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30ー① 無防備なエサ


今回のド派手な銀山の視察に、ザラは欠席である。


彼女ほどの派手好きが来ないのは、単純な理由だ。

土や草が近くにあるなど、気持ち悪くて行く気にもなれない・・、ということだった。

その代わり、息子のサルートが出席することで、ゼルニケの面目は保たれた。

王家から誰も来ないなんて、他国の王を招待するのに、あり得ない。

可愛い孫のサルートが、二つ返事で出席すると快諾したことで、ゼルニケはアスランを排除したいという気持ちが、ますます膨らんだ。


その視察だが、ゼルニケ侯爵は自分の財力と権力を見せつけるために、銀山に麓から発掘現場までの山道を、ふかふかの赤い絨毯で敷き詰めた。


そして、途中の開けた場所で場所で、まるで立食パーティーのような食事や飲み物を用意して、発掘現場までの道のりを楽しめるようにした。


しかも上に登る程、食事も豪勢になり、来客を飽きさせないように工夫していたのだ。

だが、今現在、国民は貧困で喘いでいる時で、それを用意している国民の感情は、最悪である。


税金が払えずここに連れてこられた人間には、何とも腹立たしい光景に映ったことだろう。


食事の用意をする者達は、異様に痩せ細っており、目だけギョロつかせていたが、貴族の誰一人気が付かない。


サルートと貴族の護衛をしている騎士達も、以前のような実力主義ではなく、ザラお気に入りの見目麗しい男ばかりの集団だ。

その中にはあのカールアもいる。

アスランを取り逃がしたが、必死に口八丁な言い訳をし、なんとか元に戻れたのだった。


カールアも騎士団とは名ばかりで、キラキラ装飾を見に纏った一団の中で服装ばかり気にしている。

彼は剣よりも、マントを止めるフィブラの宝石に気をとられ、剣は錆びが出ていたが気にもしていないのだった。



のんびりと昼過ぎから登り始めた貴族が、銀山の発掘作業場についたのは夕刻。

痩せ細りふらふらになって作業している人達に目もくれず、銀の黒い鉱脈である筋を岩肌に見つけては、「ここから銀が採れるのか」と騒いでいる。


その貴族達をゼルニケ侯爵は満足げに見つつ、発掘現場脇に作った夜会会場に皆を案内した。


自慢の孫のサルート王も連れだっているためご満悦だ。


「今宵はトリーガー王国の国王にもご覧頂き、更にわが孫である、サルート王が治めるこの国と、本日、軍事協力を頂けると確約頂けました」


貴族達はトリーガー王とサルートに「乾杯」といい、グラスを高々と掲げ一気にグラスの中を飲み干した。


皆が飲み干すと、貴族達が拍手で祝う。

誰もが、トリーガー国とダンメルス領が戦えば、トリーガー国の兵力で、ダンメルス領はあっという間に破れるだろうと思っていた。

そして、長くダンメルス領主が支配していた、アルガスの山々とその領地は、ここに来ている貴族に分け与えられることになるのだろうと、計算を始めていたのだ。


ここを含むダンメルスの領地に、何が潜んでいるのかを知らずに・・。



夕闇が進み、会場に設置されたポール型の照明器具に火が入ると、辺りは幻想的な雰囲気なる。



銀山を見たトリーガー王は興奮冷めやらぬ感じで、ゼルニケに話しかけた。

「この山の埋蔵量は素晴らしいな。まだまだ鉱脈が走っているのが分かったぞ」


「ええ、ですから契約を頂ければトリーガー王も、戦での領土拡大の資金に困ることなどなくなりますよ。隣国など攻め放題ですな。ですから・・」

ゼルニケがダンメルス領地のある、東の方を見やる。


「ああ。分かっている。国ではない、たかが一つの領地を攻めるのに、僅かな手勢で充分だが、貴殿やこの国の人々があまりにも臆病なようなので、大規模な兵を送るつもりだ」


この言葉に安堵したゼルニケは、トリーガー王に笑顔で酒を勧め、和んだ雰囲気になったが、サルートが口を挟みぶち壊す。

「お祖父様は臆病かも知れないが、俺は違うぞ。ダンメルスの奴らなど、俺にかかれば一捻りだ」


鼻息荒くトリーガー王を睨んだが、ゼルニケが必死に取り持つ。


「サルート陛下は、まだ王の座に就いて日が浅く、これから国内や国外について学んでもらうつもりなのです」


もう16歳だというのに?と、トリーガー王が目を細める。

「陛下、外交について、もう少し学ばれたほうが良いですな」

そう、トリーガー王に言われ、サルートの癇癪が爆発した。


給仕をしていた男性をいきなり殴り始めたのだ。

「おまえ、俺が言われたのを聞いて、今鼻で笑っただろう!!」


給仕の男性は驚き必死で笑ってなどいないと訴える。


「いいえ、そのようなことは!! 決して陛下を笑うなど、しておりません!!」


だが、怒りを他の者にぶつけなければ収まらないのが、サルートだ。

意味もなく殴り続ける。


無抵抗に殴られていた男性を庇うように、他の給仕の男が出てきて、額を地面に擦りつけるように謝る。


「この者は小心者で、陛下を笑うなどするはずもありません。それに、この者には小さい息子がおり、父の帰りを家で待っているのです。だから・・どうぞ、許してやってください」


サルートは、大の大人が平伏す姿を見て、にやにやとトリーガー王を振り返る。


「どうです、私の力は? 尻尾を巻いて逃げているアスランなど、俺が殴れば泣き叫ぶんじゃないか?」


居丈高にトリーガーを見る姿に、再びゼルニケが慌てだした。


「トリーガー王、申し訳ございません。陛下は・・少し心得違いをしているようで、ダンメルスを攻略するには、貴国の兵力がなければ成し遂げられません」

腰をこれでもかという程曲げて、トリーガー王がキレる事がないように、これ以上ないほど詫びた。


サルートのあまりにも稚拙な行動に、トリーガー王も笑うしかない。

「ゼルニケ殿も苦労するのう」

トリーガー王は好戦的とは言え、42歳という年齢もあって、世間知らずの若僧を一瞥するに終わる。


そうして、このまま何事もなく終わると思われたが、無防備なエサを求めて、山の捕食者達が虫除けの効果が切れた西の山へ、ついに動きだした。



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