26ー② 閑話(アスランのペット)
本日2回目の投稿です。
最初に投稿したストーリーの文字数が、あまりにも少なかったので、2回目を投稿しました。順番を間違えないでくださいね☺️
アスランは緊張していた。
なぜなら、今日、ダンメルス領の北壁となっている、アルガス山脈に入るからである。
今まで魔虫の脅威から守ってもらっていることも知らないで、のうのうと王都で過ごしていたことを、アスランは恥じていた。
だから、アルガスの山に入り、その実態を自分の目で確かめたいと、ドルクに懇願していたのだ。
皆は反対していたが、アスランの熱意に負け、やっと入山を許可してくれたというわけだ。
そして、現在朝早くからアルガスに向かっているところである。
ミュゲとアスランは同じ馬に乗り、お目付役としてイフサンもついてくることになり、さらにモモ(魔獣)も一緒だった。
そして、ついた場所は草原を抜けた先にある山の麓。
まるでここから先は進むな!と言われているような、禍々しい気配で満ちている。
後ろの草原と前方の山では、雰囲気が全く違う。
草原には、ポツリポツリと民家があるが、そこに住む人達は怖くないのだろうか?と思った。
「あそこに住んでいる人達は、山麓に住んでいて怖くないのかな? それにここで何をして生計を立てているの?」
不思議で仕方ないので、アスランは素直に尋ねた。
「ああ。民家には『虫』が嫌がる『千菊草』を塗っているから『虫』が襲うことはないし、あそこに住んでいるのは『虫』を狩って生計を立てている者ばかりだから、半端なく強いよ」
イフサンの説明にミュゲが一言追加した。
「向こうに見える家は、バル爺の家よ」
バル爺こと、旋棍使いの強すぎる老人をアスランが思い出す。
そして、深く頷き納得したのだった。
イフサンが馬から降りて、アスランに説明を始めた。
「ここから先はアルガス山脈の入り口で多くの危険な魔獣や『虫』が生息しています。しかし、安心してください。虫が増えすぎないように、ある程度我々が管理しているので、大群となって襲ってくることは、まあ、ないでしょう」
管理とは、生態系が破壊されないように間引くのだ。
必要異常に狩ることもないし、虫もこちらの生活圏内に出てくることもない。
今のところは、非常に安定していると教わった。
「その上で、少しでもこの領地の事を知っていただきたいし、『虫』に遭遇した場合の対処と駆除の仕方も知識として、頭に入れておいた方が良いので、今日は我々と一緒に山に入って、しっかりと覚えてくださいね」
アスランの頬に力が入り、「わかりました」と拳を握った。
ここから馬はおいていく。
山道はなくあるのは獣道で、山に入ると先ほどの草原の温度より3度下がった。奥に入るほどひんやりする。
山中は道が殆どないように思えるが、ミュゲに言わせると、正規のルートを通っているとのこと。
暫く歩くと、前を歩くミュゲの足が止まる。
「アスラン様。静かにその岩場に上って下さい」
岩場?と見上げるとそそり立つ崖がある。
必死でよじ登ろうとしているアスランを、見兼ねたモモが、アスランの服を咥えて、タンタンッと駆け上った。
ミュゲもイフサンも同じように軽く登っている。
息を殺してさっきまでいた崖下を見ていると、ザリザリと不気味な音が聞こえてきたかと思えば、真っ黒に艶光りしている体調3メートルの、大きなムカデが現れた。
初めて見たアスランは声が出そうになったが、喉まで出かかった声を何とか呑み込んだ。
ミュゲがそっと話しかける。
「ほら、大陸ムカデの背中に小さめのムカデが乗っているでしょう? あれは、あのムカデの子供です。子供がいるムカデをうっかり攻撃して子供を傷つけちゃったら、私でも勝てないの。だから、子育て中の大陸ムカデはこうやって遣り過ごします」
ミュゲに言われ良く見ると、確かにでっかい大陸ムカデの背中の上に何びきかのムカデがいる。
「でも、こちらに向かってきたら?」
不気味な虫から目を離さず、視線をそちらに向けたまま質問すると、今度はイフサンが答えた。
「子育て中の大陸ムカデは、子供が優先で、襲っては来ないですね。こちらが手を出さない限りはね」
「そうなんだ・・」と返事したものの、見ているだけでも恐ろしくて、身震いするのだった。
「ああ、それと大陸ムカデはいつも雄と雌が一緒にいるから、一匹を倒したからといって油断しないでくださいね」とミュゲ。
その前に一匹だって倒せるのか?と不安になるアスランだった。
