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アンラッキー

THE 説明回

公立才華高等学校。


地方都市にある、それなりに優秀な者から、落ちこぼれも集まるピンキリの高校で、有名でも無名でもないこの高校。


此処に志岐は通っていた。


茶色いブレザーのボタンは開けっ放しで、Yシャツも上から2つボタンをあけており、ネクタイもしていない。 昨日よりはマシだが、着崩してはいる。


志岐は現在、音楽プレイヤーから流れる音楽を、イヤフォンを通して聞いており、軽く足がリズムを取るように動いている。


目も瞑り、自分の世界に入り込んでいるのが分かる。


だが、志岐の後から近づいていく人影は、丸めた雑誌で志岐の頭をポン、と叩いた。


目を開けて耳からイヤフォンを外すと、自分の頭を叩いてきた人物を不機嫌そうに見る志岐。


「よう、七村。 おはようさん」


「そうやって人の頭叩くなって何回言わせるんだ、糸目」


「いや、糸目じゃなくて糸江だから」


志岐と気軽に話している男子生徒は、糸江(いとえ) 宗太郎(そうたろう)


サラリとした髪の毛を目元まで伸ばしており、辛うじて見える目は糸のように細く、まるで閉じているようだ。


制服は志岐と違いしっかりと着ており、女子生徒からは隠れた人気がある。


「ところで糸目」


「いや、だから糸江だって。 そっちこそ何回言わせる気だよ」


ポンポンポンと何度も丸めた雑誌で志岐の頭を叩き続ける。


だが志岐は糸江の丸めていた雑誌を掴むと、無理矢理奪って広げる。


「ん、やっぱり週刊アンラッキーか」


広げた雑誌の表表紙上部には、白い字でデカデカとアンラッキーと書かれており、様々な煽り文句が書かれている。


この無駄に不吉なタイトルの雑誌は、主にヒーローや悪の組織等の活躍を纏めた週刊雑誌だ。


因みに毎週月曜日発売。


「えーと、今週は、脳開発研究所へ苦情殺到…脳を弄り人為的にサイキッカーを作る研究に、倫理観から反対意見が出された模様」


「んー、色々黒い噂の絶えない施設だからね、脳開発研究所って」


「くだらないな。 こんな施設攻める暇があれば悪の組織の連中を少しでも叩けよ」


「それを言っちゃ元も子も無いでしょ」


苦笑する糸江に、鼻を鳴らしてページを捲る志岐。


この会話に出た、脳開発研究所とは、国で正式に雇われている超能力者(サイキッカー)の本拠地である。


日夜サイキッカーの能力の研究を行っており、現在は人工的にサイキッカーを作り出す脳手術を研究しているらしい。


ではここで、サイキッカーとは何かを説明しておこう。


脳から特別なエネルギー、PSYを発生させ、体内、体外で別のエネルギー(火の玉、雷、念動力)等に変換して能力を行使する事ができる。


PSYは誰にでも発生させられる物ではなく、特別な精神状態にある中で、脳に何らかの衝撃やショックを与えた場合に発生し、それ以降自在に発生させる事ができる。


これが超能力者、即ちサイキッカーである。


勿論、国で雇う以外にも、悪の組織に雇われていたり、裏社会で暮らすアウトローも存在する。


「別の記事は……動物戦隊アニマルファング、またも活躍、悪の組織の幹部を逮捕。 頑張るね、このヒーロー」


「アニマルファングって…確かメンバー全員が女性で構成されてる5人組ヒーローだよね」


ここで、正義のヒーローについて説明しておこう。


正義のヒーローとは、パワードスーツ等を装着して、悪の組織や犯罪者から街、人々を護る活動を行っている者の事だ。


平常時は普通の人間だが、変身装置を使いパワードスーツを身に纏うと、身体能力が大幅に強化される。


顔は、ヘルメットやバイザーで隠されているので、基本的に顔は知られていない。


「ああ。 しかしそのせいで同時刻に起こった銀行強盗の現場に間に合わず。 この件は警察が処理した模様だが、最強の一般人が絡んでいるとの噂も」


「銀行強盗って昨日のだよね。 昼間だったら七村も巻き込まれそうだったんじゃないの?」


「ま、そうだな。 学校に呼び出し喰らった後、すぐに給料受け取りに行ったからな」


「じゃあ例の最強の一般人を見たって言うの!?」


それまで普通に会話していた糸江の様子が変化する。


志岐への食いつきようが半端ではなく、糸目である目も心なしかキラキラと輝いているようにも見える。


「さ、さぁな…トイレに篭ってたから知らね」


だが志岐が否定すると、糸江はチェ、と声を出してがっくりと肩を落とした。


「なんだ……折角最強の一般人に関して情報が入ると思ったのに……」


糸江は、最強の一般人と呼ばれる存在のファンである。


最強の一般人とは、悪の組織の怪人等が暴れている時に颯爽と現れて、一撃の下倒してしまうために付けられた通り名である。


ついでに、悪の組織についても説明しておこう。


悪の組織とは、世界征服など、各々目標を掲げて人々に迷惑をかける、文字通りの組織である。


怪人、と言うのは悪の組織の科学力を結集させた、見た目が怪物だったり、ある能力を持つ存在である。


