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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
記章争奪戦~オレの拳を越えていけ~
10/59

10:女同士の集いと、男同士の買い物と







 ――放課後。


 学園敷地内のショップ、黒丸マーケットの日用雑貨売り場。

 そこでさんざめいているのは女子生徒の集団だった。


 白いカチューシャをつけた少女。

 癖の強い赤毛の少女。

 はつらつとしたサイドテールの少女。

 そばかすの浮いた栗毛の少女。

 そして、背の低い黒縁眼鏡の少女。


 実のところ、彼女たちはそこまで仲がいいわけではない。

 そこに集まったのは偶然だ。鉢合わせただけで、一緒に買い物に来たわけでも待ち合わせたわけでもない。

 それでもお互いのことをある程度は知っていた。

 そしてわだかまりはなかった。


 なぜなら全員、武系コースの生徒だったからだ。


 奇人変人の集まる武系コース。

 中でも武系女子はその数が男子より少ない分、中身も濃い。

 そして武術をする人間にとって、中身は戦闘スタイルと密接に関係している。


 逆説的に。

 お互いの戦闘スタイルを知っているということは、お互いの性格や性癖をある程度把握しているということでもあるのだ。


「だからぁ、ツルギさまの怪我の具合はわかんなかったよぉ」

「なんだ、使えないな」

「えぇー……そんなこと言わないでよぉ」


 赤毛の少女の言葉に、そばかすの少女がむくれた。


 ところで、彼女たちが何を話しているかと言えば、記章持ちたちの話だ。

 武系において記章持ちとは憧れであり目標であり、ときには信仰の対象ですらある。

 ことに女子にとってはそうだ。誰が好きだとか誰に憧れているとか、誰と殴りあってみたいとか、そういう話は常にされている。


「――それでねぇ、教室に押しかけてきた女子が例の事件の子らしくてぇ」

「はーん、あの事件のねえ」

「関係ありませんわ。ツルギさまの本妻は臣さまなのですから」


 両手を合わせて目を閉じ、何かにひたるカチューシャの少女。

 彼女のいつも通りの様子に苦笑しながら、サイドテールの少女が口を開いた。


「アレって実際のとこ、どうなんだろうね。いつも一緒にお風呂入ってるって話だけど」

「連れ立って風呂になんて女でも行かないからな。あやしいぞ」

「えー、そうかなぁ。あたしは行くよぉ」

「あたしも行くけど、男と女じゃ意味が全然違うでしょ」

「わかりませんよ。案外、男の子は連れションのノリでお風呂も一緒に入るのかもしれません」

「連れっ!? ――冥! わたくしの前で下品な言葉遣いはやめなさい!」

「ああ、すみません。連れおしっこです、連れおしっこ」


 おしっこおしっこと連呼する黒縁眼鏡に吹き出しながら、サイドテールが新たな話を振る。


「そういえば玲子さまも、ツルギさまを狙ってるって話あったよね」

「ああ、聞いたことがあります。前回の記章争奪戦で直接戦りあった仲だとか」

「玲子さまもかぁ、臣さまもライバル多くて大変だねぇ」

「……待て。本当か? 水無月玲子が、滝川ツルギを?」

「まあ、噂だけどさ。実際あたしらって強い男に憧れちゃうとこあるし。玲子さまだって武系女子だしね」

「どうしたのですか、ゆら。急に真面目な顔になって」

「――いや、なんでもない。ところで」

「ところで?」

「あれはもしかして、件の滝川ツルギと倉本臣じゃないか?」


 一同はそろって赤毛の少女が指した方向を見た。

 そこにはカートを押す第二席の倉本臣と、横に並んで商品をカゴに放り込む第三席――滝川ツルギの姿があった。









「――この戯け」


 臣の静かなる一声が黒丸マーケットの空間に浸透するように響いた。

 決して大きな声ではない。

 けれど貫通力のある一喝だった。


「実技に出ているから完治したのかと思えば、自主練も止められているだと? 貴様、自制という言葉を知らんのか」

「いや、でも、傷自体は大したことないし。治療は色々やってるし」

「貴様の自己判断が医師の判断に優るとでも言うつもりか」

「そこまでは言わないけど」

「ならばなぜ大人しくしていない」


 臣は会話を続けながらカートを押し、ツルギは叱責を受けながら商品を次々カゴに入れていく。


「一時の感情で余計に時間を損ねてどうする。その程度の計算も思慮に入れられなかったのか。そしてそれ以上塩飴を入れるのをやめろ」

「美味しいじゃないか、塩飴」


 臣はカゴから塩飴の袋を二つ、棚に戻しながらツルギを見る。


「そうして負傷したまま記章争奪戦に臨むつもりか?」

「それは逆だ、臣。傷よりもこの不調の方がずっと影響が大きいんだ。そっちを取り除くためなら、傷は開いたままだっていい」

「まったく……貴様はどうしてそう変な方向に振り切れているのだろうな」


 熱を冷ますように自分の額に手を当てる臣を見て、ツルギは内心で思う。


 ――そうでもしないと、オレは臣についていけないからな。


 そう、臣は間違いなく天才の部類だ。

 彼は対手の懸かりの瞬間を感じ取ることができる。そういう特殊な感覚を備えている。それは植芝盛平が銃弾の軌道を見ることができたという逸話にも似た、才能と集中力が為せる技なのだろう。


 対して、自分にはそういう特殊な才能はない。

 才能の違いは歩幅の違いだ。

 才覚が違いすぎるものが並んで歩くことはできない。

 自分がこれまで臣の横に立てていたのは、道を示す優れた師に恵まれたことと、人より早く走り出していたから。

 いずれ引き離されることは最初からわかっていた。

 けれどそれでも、できるならそこに立っていたいのだ。


 ツルギは拳を握りしめる。

 垂れた包帯の先が、手のひらの中でくしゃりと潰れた。




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