表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/14

第五話 夜

本日2話目の投稿です!

「僕様の料理が出来上がったよ。今日のメニューは、ポトフ」


「フラスコ、だんだん呪い使いこなしてない?」


「気のせいだよ。見て、ホクホクのジャガイモ」


「ほら」


馬車を水浸しにした僕達は、ついに正座の刑から解放されていた。


それにしても、馬車からの水出しは大変だったな。


イン達との3人がかりで30分近くバケツリレーしてた。


ナフの魔法を使えば水出しも簡単だったろうけど、魔力を無駄遣いしたからそうも行かない。


せめて誰かが肉体派だったら良かったんだけど、あいにく魔法派と頭脳派と無能派だ。


全員虚弱体質。


もう既に身体が痛いから、明日の全身筋肉痛は確定だね。


それにしても、全く、小休止の予定を夜営にしちゃうなんて、足の引っ張り具合に脱帽しちゃうよ。


もう日も落ちかけてるし、いくら銀狼がベテランであろうと進めない。


むしろベテランだから進まない。


多分進んでも死ぬのは僕だけだと思うけど。あれ、もしかして気を使われてる?


いいや、もうポトフ食べよう。


ジャガイモと干し肉がふんだんに入っていて、とても美味しそうだ。


「おお!いつものケチケチポトフとは違ってお肉がいっぱいなのです!」


「駄目にした干し肉全部入れたからな。当分ナフ達は肉なしだ」


「うぅぅ、鬼ぃ」


「僕様の分をちょっと分けてあげるよ。干し肉」


「甘やかしすぎだぞ、フラスコ」


ギウンはそう言って、ガツガツとポトフを食べ進める。


僕も負けじと早食いするけど、そういえば猫舌なのを忘れてた。


おもいっきし口内を火傷しちゃったよ。


あとで回復薬でうがいしよ。


「胡椒ってこんなに使って大丈夫なの?」


「そうだよ、結構高級品じゃん」


「これも少し湿っていたからね。黒胡椒」


「「申し訳ございませんでした」」


二人の声が重なる。もちろん、僕とインの声だ。


僕達の小競り合いは、結果として今日の晩ご飯を少し豪華にした。


だからみんなハッピー!


なんて訳にはもちろん行かないよね。


さっきギウンが言ったように、結構な量の干し肉と黒胡椒が駄目になったから、後の料理はどんどん目減りするだろうし。


フラスコの料理の腕は確かだけど、それで材料が増える訳じゃないんだ。


本当に申し訳ございませんでした。


「美味かった、ご馳走様。俺は枯れ枝を拾いに行ってくるから、ゆっくりしといてくれ」


「お粗末様。気を付けてね。ボルシチ」


ギウンが装備を整えて、暗くなりつつある森に入っていく。


誰よりも早く、結構な量を食べたけど、鍋からは余りお肉が減っていない。


結局、ギウンもナフには甘いのだ。


「ナフは、まだまだ駄目魔女なのです…」


ナフが森に消えたギウンの方を見つめながら、下瞼の中に涙を溜める。綺麗な藍色の瞳の輪郭がぼやけて、様々に形を変えた。


「そ、そんなことないわ、ナフ。今回は私が全面的に悪かったから、元気出して?お肉もいっぱいあるから!ね?」


「そ、そうだよナフ。今回のことは全部僕とインが悪かったんだ。僕のお肉も分けてあげるから、許して!」


慌てた僕たちは必死にお肉の多さを主張してみるけど、ナフの落ち込み加減はちっとも変わらない。


これからの断肉生活と、寝ぼけて魔法を使ったことを思うと、気分が上がらないんだろう。


下を向いて、ちびちびスープを啜っている。


罪悪感がすごい。


なんで僕はこんな幼心を利用して復讐を企ててしまったんだろう。


馬鹿か?僕は無能で馬鹿か?


今ここで捨て置かれても文句言えないよ。


「ほ、ほら、ここにあるお肉全部食べていいから!」


「そ、そうだよ!これも、これも足すから!」


インがお肉を山盛り入れて差し出したお皿の上に、僕のお肉も慌てて重ねる。


「ほんとに食べていいですか?」


「「もちろん!!」」


これで少しでも元気を取り戻してくれるなら。


「ありがとうなのです…」


ナフがパクパクとお肉を食べる。心を断頭台に置いてる気分だ。


未だかつてこんなに緊張する食事場面があっただろうか。


周りを月位級のモンスターに囲まれての食事の方がまだマシだった気がする。


「うぅ…」


「ど、どうしたの?」


インが聞く。


もう僕は手を組んで祈ることしかできない。


もう、僕たちまで泣きそうになってる。


「これが、ウォースタまで最後のお肉なのです…」


そういうと、ナフは悲しそうに顔を伏せた。


「うああぁぁ、ど、どどどどどうにかしてよ、イン!」


「ど、どどどどどうしよう、ヒアン!」


もう無理だ。万策尽きた。


フラスコは僕達を見て楽しそうにしてるし、保護者のギウンはここにいない。


かくなる上は、自分の肉を削ぎ落とすか?


