一瞬の瞬き
「おいおいおい、ミノタウロスがやられちまったってのは本当か?」
薄暗い部屋に置かれた円卓の一席に座る、鷲の顔面に、人間の体に背中から茶色い翼を生やした怪人がそう言うと、ハァ…と呆れたような溜息が幾つか漏れた。
「情報遅いわね。 ちゃんと報告書に目を通さないからそうなるのよグリフォン」
それに答えるのは下半身が蜘蛛になっており、顔には赤い宝石のような目が幾つもある女性怪人、アラクネー。
しかしグリフォンはニヤリと笑うと、円卓に身を乗り出した。
「オイオイ! 何処のどいつだ!? そんな強い奴がいるなら俺に戦わせろよ!」
「ハァ、また始まっちゃったわね、グリフォンの悪癖が」
「……まぁ、奴はしっかりと仕事をしたからいいだろう。 ミノタウロスを倒したのは動物戦隊アニマルファングという正義のヒーローだ。 途中までは圧倒していたのだが、隙を突かれてやられたらしい」
アラクネーが呆れるが、一方で情報を教えるのは体のあちこちに緑色の鱗を生やし、背中から緑色の翼と薄緑色の翼膜、頭からは2本の角を生やした女怪人だ。
「あまりグリフォンに情報を与えるなと言っておろう、ドラゴン」
「そう言うなオーガ、強敵と戦いたいという欲求は、私にも分かるからな」
グリフォンに情報を与えたのはドラゴンと呼ばれる怪人で、そんな彼女を注意するのは、真っ赤な肌にミノタウロスに勝るとも劣らない体格と筋肉を持ち、頭から角を生やし、鋭い牙を口から覗かせる巨人、オーガ。
円卓に座るのは、その4人。
一方で空席が2つ存在するが、1つはミノタウロスものであり、そこに座る者は誰もいない。
「ところで、あの方はまだ来ないのか?」
「今日は転生日よ。 ボスは今日は部屋から出られないわよ」
ドラゴンの疑問には、アラクネーが答える。
どうも、ドラゴンの言うあの方、というのはクルジスの頂点、ボスの事らしい。
そこで、グリフォンが席を立つ。
「ならボスには文句言わせねぇ! そのアニマルファングってのは俺が貰うぜ!」
「好きにせい」
グリフォンは足早に部屋を出て行くと、今度はドラゴンが席を立つ。
「では私も用がある。 あの方への報告は任せた」
「あら、また人間に戻る方法でも探すのかしら?」
その言葉に、僅かに反応するドラゴンだが、すぐに部屋を出て行ってしまい、部屋には沈黙だけが残った。
暫く適当に時間を潰していたアラクネーとオーガだが、それぞれの間に会話は無かった。
□□□□□
あの事件から数日。
志岐の家は、市内にある小さなアパートだ。
中は小さいが、一応清潔に保たれていて、志岐はリビングに置いてあるテレビを眺めていた。
『数日続いた悪の組織クルジスの活動は一時停止しており、市内は平穏が保たれております。 しかし怪人が得た新たな能力、擬態の見破り方はまだ判明していません。 皆さんも十分に注意しましょう』
「擬態ね……面倒な能力持ってる怪人が出てきたな」
朝食を済まし、準備もできている志岐は時間になるまでニュースを見て情報を頭に入れておく。
「んー、そろそろ家を出る時間かな」
鞄を持ち、家を出てのんびり歩いて学校を目指す。
志岐のアパートは少し高い丘の様な場所にあり、長い坂を下りつつ眼下の町並みを見つめる。
坂の上から見るだけでは見渡しきれないほどの大きさで、地平の先には山が見える。
その途中で音楽プレイヤーを起動してイヤフォンを耳に付けようとするが、ある音が聞こえてきて、志岐はイヤフォンを付けようとしていた手を止める。
「キャァアアアー! ちょっと、そこのアンタ! 止めなさいよー!」
坂の上へ視線を向けると、そこには真っ直ぐ志岐に向かって坂を下る、美少女が乗った自転車が見える。
志岐はハンドルの部分を見ると、美少女はしっかりとブレーキを握っているが、速度が落ちないという事は、ブレーキが故障しているのだろうと、志岐はのんびりと考えた。
「ちょ、何をボケっとしてんのよー! このままじゃ、ぶつかっ―――」
