第五話 夜
本日2話目の投稿です!
「僕様の料理が出来上がったよ。今日のメニューは、ポトフ」
「フラスコ、だんだん呪い使いこなしてない?」
「気のせいだよ。見て、ホクホクのジャガイモ」
「ほら」
馬車を水浸しにした僕達は、ついに正座の刑から解放されていた。
それにしても、馬車からの水出しは大変だったな。
イン達との3人がかりで30分近くバケツリレーしてた。
ナフの魔法を使えば水出しも簡単だったろうけど、魔力を無駄遣いしたからそうも行かない。
せめて誰かが肉体派だったら良かったんだけど、あいにく魔法派と頭脳派と無能派だ。
全員虚弱体質。
もう既に身体が痛いから、明日の全身筋肉痛は確定だね。
それにしても、全く、小休止の予定を夜営にしちゃうなんて、足の引っ張り具合に脱帽しちゃうよ。
もう日も落ちかけてるし、いくら銀狼がベテランであろうと進めない。
むしろベテランだから進まない。
多分進んでも死ぬのは僕だけだと思うけど。あれ、もしかして気を使われてる?
いいや、もうポトフ食べよう。
ジャガイモと干し肉がふんだんに入っていて、とても美味しそうだ。
「おお!いつものケチケチポトフとは違ってお肉がいっぱいなのです!」
「駄目にした干し肉全部入れたからな。当分ナフ達は肉なしだ」
「うぅぅ、鬼ぃ」
「僕様の分をちょっと分けてあげるよ。干し肉」
「甘やかしすぎだぞ、フラスコ」
ギウンはそう言って、ガツガツとポトフを食べ進める。
僕も負けじと早食いするけど、そういえば猫舌なのを忘れてた。
おもいっきし口内を火傷しちゃったよ。
あとで回復薬でうがいしよ。
「胡椒ってこんなに使って大丈夫なの?」
「そうだよ、結構高級品じゃん」
「これも少し湿っていたからね。黒胡椒」
「「申し訳ございませんでした」」
二人の声が重なる。もちろん、僕とインの声だ。
僕達の小競り合いは、結果として今日の晩ご飯を少し豪華にした。
だからみんなハッピー!
なんて訳にはもちろん行かないよね。
さっきギウンが言ったように、結構な量の干し肉と黒胡椒が駄目になったから、後の料理はどんどん目減りするだろうし。
フラスコの料理の腕は確かだけど、それで材料が増える訳じゃないんだ。
本当に申し訳ございませんでした。
「美味かった、ご馳走様。俺は枯れ枝を拾いに行ってくるから、ゆっくりしといてくれ」
「お粗末様。気を付けてね。ボルシチ」
ギウンが装備を整えて、暗くなりつつある森に入っていく。
誰よりも早く、結構な量を食べたけど、鍋からは余りお肉が減っていない。
結局、ギウンもナフには甘いのだ。
「ナフは、まだまだ駄目魔女なのです…」
ナフが森に消えたギウンの方を見つめながら、下瞼の中に涙を溜める。綺麗な藍色の瞳の輪郭がぼやけて、様々に形を変えた。
「そ、そんなことないわ、ナフ。今回は私が全面的に悪かったから、元気出して?お肉もいっぱいあるから!ね?」
「そ、そうだよナフ。今回のことは全部僕とインが悪かったんだ。僕のお肉も分けてあげるから、許して!」
慌てた僕たちは必死にお肉の多さを主張してみるけど、ナフの落ち込み加減はちっとも変わらない。
これからの断肉生活と、寝ぼけて魔法を使ったことを思うと、気分が上がらないんだろう。
下を向いて、ちびちびスープを啜っている。
罪悪感がすごい。
なんで僕はこんな幼心を利用して復讐を企ててしまったんだろう。
馬鹿か?僕は無能で馬鹿か?
今ここで捨て置かれても文句言えないよ。
「ほ、ほら、ここにあるお肉全部食べていいから!」
「そ、そうだよ!これも、これも足すから!」
インがお肉を山盛り入れて差し出したお皿の上に、僕のお肉も慌てて重ねる。
「ほんとに食べていいですか?」
「「もちろん!!」」
これで少しでも元気を取り戻してくれるなら。
「ありがとうなのです…」
ナフがパクパクとお肉を食べる。心を断頭台に置いてる気分だ。
未だかつてこんなに緊張する食事場面があっただろうか。
周りを月位級のモンスターに囲まれての食事の方がまだマシだった気がする。
「うぅ…」
「ど、どうしたの?」
インが聞く。
もう僕は手を組んで祈ることしかできない。
もう、僕たちまで泣きそうになってる。
「これが、ウォースタまで最後のお肉なのです…」
そういうと、ナフは悲しそうに顔を伏せた。
「うああぁぁ、ど、どどどどどうにかしてよ、イン!」
「ど、どどどどどうしよう、ヒアン!」
もう無理だ。万策尽きた。
フラスコは僕達を見て楽しそうにしてるし、保護者のギウンはここにいない。
かくなる上は、自分の肉を削ぎ落とすか?
