最強の一般人
どもども、ハーメルンで執筆していましたが、移動してきました。
|電柱|・ω・`)ノ ヤァ
穏やかな日曜日、その昼下がりに、街にある大きな銀行の中は騒然としていた。
「さっさと1億円用意しろやコラァ!」
「ヒッ!? し、しかしそんな大金を用意するにはまだ時間が…!」
カウンター越しに拳銃を突きつけて銀行員を脅すのは、目と口の部分だけ開いた、顔をすっぽり覆う黒いマスクをした大柄な男。
仲間は10人ほどで、客の見張りや外、他の場所の見張りに人数を分けているため、この場には8人ほどしかない。
そして銀行に来ていた客は全員一箇所に集められており、怯え、沈黙していた。
『聞こえるか! 諸君等は完全に包囲されている! 何れヒーローやサイキッカーが駆けつける! 大人しく投降しなさい!』
外から聞こえる警察の声。
だが犯人達は諦めず、警告に反発した。
「うるせぇ! ヒーローやサイキッカーだろうが、こっちにはわんさか人質がいるんだよ! 少しでも変な動きしやがったら1人ずつブチ殺すぞ!」
「うっ、うっ……わぁーん!」
犯人の男の声に驚き、限界に達してしまったのか、小さな1人の男の子が泣き出してしまう。
母親らしき女性が必死に励まそうとするが、恐怖で1度泣いてしまった子供はそう簡単には泣きやまない。
「うるせぇぞ、ガキが!」
苛立ちを募らせる犯人の仲間が、少年に銃を向ける。
「す、すいません! すぐに静かにさせますから! どうか、どうか撃たないで下さい!」
「うぇえええっ! うわぁああーん!」
少年を庇う様に、母親は少年を抱きとめが、少年はそれでも泣き止まない。
「チッ! もういいやっちまえ! 騒ぐとどうなるかっていい見せしめになるぜ!」
「オウよ」
犯人の1人が拳銃を少年と、それを抱く母親に向ける。
誰もが目を瞑り、背け、引き金が引かれる寸前、それは起こった。
「あー、すっきりした」
がちゃりと男性用トイレのドアが開くと、そこから出てきたのは16、7歳ほどの高校生だ。
短めに切られた黒髪は、癖毛なのか所々撥ねており、少し細く、鋭くも見える瞳は飲み込まれるかのような漆黒だった。
服装は、長袖の茶色いブレザーを、袖を使って腰に巻いて、ネクタイはズボンのポケットに乱暴に入れられている。 Yシャツは腕を捲くっており非情にラフな格好だ。
それに、この緊迫した場面には似つかわしくないほど気の抜けた声。
ドアを開けた音と急に聞こえた声に、犯人や人質達は一斉に其方を見る。
「あ?」
突然その場にいる全員から視線を受けた青年は、またも気の抜けた声を出す。
「何だテメェは!?」
「オイ、さっきトイレをチェックしに行ったのはどいつだ!?」
「そういや戻ってきてないような……」
ザワザワと騒ぎ出す犯人達だが、リーダー格の男は青年に詰め寄ると拳銃をその額に向けた。
「おいクソガキ、さっきトイレを調べに行った2人はどうした?」
自分に向けて拳銃が突きつけられているというのに、青年は片目を閉じて頬をかく。
「個室入ってたら急にドア壊すからさ、思わずぶっ飛ばした」
「アァ!? 舐めてんじゃねぇぞガキが! 拳銃がおもちゃだとでも思ってんのか!?」
「んー、銃には詳しくないけどモノホンなんじゃね?」
「テメェッ!」
青年の態度により、苛立ちが限界に達したのか、犯人は躊躇無く拳銃の引き金を引く。
キャーッと女性の悲鳴が辺りに響くが、青年は銃弾の軌道を避けてすぐさま男に接近、そして殴り飛ばした。
そう、文字通り殴り飛ばされた。 その距離、実に10メートル。
殴り飛ばした場所から銀行のカウンターを越えて壁に激突した。
「おぐえぇえええっ!?」