ひょいっと、志岐は自転車の軌道から逸れると、自転車はそのまま坂を下っていく。
「ちょっ―止めなさいよー!?」
「あでゅー☆」
そのままもの凄い速度で坂を下っていく自転車と美少女の後姿を見送りながら、手を振っていた。
そして、志岐は思い出す。
「あ、今の奴の制服ってウチの学校の制服だったな」
学校で会わなければいいなぁ、と呟きながら、志岐は坂を下る足を進めた。
□□□□□
「さっきはよくも見捨ててくれたわね!」
「無理だったかー」
乾いた笑みを浮かべて溜息を吐くと、目の前の美少女、笠木 美玖は顔を真っ赤にして騒ぐ。
「あんたのせいで、ヒーローの力を使うはめに……って違うわよ! 何でさっきアタシを見捨てたのよ!?」
「いや、あんな速度の自転車止めるとか無理無理。 ヒーローとかならいざ知らず、俺は一般人だから」
実は止めれたがなど言えず、見捨てた理由を取り繕っていく。
だが美玖の怒りは全く収まらなく、更に燃え上がっているようだ。
「うるさい! 男ならアタシみたいな女の子の為に体張りなさいよ!」
「やだよ」
即答である。
僅か1秒にも満たない速度で返事を返すと、美玖の顔は益々怒りで赤くなり、これ以上は収集がつかなくなりそうだ。
だが、そこへ救いの神というか、予鈴が鳴る。
「もうすぐ1限目始まるぞ。 この話はまた今度な」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
美玖から逃げるように校内へと走り込む志岐だが、ギャーギャー言いつつも遅刻するわけにはいかないのか、美玖も走ってついてくる。
しかたないと思い、志岐は少しだけ本気で走ると、一瞬で美玖は志岐の後姿を見失った。
「あ、あれ…? あいつ、何処行ったのかしら?」
一瞬の出来事に混乱する美玖をその場に捨て置き、志岐はまた溜息を吐いた。
「ハァ、今日はアイツから逃げるために授業中以外は屋上に逃げ込むかぁ」
そして志岐はギリギリセーフで教室に滑り込んだのだった。
□□□□□
昼休み。
志岐は自分の手作り弁当を食べている。 無論、屋上でだ。
どこで調べたのか、志岐の教室で待ち伏せしており、授業が終わればすぐに隠れなければならず、戻っても授業の始まるギリギリまで待ち伏せている。
代わりにシメられた糸江がぐったりしていたのは、割と余談だろう。
「そろそろ向こうも作戦を変えて待ち伏せじゃなくて探索してくるかな……隠れ場所変えるか」
しかし屋上以外のどこに隠れるかと悩むが、そうしていると、空の向こう側に小さな点が見える。
志岐は目を細めてその点を見続けて、その正体が見えると、ギョッと目を見開いた。
「オイオイ、神様は何か俺に恨みでもあるのか?」
弁当箱をしまうと、志岐は立ち上がってその点を見続ける。
そして、その点は次第にはっきりとしてくる。
身長2メートルほどで、鳥の頭に人間の体、金色の宝石が鏤められた鎧を着込み、背中から茶色い巨大な翼を生やした怪人だ。
そういえば、神話にも似たような怪物がいたなー、などと呑気に現実逃避する志岐だが、怪人は飛行する速度を落とさずに真っ直ぐと校舎に向かい、そして激突する。
凄まじい衝撃が学校全体を襲い、コンクリートの壁を粉々に粉砕した。
その衝撃で、志岐のポケットから、何かが落ちる。
「うわわわっ!?」
「キャァアアアアアアッ!?」
「な、何があったんだ!?」
「あれってまさか……怪人!?」
生徒も教師も驚き、そして怪人を見ると焦りだす。
「ヒャハハハハハハハハ! 俺はクルジスの怪人、グリフォン! アニマルファングをおびき寄せるための餌になって貰うぜテメェ等!」
チンピラのような笑い声だが、怪人は実力も伴うから厄介だ。
グリフォンの奇襲を受けた学校は大混乱だが、美玖は混乱しながらも人目の無い所で変身装置を取り出した。
「全く、アタシ達を誘き出すために一般人を巻き込むなんて、怪人には常識が通用しないから駄目ね! 変身! ブルー・ホーク!」
