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穏やかに

グリフォンが才華高校を襲ってきた事件から数日が経過した。


そんな平凡な日々が過ぎる中、志岐は糸江と雑談をして過ごしていた。


「最近は事件が無くて暇だな……最強の一般人に関する情報も出てこないし」


「事件が無いって事は平和って事でいいじゃねーか。 俺はバイトがはかどって嬉しいしな。 平和が1番だ」


「そりゃそうだけどさ……あーあ、退屈だなー」


椅子に座って週刊アンラッキーを読む志岐と、机に座って暇だと喚く糸江に、ある生徒が近寄っていく。


「七村! 糸目! お前等暇そうだな!」


「……」


「糸目じゃなくて糸江ね。 どうしたのさ神原?」


無視をしてアンラッキーを読み続ける志岐に対し、糸江はちゃんと対応をする。


2人に声をかけたのは、神原(かんばら) 竜也(たつや)


志岐達と同じクラスの、所謂チャラ男であり、肩まで伸ばした髪は赤黒く染めており、身長188センチと大柄な男子生徒である。


物怖じせず、雰囲気の悪い志岐へ声をかけれる数少ない志岐の友人的存在でもある。


「実はよ、姉貴が雑誌の懸賞を当ててな。 しかし用事があって行けないと言う事で、俺に回ってきたんだな、これが!」


バン! と擬音が付きそうなほど勢い良く2人の前に突き出したのは、あるチケットが3枚。


「これってあの大人気テーマパーク、鳳凰グランドパークの入場無料チケット?」


入場無料、と言った糸江の言葉に志岐がピクリと反応する。


「おうよ! 3枚セットでな。 そこで暇なお前たちに相談だが……どっちか今度の休み、女の子を誘って一緒に行かないか!?」


「俺はいいけど、女の子の知り合いはあんまし居ないし……」


「入場無料は魅力的だけど、週末はバイトあるから無理」


期待していた答えと違ったのか、神原は溜息をついて肩を落とした。


「んだよ…糸目は役に立たないし、七村は冷めてるしよー」


と、そこへスマホの着信音が鳴る。


持ち主は志岐だったようで、スマホを取り出すと操作し始める。


「七村はまた最近知り合った大学生のお姉さんから?」


「おう、山伏さんな」


糸江と志岐の会話を聞いた神原は、慌てて志岐に詰め寄って両肩を掴む。


「お、おい七村! お前あの山伏 獣羅さんと知り合いなのか!?」


「あ、あぁ…知り合い繋がりでな。 アドレスもこの前交換したんだ」


尋常ではない様子に、志岐は若干引きながらも答えると、神原は今度は地面に頭をつけて土下座をしてきた。


「ど、どうした神原?」


「頼む七村! 俺を山伏さんに紹介してくれ! あわよくば、週末の鳳凰グランドパークに連れてきてくれ!」


「……つかなんでお前は山伏さんを知ってるんだ?」


素朴な疑問。


確かに近くの大学に通っていると言う点では、見たことはあるかもしれないが、フルネームまで知っているのは少し疑問を感じる。


神原は土下座したまま質問に答える。


「俺達、DT連合は校内校外の美少女、美女の事なら結構知ってるんだ!」


「その怪しげな連合は何だ」


「結構犯罪スレスレなんじゃないかな?」


「どんな連合かは察してくれ! 法に触れる事はしていない! 頼む七村!」


話している間全く頭を上げない神原だが、志岐はとりあえずスマホを操作して獣羅から届いたメールの中身を見る。


すると、その内容を見て志岐は少し驚き、神原に声をかける。


「神原、良かったな」


「え?」


「今の山伏さんのメール、雑誌の懸賞でお前と同じチケットが手に入ったから、良かったらやるってよ。 うまくいけば誘えるかもな」


「マジかー!」


がばっと顔を上げてスマホのメールの内容を確認すると、それを確認する。


そこには確かに、チケットが当たったから良かったらあげる。 と言うものだった。


「いいか七村、俺の言うとおりに返事返せよ!」


「どうせ俺は行けないから断るつもりなんだけど……」


「なー! 止めろー! バイト代と同じ額を俺が払うから! 頼むからバイト休んで俺の言うとおり返してくれー!」


そんなこんなで、仕方なしに志岐は神原の言うとおりメールを返し、獣羅を鳳凰グランドパークへ誘うことになった。






□□□□□


「う~…、しかしなぁ~…」


それから数時間後、アニマルファングの基地の休憩室で獣羅はスマホを持って唸っていた。


「獣羅ちゃん、どうかしたのかしら?」


「あいつがあんなにも頭を悩ませているのは珍しい……この間の自主トレと言い、最近の獣羅は少し変だな」


そんな唸る獣羅を、舞子と神子は不思議そうに、そして心配そうに見ていた。


「ぐぐぅ……やっぱしオレはこういうの向いてないし、断るか…」


そう結論付けてスマホを操作しようとする獣羅の手から、パッとスマホを取り上げる神子。


当然、突然そんな事をされて黙っている獣羅ではない。


「あっ!? か、返せよ神子!」


スマホを取り上げた神子は、獣羅をひらりとかわして内容を確認する。


名前の部分は七村 志岐とあり、メールの内容を要約すると、同じ鳳凰グランドパークの入場無料チケットを持っているので、知り合いを2人ずつ連れて、週末に遊びに行かないかと言う物だった。