能力の高い怪人は、組織の幹部になることも。


「ネットに動画とか上げられても1日もすれば消えてるからなぁ……政府が意図的に隠してるとかいう噂もあるけど、一体どんな人なんだろう」


志岐は、できるだけ表情に出さずアンラッキーのページを捲るのだった。






□□□□□


「納得いかないわ!」


バンッと机に乗せられている雑誌に手を叩きつけながら少女、笠木(かさぎ) 美玖(みく)は怒鳴った。


机の上の雑誌は、本日発売の週刊アンラッキーである。


「何でアタシ達のこと悪く書いてるのよ! 悪の組織を潰すためなんだから銀行強盗程度、取り合ってられないわよ!」


彼女の容姿は、水色の髪の毛は、腰まで伸びており、それをピンクのリボンで結んでツインテールにしている。 服装は、現在は茶色いブレザーの制服で、白いニーソと相まって絶対領域が表現されている。


顔立ちも、少し気の強そうな釣りあがった大きめの青い目に、みずみずしい唇、しゅっとした小さめ鼻に、他のパーツも完璧で、美少女と呼ぶに相応しい。


身長は、150センチほどであろうか。


そして、お胸様は残念である。


彼女は、動物戦隊アニマルファングの1人、ブルー・ホークの中の人でもある。


「マスコミはヒーローを色んな理由を付けて叩きたがる……その方が売れるからな」


そんな彼女に答えるのは同じく動物戦隊アニマルファングのイエロー・パンサーこと、豹堂(ひょうどう) 神子(みこ)である。


肩の辺りで切り揃えられた茶髪に、神子と似た少し釣りあがったブラウンの瞳。 今はOLが着る様なスーツを着ており、ビシッときめている。


美玖とは違い、クール系の美女と言った所だろう。 体系も出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。


因みに、身長は165センチ。


「それに、銀行強盗の現場に間に合わなかったのは事実ですしね……」


しゅんとしながらも自分の非を認めたのは、ブラック・バイソンこと佐上(さがみ) 舞子(まいこ)である。


今は少し影が落とされているが、優しそうな大きな黒目に、胸の辺りまであるストレートの黒髪は、年上の魅力が混じっている。


胸は、此処にいる人物の中で最も大きい。 巨乳、爆乳である。


服装は普通の主婦が着るような普段着であり、特筆することはあまり無いだろう。


身長は、162センチである。


「でも! アタシ達はしっかり働いたし、戦ったわ! なのに……最強の一般人だか何だか知らないけど、勝手な真似して!」


「ハッ、そんな雑誌の評価しか気にできないなんて、まだまだガキだな美玖」


地団太踏む美玖だがそんな彼女を鼻で笑うと共に言葉を放つ女性が1人。


「何よ、じゃあアンタは何言われようと気にしないって言うの?」


「おう。 オレは正義のヒーローは給料の良いバイトくらいにか思ってねーからな」


自身をオレ、と呼び不敵に笑う女性は山伏(やまぶし) 獣羅(じゅら)。 ヒーローのリーダーカラーである赤のレッド・タイガーである。


凶暴さを含めた大きな赤い瞳に、真っ赤な髪の毛が背中の真ん中まで伸びているが、手入れはあまりしていないらしく、少し撥ねている。


女性らしからぬ、大手企業のマークの入った赤いジャージという服装だが、彼女の態度等と合っていてあまり気にはならない。


身長は、男性とそう変わらない171センチである。


「そんな覚悟で、ヒーローの役目が務まると思っているのか?」


そんな獣羅に食いついたのは、神子だった。


「なんだよ? 昨日だってちゃんとトドメさしただろ?」


「お前の様な覚悟では、何れ足元を掬われるぞ」


「ハッ! オレが今までに1度でも敵に不覚を取った事があったかよ?」


売り言葉に買い言葉。 一触即発の空気に、部屋全体が凍りついたかのような感覚に陥る。


しかし、そんな中で震える声が響いた。


「も、もうやめましょうよ! 次からはしっかりとすればいいんですし、喧嘩はよくないですよぉ!」


震える高い声でそう言ったのは、ホワイト・バニーこと白臼(しらうす) (れい)である。


身長148センチと小柄で、セミロングの真っ白な髪に真っ赤な大きい目は、正に兎そのものである。 綺麗、では無く、可愛らしいという表現が似合う美少女である。


喧嘩腰だった2人が恐かったのか、身体は震えているが、目にはしっかりとした意思が見える。


「……チッ、オレはもう帰るぜ」


麗に止められて興醒めしたのか、獣羅はその場から立ち去ろうとする。


「あ、ちょっと待ちなさいよ!」


美玖が止めようとするが、獣羅は無視して部屋から出て行ってしまった…。


フゥ、と小さく溜息を吐く舞子は、周りの皆を見渡して小さく呟いた。


「昔は、皆もっと仲が良かったのに……」


「どうして、こんな風になってしまったんだろうな……」


そしてそれに同意するように、神子が誰に向けてでもなく、そう言った。

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