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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
サバイバル実習編~鳥に当たらぬ道理はない~
26/59

02:モニタリング







 黒楼院白夜は静かに目の前の光景を眺めていた。

 彼女の眼前には並べられた無数のモニターがあり、それぞれが鳥の形をした無人小型飛行機ドローンから送られてくる映像を映し出している。

 場所は緑豊かな無人島。

 同じジャージを着た学生たちが海岸に集まり、話をしたり動き回ったりしている。

 彼らは皆、白嶺学園のサバイバル実習参加者だ。

 であればそれを見守る白夜もまた、学園の関係者に違いなかった。


「理事長代理。男女ともに生徒全員の下船を確認しました」

「では、ひとまず安心ですね。ご苦労さま、シキコ」


 理事長代理と呼ばれた白夜は微笑んで、報告をしてきたスーツ姿の女性を労う。

 ――理事長代理。

 白嶺学園三年生にして、理事をも任された生徒。

 学園出資者の娘にして、生徒会長よりも大きな権限を持つ女。

 それが白嶺学園における白夜の肩書だった。


「黒崎の皆さんには引き続き、観察とフォローをお願いします。今年は例年以上に海に出ている反応に注視してください」

「御意」


 シキコはうやうやしく礼をして、その場から姿を消した。

 忍者のような時代錯誤な忠勤に白夜は少しだけ苦笑する。

 しかしそれに助けられえているのも確かだ。


「黒崎の方々には苦労をかけますね」

「それが僕たちの喜びです。白夜様はどうぞやりたいように」


 ぴくり、と白夜の眉が動いた。

 気づけば、シキコにそっくりな女が隣に立っている。

 同じく黒いスーツを着て、同じような体格で。

 ただ髪だけがシキコより短く、中性的な雰囲気がある。


「……ヤマイ。そばに来たときは気配を消さないでください。驚きます」

「失礼しました。以後改めます」


 ヤマイと呼ばれた女性は、やはり慇懃に礼をした。


「しかし、白夜様はよろしいのですか?」

「何がです?」

「『学生は自由に楽しく生きるべき。そのための苦労は大人が代わりにすればいい』――白夜様はよくそう仰っていますよね」

「ええ。その先にこそ健全な成長がある、というのが私の信条です」

「であれば白夜様もご参加なされるべきなのでは。どうも白夜様は自分を大人として扱いすぎると、僕は愚考します」

「それは否定できませんね」


 白夜の口から苦笑が漏れる。

 しかしそれはすぐに消え、代わりの言葉が紡がれる。


「でも、これはこれで楽しんでいるんですよ、私は。自分で考え、自分で動く――そんな生徒たちの様子を見ているのが好きなんです。問題児も多いですけれど」

「問題児――ですか」

「武系生徒は問題児の集まりですからね。モニターを見てください」


 白夜の指示に、ヤマイの視線が大量のモニターに注がれる。


「同じ場所で下船しながら、即座に単独行動を目指して散り散りになっている生徒がいるでしょう?」

「はい」

「全員武系生徒です」

「……ぜ、全員ですか?」

「面白いでしょう。協力を禁止してないのに、彼らは自らより困難な方向に向かう性質がある。そして個々を見ていっても、やはり問題児です」


 そう言って白夜は一つのモニターを指差した。

 そこには森の中を進む背の低い少年が映っている。


「滝川ツルギ。武系第三席。彼の問題は自己評価の低さ。そのせいでやりすぎてしまうことが多々あります」

「やりすぎてしまう――というのは?」

「先日の改修工事。あれは彼が拳で校舎を揺らしたせいでした」

「――――は?」


 間の抜けた声が響き、それに白夜が笑う。

 ヤマイは即座に己の無礼に気づき、膝を折って白夜に謝罪した。


「申しわけありません! あまりの内容に思わず――」

「構いませんよ。むしろ好ましい。黒崎のみなさんは前時代すぎる。ミナトくらいはっちゃけてもいいのに」

「いえ、それはさすがに……」

「さて次です。そこの長髪の男子」


 次に指さされたのは長身長髪の男子生徒。

 顔立ちが中性的で、男子ながらに美人という形容が似合う。

 彼は竹をナイフで切り倒しているところだった。


「倉本臣。武系第二席。非常に類稀な戦闘能力の持ち主ですが、他人の気持ちを汲むことを苦手としています。ゆえに誤解が多い。なまじ能力が高い分、そのまま行動すると周囲に台風のような被害をもたらす――そんな人物です」

