20ー② 別れ
いつも、読んでいただきありがとうございます。
これから先、しばらく悲しいストーリーが続きます。苦手な方は、物語が好転するまで 少しの間スルーで、お願いします。
物語が明るく前向きになりましたら、前書きでお知らせしますね。
ザラはこの状況がよほど嬉しいらしい。
機嫌の良さを隠そうともせずに、話し出す。
「まあまあ、何て事かしら? 我が愛しい夫と可愛い息子が、このように病に倒れてしまうなんてのう!」
大袈裟に驚いた風にザラが二人が寝ているベッドに近付く。
そして、口許を扇で隠すことなく、どぎつい真っ赤な口に笑みを浮かべた。
言葉と行動が伴っていない。
さらに、その笑みのまま、意識のないアスランの枕元に近寄る。
「まあ、可哀想に! まだ若くてこれから何でも出きるという時に、もう目覚める事もないなんて・・・。お可哀想だこと」
ドルクがダンメルスに伝わる万能薬の魔法水をアスランに飲ませたことを、ザラは知らない。
だから、パルスランの一番近くにいて毒の煙を吸いこんだアスランが、目覚めることはないと思い込んでいるのだろう。
だから、ザラはこれ以上飾りが付けるところがないくらいに着飾っていて、お祝いとばかりに、まるでカーニバルのような浮かれた服装で来たようだ。
心配で見舞いに来た、という格好では絶対にない。
「ザラ様、流石にこのような時に不謹慎ではないですか?」
あまりにも心無い言動をするザラを、チャーリーが諫める。
「あら、あなたこそ不敬よ。私は王妃となったのだから、故にザラ殿下と呼びなさい」
「何を・・・?」
言い掛けたチャーリーが目を見開いた。
笑うザラの手に国王の『印璽』が光っていたのだ。
国王を他の部屋に避難させている間に、堂々と印璽を手にしたのだ。
しかも、それを使う国王は・・。
チャーリーが苦々しく話す。
「サルートが14歳になるのを待っていたのか・・」
そう、王が不在または病に倒れた時にその代行として王太子が決議を決める。
しかし、今その王太子もいない今、この国のトップは臨時とは言えサルートだ。
王子が14歳未満の時は、印璽を使って権限を行使する場合、宰相の判断を仰ぐ必要がある。
しかし、14歳になったサルートは宰相の判断もなく、勝手に物事を決めることが出きるのだ。
そして、その『印璽』を使い、ザラは側妃から王妃に格上げされたのだ。
やられた・・・!!
三人が呆然としている中、抑揚の激しい明るい声がした。
「王妃様、どうぞ」
ザラに恭しく扇子を跪いて手渡しする騎士。
それは、アスランが慕っていた青の騎士団の副団長のカールアの声だった。
「カールア!! 今回の事はあなたが仕組んだのね」
カールアはさも面倒臭い、と言った目で叫ぶミュゲを見る。
「はぁ? 俺が何をしたと?」
とぼけられては、何も言えないミュゲ。証拠は一つもない。
「それが、あなたの本性なのね」
ミュゲが悔しくて、歯が折れる程噛み締める。
その様子がさらに、二人を調子づかせてしまった。
「今まで気が付かないなんて、やはり山猿は山猿だったな」
そう言うと満足げに、二人は部屋を去っていった。
国王が倒れた日から、ザラの動きは激しかった。
王の自室を自分の部屋にし、王太子の部屋にサルートを入れる。
そして、王の『印璽』を使い自分の立場を強固なものにし始めた。
王太子をアスランからサルートに変更し、宰相のチャーリーを更迭。
すぐに、自分の父であるゾルタン・ゼルニケを宰相とした。
この動きはたった1週間の出来事だ。
この王宮の中で意識のないパルスランとアスランを守れるのは、ダンメルス親子だけになった。
なぜなら、青の騎士団は解体され散り散りに。
更にダンメルス領地から派遣されていた護衛の者達も領地に戻された。
ロスベータ侍女長は軟禁状態。
日に日に勢力図が書き変わる中、二人は懸命に国王と王子を守る。
もう、王宮で二人を守れるものはダンメルス親子だけになってしまったのではないだろうか?
