木のダーツ
悪の組織クルジスがスクランブル交差点に現れる10分ほど前、志岐と糸江はスクランブル交差点を、2人で並んで歩いていた。
「何で俺までつき合わされてるんだ?」
「いいでしょ別に。 今日は珍しくバイト休みでしょ」
学校で、今日はバイトが休みになったと糸江の前で言ってしまったのが運の尽き―最強の一般人探しに付き合わされる羽目になってしまったのだ。
折角の休みなのだから、ゆっくり休ませて欲しいと志岐は言ったが、晩飯を奢ると言われて、ついつい釣られてしまったのだ。
まあ、探し人が隣にいるとは言う気にならないが。
「で、何処探すんだ?」
「銀行強盗に怪人との戦闘はこの付近で起こってるからな……次の事件現場に行けば会えるかもしれないって寸法だよ」
「ほー、案外考えてるんだな」
「心外だな。 これでも最強の一般人が関係しているヒーローやサイキッカー、魔法少女なんかに関わった事件は調べてるからね」
志岐が感心すると、糸江がむっとした顔で反論すると、はいはいと言って志岐は受け流した。
「しっかしここの交差点の待ち、長いな」
「そうだね。 そこのコンビニで何か買おうか」
「それお前の奢りでいいよな?」
「俺が奢るのは夕飯だけだよ。 此処では自分で払ってよね」
「晩飯はステーキにするか、それとも寿司にするか……」
「ちょ、少しは手加減してよ?」
軽口を叩き合う2人だが、そこへ黒い全身タイツを着た男達が、空から落ちてくる。
「うわっ!?」
「これは……」
2人の目の前に落ちてきた黒い全身タイツの男は、恐らく悪の戦闘員だろう。 空を見上げれば、飛行船の様な物から、パラシュートを背負った戦闘員がどんどん降りてくる。
空中でパラシュートを展開し、ある程度の場所まで降下したら、パラシュートを外して着地する。
戦闘員の数は100人前後はおり、あっという間にスクランブル交差点を制圧した。
そんな中、パラシュートなしに飛行船から落下して、スクランブル交差点のど真ん中に着地してコンクリートを砕き、怪人が現れる。
「グハハハ! 俺様はミノタウロス! 悪の組織クルジスの怪人だァ!」
志岐は溜息を吐いた。
一昨日は銀行強盗、昨日はジョスコで怪人と戦闘、そして今日は街中で悪の組織に絡まれてしまう……何かが憑いているとしか思えない。
「お払いにでも行くかな」
「ど、どうした七村、今日こそ最強の一般人に出会えるかもしれないし…が、頑張るか!」
声と体を震わせてそう言う糸江に、志岐は何を頑張るんだと突っ込みたくなったが、やめておいた。
変な事を言って意地になった糸江が無茶な行動に出るほうが面倒だった。
そんなこんなで、志岐と糸江はこの事件の人質となってしまったのだった。
□□□□□
そしてアニマルファングが現場に到着し、ブルー・ホークの蹴りととミノタウロスの拳がぶつかり合った。
「ぬっ、くぅっ!?」
「グハハハ! お前の力はそんなものかァ!」
「キャァアアアアアアアアッ!?」
ミノタウロスが拳を振り抜くと、ブルー・ホークは弾き飛ばされて建物の壁に叩きつけられる。
壁は易々と砕け、ブルー・ホークはそこへ姿を消す。
「ブルー・ホーク!」
「私が正面に出ます! その隙に攻撃を!」
イエロー・パンサーがブルー・ホークを心配して声をかけると、ブラック・バイソンがミノタウロスの前に出る。
ブラック・バイソンの装甲は他のメンバーの物より分厚く、堅くできており、接近戦での防御力に長けている。
「次はお前か! 俺もお前も牛同士! 仲良くやろうぜェ!」
「お断りします!」
ブラック・バイソンは助走をつけてタックルするが、ミノタウロスは片手で正面から受け止める。
そしてミノタウロスの動きが止まった瞬間、右からイエロー・パンサーが手首の装甲の刃を展開して襲い掛かり、左からはホワイト・バニーが足のブースターを発動して蹴りを放つ。
「ハァアアアアッ!」
「し、失礼しますっ!」
レッド・タイガーたる獣羅も、次の攻撃の為に空高く跳び上がった。
しかしミノタウロスは冷静に対処した。
「ハッ!」
「キャァ!?」
「うぐっ!」
ブラック・バイソンの首根っこを掴み、イエロー・パンサーの方へと投げつけると、2人はもみくちゃになって転がってしまう。
それと同時に蹴りが放たれたホワイト・バニーの足を鷲掴みにし、先ほどブルー・ホークが投げられた壁に向けて投げられる。
「キャア~!?」
ホワイト・バニーは、そのまま壁の奥まで行ってしまい、ぶつかったようだ。
「チッ! だがオレの攻撃をかわせるかァ!」
レッド・タイガーは宙から落下し、踵落としの要領で足を落とす。
「ヘヘヘッ!」
だがミノタウロスは脇に抱えている子供を盾にするように突き出す。
「なっ!?」
慌て踵落としの軌道をそらすと、踵落としはミノタウロスと少女には当たらず、地面を砕いて止まった。
そして、ミノタウロスは拳を握ってレッド・タイガーの腹を殴った。
「ぐはぁっ!」
そのまま吹き飛ばされたレッド・タイガーは地面を転がり、20メートルは転がったところで漸く止まった。
「どうしたどうしたァ! 噂のアニマルファングもこの程度か!」
「くっ…子供を盾にするような奴が何を言う! 喰らえ私の技、ソード・ファンガー!」
