リトライ
それから1時間後、志岐と獣羅は鳳凰グランドパークを満喫していた。
先ほど乗った1番人気のジェットコースターより小さいジェットコースターに乗ったり、マスコットキャラクターと写真を撮ったりしていた。
「なぁ志岐、次はどこに行く?」
「ちょっと待って下さい……」
志岐は獣羅に聞かれて、スマホを操作して評判の高いアトラクションをネットで調べていく。
仲良さ気に話し合うその姿は、恋人同士にも見えなくも無い。
「次はあれに入りましょう」
「おー、どれだ――」
そう言って志岐が指差した先にある建物を見た瞬間、獣羅は凍りついた。
あえて古く、薄汚れた塗装をされた壁と屋根に、石で作られた墓が、庭に建てられている、巨大な洋館。
どう見てもお化け屋敷である。
「3番人気のお化け屋敷アトラクション、ホラー・ダンジョンですね。 日本でもかなりの大きさのお化け屋敷らしいですよ」
「……」
「獣羅さん?」
説明しているのにも関わらず、返事をしない獣羅を心配して顔色を伺う志岐だが、獣羅の顔色は真っ青になっており、どう見ても普通ではない。
それを見て獣羅がお化け屋敷が苦手なのかと察した志岐は、次のアトラクションを調べる為にスマホを弄る。
「獣羅さん、他のアトラクションもありますけど……」
「は、はぁ!? ま、まさかお前、恐いのか?」
「え、いや、獣羅さん無理しないでも――」
「むむむ、無理なんてしてねーよ! ほ、ほら! 早く行くぞ!」
志岐に恐がっていると思われるのが癪だったのか、意地を張って志岐を引っ張り洋館へと向かい、列に並ぶ志岐と獣羅だが、獣羅の顔は青ざめたままだった。
志岐も止めようとしたが、獣羅はその後も意地になり入ろうとしていた。
そして志岐も諦め、もしかしたら役得もあるかと思い、そのままお化け屋敷の中へ入っていった。
□□□□□
「結構ビビリましたね……大丈夫ですか獣羅さん?」
「う、うっ……もう、もう二度と入らねぇ……」
出口から出てきた獣羅は志岐の腕にしがみつき、涙目で俯いている。
屋敷の中に入り、お化け役の従業員が飛び出してくると、獣羅の意地は脆く崩れ去り、お化け屋敷からは獣羅の悲鳴が辺りに響き渡った。
獣羅は思わず志岐に飛びつき、年上の威厳も何も無かった。
驚いていたのは志岐も同じだったが、心臓がバクバクと鳴り、顔が赤いのは獣羅とは違う理由である。
「あの、獣羅さん…そろそろ離れてくれないっすか? 胸が当たってて…」
「へ、あ、うわぁああああああああっ!? わ、悪ぃ!」
腕を放して志岐と距離を開ける獣羅だが、ほぼ無自覚だったらしい。
今更気がついた事実に、獣羅も顔を赤くし、心臓の鼓動を早くする。
2人の間になんとも言えない微妙な、甘酸っぱい空気が流れて無言になる。
「あー、ちょっとトイレ行ってきますね」
「あ……」
その場から一旦離れるために志岐はそう言ってトイレに向かって走っていく。
取り残された獣羅は、ハァと溜息をついてベンチに座った。
「全く……何なんだよ、今日のオレ、どっか変だぞ」
初めてデパートで会った時は、変な奴だと思った。 その後助けられた時は、その力に驚愕した。 スクランブル交差点では、志岐の事が自然と頭に浮かんできた。
学校では、まだまだ底の見えない実力に興味が出た。 メールをやりとりする内に、友人のような関係となった。
そして、今は……
「キャーッ!」
そこまで考えて、獣羅の思考は絶たれた。
女性の悲鳴は、鳳凰グランドパーク中央広場の方から聞こえてきた。
獣羅は、悲鳴のあった方へ走ると、そこには黒い甲冑を着た大柄な騎士と、城と黒の仮面を付けた道化師が立っていた。
「我々は悪の組織ヴィクテム! このテーマパークは占拠した! これよりお前たちは我々の人質になってもらう!」
