。

 この上なく新鮮な空気と森の匂いを肺腑に吸い込みながら、ツルギは進む。


「問題は優先度だ」


 人工的な明かりのない無人島では、暗くなってしまえば活動は難しい。初日でまともに行動できるのは日が沈むまでの六時間ほど。

 だから優先順位をつけることが大事だ。


 去年はそれで痛い目を見た。

 初日から全部やろうとした。

 水源の探索、食料の調達、資材の確保と拠点の設営に至るまで、見通しもなく全部やる気でいた。


「あれは無茶だったな……」


 支給品の水筒を開けながら歩き回り、清流を見つけた。

 そこまではよかったのだが、食料調達が難航した。魚を獲っているうちにどんどん時間が過ぎていき、気づけば辺りが暗くなっていた。

 寝床はない。火もない。

 するとどうなるか。


 川の水も魚も火を通さなければ危険だ。

 汲んだ水と獲った魚を手に途方に暮れ、ただ地面に寝るしかなかった。

 地面は冷たいし、ときどき何かの虫に噛まれるし、とにかく絶望的な夜だった。


「……同じ轍は踏むまい。去年のオレとは違うんだ」


 自分に言い聞かせるようにして進む。

 そうして歩いているうちに周囲の景色が少しずつ変わってきた。

 草の種類が増え、地面の露出が減って緑の割合が増えてくる。

 さらにそのまま進むと、苔に覆われた場所が目につくようになる。

 ジャージから露出した肌に、わずかに湿気を感じる。


 そこでツルギは立ち止まった。


 目を閉じて耳を澄ます。

 集中。

 真っ暗な世界に自分だけが立っているイメージ。

 その暗闇を音が揺らす。

 最初に鳥の声が届いた。左前方十時の方角、ほど近い木の上。

 別の鳥の鳴き声。右後方五時の方角、やや遠い。

 枝の揺れる音。葉のこすれる音。鳥の鳴き声。それらに混じって耳に届くかすかな水音。


「左の方――だな」


 目を開く。

 進んできたルートから外れ、音の方向に向かって進む。

 背の低い木々の枝や群生する笹をかき分けながら、道なき道を進む。


「――あった」


 水だ。

 溜まり水ではなくちゃんと流れている。

 だが、期待していたよりずっと頼りない水流だった。

 川というよりは沢という感じだ。

 それが木や石を撫でるようにして流れている。

 途中にミニチュアの滝のような段差があり、そこに流れ込む水音が聞こえてきていたのだ。

 底には枯れ葉が堆積していて、水の深さは五センチほどしかない。

 しかしそこは問題にならない。

 たどっていけばもっと大きな水流があるはずだ。


「とはいえ、時間も時間だ。暫定拠点はこの辺に作ろう」


 去年の反省を活かして早めに拠点作りに入ることにした。

 周囲を軽く探索して開けた平坦な場所を見つけ、手にしていた麻の袋を下ろす。

 この麻袋の中にはサバイバルのための支給品が入っている。

 それを取り出す。

 ナイフ。飯盒。水筒。塩。救急キット。そして緊急用の救助要請装置。


「ああ、そういえばこれもあったな」


 最後に取り出したのは『サバイバルのしおり』と書かれた小冊子だ。

 飲んではいけない水だとか、毒を持った生き物や植物、その他様々なサバイバルの注意点が載っている。

 ちなみに表紙にはデフォルメされた黒楼院白夜が描かれていた。赤いホイッスルを口に当てて注意を促している。


「ありがたいけど、どうせなら食べれる植物とかも載せてくれればいいのにな」


 自信を持って無毒だと言える植物、きのこをツルギは数種類しか知らないので、どうしても食料調達が厳しくなる。


「麻矢はそういうの得意そうなんだけど……今回は頼れないからな」


 薬草毒草を瞬時に見分ける麻矢がいれば食料調達で困ることはなさそうだが、あいにくサバイバル実習では男女が別の島になっている。

 男子は通称男島で、女子は通称女島で。

 だから彼女を頼ることはできないし、逆に手助けすることもできない。


「仕方ない。オレはオレなりにがんばろう」


 しおりを置いてナイフを手に取り、ツルギは資材の調達に向かうのだった。




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