変身装置が輝き、ブルー・ホークは変身すると、背中の翼を使い低空飛行で廊下を飛行していく。
途中で何人か生徒とすれ違うが、ぶつかる事はなく、ブルー・ホークは怪人と対峙した。
「待ちなさい! アタシが来たからには、もう好きにはさせないわ!」
「お、テメェがアニマルファングの1人か。 相手してやるぜ!」
怪人グリフォンは、腕を振り上げると、手から鋭い爪を出すと、それを振り下ろした。
ブルー・ホークは素早く飛行して横に逸れると、先ほどまでブルー・ホークが立っていた場所の、コンクリート造りの地面と壁が簡単に切り裂かれ、爪あとが残る。
幾らパワードスーツを着ていても、あの一撃を受ければ唯では済まない。
「たぁっ!」
ブルー・ホークはお返しとばかりに蹴りを放つと、グリフォンはその蹴りを避けようともせず、脇腹に受けた。
蹴った反動を利用して飛び退くブルー・ホークに、グリフォンは地面を蹴って再び爪を振り上げる。
飛び退いたブルー・ホークは、回避できないと踏んだのか、両腕を交差させて装甲の部分でグリフォンの爪を受け止める。
「オラァアアアアアアアアアア!」
「きゃあああっ!」
そのまま壁に叩きつけられ、壁に皹が入り砕ける。
そしてブルー・ホークはグラウンドに放り出され、空中でクルリと一回転して体勢を整えて着地する。
「くっ、とんでもないパワーね」
両腕の装甲には爪あとがしっかりと残っているが、戦いに支障は無いだろうと判断した。
「オイオイ、ミノタウロスをやったってのに、この程度なのかよ?」
挑発するような笑みを浮かべつつ、グリフォンは翼を羽ばたかせて、砕かれた壁からグラウンドにいるブルー・ホーク目掛けて一直線に飛んだ。
グリフォンの拳を寸前でジャンプして回避すると、ブルー・ホークの足の装甲が変形する。
「なめんじゃないわよ! グール・クロウ!」
猛禽類の脚の様に変形した足の装甲は青い光の爪を生み出してグリフォンの頭上を飛び越えると同時に背中を切り裂いた。
皮膚が想ったより硬かったのか、軽い傷がついて血が滲み出すが、それだけだった。
「ほぉ、やればできんじゃねぇか!」
振り返ると同時に裏拳を放つグリフォンだが、ブルー・ホークはしゃがんで避けると、翼を使って空中に飛び上がる。
そのまま止まることなくグングンと上昇していき、人が豆粒ほどの大きさに見えるところで、一旦停止する。
「アンタみたいな体力馬鹿でも、この攻撃はどうかしらね?」
スーツから放たれる青い光を纏って、ブルー・ホークは一気に急降下していく。
それはさながら、青い流星。
「必殺! ブルー・スターダスト!」
凄まじい速度で落下し、グリフォンに向けて一直線に蹴りを放った。
その青い流星を、グリフォンはまたも避けようとせず真正面から受け止めた。
蹴りを両腕で掴んで受け止めると、衝撃に耐えられずに後ずさりしてしまう。
「ぬぅうううううううううううう、あぁああああああああああああああ!」
20メートルほど移動したところで、青い光が消えてグリフォンが膝を着いた。
地面に降り立つブルー・ホークは、グリフォンを見下ろす。
「私の勝ちね。 アンタは逮捕して怪人専用の刑務所に入って貰うわ。 大人しくすれば悪いようにはしないわよ」
「……いい蹴りだったぜ。 だが、今度は俺の番だ!」
決着がついたと思い、油断していたブルー・ホークは、その攻撃に反応する事ができなかった。
グリフォンはブルー・ホークの腕を掴むと、引き寄せてその脇腹に拳を叩き込む。
「か、はっ…!」
「まだまだァ!」
怯むブルー・ホークを空中に放り投げると、グリフォンもそれを追って飛び上がり踵落としでブルー・ホークに追撃をかける。
強烈な攻撃で地面に叩き落されたブルー・ホークは、バイザーで見えないが涙を浮かべてしまう。
「ゲホッ……」
「なんだ、もう終わりかよ」
地面に倒れて動かないブルー・ホークに向けてとどめの爪を振り上げるグリフォン。