騎士がそう叫ぶと、周囲に居た黒い兜を被り、軽鎧を着た戦闘員達が剣を振るって一般人を脅していく。
「ヴィクテムだって…?」
獣羅は素直に驚いた。
悪の組織ヴィクテムと言えば、魔法少女に深い関わりのある、巨大な悪の組織である。
しかし魔法少女との関わりが深いからと言って、ヒーローが相手をしてはいけないと言うことは無い。
獣羅は人目を避けて隠れ、誰も見ていない場所で変身装置を取り出した。
「変身! レッド・タイガー!」
ヒーローの姿に変身すると、レッド・タイガーは飛び出して黒騎士と道化師に向けて拳を放った。
「うおぉおおおおおおおおおおおっ!」
「むっ!?」
それに素早く反応した黒騎士は、腰の剣を抜き、剣の腹でレッド・タイガーの拳を受け止めた。
「俺に奇襲など通用せん」
「だったら正面からねじ伏せるだけだ!」
黒騎士は剣を振り払い、レッド・タイガーの拳を弾いてお互いに距離を取る。
だがレッド・タイガーは再び地面を蹴ると、拳を振りかぶる。
「ファイア・ジャグリング」
そこへ横からソフトボールほどの大きさの炎の球が、レッド・タイガーに向けて投げつけられる。
「くっ!?」
咄嗟に横に跳んでそれを避けたレッド・タイガーは、炎の球を投げつけた相手、道化師の男の姿を見る。
「いやいや、先ずは名乗りくらいあげるものでしょう。 正義の味方ともあろうものがいきなり殴りかかるとは、無作法ですよ」
道化師の男は、仮面の奥の瞳をニヤリと歪める。
しかしレッド・タイガーは怯まなかった。
「フン、オレはアニマルファングのレッド・タイガー。 テメェ等はヴィクテムの幹部か何かか?」
「俺こそ、ヴィクテムの首領たるお方の側近騎士、ディン!」
「私は幹部のジェスターと申します。 以後宜しくお願いします」
レッド・タイガーが最初に名乗り、続いて黒騎士、道化師が名乗っていく。
だが、ジェスターの言葉を聴いた瞬間、レッド・タイガーは腕の装甲を変化させた。
「ハッ! 以後なんてのはねぇ! 此処でお前ら2人とも捕まえてやる!」
腕の装甲は、手の甲を覆うように変形して、指先に鋭い赤い爪を装備させた。
「タイガー・クロー!」
赤く煌く爪を振りかざしてディンへと迫ると、それを待っていたかのように剣を構えてそれを受け止めた。
キィン!と耳障りな金属音が辺りに響く。
そこへジェスターが手の平で炎の球をジャグリングすると、勢い良く投げつけた。
炎の球をかわそうとするが、ディンの持つ剣で上から無理矢理力で押さえつけられると、体重がかかって回避できなくなってしまう。
と、そこへ2つの人影が現れる。
緑色のエネルギー状の刃と、白い装甲の足が、炎の球を弾いてかき消した。
「ほほう、君達は……」
「アニマルファング、イエロー・パンサーだ」
「お、同じく、ホワイト・バニーですっ!」
その場に現れたのは、神子と麗の変身した姿、イエロー・パンサーとホワイト・バニーだった。
「周囲の戦闘員は殲滅した。 後はこの場にいる戦闘員とお前たち幹部2人だけだ」
「大人しく、捕まって下さい」
「数の上では3対2ですね……どうしますディン」
「丁度いい、我々とたかが一ヒーローとの格の違いを見せ付けてやろうじゃないか」
ジェスターとディンの言葉に、周囲に居た戦闘員達は、自分たちは勘定に入ってないのかよ……と肩を落とした。
それはともかく、ジェスターはナイフを取り出して、対峙しているイエロー・パンサーとホワイト・バニーに見せ付ける。
「さてこのナイフ、種も仕掛けも御座いません」
「悪いが、手品ショーは他所でやって貰おう!」
ジェスターの言葉を途中で断つように、イエロー・パンサーが飛び出し、腕に装着されている刃を煌かせる。
「なーんて、冗談ですよ。 刃が引っ込んだり飛び出したりするギミックナイフです」
そう言ってジェスターはナイフの刃を引っ込めさせる。
