調香師さんと素材採取訓練です
ここからちょびっと続き物であります。
我らがオネェと一緒ですよ☆
その日、悠利は仲間達と共に馬車に乗ってウルム湖に出かけていた。御者を担当していたのは、同行している訓練生達だ。本日悠利と共にウルム湖に出向いている訓練生は、四人だ。レレイ、ヘルミーネ、アロール、そしてイレイシアである。
引率役は指導係のティファーナで、ある意味で本日の主催である調香師のレオポルドもいる。何があったのかといえば、仕事に使う素材の採取に悠利の協力をレオポルドが求め、それなら採取訓練として他の面々も同行させるようにとアリーが言い出したからである。
これは、レオポルドと二人きり――悠利の頼れる従魔のルークスもいるので、正確には二人と一匹であるが――という状況では、万が一何かが起きたときに対処が出来ないのではないかというアリーの判断であった。……いつもと違う行動をすると、絶対に何かを引き寄せると思われている悠利である。当人は濡れ衣だと主張するが、過去のアレコレがあるので誰も信じてくれない。
別段アリーは、かつて共に旅をした元パーティーメンバーであるレオポルドの実力を、信じていないわけではない。今でこそ調香師として華麗なるオネェ様という姿を見せているレオポルドであるが、現役時代は肉弾戦も出来る薬師としてしっかりとお仕事を果たしていたのだ。その腕前は今も健在である。
では何故、他のクランメンバーを同行させるようにと決めたかと言えば、早い話が慣れの問題である。悠利が巻き起こす騒動に、レオポルドはそこまで免疫がない。とっさの判断が遅れる可能性があるのは否めないのだ。
一応、ウルム湖周辺は一般人がピクニックに出かけるような湖であるし、悠利自身も何度も仲間達とお出かけしている。危ない場所ではないのは承知の上で、それでも一応の配慮をとアリーが提案して今に至るわけである。保護者は色々と大変なのだ。
ちなみに、採取訓練に参加するためにいる訓練生の女子達であるが、イレイシアだけは少しばかり理由が異なっていた。いや、採取訓練にも参加するのだが、彼女には別の本題があったのだ。
「お待たせいたしました」
「お帰り、イレイス。渡せた?」
「はい。喜んでくださいましたわ」
「良かったねぇ」
ウルム湖の方から戻ってきたイレイシアに向けて、悠利はニコニコ笑顔で問いかけた。そんな悠利に、イレイシアも柔らかな微笑みで答える。彼女は今、今日自分がここに来た本題を終わらせてきたのだ。
何をしてきたかというと、ウルム湖のダンジョンマスターである元人魚のニコレットに、本を届けてきたのである。先日、困りごとを解決するためにお知り合いになったニコレットとイレイシアは、同じ人魚と言うことで絆を深めているのだ。
そんな中、一般人がピクニックにやってきても良いような平和過ぎるダンジョンであり、中枢が湖のど真ん中にあるために訪れる者など皆無で一人の時間を過ごしているニコレットの境遇を知り、イレイシアがオススメの本を届けているのだ。人魚のイレイシアは湖の中に潜ってニコレットの元へ向かうのもお手の物なので。
その用事があったので、それならばついでに採取訓練にも参加すれば良いという感じでメンバーに加わっているのが、イレイシアなのであった。そのため、彼女以外の面々は既に採取訓練を始めている。
「はい! 何でこの位置からスコップ入れちゃダメなんですか!」
「根っこから全部持ち帰るためには、もう少し広い範囲を掘った方が良いからですよ」
「え、でも、根っこってこんなに広がります……?」
「種類によっては横に盛大に伸びますよ」
「なるほど……」
スコップ片手に元気よく質問しているレレイ。彼女の前には、縁がギザギザした葉っぱの草があった。こぢんまりとしており、根っこごとスコップで掘り返すのもそれほど苦ではなさそうな大きさである。
レレイはそれなりに根元を残すことを考慮してスコップを入れようとしていたのだが、根っこまで必要な場合だとそれではダメだと指摘されているわけである。そんな彼女の傍らでは、アロールが連れてきていた熊の従魔に指示を出して土を掘っていた。
……そう、本日アロールは、いつも連れている相棒の白蛇ナージャ以外にも、大きな熊の従魔を連れてきていた。本来の姿は二階建てぐらいの大きさになるらしい角のあるその熊は、ホーングリズリーと言う種類の魔物である。ナージャ同様に、邪魔にならないように多少身体をコンパクトに出来るらしく、今の大きさは二メートル半ぐらいであろうか。
ちなみに、皆が馬車で移動しているときは、その馬車の傍らを元気に四つ足で走っていた。四つ足でも二本足でも走れるらしいが、速度が出るのは四つ足の方らしい。馬車の馬を驚かせないように気を遣いながら併走するという芸当をやってのける程度には、お利口な熊さんである。