殴られた犯人の男は、カエルが潰れたような声を出し、身を捩っている。
「な、なんだコイツ!? サイキッカーか、ヒーローか!?」
「撃っちまえ!」
それぞれが持つ銃を青年に向けて引き金を引くと、銃声と共に鉛球が発射される。
だが青年は残像の様な物を出現させて弾丸を回避、犯人達の傍まで近寄ると殴る、蹴るなどして次々に吹き飛ばしていった。
「う、動くんじゃねぇ!」
ものの10秒で7人まで気絶させるが、最後の1人は先ほど泣いていた人質の少年を抱えて、その頭に銃を向けていた。
「す、少しでも妙な真似してみろ! このガキの命は―――」
次の瞬間、男の目の前に青年が現れ、その拳を顔に叩き込む―寸前で止めていた。
だが青年の拳圧で、男の顔面目掛けて突風が起こった。 その風の強さは、男の顔を隠しているマスクが外れ、吹き飛んでいくほど。
男は何があったかを、数秒かけて理解すると、少年と銃を放してヘナヘナと座り込んで失禁した。
「ハイ、終了」
首を回してコキコキと骨を鳴らすと、青年は何事も無かったかのように銀行の出口へと向かう。
「ま、待って下さい! 貴方は一体…!?」
少年の母親が青年に向かってそう尋ねるが、青年は何も答えず、振り返る事もせずに銀行から出て行ったのであった。
しかし当然、出口を出ると包囲していた警察と鉢合わせる。
しかも警察は、銃声が聞こえたからか突入の準備を進めていたらしい。 盾や装備を持った警察が何人も居る。
勿論、青年と警察はにらめっこ。
「……」
「「「「「……」」」」」
「あでゅー」
まるで友達にでも言うように、そう言うと、青年はダッシュでその場から走り去る。
「うぉい坊主! またテメーかァ!」
しかしその青年を白髪混じりの角刈り髪の毛の、中年のスーツ姿の刑事が追いかけていく。
「げ!? 勘弁してくれよ銭型のおっちゃん! 取調べさせられたらバイトに遅れちまうよ!」
「うるせー! こっちだって好きで坊主の取調べするんじゃねぇよ! 仕事なんだからしょうがねぇだろ!」
この会話だけでこの2人が何度か会っているような仲であると言うのは、なんとなく察しがつくだろう。
「こっちだって生活かかってるバイトなんだ! 絶対逃げてやる!」
「待ちやがれェ! って速っ!?」
青年の走る速度は、道路を走る車をあっという間に追い越していくほどの速度だった。
流石にそんな青年には追いつけないと判断したのか、走るのをやめる銭型という中年の刑事。
「はぁ、はぁ……ったく、あの坊主、本当に人間か? いっつも出鱈目な事ばっかりしやがって」
「ぜ、銭型さん!」
銭型の後ろを追いかけてきたのは、最近彼の元で働く事となった新米婦人警官だ。
「おうお前か……ったくあのガキ、逃げ足の速いったらねぇや」
「は、はぁ……あの少年は一体何なんですか? 現場を調べ、人質から話を聞けば、彼が強盗犯達をねじ伏せたとか」
「まー、奴ならそれ位はするだろうな。 お前も聞いたことあるだろう?」
最強の一般人って奴の話をさ。
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「おせーぞ七村! 2分遅刻だ!」
あるファミレスの厨房に、怒声が響く。
今怒鳴ったのはコック服を着た坊主頭の強面の若い男、名を服部という。
「ちょ、違うんですよ服部さん! 昼間に銀行強盗に出くわしちまって、それで遅れたんですよ!」
「あァ? 俺を前に言い訳するたァ、随分と偉くなったもんだな、七村?」
「ス、スンマセンっした!」
それに対し、言い訳、謝罪をするのは、先ほど銀行強盗を蹴散らし、銭型という刑事と鬼ごっこをした青年、七村 志岐。