だが、その刃の引っ込んだナイフの先を、向かってくるイエロー・パンサーに向ける。
「では、飛び出しますよ」
速度は、まるで弾丸だった。
一瞬空中で輝いた白い刃は、一直線にイエロー・パンサー目掛けて飛んでいった。
それに反射的に気がついたイエロー・パンサーは首を傾けてギリギリの回避に成功する。
「あら、外しましたか。 まぁ、当ててしまっては手品的には失敗ですがね」
「ソード・ファンガー!」
緑色のエネルギー状刃が、ジェスターに襲い掛かるが、ジェスターは踊るようにしてその刃の連撃を避けていく。
「なっ!?」
「ふーむ、筋は悪くありませんがねぇ……」
そんな余裕を持ったジェスターに影が差す。
ジェスターが影の正体を見上げると、そこには大きくジャンプしたホワイト・バニーの姿が。
「ラビット・フット!」
そのまま足のブースターと重力を利用して、強力な蹴りを叩き込む。
手ごたえ、いや足応えもあり、ホワイト・バニーは直撃したと確信した。
「ああっ! ごめんなさい! 痛かったですか!?」
「いえいえ、お気遣い無く。 当たっていませんので」
態々敵にそんな風に謝るとは、律儀な性格である。
陽気なジェスターの返事は、そんなホワイト・バニーの背後から聞こえた。
「あ、あれ……? 確かに足応えが……」
ホワイト・バニーが足元を見ると、そこには薄汚れた木造のピエロ姿の人形があった。
「Let's エスケープ!」
パチパチと自分で拍手をするジェスターに、イエロー・パンサーとホワイト・バニーは呆気に取られる。
「さて、どうしますか? これ以上戦うならば、ほんの少し本気を出しますよ?」
ここまで2人掛かりだと言うのに、軽くあしらわれており、イエロー・パンサーは歯を食いしばる。
「くっ…態々こんなテーマパークを襲うお前たちの目的は何だ?」
「おや、気になりますか? では教えてあげましょう、別段知られて困る事でもありませんしね」
イエロー・パンサーの問いに、ジェスターは仮面の奥で笑いながらそう言った。
「この鳳凰グランドパークを経営している鳳凰グループへの警告ですよ」
「警告……ですか?」
「そうです。 鳳凰グループはヒーローの変身装置を作る組織や、魔法少女の精霊評議会への多大なる援助を行っています。 それが厄介なので、今回の事を機にそれを止めて貰おうという魂胆ですよ」
自分の経営している場所が襲撃されるリスクや、大勢の人質を取られては大企業と言えど従わざるを得ない。
それを狙い、ヴィクテムは此処を襲撃したのだ。
「さて、お喋りは終わりです。 そろそろフィナーレと行きましょうか」
懐から先ほどと同じナイフを取り出して2人に向ける。
それを見た2人は身構えて防御の姿勢を取る。
だが……
「ぐあっ!」
「フン、この程度か? つまらん相手だが、首を持って帰れば我が主も少しは喜んで下さるだろう」
レッド・タイガーが吹き飛ばされ、ディンが剣を突きつけると、一瞬其方に視線を奪われる。
その瞬間を狙い、ジェスターはナイフを発射した。
「しまっ――!?」
「あ――」
イエロー・パンサーも、ホワイト・バニーも反応が遅れ、ナイフの刃が襲い掛かる。
が、ナイフは桃色の光に弾かれ、ディンの足元に緑色に光る剣が刺さる。
「そこまでです!」
「それ以上は許さないよ!」
中央広場にある電灯の天辺に、その少女達は立っていた。
1人は、桃色と白のゴスロリのような服に、先がハートになっているステッキを持っており、セミロングの茶髪に、可愛らしい顔立ちの少女。
もう1人は、緑と黄緑のゴスロリ服で、手にはレイピアのような細身の剣を持っており、緑色の短い髪の毛にリボンを結んでいる、これまた可愛い顔立ちの美少女。
「漸くお出ましか」
ディンがそう呟くと、2人の少女は電灯の天辺から降りて名乗りを上げる。
「魔法少女ロッタ! 参上しました!」
