09ー①まさか・・。
本日、3回目の投稿です。
アスランは絶望する。
ロスベータ侍女長は、ザラに公には敵対はしない風を装っているが、自分の味方だと思っていた。
だが、そうではなかったのかも知れないのだ。
確かに良く考えれば、これほど不利な状況では、自分の味方でいる方が難しいだろう。
自分がいなくなれば、すぐにでも弟のサルートが王太子になる。
しかもそれを反対する貴族の方が少ないかもしれない。
サルートが王太子になれば、ロスベータはすぐにそちらに専属侍女長に就くことになっているのだろう。
そうすれば、これほど気苦労をしないですむのだから・・。
気落ちしているアスランの様子に気が付かず、ミュゲは浮かれて説明を続けている。
「それで、このぼろ布の服もわざわざ持ってきてくれて、更にお金も!! これで、お菓子も買っておいでって、ロスベータ侍女長が渡してくれたんです!!」
ミュゲの元気な説明を、虚ろな瞳でアスランは聞いていた。
それにやっと気が付いたミュゲが頭を傾けて、気遣わしげに尋ねる。
「アスラン殿下・・。行きたくないのですか?」
「・・・・。行くよ・・・でも、もし・・・危険な事が起きたら絶対にミュゲは逃げてね」
「危険なことって?」
魔虫もいないこの王都で、危険なこととは?
ミュゲが首を傾げた。
その無防備な様子にアスランは焦る。
「兎に角、危ないと思ったら逃げてほしい」
アスランは必死に頼んだが、ミュゲは明るい笑顔のままで答える。
「はい。危ないって思ったら、二人で逃げましょう!!」
ミュゲはきっと分かっていないが、その時が来れば逃げてくれるだろう。
妹のようなミュゲが、自分に巻き込まれて、辛い思いをしないようにしよう。
微笑むアスランはいつもの諦めた表情になっていた。それをミュゲが見て戸惑う。
(楽しい外出なのに、どうしてそんな顔をするの? もしかして、はじめてもお出掛けで不安なのかな?)
アスランの考えは分からない。だが、お出掛け前にテンションを上げてもらおうともらった服を取り出して、広げてアスランに見せた。
「ほら、見て下さい! このいい感じにボロボロな服」
ミュゲがアスランに渡した服は、ボロボロで縫い目が荒い服だ。
「こんな服で町に行くの?」
良く見ると、泥汚れまでついている。
「はい、これでもまだ綺麗な方で、路地裏なんて、もっと粗末でボロボロの服を着た子がいっぱいですよ。それに綺麗すぎる服なんか着ていたら、誘拐されちゃうんです!」
度々、王宮の外に買い物に行くミュゲは、町がどういう所か分かっていたが、アスランはここまで酷いとは知らなかった。
アスランはこの服のことだけで、レイカールト王国の経済が行き詰まっている事が分かり、唇を噛んだ。
実際、宰相のチャーリーが頑張ってはいるが、新しい政策は悉くゼルニケ侯爵に潰されている。
私利私欲まみれのゼルニケ侯爵は、チャーリーの平民に優しい政策を握り潰しているのだ。
とにかく、今の町の様子を見てみたいと、アスランは決心した。
着替えが終わると、今度はミュゲが少し汚れた布でアスランの顔を拭く。
「綺麗なお顔を汚すなんて、罪深くて手が震える・・」
ミュゲが恐れ多いといった感じで、優しく拭いていると、アスランの目に黄緑色のミュゲの瞳が見えた。
「綺麗だな・・」
自然と出た言葉だったので、言ってしまってから、我に返る。
「ええ、本当に殿下の肌も、手も美しいです!」
ミュゲの言葉は忖度もなく、純粋だった。
アスランはミュゲの瞳が綺麗だと伝えたくて、もう一度言おうとした。
しかし、ちょうどこの時、ロスベータ侍女長が現れた。
複雑の気持ちのアスランだが、それでも笑顔で迎える。
「アスラン殿下、この者と絶対にはぐれないようにしてください。そして、午後3時までにはお帰り下さい」
その顔にはアスランを労る気持ちと、心配に満ちていた。
やはり、自分の思い過ごしなのだろうか?
アスランがそう思ったが、次の侍女長の言葉に、失望させられた。
「いいですか、ミュゲ。絶対に殿下をお守りしてください」
「はい。お任せ下さい!!」
ミュゲに・・この小さな少女に王太子を守るという大役を任せたのだ。
どう考えてもこのような大役を、少女一人に任せるなんておかしい。
やはり、ロスベータ侍女長は完全にあちら側に行ってしまったということか・・と悔しくなる。
ロスベータ侍女長は、私がいなくなった責任を、このように幼いミュゲに取らせるつもりなのか?
一人心細そうに牢屋に入れられたミュゲが、アスランの脳裏に浮かんだ。
よし、ミュゲをこの機会に逃がそう。アスランは、ワクワクしている顔のミュゲを見てそう決意した。
疑心暗鬼が膨らんだアスランに、ロスベータ侍女長の言葉はもう届いていない。
「アスラン殿下、無事のお帰りをお待ち申し上げています」
「・・・ああ、分かっている」
俯き、暗い返事をするアスランだった。




