32 ザラの転落
暴力的表現があります。
度々すみません( ̄▽ ̄;)
途中の◇□ ◇□から物語は明るくなります。
約束32 ザラの転落
今まで平民から最後の一滴まで血をすするように、税金をむしりとっていた多くの強欲貴族達は、現在血肉を食い尽くされていた。
それとは対照的に坑夫や作業員達は、少々怪我はあるものの、ダンメルスの領民に誘導されて、無事に下山している。
その途中で、ゼルニケの遺体の側を通ったが、誰も悲しむ人はいなかった。
「この靴はゼルニケ宰相のものだよね。つまり、やっと俺達は解放されるのか?」
「そうだ、長かった悪政の終わりだ」
人々は歓喜し、哀悼の意を捧げる者など、誰一人としていなかった。
その頃、王宮では・・。
早告げ鳥によって、サルートとゼルニケの悲報を伝えていた。
その早告げ鳥はできが少々悪かった。
本来ならば、伝えるべき人物の前で語る早告げ鳥。
だが、王宮中を飛びながらその名の通り告げ回る。
「サルートさま、むしにくわれてしんだ。ゼルニケさま、かにさされてしんだ。二人しんだ。サルートさま、むしにくわれて・・」
これによって何が起こったのか分からないが、二人が亡くなったことは王宮中に知れ渡った。
その結果・・。
一人の下級侍女がポツリと呟く。
「では、この国の王はアスラン様なのでは?」
虐げられていた人々の希望である光の王子。
この言葉は、暗く静まり返った湖に落ちた小石の波紋のように広まる。
希望の言葉を伝えながら。
誰かが早告げ鳥を捕まえ、更に言葉を足した。
「よーく聞け。サルートとゼルニケは死んだ。アスラン様が王となるために帰ってくる!!」
早告げ鳥は王宮から王都に向けて飛ばされた。
「よくきけ! よくきけ! サルートとゼルニケしんだ。アスランさまがおうとなるためにかえってくる。よくきけ!・・・」
王都の街が一気に騒がしくなった。
「聞いたか? あの噂は本当か?」
「銀山に送られたあの人が帰ってくるって聞いたわ」
「アスラン様が皆を解放してくれたらしい」
「これから、家族で暮らせるの?」
王都は、アスランが本当に戻ってくるのか、期待が大きくなり、今か今かと騒がしくなっていった。
その反対に、王宮は誰もが息を潜めていた。
早告げ鳥の報告は、王宮内のザラも受けていた。
だが、確たる証拠はない。
ザラの苛立ちが乾いた空気に伝染すると、そこで働く者達にもひしひしと伝わる。
ザラ本人は、曖昧な情報に感情を左右されることなく過ごしたが、側で仕える侍女達は落ち着かない。
特に上級侍女達は、自分達がアスランにしてきた報いを受けるのではないかと戦々恐々としている。
「ねえ、このままアスラン様が帰ってくるのを待っているより、さっさと逃げた方がよくない?」
一人の侍女が、言い出すと、何人かの心当たりのある侍女はザラを放っておいて逃げ出す算段を始めた。
「そうよね、クビになるより、自分から辞表を出したってことなら、次も働きやすいわね」
「そうよ、ザラ様と一緒に処分って事になったら、牢屋行きよ」
そうと決まれば早かった。
それぞれが荷物をまとめ、辞表を書くと、ザラの部屋に訪れた。
「ザラ様、私達はもうこの王宮で働き続ける事ができなくなったので、本日を限りに退職します」
このグループの年若い女が、辞表をテーブルの上に置いた。
「礼儀を弁えなさい。このような態度をとって私がこのまま許すとでも思っているのか?」
ザラがそこにあったお菓子を投げつけるが、当たらない。
しかも、最初の侍女に続けとばかりに、次々に辞表を置いて侍女達が去っていった。
がらーんとする王宮。
この王宮で贅沢三昧をしていたザラが、誰にも傅かれずに一人で生活することなど出来ない。