「は、はあ……」


 さらに別のモニターを示す。

 長い金髪で目元を隠した男子生徒が倒木に寝そべっている。

 その金色は明らかに染め上げたものであり、典型的な不良のように見えた。


「大鳳示炎。武系第五席。ちょっとした特異体質の持ち主ですが、彼の問題はそこではなく、戦うことが好きすぎることと、法に縛られず自由すぎることにあります」

「典型的な不良――ということですね」

「まあ、そう捉える人が多いでしょうね」


 含みのある言い方をする白夜にヤマイは疑問を抱いたが、次に指さされたモニターに意識を切り替える。

 それは白髪のワンレングスのキツ系美人、と言った感じの女子生徒だった。


「水無月玲子。武系第四位。彼女自身は模範的な優等生なのですが、変な女にモテるという特徴があって、たまに問題の中心になります」

「女にモテるって……彼女も女子ですよね?」

「それも前時代的ですよ、ヤマイ。今の世の中、女の子同士の恋愛など珍しくもないのです」

「はあ……」

「例えば、綴喜ゆら。彼女などはそのために白嶺祭で問題を起こしました」


 白夜が指差したのは短い前髪から額を露出した赤毛の女子生徒だ。

 気になるところが二つある。

 なぜか松葉杖をついていることと、そんな彼女を支えるように数人の女子生徒が周りに控えていることだ。

 これまでの武系生徒は全員単独行動だったのに。


「ああ、彼女たちですか? ゆらの信奉者ですね」

「……およそ学校生活では聞きそうにない単語ですね」

「そうですね。信奉者は言いすぎたかもしれません。武系上位の生徒にはそれぞれファンクラブがあるものですが、彼女のそれはもう少し濃いものだ、ということです」


 改めて見ると確かに少女たちはゆらに心酔している様子だった。

 ただし、アイドル扱いというよりは、優秀で懐の深い将を見る部下のような目だ。そこはいかにも武系生徒らしい。


「それで、起こした問題というのは?」

「彼女は滝川ツルギと戦うために人質を取り、戦闘に際しては毒を使いました」

「――――――は?」

「たかが学生のお祭りでそこまでしたのは彼女が初めてです」


 まさに問題児ですね、と白夜は笑った。

 一方のヤマイは大口を開けたまま言葉を咀嚼できずにいた。


「お祭りで、毒を……?」

「禁止しなかった私が悪いのです。次回からは対策を考えます」

「い、いや、それは白夜様はまったく悪くないと思いますが」

「ありがとう。さて、たちが悪いといえば彼女もそうですね」


 続いて示されたのは黒縁のメガネをかけた女子生徒。

 鼻周りに浮いたそばかすのせいでひどく地味な印象がある。


「蓼科冥。学園中に隠しカメラをしかけて全校生徒を観察しています。ゆらが軍師だとすれば彼女は策士。命令を下せる部下はいませんが、言葉巧みに人の心を操って思うように動かす、という戦い方をします。得難い才能なので、健全に育って欲しいところですね」

「――すみません、白夜様。僕、ちょっと頭痛がしてきました」

「頭痛薬ならそこにありますよ」

「いえ。大丈夫です。ありがとうございます……」


 ヤマイはこめかみを押さえて頭を下げた。


「正直甘く見ていました……凄まじい問題児ばかりですね、武系というのは。しっかり頭に入れて任務にかかろうと思います」

「ああ、ちょっと待ってください。もうひとり、紹介しておきたい人物がいるんですよ」

「えぇ……」

「そんなイヤそうな声を出さないでください。彼女です」


 白夜の視線をヤマイも追った。

 その先にいたのは、木陰で休む一人の女子生徒。

 長い黒髪、真っ白な肌、目の下には塗ったみたいに濃いクマ。ひどく病的な印象を受ける少女だった。


「あの子が、黒瀬塔子です」

「黒瀬? まさか黒瀬真塔の娘ですか? 黒須女学院にいると聞いていましたが」

「うちに転校したい、と言ってきまして。四月から我が校の生徒です」

「ということは――目的は学園の調査でしょうか」

「そんな器用な子ではありませんよ。ただ、別の意味で警戒が必要ですね。あの子は体が弱いのに、いざとなるととんでもない行動に出ます。私の予測がつかないことをする。なので、万が一のときは頼みますよ」

「――わかりました。僕なりに微力を尽くします」


 白夜の提案に、ヤマイは礼を取ってうなずいた。


「ちなみに彼女がこれまで起こした問題、聞きたいですか? 聞きたいでしょう?」

「いえまったく」

「まあ、そう言わないでください。なかなか面白いんですよ。例えば意中の男子の部屋へ直通の地下通路を作っちゃったりとか――」



 ――それからおよそ三〇分。

 白夜から黒崎塔子の話を聞かされ続けた。

 ヤマイはその様子を『妹の自慢話をする姉のようだ』と思い。

 これ以降、人前でシキコの自慢話をすることはなくなった。




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