その後色々な『虫』や『魔獣』と遭遇したが、その結果『魔獣』よりも『虫』の方が数倍恐ろしいと分かった。
遭遇した『虫』の説明をするミュゲ。
「まあまあ大人しい『虫』の部類にはいるバッタに似たカマドロケスト(魔虫で大きさ130センチ)で、雑食で、弱った生き物をギザギザの前肢で捉え、バリバリと食べるの」
「生きててもバリバリ食べるんだ・・で、大人しいんだ・・」
アスランは身震いしている。
水蟻など大陸ムカデを見た後だったので、50cmの大きさを小さく感じたが、奴らは集団で襲いかかり、水に沈めて殺すのだ。
「集団で?・・えぐい・・」
「それと、アスラン様。あの『虫』には気を付けてね。脳蚊(80センチ)は、汗の匂いで寄ってきて、ストローのような口針を、動物の頭に刺して脳みそをチュウチュウと吸うの」
ミュゲが説明したところで、アスランの顔は真っ青になった。
「チュウチュウ・・・」
恐怖で、アスランは心底疲れていた。そんなアスランを見て、山の中腹にも辿り着いていなかったが、ミュゲが心配して何度も『もう、帰ろう』とイフサンに頼んでいた。
「そうだな、帰るか」
イフサンも賛成したが、突然モモが急に走り出してしまう。
「モモ、帰って来い!!」
大声でイフサンが叫ぶも、遠くで唸り声とそれに続いて「キャンッ」とモモがやられた時の声が響いた。
その声でミュゲが走り出す。
イフサンは、一瞬どうしようか悩んだが、アスランをこの山に、一人残しておくのは得策ではないと、アスランを抱えてミュゲの後を追った。
少し、開けた先に大型犬くらいの大きさの雛鳥とそれを庇うようにして怪我をしたモモがいる。
モモを怪我させたのは、大鎌と呼ばれるカマキリの魔虫の一種。
前肢の鎌を上げるとその高さは優に250メートルを越えている。
どこを見ているのか分からないその目は、後ろから突撃したミュゲを捉え、的確にミュゲに向かって鎌を振り下ろした。
だが、ミュゲは空中でくるっと体勢を変えて、モモの前に下り剣を構える。
ミュゲがアスランに目を向けてニコッと笑うではないか。ドキッとしたが笑い掛けたのは、アスランではなく、どうやらイフサンにだったよう。
イフサンが近くにあった手頃な石を拾うと、ビュッと大鎌に向けて投げる。
大鎌が自慢の鎌でその石を弾いた瞬間、ミュゲは高く飛び上がってその大鎌(前肢)を叩き切り、さらに大鎌の胴体を横切りにした。
ドシャッと音がして、大鎌は崩れ落ち動かなくなる。
一瞬のことで、アスランにはどうミュゲが動いたのか、全く分からなかった。
大鎌は動かなくなり、モモも、雛鳥も助かったが、アスランの手は、いつまでも震えており、情けなく感じたアスランは必死で震えを隠すのだった。
助けた雛鳥・・と言っても大型犬ほどあり、もふもふな羽毛に円らな真っ黒な瞳でなんとなく雛鳥とわかった。
親からはぐれて随分時間が経過していたのか、羽毛は泥だらけで衰弱している。
イフサンが手を出そうとすると「グアアー」と嗄れたような、可愛くない鳴き声で威嚇するのだ。
「参ったな、ここに放置して帰れば、間違いなく明日には何かの餌になってしまうのに、警戒心が強くて連れて帰れないな」
困り果てるイフサン。
しかし、アスランにはこの雛鳥が、置いていかないでと訴えているように見えて、触れるところまで近付いて声を掛けた。
「怖かったんだ。独りぼっちは嫌だよね。私も独りぼっちは嫌でね。ここにはミュゲに連れて来てもらったんだ。だから、お前もおいで」
アスランが手を差し出すと、少し躊躇った雛鳥は、すんなりと手にすり寄ってきた。
「すごいな・・。すぐに手懐けちゃったよ」
その様子にイフサンは目を丸くしていたが、回りを警戒して、二人に指示をだした。
「衰弱が激しいな。このまま連れて帰ろう。それと、世話係はアスラン様だと決まったのでよろしく頼みます」
イフサンに言われ、驚くがこの地での役割を持てて、嬉しそうなアスランだった。
言葉足らずの兄に代わり、良く事態が分かっていないアスランに、ミュゲが説明する。
「その青銀色の幼体は、希少種のルチアドラゴンです。本来警戒心が強く弱っていても人に懐くことはないのですが、アスラン様に心を許したので、きっと傍を離れることはないでしょう。なので、この子のお世話係はアスラン様に決定した次第です」
「え? ドラゴンってどういう事?」
情報が一気に押し寄せて来たので、少々パニック。
ペットも飼った事がないのに、ドラゴンの世話が出来るのか?
不安であたふたしているアスランを残して、帰り支度を始める兄妹だった。