だが、そこへ赤い人影が現れる。
「待て!」
その人影は、パワードスーツを着たレッド・タイガーだった。
「こっからはオレが相手をしてやるよ」
「そりゃあ嬉しいねェ…じゃあ早速行くぜ!」
グリフォンが爪を振り下ろすと、レッド・タイガーは僅かに後ろに下がり回避すると、拳を握り締めて強烈なパンチをグリフォンの顔面に繰り出した。
「ぐっ…!」
よろめくグリフォンに、レッド・タイガーは懐に飛び込むと、追撃とばかりにアッパーを放つ。
そしてそのまま腕の装甲を変形させてリング状にし、回転させて衝撃波を放つ。
「タイガー・ハウンド!」
その衝撃波とアッパーにより、グリフォンの巨体が空中に浮かび上がる。
宙に浮かぶグリフォンを追う様にジャンプしたレッド・タイガーは、更に跳び蹴りを放つと、グリフォンは3メートル程吹き飛び倒れた。
グリフォンが倒れたのを確認すると、レッド・タイガーはブルー・ホークに近寄った。
「随分派手にやられたな? ボロボロじゃねぇか」
「うっさいわよ…っ!? タイガー、後ろっ!」
「え―――」
ブルー・ホークが何かに気がつき、レッド・タイガーに伝えようとするが、その前にグリフォンの爪がレッド・タイガーの背中を襲った。
「ぐあぁっ!」
「あの程度で……この俺がやられるかよ……俺は、絶対に倒れねぇ!」
背中を切り裂かれたレッド・タイガーは、スーツに守られたものの、血が滲んでいる。
そして反撃しようと立ち上がろうとした時、グリフォンはレッド・タイガーを踏みつけて動きを封じる。
「ぐぐ…!」
「クハハハ! 俺の勝ちだ! 相応のダメージも受けたが、最後に勝つのはこの俺――」
と、グリフォンが高らかに笑っていると、その頭に手の平サイズの石がぶつかった。 その速度は尋常ではなく、石がグリフォンにぶつかった際に粉々になるほどだ。
「アァ…?」
イラついたような表情で石が飛んで来た方向を見るが、そこには校舎があるだけで、誰もいなかった。
だが、鷹の目を持つグリフォンは、石を投げた者が見えていた。
グリフォンは倒れているレッド・タイガーとブルー・ホークの胴体を左右の手で鷲掴みにすると、翼で羽ばたき、校舎の屋上に降り立った。
「オイオイ小僧ォ、戦士でない者が戦いに水を差すとどうなるか、教えてやろうか?」
「お前は建物壊すなって母ちゃんから教わらなかったのか?」
グリフォンと対峙するのは、怒気を含んだかのような声色の志岐。
売り言葉に買い言葉。
先に仕掛けたのはグリフォンだった。
レッド・タイガーを宙に放り捨てると、爪をむき出しにして志岐に振り下ろす。
だが次の瞬間、志岐の右腕が消えたかと思うと、グリフォンの爪が砕け散った。
「なぁ――!?」
「釣りはいらないぜ、とっとけ!」
隙のできたグリフォンに、志岐はショートアッパーを叩き込むと、グリフォンはよろめいて膝を着く。
そして志岐は一瞬にしてレッド・タイガーの放り投げられた方へ移動すると、衝撃を受け止めるように優しく受け止めた。
その体制は、偶然にもお姫様抱っこになってしまう。
「く……な、なぁ!? お、降ろせお前!」
自分の体制に気がついたレッド・タイガーは、ヘルメットで見えないが羞恥で顔を真っ赤にして志岐に向かってそう吠えた。
暴れるレッド・タイガーを優しく地面に下ろすと、志岐は未だに膝を着いているグリフォンを睨む。
「あの鳥野郎は任せろ。 仲間も助けといてやるよ」
そう言うと、再びグリフォンと対峙する志岐。
「クッ…テメェ一体、何者なんだァ!」
そう吼えて、グリフォンは砕けた爪を握り締めて志岐に襲い掛かる。
だが、グリフォンが拳を振り抜いた時には、既に志岐はその場に居らず、何処に言ったと探そうとした瞬間、ブルー・ホークを持っていた左腕からゴキッと嫌な音がする。
一瞬にしてグリフォンの左背後に回りこんだ志岐は、グリフォンの腕を折ったのだ。