「同じく魔法少女、アルラ参上!」
突然の魔法少女の加勢に、戸惑うアニマルファングの3人だが、味方が増えたと思い、体勢を立て直し構えなおす。
「さあ、我々にも意図しない味方が来てくれたが、どうする?」
「フン、臨む所だ……! 貴様らが束になっても俺に勝てないと言う事を教えて――」
イエロー・パンサーの挑発に、剣を正眼に構えるディンだが、その切っ先をジェスターが手の平で制した。
「ディン、此処は退きましょう。 今回の件で、鳳凰グループも少しは思い知ったでしょうしね。 モタモタしていると更に増援が集まってしまいます」
「……いいだろう」
ジェスターに論されたディンは、剣を鞘に収めて5人に背を向けると、黒い穴のような物を出現させる。
「だが、次に会う時は容赦はしない…覚えておけ」
「アディオス、淑女諸君」
そう捨て台詞を残し、残っていた戦闘員を含めて穴に吸い込まれて消えていった。
暫く沈黙が辺りを支配したが、悪の組織の幹部を追い返した事を周囲の人間たちが理解すると、ドッと歓声が起こった。
そんな中、イエロー・パンサーは魔法少女2人に向き直る。
「助太刀、助かったよ。 礼を言う」
「いやいや、ボク等は結局殆ど戦ってないからね。 3人が居てくれたから、潜入もしやすかったし」
「では、お互い様と言うことだな」
イエロー・パンサーは、アルラという魔法少女と会話をして、笑みを浮かべている。
こうして、鳳凰グランドパークで起こった事件は終わりを迎えた。
□□□□□
「ふむ、志岐君達は流石に警察に誘導されて帰ってしまったか」
「結局少ししか楽しめなかったな……ま、いいけどさ」
「仕方ないですよ」
そう言って駅前で志岐と糸江、神原の姿を探す神子、獣羅、麗の3人だが、どこを探しても姿は無かった。
仕方が無いので、3人も電車に乗って帰る事になったが、そこへ後ろから近づく人影が1つあった。
「どうも」
「志岐!? お前まだ居たのか!?」
その人影の正体は、志岐である。
「一般人は軽い取り調べの後、家に送られるのではないか?」
「ちょいと警察にツテがありましてね……逸れちゃいましたけど、3人とも無事でしたか?」
ヒーローとして戦い、1番危険を犯していたとも言えず、3人はこの場はごまかす事にすることにした。
「お、おう……一応無事だ」
獣羅がそう答えると、志岐はニッと笑って3人に提案する。
「……まだ帰るには少し早い時間ですし、もし良ければちょっとリトライしませんか?」
リトライ、という事の意味が分からず、3人は首をかしげる。
そんな3人を見て志岐はまた笑ってその意味を伝える。
「帰りに、俺達のお勧めスポットで少し寛ぎませんか? 糸江と神原は、帰りの駅で先に待ってますよ」
提案を聞き、3人は顔を見合わせる。
今まで、こうして戦闘を終えた後は基地に戻り報告を済ませた後、各々家に帰るだけだった。
だがこうして、楽しめなかった分を、志岐達は補おうとしてくれている。
その意図を理解して、獣羅達は快く首を縦に振った。
「じゃ、行きましょうか。 俺のバイト先のカフェがあるんですけど、美味いスイーツがありますから、楽しみにしてて下さい」
「そうか、それは楽しみだな」
「私、甘い物大好きなんですよ!」
「…………」
「あれ? 獣羅さん?」
志岐と神子と麗が話している中、獣羅は一歩後ろで少し黙っていると、それに気がついた志岐がどうかしたのかと尋ねてくる。
「ありがとな、志岐!」
獣羅のお礼と共に見せられた笑顔に、志岐は少しドキッとし、そして微笑み返した。
初めて会った時は変な奴。 助けて貰った時は驚いた。 交差点では不意に頭に浮かんだ。
学校では、命を救ってもらった。 メールをやり取りして友人になった。
そして今は――
ちょっと気になる、年下の男子。




