19ー② 王宮の一日
本日2回目の投稿です。
ザラが主催のお茶会から、半年が経っていた。
ミュゲの王太子妃教育は、ダンスや作法など体を動かすようなものは、ほぼ習得した。
だが、座学系が難関である。大嫌いな歴史をまとめなさいとロスベータ侍女長に言われ、大量の本を王宮図書館から借りて来たが、半分も読めずに返却しに再び図書館に来たところだ。
司書さんは、ミュゲに、一番読みやすく分かりやすい本を沢山探してくれたのに、期間内に読めなかったことが後ろめたくて、隠れるように返却し、再び気配を消して図書館から出た。
早く部屋に戻れば、ロスベータ侍女長の地獄の講義が始まる。そう思うと、自然に寄り道コースを選んでしまった。
しかし、選んだ道が悪かった。
白の騎士団の訓練所の横を通る道だった。
青の騎士団はアスランの近衛騎士団。
そして、白の騎士団は、サルートの近衛騎士団である。
青の騎士団は、実力主義だが、白の騎士団は性格の悪さと顔の良さで選んだのではないだろうかと思うほど、皆整った容姿と歪んだ根性をしていた。
その守るべき対象が違うので、騎士団員たちもお互いに溝があるが、それも仕方ない。
そもそも、彼らのトップのサルートが王太子を蔑ろにしようと策略を謀っているのだから、白の騎士団員にとって、ミュゲも攻撃対象にロックオンされていた。
そんな場所を、のんきに彷徨いてしまったミュゲが迂闊であった。
「しまった!」と思ったのもつかの間、すぐに白の騎士団員に見つかって、訓練所のフェンス越しに声をかけられた。
「おやおや、これはお飾り王太子様のご婚約者様じゃないですか?」
無視しようかと思ったが、ここまでしっかり見られては挨拶をしないと行けないのか?と、一応返事をする。
「皆様、訓練ご苦労様です。お怪我に注意して励んでくださいませ。では、私は急ぎますので」
会釈してさっさと離れようとしたが、ミュゲの足元に、剣が投げられた。
「まあまあ、婚約者様のお噂は聞いてますよ。少々剣の覚えがあるそうですね? 私達と剣を交えませんか?」
借りにも王太子妃のミュゲに、なんと失礼な態度をとるのだろうか?と流石に怒りが顔に出てしまったが、相手の誘いに乗るなど、阿呆のすることだ。
ミュゲは、微笑みを浮かべて、丁寧に断った。
「皆様の大切な訓練時間を私に割いていただくなど、勿体ないですわ。私にお気遣いなく、どうぞ、訓練をお続け下さいませ」
これで、立ち去れば今日もロスベータ侍女長の講義は長いが、いつもと変わらぬ日常を過ごせるはずだった。
だが、団員の一言が悪かった。
「ああ、そうですよね。では今度アスラン王太子様にでも、お相手頂こうかな?」
「ああ、それがいい。でも、あのお坊っちゃま殿下に剣が持てるのか?」
等々の悪口が続く。
ミュゲの足が止まる。
即座に回れ右して、売られた喧嘩を買ってしまった。
「アスラン殿下は大変お忙しいので、私があなた達のお相手をしましょう」そう、にこやかに微笑んだ。
「おお、やっとやる気になってくれました?」と団員はにやにや。
だが、彼らは自分達が誰を挑発してしまったのか、まだ分かっていなかった。
ミュゲは、投げられた剣を拾うと、自分の手にある剣が、しっかりと刃が潰してあることを確認。
(思う存分ぶっ叩けるわ)
「で、誰からでもどうぞ。面倒ならば、全員一緒にかかって来てもいいですよ?」
これは嫌味で言った訳ではない。
本当に素直に思ったことを言ってしまったのだが、これに白の騎士団全員の心に火を着けた。
「ほう・・。せっかく少しいたぶる程度にしてやろうと思っていたのに、徹底的に叩きのめして欲しいようだな」
「そうだ。サルート殿下からも許可をもらってますし、思い知らせてやりましょう」
ミュゲが目を見開いて彼らを見た。
それを、恐怖で固まったと勘違いし、「今更、やめることなんてできないよ、お嬢ちゃん」と笑う団員。
「勘違いさせてしまってすみません。これほど実力差があるのに、気がつかないあなた達に驚いてしまったんです。では、始めましょうか?」
ミュゲは、剣を構える。
「チッ。生意気な口が二度と利けないようにしてきます。団長見ててください」
一番手で出てきたのは、長身で髪の毛も長い。目尻が切れ長のイケメンだった。
(顔は怪我をさせないように、腹に一発かしら?)
頭で考えた通り、長髪イケメンが斬りかかって来たところ、ミュゲはさらりと躱し、がら空きの腹部に軽く様子見のパンチ。
「うっっ」
崩れ落ちる長髪イケメン。
それを見て、「おまえ? 今何をした?」と団員達。
速くて見えなかったのか、いまいちピンときてない様子。
「では、次の方。いらっしゃい」
今度は短髪イケメン。
「俺は手加減なんかしないから、泣いてあやまッ」
ぐふぉっっ・・。
短髪は回し蹴りの一蹴りで沈んだ。
「うっ・・・」
「ぬううう・・・」
「カハッ・・」
団長が一人残って、他の全員は呻いている。
「あなたも、地面とキスさせてあげましょうか?」
ミュゲはまだまだ元気で物足りない。
「・・いや、俺達は体の調子が悪すぎた。本来ならばおまえ一人、赤子の手を捻るようなものだったはず。今度はこうはいかないぞ」
団長自ら、尻尾を巻いて逃げて行ってしまった。
「・・時間潰しにもならなかったな」
ミュゲはロスベータ侍女長が待つ部屋に、足取り重く向かう。
たかが人間。スピードも力も『魔虫』に比べたら、弱すぎた。
いや、ダンメルス領の5歳の子供でさえ、もう少し戦えるわ。これで騎士団って大丈夫なのかしら?と首を傾げるミュゲだった。
ミュゲが王太子妃教育でふらふらになっていると、アスランはすぐに癒しの散歩に誘ってくれる。
「今日も良く頑張っていたね」
アスランに褒められると、叱られてへこんでいた気持ちが和らいだ。
「今日の授業では、レイカールト王国の歴史を学びました。でも、まだ第一革命時代しか覚えられなくて・・」
言葉少なに俯くミュゲに、アスランが少し考えて励ます。
「そんなに、無理せんええで・・このイントネーションであってる?」
アスランがミュゲの父の方言を真似て話すと、ミュゲに少し笑顔が戻る。
「はい、あってます・・」
アスランは、ミュゲに返事にまだ満足してないようで、
「私と二人っきりの時には無理しなくていいからね。私は元気なミュゲがみたいのだから・・」とミュゲの頭をそっと撫でた。
「じゃあ・・今度勉強を教えて下さいますか? 特に歴史を」
そう言い、甘えるように上目使いをして、両手を組んで小首を傾げたミュゲ。
「うっっっ!!」
アスランから珍しい声が漏れて、ミュゲは焦る。
「どうか、されましたか!?」
ミュゲに顔を覗き込まれ、慌てて顔を逸らすアスラン。
コホンと咳払いを一つしたところで、顔をミュゲに戻した。
「では、今度一緒に勉強しよう。歴史は大まかな流れを掴むと楽に覚えられるよ」
『一緒に』の言葉に嬉しそうなミュゲ。
こうして、アスランとミュゲは仲良く離宮で過ごしていたのだった。




