17 婿ができた!
パルスラン・レイカールト国王は、久し振りに会った友人たちと、和やかな会話を楽しんでいた。
「それにしても、よく侍女服を見て娘を送り出してくれたな。本当に恩に着るよ」
笑うパルスランを見て、ドルク・ダンメルスが鼻息を荒くした。
「届いた荷物をみて、本当に驚きました!! チャーリーが私に喧嘩を売って来たのかと思いましたよ。でも、ミュゲが友達が困ってるのなら、絶対に行かないといけないと言うもんですから・・」
「それに付いては本当に申し訳なく思っている。私の部下にもゾルタン・ゼルニケの手が廻っているとは・・・」
チャーリーが苦しげに唇を噛む。
まさか、自分の仕事場にまで、ザラの手下に侵入されているとは、考えてもいなかっただけに、自然と顔が暗くなる。
「まあ、私とミュゲが王都に滞在するから、その間になんとかしないといけませんね」
かっかっかと豪快に高らかに笑うドルクにその場の暗い空気が霧散する。
「そのミュゲだが、彼女にその気があるなら、アスランの婚約者になって、そしていずれはこの国の王妃にと思っているが・・・。どうだろう?」
パルスラン国王に打診されて、ドルクは困ったように笑い、それでも場の雰囲気を壊さぬよう、言葉を返した。
「えーと・・それは・・? 一回ミュゲに聞いてみて・・。ほんで、あかんかったらごめんやで」
呑気すぎる話っぷりに、二人はズルッと力が抜けて笑いだした。
「ドルクはいつまでたってもドルクだな」
パルスランが言うと再び笑い合った。
チャーリーとドルクは国王の部屋を出ると、二人の口角は途端に下がる。
そして、声を落とした。
「チャーリー、何があってん? 何故あんなにパルスランは痩せてるんだ?」
「分からないんだ。病気でもないのにどんどん痩せて体力も落ちている。今日はお前が来てくれたお陰で久し振りに笑ってらした」
チャーリーが幾度も医師に検査をさせても、陛下は日に日に痩せていく。
毒を疑ったが何もでない。
この件でザラを疑うが何も見つからない。
「でも、本当にドレスを送ったつもりだったのだ。侍女服に変えられていたなんて・・。もう誰も信用できないな。ロスベータ・ヘイツ侍女長だけが頼りだったのに、怪我を負って戦線離脱だ」
チャーリーはお手上げ状態。
そんなところに級友が、娘と来てくれたが、この王宮が既に、ゼルニケ親子の支配によって成り立っているのだ。
「わし、アスラン王子はええ男やって思ってる。ミュゲを庇って魔獣にも怯まない男で、婿にはもったいない。だけどな・・、ここで結婚したらミュゲは命がいくつ有っても足らんやろう? こんなところで暮らしてたら、ミュゲの笑顔も消えるはず。それが分かっているから辛いところや」
悪の巣窟状態の王宮だ。恐ろしい魔女のザラが手ぐすねひいて待っているところに、可愛い娘を嫁に出したくはない。打診された婚約を、なんとか回避したいのが親心である。
だが、あのアスランの心意気に感動し、心を動かされていたのも事実だ。
ここで、もう一人アスランに心を鷲掴みにされた者がいた。
当のミュゲである。
ダンメルス家系の血を濃く受け継ぐミュゲは、領内でも一際強かった。
だから、ミュゲは父や兄以外で、自分を守ろうと敵から立ちはだかってくれる者など見たことがない。
それが、ペットのモモだったのだが、魔獣からミュゲを守ろうと立ちはだかったアスランの背中を見て、胸が苦しくなった。
美しい紺色の髪を靡かせ、勇敢に一歩も退かない王太子。
心臓がずっと煩いのだ。
胸が痛い。
(いたたたた・・なんで胸が痛いの? もしかして病気?)
そして、真っ正面からアスランを見ることが出来ない。
(今、アスランの顔を見たら目がつぶれそうだわ! もしかして目に異物が入ったの?)
