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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
記章争奪戦~オレの拳を越えていけ~
20/59

20:変装と、困惑と







 走りながらツルギは考える。

 このままでは先ほどの二の舞いになりかねない。自分が自分であることを隠す手段が必要だ。そう考えたとき、腰の仮面が跳ねた気がした。


「――これしかないか」


 あまり気は進まない。姿を偽るというのは記章持ちにふさわしくない行動だし、その仮面がヒーローというのも過分だ。


 しかし、今はそんなことを言っていられる状況じゃない。

 廊下を駆け抜けながら手早く仮面を装着する。


 目的の教室に到達すると扉を蹴破って中に入り、カーテンの一枚をむしりとる。

 そして数歩下がって、助走をつけて――跳躍。

 同時にカーテンを前方に広げた。

 飛びこむように窓ガラスをぶち破る。体が窓を通り抜けた瞬間にカーテンを払い、前方空間に浮かぶガラス片をすべて散らす。


 そうしてベランダをも飛び越えて、渡り廊下の上部分に着地する。

 沈むように衝撃をひざで吸収し、そのまま疾走。

 長い渡り廊下の上を、大きな布をなびかせて仮面のツルギが突き進む。









 赤座光は乱戦の渦を探していた。

 記章争奪戦。考えてみればこれもまたとない機会だ。

 いかに強力な個人であっても、乱戦になれば必ず隙は生じる。


 ――そこを襲撃して記章を取る。


 争奪戦は成績には反映されないが、金と名誉は手に入る。あるいは権利を行使して幼馴染の加奈子と同じクラスになるというのも捨てがたい。

 いずれにしろ、ここで記章を手に入れられれば、胸を張って加奈子に告白できる。この戦いが終わったら二人の関係を進めるのだ。あとなんかアツアツのピッツァも食べたい。


 そんなことを考えていたときだった。

 目の前の窓ガラスが爆ぜる。

 光は腕を交差させて反射的に顔を守った。


 ――何事だ。狙撃か。


 腕の隙間から様子をうかがう。

 舞い散るガラス片の中、飛びこんでくる人影。

 それはヒーローものの仮面をつけた男子生徒だった。

 光の参加章がそいつに反応して振動する。


「――は?」


 仮面の戦士は布でガラス片を振り払うと、即座に教室の扉に突撃し、突き破ってどこかへと走り去っていく。

 光はそれを呆然と見送ることしかできなかった。

 参加章の振動も小さくなっていく。


「え、いや、何だ今のは……?」


 答えるものはいない。









 大鳳示炎は笑っていた。

 戦いは佳境に近づいている。立っている者は既に少ない。

 残った四人の武系男子を相手に享楽の限りを尽くす。殴り殴られることへの充実感。観察し観察されることへの高揚感。


「まだ倒れないのか……くそ、化物め」

「これが『不死身』の大鳳示炎か……」

「いったいどんな鍛え方をしているんだ……」

「みんな落ち着け!」


 四人の中の一人が声を上げる。

 武系らしからぬ優男めいた風貌の男子生徒だ。


「平気そうに見えるだけで、ダメージは蓄積されているはずだ! 次の攻撃で決めよう!」


 その一言で一同は士気を取り戻し、切れかけた緊張の糸がつながる。

 倒すにしろ倒されるにしろ、次が最後の攻撃になるかもしれない。


 期待とともに示炎は待つ。


 そのとき、凄まじい速度で走ってくるものがあった。

 こちらの集団と激突するコースをとっているのに、回避しようという素振りもない。

 ほぼ全員がそちらを見た。

 ただ優男だけが示炎に集中しすぎて、それに気づかなかった。


「いざ、ま――」


 そして、走ってきたソレに弾き飛ばされた。

 まるで人形のように飛んで、天井に激突して、落下する。

 痛みに転げ回る男には目もくれず、ソレはそのまま走り去っていく。

 ソレは仮面をつけ、黒いジャージを着た小柄な武系生徒だった。


「仮面だ……」

「仮面の戦士だ……」

「謎の仮面の男……いったい何者なんだ……?」


 何者かだと。決まっているではないか。

 あの姿は、あの身のこなしは、そして胸についていたものは明らかに――

 走り去っていった仮面の方を見たまま、示炎は呆然とつぶやく。


「いったい何をやっているのですか、ツルギ殿……」


 答えるものはいない。









 八嶋麻矢は恍惚の表情を浮かべていた。


「かっこいい……」


 鼻先をかすめるように走り抜けていったミリオンレッドを、まだ目で追っている。

 もちろん中の人が違うので、麻矢のよく知るミリオンレッドより小柄で、たくましさは足りなかった。けれどそんなことは問題ではないのだ。


「かわいい……」


 仮面で顔を隠しながら、胸元の記章を隠していないのはわざとなのだろうか。ついでに言えば知ってる人間には腕から垂れてる包帯で丸わかりだ。

 正体がバレバレすぎてかわいい。


「って、いけない。こんなことをしてる場合じゃないです」


 麻矢は頭をぶんぶん振って昇っていた血を冷ます。

 待ち合わせ場所に現れなかった塔子を気にして彼女の部屋を訪れたとき、ツルギを騙った偽の呼び出しを見つけた。


 きっと何かよくないことに巻きこまれている。彼女を見つけなければ。

 手がかりはない。呼び出しの先にはもう誰もいなかった。だから頼りにできるのは己の鼻だけなのだが、犬ならぬ人の身ではそれもどこまで通じるか。


「ああもう……塔子さんがどこにいるのか、誰か教えてください……!」


 やはり、答えるものはいない。




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