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24 ロスベータ侍女長、王宮での最後の勤め


少し時間は(さかのぼ)る。


銀山の譲渡契約を終え、王宮を出た後、ドルクとミュゲの後をつけてくる者がいる。

その尾行はバレバレだった。

人間の気配を消さず、少し離れた追尾するくらいならすぐに感じ取れる。

そんなドルクとミュゲが、尾行を巻くのは、子供のかくれんぼよりも簡単だった。

すぐに用意していた一軒の隠れ家に入って、身を隠す。


王都の隠れ家に一旦は引っ込み、好機を待ってアスランを救出する計画だ。


まず第一にすることは、ドルクの身代わりの者を大男に変装させて、領地にやることにしたのだが、これが問題だった。

王都に210センチの大男が都合良くいるはずもなく、最終的に、大人二人の肩車作戦で決行した。


ドルクはこの時、その身代わりの男と一緒に、ミュゲも領地に帰すつもりだった・・のだが、ミュゲがこの王都から離れることを嫌がり、テコでも動かない。

「ワシの言うことを聞くんや! 絶対にアスラン殿下を無事に救出するから、ミュゲは領地で待ってなさい!!」

強めに諭すドルク。

しかし、(ミュゲ)は上を行った。

「お父さんのこと、信じてるよ。絶対にアスラン殿下を連れてきてくれるって・・。でも、王宮には安全な秘密の通路があるし、そこから救えばこっそりと救えるの。表立て正面からお父さんが入っていけば反逆罪になるでしょう? 長年、国に忠誠を誓ってきたお父さんが、犯罪人のように言われるのは、私、辛いな・・」


さらにこの作戦には、王都の隠し通路を熟知している自分の存在が役に立つはずだ、と言って涙ながらに訴える。


最後には泣き落とされ、ドルクはあえなく陥落。アスランの救出にはミュゲも参加で、しかも、ミュゲの作戦で行うことになった。


「・・わかった。ミュゲ一人で行かす訳にはいかんから、領地からあの爺を呼ぶことにするか・・・」


領地に送り返そうと思っていたミュゲを、再び送りだすことになっていたのだった。



◇□ ◇□


ドルクとミュゲがいるのは、小さな井戸の前。


ここから王宮内に侵入しようとしているのだが、井戸が小さくて、大きなドルクは入れない。


そこで、ミュゲと数人のドルクの兵士が行く事となった。

「ミュゲはここで待っとくか? 兵士だけでアスラン殿下を探してもらって・・」

「だめよ。この隠し通路は、迷路のように難しいの。私が行かないととみんな迷子になるわ!!」


ミュゲはそう言うと、何の躊躇もなく井戸を下りて行った。


娘が心配だが、ここで待っているしか道はない。

大きな体が恨めしいと呟くドルクに、小さな老人がポンポンとドルクの足を叩き(背中は届かない)、「ミュゲ様の事は気にせんでいい。大丈夫じゃ」といい、ミュゲの入った井戸に消えていった。


そう言われても安心できるはずもなく、暫く巨体をゆらして、そわそわしながら井戸を覗き込むのだった。


ドルクと別れたミュゲは、細い通路をひた走る。

その後ろから「ミュゲ様、もちょっと待ってくれんか?」と老人がハーハーと息を切らし必死に付いてきていた。


「バル爺、頑張って! 急がないと間に合わない」

バル爺と呼ばれた老人は、145cmの小柄で名前をバルトロメーウスという。

走り疲れたバル爺が、持っていた旋棍(せんこん)をミュゲに投げる。


旋棍とは短い持ち手が付いた45cmの棒状の武器だが、バル爺の背丈に合わせ30cmと短めだ。

「持っとったら、走られへん」

ミュゲに武器を渡して身軽になったバルトロメーウスは、ミュゲに追い付いた。

二人は狭く暗い通路をひた走る。




その頃、ロスベータ侍女長に送り出されたアスランも、振り返ることなく隠し通路を走っていた。

以前にミュゲと一緒に、一度だけ通った通路でだったが、存外覚えているものだ。

生まれてから、こんなにも自由に一人で走ったことなどなかった。

それがようやくできたのが、こんな事で、だとは・・。

しかも、一緒に戦ってくれていたロスベータ侍女長を失ってまで、自分は生き残って良いのか?


そう思うと、足が何度も止まりそうになった。

だが、侍女長の言葉が背中を押した。


しかし、ここで追っ手の足跡と声がすぐ後ろに聞こえてきた。

「あそこだ! 捕まえろ!!」

必死で走るが、病み上がりでしかも、食事も食べていないアスランに、走る体力は残されていなかった。


敵の手がアスランに伸ばされる・・。


しかし、敵がアスランを捕まえることは出来なかった。




「ミュゲ様!!」とバル爺が飛んだ瞬間ミュゲが、旋棍を投げる。

武器を受け取ったバル爺は、狭い通路の天井すれすれを飛んでアスランの上を飛び越し、追っ手の兵士を旋棍で殴りながら、兵士の頭をピョンピョンと飛んでいく。


バル爺の動きは側面の壁、天井を使い、まるで無重力状態で兵士を倒していく。

そして、ものの数分で兵士は全滅。


バル爺の後ろでは、「アスラン殿下!!」とミュゲは抱きしめて再会を喜んでいたが、アスランはそれどころではない。


「ミュゲ! 沢山の追っ手がこちらに向かって来ているんだ! 早くここから逃げないと!!」


「大丈夫です。バル爺がいるので何人来たって平気です」

その言葉に驚き、恐る恐るアスランが振り返ると、バル爺にのされた兵士の山が・・。


兵士達は『ううう・・』と呻いていることから、動けないだけで命を取ってはいないようだ。


バル爺は小さな体をピンと伸ばして、アスランに手を差し出す。

「王子様。もう大丈夫やで。ほな、

いのけ(かえろう)


