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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
サバイバル実習編~鳥に当たらぬ道理はない~
25/59

01:説明







「――さて、今年のサバイバル実習についてだが、いささか例年と違うことがある」


 タイトなスーツに身を包み黒髪をひっつめた女教師が、チョークを走らせる。

 その黒板を行儀よく注視する滝川ツルギの左肩を、隣の席の生徒がちょんちょんとつついた。

 視線を向ける。

 緑がかった三つ編みを左右の肩から胸元へ二本、背中へ一本流している、泣きぼくろの少女がそこにいる。

 とある事件の後、ツルギを恩人と慕い転校してきた少女――八嶋麻矢だった。


「ツルギくんツルギくん。サバイバル実習って何ですか?」

「ああ、そうか。麻矢と塔子は知らないよな」

「……そうね。私たちは転校生だから……」


 小声で交わされる会話に混ざってきたのは後ろの席の女子生徒だ。

 ツルギは振り返る。

 そこには両手を伸ばしてツルギの椅子を触っている、背の高い女子がいた。


 重苦しいほどに長い黒髪と目の下の濃いクマ、白すぎる肌のせいでどうしても病的に見える女子生徒。

 彼女は黒瀬塔子。超が十回ほどつく大金持ちのお嬢様であり、ツルギに対して尋常でない執着を発揮して転校してきた転校生でもあった。

 そんな彼女の言葉を、けれどもツルギは否定する。


「いや、転校生でなくても知らないはずだよ。だって――」

「そこ! 説明中だぞ! 私語は慎め!」


 女教師が投擲してきたチョークを、ツルギは反射的に指で挟む。

 顔の寸前で止まったチョークは一拍おいて破裂し、ツルギの灰がかった髪を白く染め上げる。


「……すみません」


 教室に大きな笑い声が起こる。

 目を細め、怒気をたぎらせる塔子。

 そんな彼女をツルギは苦笑いと共になだめる。


「しかしな、変更点はまさにそこなのだよ、滝川」

「そこ――とは?」

「サバイバル実習は武系生徒だけのカリキュラムだ。だから一般コースの生徒には関係ないものだった。去年まではな」

「つまり今年は違う、と?」

「ああ。理事長代理からお達しがあった。せっかく武系コースと一般コースのクラスを混ぜたのだから、今年は一般生徒も参加させてみよう、とな」

「……それは、少し厳しいのでは」


 ツルギは思わずそう言った。

 彼は去年、一年になったばかりのころに、このサバイバル実習を体験している。

 ナイフ一本と限られた支給品を頼りに無人島で五日間生活するという過酷な訓練だった。ある程度体力のある自分でさえキツかったのだ。一般コースの、それも女子生徒などにはさらに厳しいものになる。


「無論、その辺は考えている。具体的には支給品を大量に増やして対応するつもりだ。食糧やメタルマッチ、寝袋にテントなどを持ち込めれば、難易度は格段に低下する」

「質問があります」


 そう言って手を上げたのは鋭い目をした白髪の女子生徒。

 武系四席の実力者、水無月玲子だった。


「なんだ?」

「武系コースと一般コースの生徒の島は分けますか?」

「分けない」

「しかし、それでは横着する武系生徒が、一般コースの生徒のテントや支給品を借りて楽をするような事態も発生するのでは」

「そこはそれだ。適宜自分の判断でやりたいようにやれ。そのような場合も罰則は設けない予定だ。まあ、サバイバルの趣旨に反するのではないかというのは私も理事長に進言したんだが……あの人は自由を優先するからな。私としては、お前たちの向上心に期待する」

「……わかりました」

「うむ」


 女教師はうなずいて、それから教室を見渡した。


「では改めて一通り説明するぞ。質問したいことがあればメモを取っておけ。最後に質疑応答の時間をとる」


 そうして、説明が始まった。


「まずは概要だな。参加者は生徒全員。学年ごとに日付をずらして実施する。二年生は再来週の月曜日から金曜日までの五日間だな。この期間を黒楼院グループの所有する無人島で生活してもらう。当然ながら現地には宿泊施設も食事処もない。すべて自分で用意しろ」


「生活する島は男女でわける。えーって言うな。当然だろう。着替えも風呂も覗き放題になってしまうからな。お前たちを犯罪者にしたくない我々の愛情だぞ。そして先程質問に答えたようにコースでは分けない。使う島は例年通り二つだ」


「途中でギブアップする場合、事前に渡すこの機械のボタンを押せ。すぐに職員が駆けつけて保護する。ボタンを押す余裕もなくなるほど限界まで粘るなよ。自分の状態や周囲の危険を見切るのもまた大事な能力だ」


「食料に関しては、植物、きのこ、魚貝、昆虫、爬虫類、両生類に関しては自由に取って構わない。だが鳥類と哺乳類は禁止とする。法的に色々とややこしいんでな」


「ただし、身の安全が脅かされるならそっちを優先しろ。いちおう事前に大きな獣は排除しているはずだが、猪などは海を渡るからな。法律よりお前たちの命のほうが大事だ。まずは速やかにボタンを押せ。間に合わないようなら逃げろ。それも無理そうな場合、対処法は一任する。繰り返すがお前らの命より大事な法律などない。判断を誤るな」


「支給品に関しては先程言ったように武系生徒と一般生徒で差をつける。具体的な内容はまだ少し検討するので後日しおりにして発表する。支給品以外の持ち込みは禁止なのでそれも注意するように。特に女子。化粧品を持ち込むのはやめろよ。男女が分けてあるのはそのためでもある」


「以上だ。質問のあるやつは手を上げろ。――なんだ、ないのか? ならいい。当日まで体調管理を徹底しろ。参加できそうにない者、参加したくない者は私か担任に言っておくように」



 ――かくして、男女それぞれの無人島サバイバル実習が始まることとなった。




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