「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!?」
絶叫するグリフォンを他所に、志岐はスルリとグリフォンの手から落ちるブルー・ホークを、同じ様に優しく受け止めると、レッド・タイガーを降ろした位置まで飛び退く。
「ア、アンタ……」
「動くなよ。 怪我してんだろ。 任せろって、あいつはやっちゃいけない事をしたんだ。 俺も許さない」
三度グリフォンに向き直る志岐に、グリフォンは鋭い鷹の目で睨みつける。
「テ、テメェ……まさか噂の最強の一般人か…?」
「さぁな。 それよりお前が校舎に突っ込んだとき、ある事が起こったんだ」
「アン…? 何だってんだよ!?」
「お前が校舎にぶつかった時の振動で――」
そして、志岐の姿が消えたかと思うと、一瞬にしてグリフォンの背後に姿を現す。
一瞬送れて、グリフォンは、前後左右あらゆる方向から殴られたような衝撃を受ける。
「グ、ハァッ!?」
「――俺のポケットから、財布落ちてどっかいっちまっただろ!」
グリフォンは血反吐を吐き、地面に倒れた。
「な、何したのアイツ…!?」
「殴った……」
その光景を見て唖然としているブルー・ホークの隣で、レッド・タイガーが呟いた。
「如何いう事?」
「あいつ、あの一瞬で20発以上殴りやがったんだ」
怪人の肌は、時には銃弾が通らないほど硬い肌を持つ者もおり、グリフォンもその一人である。 通常ならば、人間が殴れば、その拳が無事ではすまない。
だが、志岐は怪人が倒れるほどのパンチを20発も叩き込んだのだ。
「ったく、見つからなかったらどうしてくれんだよコンチクショー」
そう遠くない距離からパトカーのサイレンの音が聞こえ、この事件の終わりが見えたのだった。
□□□□□
「どこにあるんだよ~? 銭型のおっちゃんに見つかる前に此処から逃げないといけねぇのに……」
才華高校の校舎から、警察に誘導されて次々に出て行く生徒と教師を他所に、志岐は茂みを漁っている。
勿論、財布を捜しているのだが、屋上には無かったので屋上から落ちたと判断し、1階の茂みを探しているのだ。
「お、おい……」
すると志岐は背後から声を掛けられ、振り返るとそこには獣羅と美玖が居た。
「あれ? アンタは前にジョスコで会った……お前は、げっ、見つかった!?」
「げって何よ!」
志岐の反応が気に召さなかったのか、美玖は声を荒げるが、獣羅が首根っこを掴んで後ろに下がらせる。
「…で、何やってるんだ。 そっちはウチの生徒だから分かるけど、アンタはどうして此処に?」
美玖がいるのは納得したようだが、獣羅がいるのを不思議に思ったようだ。
「この近くの大学に通っててな。 美玖とは友達だから見に来たんだ」
「成るほどね。 で、俺に何か用か?」
「い、いやあの……これをアンタに届けようかと思っただけよ!」
美玖が志岐に差し出したのは黒い安物の財布だった。
紛れも無い、志岐の財布だった。
「おお! これは俺の財布! …あれ、でも何で俺の財布って分かったんだ?」
「な、中身みたら学生証があったからよ。 傍で聞いてたからとは言えないけど……」
最後のほうは志岐に聞こえないように小声で呟くと、志岐は財布を受け取った。
「ありがとな、えーっと……」
「私は笠木 美玖」
「オレは山伏 獣羅」
「ありがとな笠木、山伏さん。 俺は七村 志岐だ。 よろしくな」
そうして少し笑いながら志岐と獣羅と美玖は挨拶を交し合ったが、そこへ大柄な人影が現れる。
「コラァ! お前等そこで何してんだ!」
「ゲェッ!? 銭型のおっちゃん!?」
「ガキ! またお前か! この野郎!」
その人影の正体は銭型警部で、志岐を見て声を荒げるが、志岐も銭型を見ると一目散に逃げ出した。
後日、校舎は破壊されたが、教室等は無事だったので授業は支障なく送られた。
この一件でアニマルファングは週刊アンラッキーで賞賛され、グリフォンは逮捕されたのだった。