同じことを考えたのか、インが思い詰めた顔で短剣を手に取って震えてる。
大丈夫だ、イン。
一緒にやろう、怖くない。この罪を償うにはこれしかないんだ。
インと目があって、二人とも軽く頷く。覚悟は決まった。
フラスコは声を出すほど笑っている。
「おい、聞いてくれ!コカトリスを捕まえたんだ!肉問題は解決したぞ!」
突然、森の奥から、ギウンが満面の笑みで飛び出してきた。
肩には、僕より大きい鳥を2匹も担いでいる。
「ほんとです!?お肉食べ放題なのです!」
「天才的なタイミングだね。焼き鳥」
「「神よ」」
ああ、神々しい。後光がさして見える。
地面の土がおでこに付こうが気にならない。インなんてむしろ擦り付けてる。
僕の頭が今下げるために無いのなら、デュラハンにでもなった方がましだ。
「仲良いなお前ら」
無宗教の僕だけど、今だけは改宗してる。コカトリス教だ。
ギウン教ではない。
未だにバケツリレーの疲労感と逆恨みが脳の判断を拒んでいる。
「じゃあ、僕様が血抜きをしておくから、後片付けは任せたよ。焼き豚」
「任された」
ギウンが大鍋を持って、残ったポトフを3人の皿に均等に分ける。
それから、ナフの頭を一回撫でて、鍋を洗いに行った。
言葉にはしないが、元気を出せと言うことなんだろう。
僕もこんな気遣いが出来る男になりたいもんだよ。
ナフはさっきよりも顔を緩ませながら、楽しそうに食べ進めていた。
「「「ご馳走様でした!」」」
満腹だ。
元々の量が多かったから、みんな結構いっぱい食べた。
腹がはち切れるとまでは行かないけど、旅路にしては相当な膨れ具合だ。
「うぅ、お腹が破裂しそうなのです」
「うぅ、気が緩んで食べ過ぎた…」
約2名は、そうでもない。
ナフはお肉をパクパク食べてから、更に残りのポトフを平らげたし、インは男の僕と同じぐらいの量を食べ切った。
彼女にしては結構な量だろう。
まぁ、それでもギウンが食べた量に比べたら屁でも無いんだけどね。
フィジカルは残酷だよ。
「お粗末様。僕様は解体にもうちょっとかかりそうだから、寝床の準備はお願いするよ」
「うん、お願いされた」
普段はなんの役にも立たない僕が、唯一パーティメンバーと同じくらいの働きができる時、それがこの雑用だ。
寝床の準備は旅の基本のキの字。
旅遍歴だけは無駄に長い僕にしたら、お茶の子さいさいの作業なのだ!
「あ、ヒアンそっちもってて」
「はーい」
まぁ、ここではインの方が得意なんだけど。
そもそも、使ってる形式も違うしね。今日の僕の仕事は布の左端を持つことだったよ。
「ヒアン様、見て下さい!お星様が沢山出てるのです!」
布の右端を持ったナフが、嬉しそうに空を指差す。
「ほんとだ…」
見上げると、焼き付くほどの星空だった。
名前も知らない光の束が、夜の底を照らしている。
そうだ、こんな空だった。ジル達と見た荒野の空は。
あの時はまだ旅の途中で、こことは遠く離れた異国の地だった。
懐かしい。少し寂しくなる。
なんともないと思ってた。少しの別れなんだって楽観してた。
けど、時間が経ってからかさぶたができるように、僕は今初めて心の凹みに気がついた。
「寂しくなった?」
インが笑う。彼女に似合う、優しい笑みだ。
前にあった時より、幾分か優しくなってる。銀狼は銀狼で旅をして、色んなことを経験したんだ。
明日はお互いの冒険話でもしようかな。僕はともかく、ジル達の活躍で話したいことが沢山あるんだ。
右手に持つ布が、くいと引き寄せられる。寂しさを埋めるように、ナフがくっついていた。
柔らかい癖毛がくすぐったい。
「綺麗ですね、ヒアン様!」
揺れる焚き火がナフの笑顔を陰りなく照らして、どの星よりも明るく見えた。
「うん、泣きたくなるほど」
新しい仲間とのはじめての夜は、昔の空とよく似ていた。
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