この時ザラはまだこの王宮が、人っ子一人いないもぬけの殻状態になっているとは思ってもいないのだ。
アスランがこの王宮の主になるということは、以前酷い仕打ちをしていたものは、その仕返しをされるのでは?捕縛されるかも?それとも処刑?など、それぞれ思い当たる者たちは、恐れをなして逃げた。
そうなると、ザラが喉が乾いたと、手を打ったところで誰も来ない。
「どうして、誰も来ない?」
イライラしてもう一度手を打つ。
パンパン・・・。
虚しく響く音に違和感を覚え、漸く部屋を出て王宮を歩き回る。
「誰もいない?」
やっと気がつき、急いで調理場へ向かう。
しかし、料理長や調理人などは、ザラの命令とはいえ、アスランに酷い料理を作っていた自覚が有るだけに、いの一番に逃げ出していた。
仕方なく、ザラが今まで足を向けた事さえない下級侍女の棟に行くと、何人かの侍女が雑談をしていた。
ザラは自分がこのような目に遭っているというのに、呑気にお茶を啜ってお喋りしている彼女たちに一喝する。
「おまえたち、今どういう状況か理解しているのかえ? 離宮では人手が足りなくて困っておる。だから、おまえたちが変わりに王宮や離宮に入って仕事をするのじゃ!!」
ザラが急に吠えた為、初めは驚いて見ていたが、ザラだとわかると一人の侍女が鼻で嗤った。
「あらあら、これは旧国母様。もうすぐここは新しい王様がご到着なさいますので、お立ち退き下さいね」
そういうとゲラゲラとバカにする。
「私にそう言う態度をとれば、後でどういう事になるか、わからせてっ」
ザラが言い終わる前に、一人の侍女がザラの頬を平手打ちにした。
パーンッッ!!
打たれたザラは、下級侍女にこのような仕打ちをされたことで、固まる。
「私の従姉妹はね、あんたに服を脱がされて王都の街に放り出されたんだよ。それから病んでしまって、未だに家から一歩も出れないんだ。可哀想に・・、なんにも悪いことなんてしてないのにさ。でも、あんたは国庫の金を使いまくったじゃない。じゃあ、どんな仕打ちがお似合いなのかね?」
「だ、誰の事を言っておる。そんな娘の事など知らぬわ!」
ザラの一言で、理性でなんとか静めていた憤懣が溢れ出した。
張りつめていた何かが、切れた。
下級侍女達の中には税金が納められず、夫や息子が銀山に送られて帰って来ないものが多くいる。
しかも、手紙を出すことも禁止されているので、家族が無事なのかもわからない。
この苛立ちの中で、その諸悪の根元が目の前で、ガミガミとがなり立てているのだ。
一人の侍女が立ち上がった。
ザラは侍女に殴られ、着ていた服を剥ぎ取られ、以前自分が気に入らない侍女にしたように、王都の街のど真ん中に捨てられた。
一軒の店に入ると、叫んだ。
「私に服を寄越しなさい! 私は王妃のザラです!!」
声高に叫んだのがまずかった。
店内の者が一斉に怪訝な顔で、ザラを見る。
「ああ? 今何言った?」
「こいつザラの名前を出しやがったぜ」
「本物か?」
ザラは必死で訴える。自分の今の立場を理解していないまま。
「何度も言わすでない! 私はこの国の王妃である。わかったら服を持って来るのじゃ!!」
裸に近い格好で、胡散臭い女が自分は王妃だと言われても、本気にするものはいなかった。
気が狂っているのだろうと思っていたが、一人の男が凍り付いたように女を凝視していた。
「この女は本当にザラだ! 俺は兄弟と一緒にこいつのドレスを作るために王宮に呼ばれたが、その時にはっきりと顔を見た!! 俺は帰ってこれたが、腕のいい兄貴は未だに捕らわれているんだ。そのせいで店は潰れた・・。全ておまえのせいだ!!」
そう、この王都でザラを恨んでいない者を探す方が困難だ。
つまり、ここにいる全員が何らかの形でザラとゼルニケに恨みを持っている。