「ほう、要はデートに誘われているということだな」


「デ、デートなんかじゃねぇっ!」


獣羅は、神子からスマホを取り戻すと、スマホを隠すようにしてそう怒鳴った。


「受ければいいじゃないか獣羅。 お前は告白されても全て断っているのだろう? なら自分が気になる男と付き合ってみるのも悪い話ではないだろう?」


「べ、別に気になるとかじゃねぇって言ってるだろ! いい加減にしろ!」


羞恥か怒りか、顔を真っ赤にさせてそっぽを向く獣羅だが、舞子は年長者として獣羅に声を掛けた。


「でも、最近クルジスとの事で張り詰めているし、獣羅ちゃんも息抜きが必要じゃないかしら? その誘いを受けるのには、私も賛成よ」


「ぐっ……じゃ、じゃあ2人とも付いて来いよ! それなら受けてやるよ!」


年長者でもり、獣羅も信頼を置いている舞子にそう言われて反論し辛くなったのか、苦し紛れに獣羅は2人に向けてそう言った。


「私は全く構わないぞ。 寧ろ獣羅が気になる男と言うのを見てみたいのでな」


「私は主人と子供が居るし…それに私みたいなおばさんが行ってもつまらないでしょうから、私はやめておくわ」


「ならあと1人は誰にするか……」


と、其処へお盆の上にコーヒーの入ったコップ5つを乗せた麗が部屋に入ってきた。


「皆さん、コーヒーがはいりましたよ」


「確保ッ!」


「キャアアァッ!?」


神子はそう叫ぶと、麗に抱きつくようにして捕まえる。


その衝撃と驚きに麗はお盆を放り出してしまい、お盆とコップとコーヒーが宙を舞うが、舞子は落ち着いてお盆をキャッチし、コップもコーヒーも元通りにキャッチし直した。


そんなズゴ技を尻目に、神子は麗を捕まえて離さない。


「ど、どうしたんですか神子さん!?」


「麗、今週末暇か? 暇なら獣羅が鳳凰グランドパークの入場無料チケットを持っている。 獣羅の知り合いの男子3人と、私たちと一緒に来ないか?」


「週末は予定ありませんけど……私男の人は苦手なのでちょっと……」


「獣羅、これで3人揃ったぞ」


「話聞いて下さいよ!?」


麗の話を無視して獣羅にそう言う神子だが、クールな彼女にしては少し面白がっているようにも見える。


ともかく、獣羅は嫌がる麗を無理に連れて行こうとは思っていなかった。


「神子、麗が本当に行きたくねぇなら、無理に連れて行こうとは思わないぜ」


「む、そうか。 悪かったな麗」


獣羅にそう言われ、神子はあっさりと麗を離す。


「あ、いえ……その、やっぱり、お困りなら私が行ってもいいですよ?」


押して駄目なら引いてみる…という訳ではないが、麗は優しい性格なので、こうして困っているような人を見ると見過ごせないような人間なのだ。


「無理しないでいいんだぞ麗。 美玖か、それか他のダチでも当たってみれば行けるし、そもそも断ればいいしな」


「い、いえ! 行きます! 最近、息抜きもいいかなって思ってましたし!」


無駄に声を張り上げて、麗は笑顔になりそう言った。


「…じゃあ、返信するぞ」


こうして、獣羅は志岐の誘いを受けることとなった。






□□□□□


それから幾日か過ぎ、遂にデート当日となった。


待ち合わせ場所である駅前の噴水の前に、志岐はやって来た。