二人は暗殺に備えて、夜は交代で監視した。
10日経った夜、ミュゲは父に見張りを任せてうつらうつらと仮眠を取っていた。
突然、父の大声が聞こえ、飛び起きた。
「パルスラン!! 起きたのか? 俺が分かるか? おい!!」
ミュゲも急ぎパルスランの近くへ行き、顔を見た。
パルスランはまだ視線が定まらない様子である。
だが、自分の横でアスランが寝かされて居るのを見て、全てを把握する。
「・・・二人が守ってくれて居たのか・・・。世話をかけてすまない」
消えそうに力のない声だ。
「何言ってるんだ。友を助けるんは当たり前のことや。それに、ごっつい利子を付けて返してもらうから、気にせんでええ」
ドルクが友人を元気付けようと、冗談を言いながらウィンクする。
「・・・そうだな・・。ミュゲもありがとう」
「いえ・・それよりもお二人には早く元気になっていただきたいです」
目の下の隈が黒いミュゲだが、元気を装う。
「ドルクの瓢箪を出してくれ」
『大地の源泉』と呼ばれる万能薬が溜まる瓢箪には、一滴の薬の水も溜まっていない。
ドルクは辛そうに答えた。
「陛下、・・瓢箪の中は空っぽです」
パルスランの頼みなら、応えたい。
だが、ないものは出せない。
ドルクは素直にパルスランに瓢箪を見せた。
パルスランは細くなった腕を伸ばし、ドルクの瓢箪を両手で包むように持つ。
「ドルク、アスランを頼む」
その一言を言った直後、パルスランの腕はパタリと力なく落ちた。
そして、パルスランの目から光りが消える。
その途端瓢箪の中に、水が僅かだが入っているようで、チャポンと音がした。
ドルクは瞬時に全てを悟り、唇を噛み締めながら親友の目蓋をそっと下ろし、瞳を閉じる。
その間ミュゲは何が起きたのか、分かっているが理解したくなくて、呆然と父がしている行為を見ているだけだった。
ドルクは親友が命と引き換えに作った大切な大切なその水を、アスランの口に、一滴も無駄にしないように慎重に注ぐ。
今まで全く動かなかったアスランの喉が上下し、水を飲んでいく。
少しずつ・・・少しずつ・・
「そうだ、アスラン殿下飲んでくれ。パルスランが命をかけて繋げた命を消さんとってくれ・・どうか・・頼む・・」
ドルクは涙を流しながら、祈るようにアスランの瞳が開いてくれと願う。
パルスランが命をかけて生成した『大地の源泉』でアスランの目蓋がピクリと動きゆっくりと開かれる。
長い間戻らなかったアスランの意識が漸く戻り、暫くはぼんやりしていた。
はっきりと目覚めて一番最初に見たものは、隣で眠っている父、パルスランの血の気のない真っ白な顔と、涙を流すドルクだった。
「え? ちち・・うえ・・?」
弱った体を必死動かし、パルスランのベッドに行こうとするが、筋肉の落ちた体では、立ち上がることさえ出来ない。
「どうして?・・・なぜこんな事に?」
アスランにしてみれば、父が倒れたと知らせを受けて、駆け付けてみれば、自分も意識を失い、次に目覚めると既に父がなくなっているのだ。
ドルクが動けないアスランを抱いて、パルスランのベッドの近くに座らせる。
「何となく覚えている。・・父上が私に『生きてくれ』と何度も声をかけてくれたんだ。私を生かす事で、父上は母上の元に行かれることを望んだように思う」
まだ温かい父の手を何度も擦るアスランに、ドルクもミュゲも静かに寄り添った。
大粒の涙を流すアスラン。
彼は誰一人として肉親と呼べる存在が居なくなったのだ。
この孤独な冷たい城で、心の拠り所だった父。
失った悲しみの大きさは、計り知れない。
その大きさが分かるからこそ、ミュゲは掛ける言葉が見つからない。
アスランの悲しみを少しでも減らせるならば、自分に痛みとしてでも受けたい。
だが、そんな魔法も装置もありはしない。
アスランが自分の膝を拳で叩く。
もう一度叩く。
叩く。
「アスラン様・・、自分を責めないで下さい。お願いです・・。お願い・・・ううううわ~ん」
ミュゲも一緒になって泣き出す。
アスランが声を圧し殺して泣いているのに対し、ミュゲは声をあげて泣きじゃくっている。
顔はぐしゃぐしゃ。涙も鼻水も一緒くた。
「・・・泣かないで・・ミュゲ。ミュゲの目が腫れてしまうよ」
自分の悲しみよりも、ミュゲの目を心配するアスランにさらにミュゲの悲しみが倍増する。
ーーーなんで、こんなにも優しいアスランがいっつも悲しい思いをするの。神様がいてるなら、助けてよう・・。 なんで、こんな酷い事するのよ・・。
泣きながら神様へ、恨み辛みを心の中で言い倒すミュゲ。
これ以上、アスランを心配させてはならないと必死で涙を止めようとするが、しゃくりあげる事は止まらない。
ーーーお願い、神様。アスランの傍にいて、ずーっと守らせて欲しい。
これだけは叶えて欲しい。お願いします・・。
しかし、アスランの傍にいたいという、ミュゲのささやかな願いまでも悉く砕け散る。




