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獣羅と志岐

「ふむ、そうか、三人はクラスメイトで仲がいいのだな」


「仲がいいって言うか、妙な縁で繋がれた間柄って感じの方がしっくり来ますけどね」


電車の中でウンウンと頷く神子だが、志岐は苦笑いしながら話の相手をしている。


鳳凰グランドパークに向かう電車の中で、周りの人の迷惑にならないほどの声で会話をしながら、時間を潰すことになっており、志岐は神子と話し合っていた。


糸江と麗は、話すことも無く黙って窓から外の様子を伺っていたり、スマホを弄って暇を潰している。


一方の神原は、憧れの獣羅と知り合えたので、どんどん話しかけているが、志岐が見る限り獣羅は鬱陶しそうにしている。


「こりゃ一方通行かな……」


「ん? 何か言ったかい七村君?」


「いえ、何でもありませんよ」


獣羅と神原の関係を考察して予想し、ポツリと漏らし、少しだけ神原に同情した志岐だった。


『えー、次は鳳凰グランドパーク前、鳳凰グランドパーク前。 お忘れ物の無いよう、ご注意下さい』


アナウンスが聞こえると、志岐は腰を上げてドアの傍まで寄る。


神子も、それに釣られるように志岐の隣に立つ。


そして、獣羅までも志岐の傍にやって来るが、その表情は不機嫌そうだった。


「すんません、山伏さん。 神原は山伏さんにちょっとその気があるらしいんで」


「ウゼェったらねぇよ……殴らなかった自分を褒めてやりたいぜ……」


意中の相手にそう言われているとも知らず、神原は相変わらずのテンションで糸江に話しかけている。


「本当にすんません…」


「こら獣羅、七村君は悪くないだろう? 彼を責めるのは筋違いだ」


片手を額に当ててやれやれといった様に謝罪する志岐だが、神子は不機嫌な獣羅に釘を刺す。


獣羅も分かっているのか、それ以上は何も言わなかったが、神子と志岐に向けて厳しい視線を向けていた。


そして、目的の駅に到着して改札口を抜けると、目の前には鳳凰グランドパークの入り口が目の前に見えた。


「うっほー! 久しぶりに来たなここ!」


「俺も久しぶりかな。 2年ぶりくらい?」


「俺は初だな。 金の余裕が無くて来たこととかねーし」


神原はハイテンションで、糸江は冷静そうに見えて少しワクワクし、志岐はスマホで面白そうなアトラクションが無いか調べている。


そんな男衆の横で、女性陣は遠くに見えるジェットコースターと山を模したアトラクションに目を奪われている。


「へぇ、思ったより面白そうだな」


「私も初めてだな…そもそもこういった場所に来るのが始めてだ」


「はぁぁ! すっごく楽しそうですね!」


獣羅も少し驚いたような表情をし、神子も期待からか微笑んでおり、麗に至っては胸に両手を当てて目を輝かせている。


「じゃ、時間がもったいないんで早速入場しますか!」


神原を先頭に、入場無料チケットを使って全員入場する。


中は風船を持ったマスコットキャラクターが数人おり、小さな子供に手を振って風船を配っている。


「さて、俺がリサーチした結果、1番人気のアトラクションは早めに並ばないと2時間待ちになるらしいんで、急ぎましょう!」


「あの大きなジェットコースターかい?」


「はい! エンドレスロードってジェットコースターなんですけど、今なら20分待ちとかで乗れるらしいんで」


「それなら、行くか」


6人は、早足にジェットコースターに向かい、列に並ぶと、ほんの10分で順番が回ってきた。


しかし、此処に来てある問題が生じていた。


誰と誰が隣に座るか、と言うものだった。


「すまないが、私は麗の隣に座らせてもらおう。 彼女は男性が苦手なので、私が隣に付いていてあげないとね」


「こ、子供扱いしないで下さいよ……」


そういう訳で、誰が獣羅の隣に座るかで、男子勢で一悶着起きていた。


「頼むって七村! 獣羅さんの隣譲ってくれよ!」


「……いや、俺が座る」


糸江はどこでもいいと言ってこの問答には参加していないが、神原が譲らず、志岐も食い下がっている。


志岐は、獣羅が神原にしつこく付きまとわれるのを鬱陶しがっているのを知っているので、獣羅に少し間を置いてあげようと思い、食い下がっている。


そんなやりとりを見て、獣羅は溜息をついて志岐の腕を掴んだ。


「ほら、はやく乗るぞ」


「っと、山伏さん…?」


「うぉう…! 七村のヤロー!」


悔しがる神原を尻目に、獣羅に連れられながら志岐はジェットコースターに乗ろうとすると、係員に止められる。


「あ、すいません。 只今カップルの皆さんに1番後ろの席で後ろ向きコースターをやっているのですが、如何ですか?」


「カ、カップル!!?」


係員の説明に、獣羅は動揺するが、志岐は少しやってみたいと感じていた。


「い、いや…でも後ろ向きか…」


「え? もしかしてカップルじゃありませんでしたか?」


「あー、はい…俺達は友z」


「カ、カップルだ! 問題ない!」


そう言うと、獣羅は再び志岐の腕を引いて1番後ろの席に後ろ向きで座った。


「とと…いいんですか山伏さん?」


「いいんだよ……後ろ向きに興味があるから、その間だけフリをしてくれればいいんだよ」


「そうっすか……じゃあよろしく、獣羅」


「っ!? な、何で急に…!?」


「いや、カップルなら名前で呼ぶのは普通じゃないですか?」


「そ、そうか、そうだよな……し、志岐」


恥ずかしいのか、獣羅は志岐の名前を呼ぶ。