そこには既に先客がおり、糸江が1番で、志岐は2番手だったらしい。


「お、早いな糸目」


「糸江ね。 女の子ってどれくらい時間かかるか分からなかったからね。 早いコも居るって聞くから」


「俺も、誘ったのに後から来るのは失礼だと思ってな」


「ところで、バイト大丈夫だったの?」


「ああ、店長に話したらサムズアップされた」


軽口を叩き合いながら2人は時間を潰していくが、まだ集合時間の10時までは15分程度あるが、話す話題には事欠かなかった。


それから更に5分後、神原もその場へやって来た。


「おう、はえーな2人とも」


「女の子を待たせるのは駄目だと思ってね」


神原と糸江が軽く挨拶を交わし、志岐も手を挙げておっスと挨拶をする。


3人とも割りとお洒落に気を使った格好だが、周囲に居る人々と変わらないようなお洒落だ。


そんな中、10時ピッタリに駅前の人々がざわついた。


志岐達も其方を見ると、息を呑んだ。


白いワンピースに、ジーンズ生地の小さめの上着を着ているセミロングの真っ白な髪の麗。


そして下はデニムに、薄い黒いシャツに上着を肩にかけている獣羅。


最後の神子も、デニムをはいており、少しフワリとした白いシャツを着ている。


可愛らしい麗、綺麗な獣羅と神子は、周囲の女性が霞んでしまう程の美女で、周囲の男性は3人に見とれている。


勿論、志岐と糸江、神原も例外ではなかった。


「…美人だとは思ってたけど、少し洒落するだけであんなにも違うのか……連れの2人もスゲー美人だし」


「お、おおう……本当に美人だ…!」


「正直、見くびってたね」


志岐、神原、糸江の順で思ったままを呟いていくが、その間に獣羅は志岐に気がついて合流する。


「よう、七村」


何時もと変わらない様子で獣羅に、志岐は気を持ち直し、糸江もいつもの調子に戻り、神原は憧れの獣羅を目の前に、まだ緊張しているらしい。


「どうも、山伏さん。 早速ですが、自己紹介でも…俺は七村志岐です。 宜しくお願いします」


「俺は糸江宗太郎です。どうぞよろしく」


「お、俺は神原竜也です! よろしく、お願いしまーす!」


男子3人が自己紹介をすると、神原の少し大きめな声に、麗は驚いてしまったのか、ビクッとした後、獣羅の後ろに隠れてしまう。


そんな麗を見て、男子達は少し不思議そうな顔をする。


「あー、気にしないでくれ。 じゃあ…オレは山伏獣羅だ。 今日一日宜しくな」


「私は豹堂神子だ。 少しばかり君たちより年上だが、気にしないでもらえると嬉しい」


「わ、私……白臼麗といいます…よ、よろしくお願いします」


獣羅は少し気だるそうに、神子は堂々と、麗はどうにか獣羅の後ろから出てきておずおずと挨拶をした。


「さて、電車の時間に遅れるといけない。 早速だが、ホームに向かうとしよう。 話は歩きながらでもできるからな」


神子がそう言うと、全員で駅に向かって歩いて行く。


獣羅は誰も寄せ付けようとしない雰囲気で、神子は友好的に、麗は男子から離れて歩いていき、それを見た志岐は、アクの強いメンバーだな、と内心苦笑した。

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