二人でアスランの部屋に戻ってきたが、今までどうしていたか分からない程、挙動不審な行動を繰り返している。
アスランはその行動を別の意味に考えていた。
「今まで私に内緒にしていたので、侍女としてここにいるべきか、令嬢として私に接するべきか悩んでいるんだね?」
「そうです・・?」
全然違ったが、なぜか肯定してしまう。
「さすがに、もう侍女としては無理だよ。君は辺境伯のご令嬢なのだから」
「もう、今までみたいにアスラン殿下の傍に居てはだめなんですか?」
傍にいると自分を見失いそうで嫌だが、でもアスランを近くで見ていたい気持ちは抑えられない。
その気持ちの変化はアスランにもあった。
なぜ辺境伯の令嬢が侍女として、ここにいることになったのか詳細はミュゲに聞いた。
聞いた今だからこそ、余計に危険な王宮に令嬢として、ミュゲはここにいてはいけないのだと、アスランは自分に言い聞かせた。
「令嬢である君がこの王宮に留まるとなると、私の婚約者候補の筆頭だということになるんだ」
「そうなの?」と目を輝かせるミュゲに、アスランは噛み砕いて現状を説明する。
「さっきの会場でミュゲも見ただろう? 何も持たない名ばかりの王太子を、全ての令嬢は幽霊のように扱っていた。もし、ザラと通じていない者が婚約者になれば、待っているのは『死』だ」
どう、理解できたかい?
だから、君はもう父君と領地へ帰るんだ。
ミュゲに優しく悲しげに微笑むアスラン。
しかし、ミュゲの眉間のシワが深くなり、口が蛸のように突き出てくる。
また、アスランに諦めの微笑みをさせてしまった自分に腹が立った。
「それは、アスラン殿下の気持ちと違うのでしょうか? 私はここに残りたい。いや、残る!! アスラン殿下は? どう思ってますか?」
ミュゲはここで必死に訴える。
領地に追い返そうとしているのは、ミュゲの安全を考えてくれての事だと理解していたが、自分が離れてもアスランは平気なのかと思うと、それがショックで堪らないのだ。
「私は・・・君に・・・いて欲しくは・・」
残ってほしいがそう言えば、悲しい結末が訪れる。アスランは自分の気持ちを押し殺し、ミュゲに帰るようにいうつもりだった。
だが、最後をいう前にミュゲが遮った。
「はい!! 結論出ましたわ。そんなに悩むってことは自分の気持ちが揺れてるってことでしょう? つまり気持ちも半々。だから、私もここに居ていいってことも半々です」
屁理屈も捏ねまくったら、理屈っぽくて押し通せる。
ミュゲは見事に乗り切った。
屁理屈で押されたアスランが、首を傾げ無言なのをいいことに、話をすすめたのだ。
「よし、お父さん。私ここに居るわ」
いつのまにか部屋にいたドルクに告げる。
「ふーーー・・・」
長いため息の後にドルクがアスランに尋ねた。
「先ほど、陛下にアスラン殿下とミュゲの婚約を打診されたのですが、殿下はどのようにお考えでしょうか?」
ミュゲがハッとし、期待の瞳をアスランに向ける。
「私は・・・」
アスランの立場ではミュゲが欲しくても言えないだろう。
心優しければ優しい程に・・・。
「殿下、男は好きになった女性がいるなら、口に出していうべきだと思います。そして守るという気概を見せて下さい」
ミュゲはどうあっても、アスランを残してはこの王宮からでないだろう。
ならば、舅となるドルクも、アスランの本気を見たいのだ。
「私は、ミュゲが好きだ。ずっとここにいて欲しい。だが、今の私には力がなく、先ほどはミュゲを守れず思い知らされた。だから、お願いします。私に力を貸して下さい」
深く頭を下げるアスラン。
その王子の横に付き、一緒に頭を下げるミュゲ。
守りたい者のために、素直に頭を下げるアスランの男粋を感じた。
ミュゲの想いもわかり、ドルクは厳しい状況に、自分の身を置く決意を固めた。
「もちろんです。可愛い婿の為、存分に力を貸しますよ。なので、お願いがございます。殿下」
「はい、なんでしょう?」
「もう義理息子と義父の関係です。なので、たまに出る、領地言葉の方言は許して下さいね」
「もちろんです」
「やったー!! わしにかわいい婿が出来た。よし婿ができたお祝いせなあかんな」
方言全開で、アスランを大きな体で抱きあげるドルク。
「あれ? ここは普通に婚約祝いと違うの?」
父にアスランを取られ、嫉妬の目を向けるミュゲだった。




