表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

望まぬ役割

長い黒髪の少女が神主と付き人を供に連れ水上に佇む鳥居へ向かう。吾妻家と藪中家の親類を前に赤い着物の裾を水に濡らし闇珠が歩く。

様々な思いがあった。養女として引き取った藪中の宮司。その妻であり吾妻の血を授けられなかった養母。ネコの代わりにアンジュを藪中家に差し出した吾妻アラン。自分の我儘のためにそれを受け入れた吾妻クロ。その全てを手配したエドガー。

だから、彼等には、この光景が受け入れがたかった。そう思いながら彼らは儀式に臨み、望む。

十一にそいちが残したと思われる血文字が杞憂であればいい。滞りなく行われる儀式の中、エドガーもアランも一応はそう願っていた。『13ys』と掠れた文字列を残して逝った戦友、その仇に対する殺意と娘達の安寧を願う感情のせめぎあいの中で。

ただ、それは現れた。継承の儀を執り行う神主が突如として豹変する。背中から生えた漆黒の羽根が周囲にいる付き人の体を両断した。

「アァー・・・13年待った甲斐があった」

口角を上げた男の口が耳まで裂け牙を覗かせる。恍惚の笑みを浮かべた男が文字通り血の海に立つアンジュに近付く。

配置されていた警備が駆け寄るより早く、銃を手にしたエドガーが男へ跳んだ。羅刹や阿修羅よりも激しい憤怒に満ちた形相で、ラッパを吹き鳴らす熾天使してんしや天から堕ちるそれより深い激情を胸に。

「うるさい蠅だなぁ」

黒く染まった眼球の内に赤い瞳を光らせた悪魔が告げる。言葉と同じように蠅のような黒い風が悪魔の周囲に吹き荒れる。アンジュが手にしていた花弁が舞い散り、嵐と化した強風に弾き飛ばされる男にアランが叫ぶ。

「エドガー!」

二人の娘の周囲を警戒しているアランの声に、うずくまる黒髪の男が叫び返す。

「近寄れん!!」

儀式の場に吹き荒れる瘴気の中へ、夜を白に染める金の光が流星の如く飛び込んだ。



「よく育ってくれたネ」

アンジュの身体を背後から抱きしめる悪魔が優し気な声色で囁く。

「吾妻の血も藪中の血も持たない王の器に」

耳元でそう告げられるアンジュは頭を抱え、赤く染まった水面に座り込む。

「でもねぇ、誰もがそう望んだんだよ。だから」

悪魔の口角が更に上がる。

「君は悪くない」

その一言に闇珠の瞳が赤く染まる。その光に悪魔が牙を剥き出し歓喜の表情で叫ぶ。

「ハハハハハ!我らが王の再誕!さぁ!人間どもに絶望を!我ら一族に栄光を…」

「させないっスよ」

瘴気を潜り抜け、金色の瞳をした女が悪魔の後頭部を蹴り飛ばす。砕けた悪魔の頭が水面へ散らばった。



白夜に続いて儀式の場へ飛び込んできた白蓮がジュラルミンケースから特殊な形状の銃を取り出し黒い竜巻に打ち込んだ。

「師匠、動けるか」

「お前に心配されるほど鈍ってはいない」

晴れていく黒い風を前に師弟が言葉を交わす。悪魔の死体を確認した白蓮が闇珠へ近づく。

「あ・・・あ、あ・・・」

「前に言っただろ」

怯えている闇珠を安心させようと赤髪の男が姿勢を低くし話しかけた。

「助けてほしいと思ったら赤い花びらを潰せって」

震える少女が赤い髪の男に抱き着く。

「あ・・・なた・・・」

「もう大丈夫だ」

言葉に詰まりながら声を出す闇珠の背を白蓮が優しくさする。その胸を闇に染まる少女の右腕が貫いた。

「あなたのすべてをちょうだい」

悪魔と同じく漆黒の眼球に白の瞳を浮かび上がらせた闇珠がそう告げる。腕を引き抜いた異形の前に白蓮が倒れ込む。

突然訪れたその光景に白夜が弱々しい足取りで男に近付き声をかける。

「嘘っすよね、おっきしてくださいよパイセン―」

軽口を前に胸から噴き出す鮮血が水面を赤く染めていく。

「ダメっすよ、そんな早くイっちゃ」

声もなく倒れ伏した白蓮の身体が水面を揺らす。確認するまでもない。その身体にすでに命がないことは。そんなことは彼女も分かっていた。慟哭が響く。

「こんな結末、認めるかっ!!」

くずおれる白夜の叫び声に闇珠の瞳が赤く光った。

『我等が王の戴冠式を始めよう』

悪魔の声がその場にいる誰しもの頭に響く。砕け散った頭部が空へ舞い上がり、雲となり巨大な手をかたどった。

かざされた手に引き寄せられ少女の身体が宙へと浮かぶ。

稲妻が集束し、冠の様に闇珠の頭上に浮かび上がった。その様をエドガーやアラン、闇珠の養父母が気が気ではない表情で眺めている。助けたいという一心であったが対応できる常識の範疇を越えている。

涙ぐんでいる妹を心配した吾妻クロが彼女の傍へ寄る。かける言葉もない状況でネコが一言口にする。

「アンジュを助けて」

闇珠の瞳が赤く染まる。空が晴れ、アンジュがゆるゆると降ってくる中で声が響いた。

『大切にしといてくれよぉ』

水面に浮かぶアンジュと引き換えに白蓮の死体はそこに存在しなかった。

『3年後までは』

episode: Ange

https://twitter.com/ship_o_man1015/status/1575258412945793024

https://twitter.com/ship_o_man1015/status/1575831625585528832

https://twitter.com/ship_o_man1015/status/1577292749258493955

https://twitter.com/ship_o_man1015/status/1578369169632133120

https://twitter.com/ship_o_man1015/status/1575606569404100608

https://twitter.com/ship_o_man1015/status/1578386250108502017

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