「言い訳する暇があるならさっさと仕事しろ! 馬鹿たれ!」
「うっす!」
志岐は今、服部と同じくコック服を着ており、頭には帽子を被っている。
それは即ち、この厨房で料理を作るバイトをしていると言うことに他ならない。 すぐさまフライパンにバターを落として弱火にする。
「オーダー入ります!」
志岐と料理の戦いが、今始まった。
とは言うもののそんな所を実況されても面白くもないだろうから端折るとしよう。
バイトを終えた志岐は裏の事務所で服を着替えて帰る支度をしている。 一緒に働いていた服部も一緒だ。
『では続いてのニュースです。 本日昼頃、市内の銀行で強盗事件が発生しました。 犯人は10名で1億円を要求しましたが、今噂の最強の一般人、という青年によって鎮圧された模様です』
「ほー、また出たのか、最強の一般人」
事務所に置いてある小さなテレビがニュースをやっており、その内容を聞くと服部がそう呟く。
『人質だった人の証言によりますと、最強の一般人と思われる青年は銃弾を生身で避け、犯人を殴ると文字通り10メートル以上吹き飛んで行ったそうです。 今日は最強の一般人に関して議論したいと思い、ヒーロー、サイキッカーの専門家にお越し頂きました』
テレビには美人のアナウンサーだけではなく、白髪で、天辺だけハゲた白衣の老人と、七三に髪を分け、眼鏡をかけた若い研究員のような男が映った。
『白衣の方がヒーローに変身スーツや武器を作られている御門博士です。 そして其方の見事な七三ヘアーの方が脳開発研究所所属の平井研究員です。 さて、早速ですがお2人共、この最強の一般人と呼ばれる青年に対して、どう思いますか?』
まず最初に、平井と呼ばれた研究員が写された。
『非情に興味深いですね。 証言によればヒーローのようにパワードスーツを着て、変身している訳ではないようですし、またサイキッカーのような能力を使ったとも聞きません』
『そうですね、全て格闘で鎮圧しているという証言ですね』
平井研究員の言葉に、アナウンサーが同意する。
だが、平井研究員は「しかし」と言って話を続けた。
『彼が本当に善意で人々を助けているのか、犯罪者を捕まえているのかは分かりません。 見た目で判断がつかないだけに、制御できなければ犯罪者や悪の組織よりタチが悪いでしょうね』
最後に眼鏡をクイッと上げてそう絞めた。
しかし今度は御門博士という、ヒーロー関係者が映し出された。
『本当にそうでしょうか? 平井研究員』
『ほう、御門博士は違う意見だと?』
『はい。 今我々の生活は、悪の組織がすぐそばにあります。 その悪事は様々で、時に悪戯、時に強盗、時にテロ行為、時に殺人と様々です。 しかしそれに対抗するように、私達は正義のヒーロー、サイキッカー、魔法少女を生み出しました』
御門博士は、そこで一旦息を整え、カメラ目線となって視聴者に言う。
『私は、変身装置を渡すのは私が人間的に認めた人物だけにしています。 それは、私が話し、私が信頼し、正しく使えると判断したからです。 平井研究員のように、噂等で人の心や人格を疑ってはいけません。 人と正しく接すれば、その人の正しい心が見えてくるでしょう』
「おー、さっすが正義のヒーローの相談役とも言われる博士、良い事言うぜ。 お前もそう思うだろ七村……ってもういねぇし」
志岐は何時の間にか事務所から出ており、既にその姿は無かった。
志岐はその頃、既に薄暗くなり始めた街並みをゆっくりと歩いていた。
「クハハ、正しく接すれば、正しい心が見えてくるか……本当にそんなモンならいいんだけどな」
虚空に向けてそう呟くと、軽く笑いながら志岐は帰路に着いたのだった。