イエロー・パンサーは両腕の刃から緑色のエネルギー状の刃を生成し、鋭く、長く変形させる。
そして両腕を振り上げ、ミノタウロスに刃を突き立てようとする。
だがやはりと言うか、ミノタウロスは少女を盾にすると、イエロー・パンサーは動きを止めてしまい隙だらけになってしまう。
「オラァッ!」
「がぁっ!」
ミノタウロスの蹴りをまともに受けてしまったイエロー・パンサーは、吹き飛ばされてしまい壁に叩きつけられる。
「おっと動くな!」
「くっ!」
ブラック・バイソンが動こうとすると、少女の首に手を添えて脅しをかけると、ブラック・バイソンは動きを止めざるを得ない。
そこで、ブルー・ホークとホワイト・バニーが建物から出てくると、ミノタウロスは其方も警戒する。
「ア、アンタ……そんな小さな子供を人質にして恥ずかしくないわけ!?」
ブルー・ホークがそうイチャモンを付けると、ミノタウロスは鼻で笑った。
「フー、俺は悪の怪人だからねァ。 正義のヒーローのルールなんて関係ないからなァ? 悪の組織ってのは好き放題できて良いぜ!」
ガハハハハハ! と下品に笑うミノタウロスだが、そうしていると、少女を掴んでいた腕に何かが刺さる。
それは、先の尖った木の枝だった。
木の枝とはいえ、刺さった衝撃が強く、思わずよろめき、少女を放してしまう。
「うぎゃあああっ! 俺の、俺の腕がァッ!?」
「今だッ!」
ミノタウロスの動揺を見たレッド・タイガーは腕の装甲を変化させてリング状にし、回転させる。
イエロー・パンサーも、再び緑色のエネルギー状の刃を振り上げる。
「タイガー・ハウンド!」
「ソード・ファンガー!」
「ぐ……ぐぁあああああああああああああああああ!」
ミノタウロスに、衝撃波が襲い掛かり、吹き飛ばされ、そして刃が両腕を切り裂くと、血が噴き出して倒れてしまう。
「ハァ、ハァ……やったか?」
レッド・タイガーがそう呟き、そっと近寄る。
そして突然、ミノタウロスは起き上がりその頭の角を煌かせてレッド・タイガーに頭突きを放とうとする。
「なっ―!?」
「死ねぇえええええええええええええ!」
だが、ミノタウロスの首元にブルー・ホークの蹴りが突き刺さり、ミノタウロスを吹き飛ばした。
「ぐはぁっ……が、はっ……」
「そんな思い通りにはさせないわよ」
今度こそ倒れたミノタウロスは、口の端を吊り上げて高らかに笑う。
「グハハハハハハ! 流石はアニマルファング! だが怪人の散り様は知っているよな? 周りの連中も巻き添えだ!」
怪人はその命を散らす時は、爆発してしまう。
しかしこの場には人質を含め多くの一般人がいる。
そう言っている間にもミノタウロスの体が爆発のため、赤く染まっていく。
「そうはさせないわ!」
ブラック・バイソンがミノタウロスの体を持ち上げると、宙に放り上げる。
「ご、ごめんなさいっ!」
それをホワイト・バニーが蹴り上げる事で、ミノタウロスの身体を空高く浮かび上がらせる。
「……チッ、俺の負け、か」
ミノタウロスがそう呟くと同時に、炎と黒煙を噴き出して爆発した。
空高く跳んでいたミノタウロスの爆発は街には一切被害を出さず、アニマルファングはその役目を全うしたのだった。
□□□□□
ザワザワと人々が騒ぎながら警察に誘導されてスクランブル交差点を離れる中、レッド・タイガーは地面に落ちているミノタウロスの腕を見ていた。
腕に突き刺さっているのは、少女を助けた木の枝。
「こんな物真っ直ぐ投げれるとは思えねぇし、投げれたところで怪人の腕に刺さるとかどんな威力だよ」
普通じゃない。 尋常じゃないと。
そしてそんな時、ふと昨日ジョスコで出会った青年の姿が思い浮かぶ。
「まかさ…!」
レッド・タイガーは人混みへ目を向けて、昨日の青年の後姿を探す。
そして、チラリとレッド・タイガーの方を見ていた黒い瞳を見つけるが、それはすぐに人ごみの中へと消えた。
「……あいつは一体、何者なんだ?」
単純だが、中々答えの見つからない疑問をポツリと呟いて、レッド・タイガーはその場に立ち尽くしていた。
□□□□□
「手ごろな木の枝があって助かったな……」
「え、何か言った七村?」
「いや、なんにも」
ボソリと呟いた志岐の言葉を聞き逃した糸江は、首を傾けながらもやれやれといった風に苦笑した。
「それにしてもツイてないなぁ、事件に巻き込まれるまではいいけど、目当ての最強の一般人には出会えずじまいだったしね」
溜息を吐いて先に進んでいく糸江の背中を見つつ、志岐は考える。
あのままミノタウロスを放っておけば、恐らくヒーローを倒した後少女を殺しただろう。 いや、少女をあの場で殺したとしても、周囲に人質はもっと沢山居た。
そうなれば自分の力を隠すのは益々難しい。
だから志岐は、先の尖った木の枝をダーツのように投げるという手助けを行った。
悪の組織にも、働く悪事には偏りがある。
どうもあのクルジスという悪の組織は人の命を奪うような真似も行う。
「厄介な組織だよなぁ……」
「え? どうしたの、独り言?」
「おう、やっぱし今日の晩飯はファミレスのメニューを端から端までにしようかと思ってな」
「だから手加減してよって!」
志岐は、この面倒ながら面白い友人の背中を叩いて、夕暮れの街並みを歩いて行った。




