4話
天妃の悔しそうな顔を尻目に、酒を煽るティアリス。
先程からティアリスを恐れたのか、下位の妃達が媚諂った笑みを浮かべ、ひっきりなしに話しかけてくる。
……楽しい。
圧力で他人を屈服させ、傅かれるのはなんて楽しく、素敵なことだろう。ティアリスは恍惚とした笑みを浮かべる。
「星妃様がここにいらしてくれてわたくしたち、嬉しいですわ!お美しく、身分の確かでお若くていらっしゃる星妃様ならきっと立派な国母となられるに違いありません!」
「陛下自ら後宮に召されたということは覚えもめでたいでしょうしね。楽しみですわ〜」
「まぁ、貴方達。褒めても何も出ないわよ?」
「わたくしたちは事実を述べた迄ですわ!」
褒められるのは、嫌いじゃい。
自分の価値を認めてくれている、という事だからだ。
前世の記憶を持つティアリスにとって称賛されるということは日常茶飯事であったのだが、それでも自分以上に努力してきても認められない人間を大勢見てきたので褒めてくれたという事実を無下になんてしない。
だが、彼女達の言い分は明らかにお世辞だろう。
誰が皇帝の息子の母に高圧的な態度で接する人を心から褒め称えるだろうか。大方、自分の実家の力と皇帝との繋がり、天妃を言いくるめたことから恐れ、糾弾の的にならないよう必死なのだろう。明け透けな彼女達の態度に、思い切り眉を顰めるティアリス。
……と。
「遅くなり申し訳御座いません。星妃殿」
背後から、やたらと敵意に満ちた声が響いてきた。
ティアリスがちらり、と目をやるとそこには豪奢に着飾り、2、3歳ばかりなる幼児の手を引いた女性が。
しとやかな笑みを浮かべる彼女は幼児を背後に引き連れた女官に預けると、ティアリスと天妃の間の席に腰をかけた。
「第二皇子が母、月妃に御座います。以後、お見知りおきを」
頭を下げながら舐めまわすように全身を見られているのをティアリスは感じた。落ち着かない。頭をお上げくださいな、と月妃の楽しそうな声が響いてくる。
「陛下とは幼き頃の仲だとか。きっとお互いを兄妹のようにお思いのことでしょう。いきなり夫婦となって戸惑っていますわよね。星妃殿は何もすることは御座いません。全てわたくしの良きように運びますから」
まだこちらから一言も言葉を発しないまま、月妃の流れに乗せられてしまった。兄妹、という言葉を強調して流れるような口調でティアリスに語りかける彼女。
「……貴方の良きように?鼠の良きように運ぶ出来事がこの世の何処に存在するのかしら」
「なッ……」
怒りからか、羞恥からか、顔をさっと紅く染める月妃。
そりゃ鼠扱いされたら誰でも怒るだろう。先ほどの天妃が良い例だ。思い通りの反応に、ティアリスはほくそ笑む。
「わたくしの邪魔はしないでちょうだい。貴方達を幸せになんて絶対にさせない」
そう、わたくしは手に入れるの。
……最高の悪役ライフを!
用意された宮の寝台に横になり、ティアリスは今日の出来事を振り返る。まさか初日からこんなに楽しい思いが出来るとは思わなかった。
「あァ、楽しいわ!」
天妃と月妃。
ティアリスの入内以前は彼女達2人が争っていたらしい。
どちらの息子が皇太子となるか、またどちらが皇后となるかで。
ジュークのことを考えたら自分と子を作るようなことは決してしないだろう。月妃が言っていたとおり、彼は自分のことを妹のようなものだとしか思っていないはずだからだ。
では、皇后の座は頂こう。
……皇帝の子を産まぬ妃嬪が皇后となった前例は、今のところない。
わたくしが、一番になるのだ。
「星妃様。陛下がお越しになるそうです」
「えっ」
「星妃様と閨を共にしたいと……」
だから新しくティアリス付きの侍女となった者からそう告げられた時、非常に驚いた。
閨を共にしたい?
普通に寝たい、とかではなく?
……まさか慣例通りに、3日彼と閨を共に?
「……湯浴みの準備を!」
ティアリスの深読みだったとしても、準備しておくのに越したことは無い。