同じことを考えたのか、インが思い詰めた顔で短剣を手に取って震えてる。


大丈夫だ、イン。


一緒にやろう、怖くない。この罪を償うにはこれしかないんだ。


インと目があって、二人とも軽く頷く。覚悟は決まった。


フラスコは声を出すほど笑っている。


「おい、聞いてくれ!コカトリスを捕まえたんだ!肉問題は解決したぞ!」


突然、森の奥から、ギウンが満面の笑みで飛び出してきた。


肩には、僕より大きい鳥を2匹も担いでいる。


「ほんとです!?お肉食べ放題なのです!」


「天才的なタイミングだね。焼き鳥」


「「神よ」」


ああ、神々しい。後光がさして見える。


地面の土がおでこに付こうが気にならない。インなんてむしろ擦り付けてる。


僕の頭が今下げるために無いのなら、デュラハンにでもなった方がましだ。


「仲良いなお前ら」


無宗教の僕だけど、今だけは改宗してる。コカトリス教だ。


ギウン教ではない。


未だにバケツリレーの疲労感と逆恨みが脳の判断を拒んでいる。


「じゃあ、僕様が血抜きをしておくから、後片付けは任せたよ。焼き豚」


「任された」


ギウンが大鍋を持って、残ったポトフを3人の皿に均等に分ける。


それから、ナフの頭を一回撫でて、鍋を洗いに行った。


言葉にはしないが、元気を出せと言うことなんだろう。


僕もこんな気遣いが出来る男になりたいもんだよ。


ナフはさっきよりも顔を緩ませながら、楽しそうに食べ進めていた。


「「「ご馳走様でした!」」」


満腹だ。


元々の量が多かったから、みんな結構いっぱい食べた。


腹がはち切れるとまでは行かないけど、旅路にしては相当な膨れ具合だ。


「うぅ、お腹が破裂しそうなのです」


「うぅ、気が緩んで食べ過ぎた…」


約2名は、そうでもない。


ナフはお肉をパクパク食べてから、更に残りのポトフを平らげたし、インは男の僕と同じぐらいの量を食べ切った。


彼女にしては結構な量だろう。


まぁ、それでもギウンが食べた量に比べたら屁でも無いんだけどね。


フィジカルは残酷だよ。


「お粗末様。僕様は解体にもうちょっとかかりそうだから、寝床の準備はお願いするよ」


「うん、お願いされた」


普段はなんの役にも立たない僕が、唯一パーティメンバーと同じくらいの働きができる時、それがこの雑用だ。


寝床の準備は旅の基本のキの字。


旅遍歴だけは無駄に長い僕にしたら、お茶の子さいさいの作業なのだ!


「あ、ヒアンそっちもってて」


「はーい」


まぁ、ここではインの方が得意なんだけど。


そもそも、使ってる形式も違うしね。今日の僕の仕事は布の左端を持つことだったよ。


「ヒアン様、見て下さい!お星様が沢山出てるのです!」


布の右端を持ったナフが、嬉しそうに空を指差す。


「ほんとだ…」


見上げると、焼き付くほどの星空だった。


名前も知らない光の束が、夜の底を照らしている。


そうだ、こんな空だった。ジル達と見た荒野の空は。


あの時はまだ旅の途中で、こことは遠く離れた異国の地だった。


懐かしい。少し寂しくなる。


なんともないと思ってた。少しの別れなんだって楽観してた。


けど、時間が経ってからかさぶたができるように、僕は今初めて心の凹みに気がついた。


「寂しくなった?」


インが笑う。彼女に似合う、優しい笑みだ。


前にあった時より、幾分か優しくなってる。銀狼は銀狼で旅をして、色んなことを経験したんだ。


明日はお互いの冒険話でもしようかな。僕はともかく、ジル達の活躍で話したいことが沢山あるんだ。


右手に持つ布が、くいと引き寄せられる。寂しさを埋めるように、ナフがくっついていた。


柔らかい癖毛がくすぐったい。


「綺麗ですね、ヒアン様!」


揺れる焚き火がナフの笑顔を陰りなく照らして、どの星よりも明るく見えた。


「うん、泣きたくなるほど」


新しい仲間とのはじめての夜は、昔の空とよく似ていた。

お読みいただきありがとうございます!


少しでもご興味を頂けたなら、ブックマークや評価・感想等お願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