「君の爪は鋭いから、勢いよく土を掘らないように。うっかり根を切って素材がダメになることもあるからね」
「グァ」
「うん、良い子だね。こういう作業はナージャより君向きだからね。ありがとう」
「グァォ」
大好きな主であるアロールにお礼を言われて嬉しかったのか、熊の従魔、テリーは端で聞いている悠利達でも解るぐらい機嫌の良い声で鳴いた。なお、アロールの首という定位置に居座っているナージャは、我関せずと言いたげに無反応であった。自分の担当ではないと思っているのかもしれない。
そんな微笑ましいアロールと従魔達の側には、ルークスもいた。従魔の先輩達が主のお手伝いをするのを、一生懸命見学している。ルークスはスライムで、身体の一部を変形させることは出来るものの、土を掘るのはあまり得意ではない。
吸収と分解が得意なスライムのルークス。身体の一部を変形させたりは出来るし、やろうと思えばいらない土を吸収、分解することで素材を掘ることは出来るかもしれない。しかし、その場合はどの程度まで分解して良いのかを考えなければならず、難易度はちょっと上がりそうだ。
しかし、自分も出来ることをやってみたいと、ちょろりと伸ばした身体の一部で地面をちょっとずつ吸収、分解していた。ルークスは賢いので土だけを対象に吸収と分解を繰り返し、石ころだけが残る状況を作ったりしている。
「ルーちゃん、器用なことしてるねぇ」
「キュ?」
「上手にしてるけど、でも多分、根っこの周りの土は必要なんだよ」
「キュピ!?」
悠利の言葉に、そうなの!? みたいな反応をしているルークス。スライムのルークスには植物の常識は解らない。周りの土を全部なくしてしまえば簡単に採取できると思ったのだろう。しかし、傷めずに持ち帰るときには根っこは土ごと掘り返さねばならないのである。
その方法では自分はお役に立てない、としょんぼりするルークス。そんなルークスに、アロールが声をかける。
「君のやり方なら、目標の周囲の土を吸収、分解すれば良いんだよ、ルークス」
「キュ?」
「直接目当ての採取物には触れないで、その周りだけ除去すれば採取は出来るよ」
「キュキュ!」
なるほど! みたいな反応をしたルークスは、小さなお花の周囲の土を除去することに挑戦していた。大きな瞳が真剣な光を宿している。これも大事な訓練と思っているのか、先輩達と一緒に頑張る! みたいなモードになっているルークスであった。
可愛い従魔を微笑ましく眺めていたが、ふと悠利は仲間達を見渡した。そして、ヘルミーネの姿が見えないなと思う。そんなとき、ふわりと上空から舞い降りる彼女の姿があった。その手には、葉っぱの付いた枝が握られていた。丁寧にナイフで切ったのか、その断面はスパッと斜めに綺麗に切られていた。
そしてヘルミーネは、その枝を手にティファーナの元へ駆け寄っていた。
「ティファーナ、こんな感じで良かった?」
「えぇ、問題ないですよ。ナイフも上手に使えたみたいですね」
「切れ味が凄く良くて、私の力でも綺麗にスパッと切れたわ」
ヘルミーネが差し出した枝を確認して、ティファーナは優しい笑顔で彼女を褒めた。葉っぱを採取するときに、葉っぱだけでなく枝ごと採取した方が良いこともあるらしい。そして、ナイフにも色々とあって、今ヘルミーネが手にしているのは枝を切るのに適したタイプのものらしい。
ヘルミーネは弓使いだ。普段の彼女は近接武器はほとんど使わない。一応は護身術として色々と習ってはいるものの、刃物の使い方はそこまで得意ではないのだ。さらには、羽根人であるヘルミーネは非力なので、こうやって採取訓練で枝を切る練習をしているらしい。
ちなみに、ヘルミーネが採取してきた枝は、結構高いところにある枝だった。よく見ると、ヘルミーネが持っている枝の葉っぱは、下の方にある葉っぱとは色が違った。気温や日当たり、或いは枝の位置で葉っぱの色や効能が異なることもあるらしい。それも踏まえての採取訓練だった。
イレイシアも合流して、ティファーナの説明を受けている。採取訓練は、実に平和に進んでいた。特に危ない魔物がいるわけではない場所なのもあるだろう。悠利の中では、ピクニック中の植物観察みたいな認識になりつつあった。……違います、修行です。
そんな悠利の肩を、ぽんぽんとレオポルドが叩いた。
「レオーネさん、どうかしました?」
「どうかしました? じゃないのよ、ユーリちゃん。貴方、今日の本題覚えてるかしらぁ?」
「あ」
困ったように笑う美貌のオネェさんに、悠利はあははとごまかすように笑った。そう、本題を忘れてはいけない。今日の悠利は、レオポルドのお手伝いをするためにここにいるのだ。