ここで、ミュゲが周りを見て「あれ?ロスベータ侍女長は?」と尋ねた。


その問いにアスランが俯き、肩を震わせ、自分を逃すために侍女長が犠牲になったと話し出す。


◇□ ◇□


その頃、侍女長は最後までアスランを逃がすための時間稼ぎをしていた。


アスランを逃がした後、部屋に佇んで目を閉じた。

出来ることなら、アスランが国王になったとき、すぐ傍でお世話をしたかった・・。

が、もうそれは叶わぬ夢のようだ。


バンッと開けられた扉と共に、裏切り者のカールアが入ってきた。

「もう、お別れはすんだのかい?」

半笑いの顔がすぐに真顔になる。

そこにいるはずのアスランがいなかったからだ。


「王子をどこにやった?!」

ふわふわ巻き毛が、怒りと恐怖で逆立つ。


ザラに気に入られているとしても、王子を逃したとあっては、ザラに何をされるか分からない。

必死にロスベータの口を割らせようとする。

しかし、怒声を浴びようが、覚悟を決めたロスベータ侍女長は動かず、カールアに冷たい視線を向けるのみ。


「隠し通路だな? おい、この部屋中の壁を叩き壊せ!!」

側の兵士に言うと、自分もガンガンと剣で叩き壊していく。


一人の兵士が「ここだけ壁の音が違うようです」と言うとカールアはその壁をまるで気が触れたように蹴りまくった。

すると、そこから人一人が下れる階段が現れた。


「ここから、逃がしたのか? よし、行くぞ。それからおまえも来るんだ」ロスベータ侍女長の腕を掴み階段を下り始める。


階段を下りた先に二手に分かれた通路。

カールアはロスベータの喉に剣を突きつけ脅す。

「王子はどっちに行ったのだ? 言わないと殺すぞ」


「ひっ!! 言います!言います! だから殺さないで下さい!!」

怯えて懇願するロスベータ侍女長。


「ふん、最初から大人しく王子を差し出せばいいものを。っで、どっちなんだ?」

「み、右です。右に行けば外につながる出口があるんです」


カールアは少し考えて、一人の兵士を左の通路に行かせた。

「まあ、この期に及んで嘘をつくとは思えんが、念のために少し向こうに行かせよう」


そこからロスベータ侍女長は、早歩きで率先して通路を先導していった。

分かれ道の都度、カールアは兵士を一人反対方向に走らせる。


そして、行き着いた先は・・。

少し広くなった部屋だった。

しかも、行き止まり。


「どういうことだ?」

訝しげな顔をしたカールアだったが、その部屋の設えに、にやりと笑う。

その行き止まりの部屋の壁は、赤と金箔で不規則な模様を描き、さらに、、真ん中に台座とチェストが置かれている部屋だった。

「なるほど、ロスベータ侍女長。ここに例の王族の宝剣が隠されているのだな?」

カールアの質問に、何も言わず微笑むロスベータ侍女長。


その無言の微笑みを勘違いしたカールアは、他の兵士に目もくれずチェストの引き出しを開けては中を探る。

「ここに、有るのか? いや、この引き出しに?」

引っ張り出しては、次々に中の物を出していくが、中にはゴミ同然の書類や品物ばかり。


「おい!! 宝剣はどこに有るんだ?!!」

カールアの人懐っこい顔はもうどこにもない。そこには、欲にまみれたおぞましい顔である。


「ここにそんなものはありませんよ。大事なアスラン殿下に、いつかお渡ししなければならない大切な物を、あなたに渡すわけがございませんでしょう?」

心底呆れたようにロスベータ侍女長が言うと、やっとカールアの弱いおつむでも、時間稼ぎにここまで連れてこられたと分かったようだ。


「騙したな!!」

「騙したのは、あなたでしょう? 裏切り者に、そのような言葉を言われる覚えはありませんね」


「くそっ!! おまえの大事な王子をすぐに殺してやる!! おまえ達、最初の分かれ道を行け、きっとその道の先に王子がいる!!」

カールアの命令に、残った全ての兵士が部屋から出ていく。


そして、覚悟を決めたロスベータ侍女長に向かって、にたりと嗤い剣を高くあげた。


「侍女長の後すぐに、王子も同じように後を追わせてやるからな」

そう言われても、身動ぎもせずにカールアを凝視するロスベータ侍女長。


しかも、そのような脅し文句に慌てることもない。

なぜなら、ロスベータ侍女長の手首のブレスレットが、吉報を知らせるように、青色に光っているからだ。


「きっと、王子は助け出されていますよ。そうなったらあなたは失態をザラに責められて、どうなるのでしょうね? 彼女は失敗を犯したものを許さないでしょうし。それをこの目で見れないのが残念ですわ。では、あなたがくるのをあの世で待っているわ」

クスクスと笑うロスベータ侍女長。


命乞いもしないどころか、自分をコケにして、クスクスと嗤う彼女に腹を立てたカールアは、振り上げた剣を侍女長に向かって下ろした。


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