今まで強気な態度で周囲の男に接していた獣羅にとって、この志岐の行動や態度は少し困惑するものだった。


しかし、自分から連れて来た故に反論することもできない。


勿論、志岐が悪い人間ではないと言う事も知っているからでもある。


「では、手を繋いでお願いしますねー」


係員が安全ベルトを下ろすと、同時に、2人に向けてそんな事を言ってきた。


「手をですか?」


「はい、皆さんカップルなら繋ぎ慣れているんで、スッとやってくれますけど…」


そう聞いては、繋がないわけにもいかず、ゆっくりと、ぎこちなく、志岐と獣羅は手を繋いだ。


「はい、ありがとうございまーす! では間もなく発車致します!」


係員の視線が離れると同時に、志岐は手を離そうと思ったが、恥ずかしさからか、獣羅は手を握る力が強く、離せなかったので、これも役得と思い、優しく握り返す事にした。


と、発車のベルが鳴ると、ゆっくりとジェットコースターが動き出した。


「フフ、気分はどうだ獣羅?」


傾斜を登っている途中で、志岐達の背後から声がかかってきた。


後ろから2番目に乗っている、神子が話しかけてきたのだ。


「別に……まぁ、ちょっとは楽しんでいるけどな」


「そうだな。 なんと言っても気になる男性とカップル扱いされ、手まで繋いでいるのだからな」


「んなっ!? だ、だから――」


「おっと、もう大声を出さないほうがいいぞ」


不敵に笑い、獣羅をからかう神子に、顔を赤くして反論しようとするが、それは止められた。


「舌を噛むぞ」


その言葉と同時に、なんとも言えない浮遊感が全員を襲った。


当然、ジェットコースターが頂上まで達し、落ちたのだ。


「「「キャァアアアアアアアアアアッ!」」」


「な、きゃぁあああああああああっ!?」


「うおっ!?」


後ろ向きで不意を突かれた獣羅と志岐は驚き、思わず声を上げるが、獣羅は普段上げないような大きな悲鳴を上げた。


先が見えず、周囲の景色が猛スピードで流れていく。


あまりの恐怖に、獣羅は志岐と繋ぐ手に更に力を込める。


そのままスクリューコースに入り、乗客と獣羅の悲鳴が大きくなる。


「スゲェもんだな…!」


少し目を回しつつ、志岐はそう呟いて、ジェットコースターを楽しんだ。




□□□□□


「凄かったね」


「お、おう……俺は目が回った……」


「わ、私、もう乗りません……」


「正直、予想以上だったな。 さて、少し休むか? それとも次に行くかい?」


五分後、ジェットコースターの出口付近にあったベンチにて、糸江、神原、麗は座り込んでいた。


神子は余裕の表情であり、獣羅も少しグロッキーだが、志岐に支えられ、どうにか立っている。


志岐も、多少目が回ったものの、そう酔ってはいなかった。


「俺は大丈夫ですけど…大丈夫かお前等」


志岐は糸江と神原に聞くが、2人とも首を横に振った。


「さて、麗はフラフラだが、獣羅はどうだ?」


「志岐に支えて貰ったから、少しは落ち着いてきたな……ありがとな」


「あ、はい山伏さん」


志岐は支えていた獣羅の顔色が良くなると、手を離す。


そんな2人を、神子はニヤリと笑って眺めていた。


「ほう、獣羅はやはり七村君に気があるのだな。 何時の間に名前で呼んでいるのか?」


そう、もうジェットコースターを降りているので、カップルのフリをする必要はないのだが、獣羅はつい志岐の事を名前で呼んでしまっていたのだ。


「なっ……!? だ、だから……!」


「あー、いや、俺のことはよければ志岐って呼んで貰っていいですよ。 七村って、何か語呂悪いし」


神子に指摘されて気がつき、またも顔を真っ赤にして否定しようとする獣羅だが、その前に志岐がフォローを入れる。


「ふむ、そうか。 では私は志岐君と呼ばせて貰おう。 私の事も神子と呼んで貰って構わないよ」


「そうっすか? じゃ、神子さんで」


随分とフレンドリーに会話を交わす志岐と神子を見ると、獣羅は心の中でモヤモヤとした感情が芽生えるのに気がついた。


そして神子が獣羅に挑発するように、獣羅に視線を向けると、獣羅はムカッとし、思わず志岐と神子の間に割り込んだ。


「そんじゃ、オレの事もこれからは名前で呼べ! い、いいな!?」


「は、はい…獣羅さん」


「そ、そうだ。 それでいいんだよ」


そんなやり取りを見て、糸江は驚いたような顔をし、神原は悔しそうに自分の顔を手で押さえている。


神子はにこにこと微笑み、麗は獣羅の態度が珍しいのか、ポカンと呆けている。


「さて、3人は回復するのに少し時間がかかるだろうから、もしよければ志岐君と獣羅の2人でどこか回ってきたらどうだ?」


と、提案されて志岐と獣羅は驚き、互いを見合う。


「3人は私が見ておくからな。 年長者として当然だ、遠慮することはないさ」


「えーっと、どうします? 俺は獣羅さんがよければ…」


志岐はそう獣羅に聞くが、肝心の獣羅はそう提案されて少しもじもじしており、志岐は首を捻る。


「あ、あの…獣羅さん?」


「えっ!? あ、いや、じ、時間が勿体ねぇから、オレら2人で行っちまおう! ほら、早く来いよ!」


もじもじしていたと思ったら、今度は取り乱して志岐の腕を掴んで引っ張っていく獣羅。


志岐はまたも首を捻りながら、手を振って4人と別れる。


「じゃあ、何かあったらケータイに電話して下さい! 糸目が知ってるんで!」


そう言い残し、志岐と獣羅は人ごみの中へ消えていった。

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