ついつい、普段見ることのない仲間達の修行風景が面白くて、うっかりそちらに集中してしまっていた。何せ、可愛い可愛い従魔のルークスも頑張っているので、視線が吸い寄せられてしまったのである。
すみませんと素直に謝ってから、悠利はレオポルドに連れられて花が咲いている場所へと足を運んだ。案内されたのは似たような花が咲いている群生地だ。同じ花なんだろうかと思っていると、レオポルドがこう告げた。
「花の形は似ているけれど、実はこの中には複数の種類の花が咲いているの」
「え」
「葉っぱの形とか、葉っぱの裏の葉脈の形状とかで種類を見分けるのよ」
「わー……。わー……」
それ以外の言葉が出てこない悠利であった。何で自分が呼ばれたのか、嫌でも解ってしまった。この大量にあるお花の中から、目当ての花を探すのはそれはもう、大変だ。
何せ、花は本当に全部同じに見えるのだ。必要なのは花の部分らしいが、見分けるには葉っぱを一つ一つ確認しなければいけないのだという。採取するときは花の根元で切り取ってしまえば良いのだが、目当ての花かどうかを探すまでが大変難しい。
「つまり僕のお仕事は、この中からレオーネさんが探している花を探すことなんですね」
「えぇ、お願いするわ。欲しいのは、ルコルの花よ」
「了解です」
すちゃっと敬礼ポーズを取った後、悠利は目の前の花々へと視線を向けた。まるで透明なガラスみたいな綺麗な花が沢山あって、とても綺麗だ。その中から、目当てのルコルの花を探すために、意識を集中させる。
悠利が保持する鑑定系最強技能の【神の瞳】は、大変優れた性能をしている。悠利が知りたいと思って対象を見れば、その情報をきちんと与えてくれる。なので、今も一瞬でピカピカと視界に青い光が輝いた。
「レオーネさん、僕がどの花か示すんで、採取してもらって良いですか?」
「えぇ、了解よ」
役割分担が決まったので、悠利はレオポルドにどの花がルコルの花かを指さしで教える。レオポルドは一応、採取する前に葉っぱを確認して本当に正しいかを確認している。悠利を信頼していないのではなく、自分が間違えたものを触っていないかを確認するためだ。
そんな風にのんびり仲良くお花を採取する悠利とレオポルド。のどかな日差しの下、綺麗なお花を摘む美貌のオネェという光景である。何故か物凄く絵になってしまう辺りが、レオポルドの凄さかもしれない。
「レオーネさん、そのお花も香水の材料なんですか?」
「えぇ、そうよ。オーダーメイドで承ったのは良いけれど、香料の在庫がなかったのよね」
「他の花だとそんなに匂いが違うんですか? 見た目は似てるのに」
「見た目は似ているけれど分類は違う花らしくって、抽出した香料は全然違うのよねぇ」
「こんなに似てるのに、不思議ですねぇ」
「まったくだわ」
暢気に雑談をする程度には余裕のある二人だった。悠利の指示のおかげでサクサクと採取が出来るので、レオポルドも実にご機嫌である。そんなことを繰り返して、必要数を手に入れることは出来た。
「他にもあるんですよね?」
「えぇ。これは見分けにくいだけなんだけど、そもそも見つけにくいものもあるから、よろしくお願いするわね」
「お任せください!」
レオポルドの言葉に、悠利はとても張り切った。元々誰かのお役に立つのが好きなところのある悠利であるが、今日は一応頑張る理由があった。これはお手伝いなので、ちゃんと報酬が出るのだ。
「それにしても、報酬があたくしの作ったハンドクリームで良いの?」
「ちょうど手持ちがなくなってきたんで、現物支給で嬉しいです」
「本当にユーリちゃんってば、欲がないわねえ」
「……?」
現金ではなく現物支給として、レオポルドお手製のとても効果の高いハンドクリームを貰えることになっているので、悠利は頑張っているのである。現金は有り余っているので、特に欲求はないのだ。
それに、どうせお金を貰ってもレオポルドの店でハンドクリームを買うことになるので、それなら現物支給でハンドクリームをもらえる方が良いのだ。凄腕調香師のオネェさんが作る香り付きハンドクリームは、使うだけで幸せな気持ちになるのだ。
「それじゃあ、引き続きお手伝い頑張りますね」
満面の笑みを浮かべる悠利。採取訓練をしている仲間達の傍らで、僕はお仕事頑張るぞーみたいになっていた。
その後、必要な素材を集めつつ、お腹が空いてきたのでひとまずお昼休憩にすることにした一同なのでありました。ご飯は大切です。
お手伝いとは言え、悠利の気持ちはピクニックかもしれないです←
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