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吾妻邸の人たち

穏やかな海上に佇む赤い鳥居へ黒髪の少女が静かに進む。それを見守るオレは横に座る隊長に質問をした。

「座ってればいいって話でしたけど」

何も答えない隊長と旦那様に挟まれているオレは二人に告げた。

「動けません」

苦し気に伝えるオレに紋付袴姿の190cmはある巨躯の男が応じる。

「すまないねぇ。狭い?」

「狭いっていうか身体が痛いです」

筋肉の塊に挟まれているオレの答えに吾妻家の当主が豪気に笑う。

「君も話は聞いてるんだろう?このままで頼むよ!」

「このままだと何かあった時に動けなくて」

「構わん。俺が対応する」

全身から怒気を発しているダークスーツの男がそう告げた。

二人の隣にいるネコとクロさんを意識してオレは言う。

「あのー、じゃあオレは何のために・・・?」

「座っていろ」

隊長の隣に座る礼服の美女がそう答えた。合点がいかないまましめやかに儀式が行われる。冠がアンジュの頭に戴かれ13秒を過ぎた時、それは現れた。襲名の儀を終えた藪中の巫女、アンジュの中から。

「ご苦労様ァ。偽りの王」

悪魔の手がアンジュの頭に載っている冠を握る。

「ヒャヒャヒャッ!!これで我こそが王!!黄泉より還れ、我が眷属けんぞく!!」

己の頭上に冠を乗せた悪魔が叫ぶ。声と同時に海中から次々と漆黒の異形が現れ出た。

「お久しぶりっすね」

そう言った白夜さんが悪魔へ飛び掛かった。

「王の御前ぞ。頭が高い」

悪魔の周囲から黒い竜巻が吹き荒れる。それをものともせず金の矢が撃ち込まれるようにしなやかな体が黒い渦の中へ飛び込んでいった。

同時に隊長が警棒を手にし異形へ向かう。近づいてくるそれ等をなぎ倒す背中を見てオレは周囲に避難を促した。

「下がって下さい!」

『キョェア!!』

不気味な叫び声を上げて飛び掛かってくる猿のような異形を拳で打ち払う。藪中家の夫妻、クロさんとネコをガードしつつ式場から離れようとするオレに巨体の異形が降ってきた。

咄嗟に避けた地面が衝撃で陥没する。その巨体に拳を撃ち込んだ。鉄塊を殴ったような感覚に腕が痺れる。まるでダメージは与えられていない。巨体がゆっくりと起き上がる。

要人を連れその場を離れるが小型の異形が次々と襲い掛かってくる。鋼鉄を仕込んだグローブでそれを叩き落とすがキリがない。

ネコ達を守りながら避難経路を探している視界の端に椅子に座っているオッサンが映った。何でついてきてねぇんだ!?

巨体の異形がオッサンに近付く。

「隊長!!」

声を上げるが、こちらの数倍以上の敵を相手にしている隊長の反応はない。吾妻の護衛としてオレは当主と娘のどちらを護るべきなのか。

『娘は君に任せたよ』

いつか言われたオッサンの言葉が脳裏を過ぎる。それもあるがオレにはネコを護る以外の選択肢はなかった。

向かってくる異形にオッサンが長く息を吐き出し立ち上がる。早く逃げてくれ!

腕を振り上げる異形の巨体。ダメかと思った瞬間、オッサンの膨れ上がった筋肉が紋付袴をブチ破り、異形に背面タックルを撃ち込んだ。

弾き飛ばされた巨体の異形が水切りのように水面を跳ね、60mほど飛んだところで海中に没した。

「あれしか飛ばんとは私も衰えたものだ」

「人間相手ならもっと飛ぶだろう」

隊長の声が聞こえる。あのー、今のを人に撃ったことがアリマスト?

「確かに今のは軽自動車くらいはあったな!」

豪快に笑いながら隊長と会話を交わすオッサ・・・アランさん、いや旦那様が周囲にいる異形を掴んでは粉砕していく。

「竜胆君!私にはマッスルが足りなかった」

こちらに向き直った旦那様が告げる。貴方に筋肉が足りなかったら世界には細ガリしかいませんが。

「娘は私が護る」

オレの周囲にいる異形の頭を掴んでソフトボールのように投げた旦那様が続ける。

「アンジュを救ってやってくれ。君の心のマッスルで」

アンジュの誕生日会でオッサンが祝辞を述べなかった理由がやっと理解できた。クロさんと同じくこの人もずっと気にしていたんだ。

「竜胆」

続け様に隊長に声をかけられる。

「持っていけ。戦友ともの形見だ」

拳銃が弧を描いてオレの元へ飛ぶ。

「ニ十一にそいちの仇を討ってこい」

「了解!!」

「ギン」

ネコが潤んだ瞳でオレを見つめながら名を呼んだ。

「大丈夫。オレは死なない」

その答えにクロさんがふっと微笑む。

『ホームラーン!!』と甲高い声が響き、砕け散った異形の残骸が空から降ってきた。島崎の姐さんが警備隊を連れて周辺警護をしていたことを思い出し、オレは瘴気の中へ飛び込んだ。

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