「へー、じゃあ、しっかりと自分の罪を忘れないようにしないとな!!」
その後、ザラは着る服をもらうどころか、再び殴られ、路地裏に捨てられた。
そう、厄介なもの達が蠢く路地裏に。
その後、彼女は道端のパン屑を拾う暮らしに身を落としていた。
◇□ ◇□
銀山で、全ての人々を探し終え、ダンメルス領の人々が下山する頃には、空はうっすらと明るくなっていた。
ダンメルス領の人々の活躍によって、長く働かされていた人々は解放されたが、衰弱している者が多く、体調が戻るまでダンメルスの領地で保養することになった。
旗を掲げ、坑夫や作業員、生き残った貴族を引き連れて、領地へと向かう。
「アスラン様、皆さんを助けることが出来て本当に良かったですね」
ミュゲが努めて明るく言う。
「ああ、そうだな。弟は助けられなかったけど・・」
アスランにしてみれば、最後の身内だったサルートの死は胸にくるものがあった。
お互いに最後まで分かり合うことがなかったが、アスランはいつか兄と弟として仲良く出来る日がくると信じていたのかも知れない。
「辛いのは分かる、だが、アスランには優しいお兄ちゃんである私がいるだろ?」
イフサンが、アスランの首に腕を回し、ウインクする。
「おお。そうやで。それに優しいお父ちゃんもおるで」
イフサンとアスラン込みで抱き締めるドルク。
そんな二人を蹴散らし、アスランを独り占めするのは、ミュゲだ。
「ちょっと、アスラン様には可愛くて優しい妻がいるから大丈夫です」
三人の間で、お人形のように振り回されるアスランが、この状況を打破すべく、大声で叫ぶ。
「もう、皆さん! 早く領地へ帰りましょう!!」
この言葉で、一斉に雄叫びが上がった。
「おおおおおお!!」
惨劇となった山を後にし、ダンメルスの町に近付くと、漸くほっとしたミュゲが眠気に勝てず、うとうとしだし、馬から落ちそうになる。
隣のアスランが手を伸ばし支えるが、不安定な体勢だ。
そのまま自分の馬に引っ張り、ミュゲを自分の腕に抱きかかえる。
アスランは今日の戦いの最中のミュゲと、今、自分の腕の中で、すやすや眠るミュゲを思い比べた。
今日の戦いで、やはり領主であるドルクの強さは圧倒的だった。
次いで、イフサンの頭脳的な動きも、突っ込んでいくだけの自分とは雲泥の差があったように思える。
更に、バル爺の変幻自在に出没する機動力は抜群。
そして、ミュゲ。
彼女の強さはしなやかさと広範囲を見渡す力と俊敏且つ問答無用の攻撃力。
顔色一つ変えずに、冷静に駆除していく様は圧巻だった。
強くなったとはいえ、自分はこの領地に来てそれほど多くの実戦経験がない。しかし、ミュゲは生まれてから父や兄について戦って来た。
天性の勘もさることながら、やはりずっと戦って来た経験の差が如実に現れた結果である。
前を行くドルクとイフサンに、こんなに不出来では、娘婿として、義弟として認めてもらっているのか不安になった。
もぞもぞと動き、アスランの胸に頬を擦り寄せるミュゲを見て、
「もっと、頑張ろう」
と意気込むアスランだった。
自分の評価が低かったアスランだったが、ドルク達には非常に高かった。
「領主様、今日の王子様の戦いぶり、見た? あれはえげつなかったなー」
バル爺が褒めるとイフサンも続ける。
「確かに、粗削りで力任せな所はあったが、渾身の一撃が光ってたな!」
称賛の言葉にドルクはうんうんと感慨深く頷くのみ。
それは、ミュゲの危機というより、アスランが勝手に勘違いしたのだが、魔虫に襲われそうになったミュゲをアスランが助けようと剣で薙いだ時、直径10メートルの範囲の魔虫が消滅した事があったのだ。
バル爺「愛の力やな~」
その言葉を無視して、ドルクはため息をつき、「王都に帰すの惜しいなぁ」と本音を漏らすのだった。




