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フリーランド

黒い粒が、


右手へ集まっていく。


柄、鍔。


そして、


長く伸びる刃。


「……」


昨日までとは違う。


途中で崩れない。


形も、


小さくならない。


黒い粒が止まる。


手の中には、


一本の剣があった。


「……できた」


昨日、


ひいおじいちゃんの家で見た剣。


柄の形、鍔、刃の長さ。


完全に同じだった。


持ち上げる。


「軽い」


昨日、


初めて持った時とは違った。


「すごい、馴染む」


少し離れた木陰で、


ハクトが見ている。


剣を振ってみる。


初めて振ったのに、


初めてじゃないと思えるほど


すごく手に馴染んでいた。


剣を見る。


最初にこれが出た時。


僕は、


この剣を知らなかった。


なのに、


作ることができた。


父さんの言葉を思い出す。


コアは、


記憶を持っている。


僕の中にあるものが、


この剣を覚えていた。


「……」


考えると、


少し気持ち悪い。


自分の中に、


自分のものじゃない記憶がある。


黒い刃を見る。


その時。


ハクトが、


立ち上がった。


「……湊」


「何?」


返事はなかった。


ハクトは、


林の奥を見ている。


「いる」


「怪物?」


「ああ」


手の中の剣を見る。


ちょうどいい。


そう思った。



林を抜ける。


住宅街へ出た。


人は、


ほとんどいない。


その中央に、


黒いものがいた。


「……」


四本の足。


地面へ張り付くような身体。


背中から、


長い腕のようなものが伸びている。


怪物が、


ゆっくりこちらを向いた。


ドクン――


胸が鳴る。


「……あいつだね」


「ああ」


右手を伸ばす。


さっきと同じ。


柄。


鍔。


刃。


思い浮かべる。


ドクン――


黒い粒が、


集まり始める。


「……」


粒が固まる。


柄。


その先。


刃が伸びる。


――はずだった。


黒い粒が、


崩れた。


「……え」


手の中から消えていく。


何も残らない。


怪物が、


身体を起こした。


「ちょっと待って……」


もう一度。


右手を伸ばす。


さっき出した。


できる。


黒い粒が集まる。


途中で、崩れた。


「……なんで」


怪物が、


地面を蹴った。


「湊!」


「――っ!」


横へ跳ぶ。


黒い腕が、


すぐ横を通り抜けた。


地面に落ちる。


身体を起こす。


「さっき出たのに……!」


怪物が、


また向かってくる。


もう一度やる。


駄目。


形にならない。


「……っ」


拳を握る。


仕方ない。


地面を蹴った。


怪物の腕を避ける。


身体の横へ回る。


拳を振る。


鈍い音。


「……っ!」


痛い。


殴った右手が、


痺れていた。


怪物を見る。


何も効いていない。


「硬……」


もう一発。


今度は腹。


それでも、


怪物は動かない。


黒い腕が、


横から飛んできた。


「――っ!」


腕で受ける。


身体が飛んだ。


地面を転がる。


「痛っ……」


起き上がる。


怪物が、


こっちを見ている。


強い。


今までのやつとは、


違う。


その時。


「……?」


公園の入口。


一人の少女が、


立っていた。


小学生くらい。


何が起きているのか分からないまま、


こっちを見ている。


「……駄目だ」


怪物が動く。


「待って!」


地面を蹴る。


怪物の腕が、


僕を通り過ぎた。


その先。


「――っ」


少女の身体が、地面へ倒れた。


「……!」


膝から、


血が流れている。


少女、


何が起きたのか分からないまま、


泣き始めた。


「……」


まただ。


目の前で、


誰かが傷ついた。


怪物を見る。


右手を開く。


黒い粒が、


少しだけ集まる。


でも。


また崩れる。


「……っ」


違う。


一度、ゆっくり息を吸う。


目を閉じた。


昨日。


あの部屋で、


初めて触った剣。


柄。


手のひらに残った感触。


鍔。


鞘から見えた刃。


持ち上げた時の、


あの重さ。


思い出す。


僕は、


もう知っている。


目を開ける。


怪物が、少女に向けて振りかぶるその刹那─


右手を伸ばした。


ドクン――


黒い粒が、


集まる。


柄、鍔。


そして。


刃。


「……」


手の中に、


剣があった。


怪物の懐へ入り込む。


剣を振った。


黒い腕が、


落ちた。


「……!」


怪物の身体が揺れる。


もう一歩。


両手で、


柄を握る。


やっぱり手に馴染む。


振れる。


分かる。


剣の扱い方が分かる。


怪物が腕を伸ばす。


僕は自然に身を任せた。


そのまま、


剣を振り抜いた。


黒い身体に、


刃が入る。


亀裂が走った。


一本。


二本。


怪物が、


僕へ向かってくる。


「――っ!」


もう一度。


剣を振る。


怪物の身体が、


崩れた。


黒い塵が、


風に流れていく。


「……」


剣を下ろす。


息が、


上がっていた。


少し離れたところで、


少女が泣いている。


膝を擦りむいているだけみたいだった。


よかった。


そう思った時。


足元に、


何かが落ちた。


黒い欠片。


「……あった」


しゃがむ。


手を伸ばす。


欠片へ触れる。


瞬間。


黒い欠片が砕けた。


粒になり、


手のひらへ吸い込まれていく。


ドクン――


胸の奥が、


大きく鳴った。


「……っ」


熱が、


身体の中へ広がる。


しばらくして、


静かになった。


立ち上がる。


「ハクト」


振り返る。


「……」


ハクトが、


少し離れたところに立っていた。


「ハクト?」


何かがおかしい。


目を細める。


「……え」


ハクトの身体、


そこにはノイズのようなものが走り


今にも消えそうな勢いで揺らめいていた。


「……ハクト」


ハクトも、


自分を手を見る。


「何、それ」


「……」


ハクトは答えなかった。


やがて。


ノイズが走っていた身体が


ゆっくり元へ戻っていく。


「……今の」


「帰るぞ」


「え?」


ハクトは、


歩き始めた。


「ちょっと待って」


返事はない。


僕は、


その背中を見ていた。



――海の音がする。


暗い。


冷たい。


身体が、


沈んでいく。


上を見る。


遠くに、


光が見えた。


少しずつ、


小さくなっていく。


手を伸ばす。


届かない。


やがて。


光は、


見えなくなった。


――


目を開けた。


空があった。


見たことのない空だった。


身体を起こす。


「……」


自分の手を見る。


白い。


薄い。


その向こうが、


透けて見える。


立ち上がる。


知らない場所だった。


知らない景色。


知らない人たち。


だが、もうどうでもよかった。


これから起こる全てがどうでもよかった。


――


怪物がいた。


死ぬことを覚悟した。


でも、助けられた。


名前も名乗らずどこかに行ってしまった。


――


誰かと出会った。


名前を聞いた。


一緒に歩いた。


また、


誰かと出会った。


いつの間にか、


一人ではなくなっていた。


――


怪物と戦った。


最初は、


何もできなかった。


何度も負けた。


何度も傷ついた。


それでも、


少しずつ戦えるようになった。


――


鳥がいた。


人の言葉を話す、


変な鳥だった。


最初は、


うるさいと思った。


気付けば、


いつも近くにいた。


――


歩いた。


戦った。


また歩いた。


どれくらい経ったのか。


もう、


分からなかった。


それでも。


ずっと、


忘れられなかった。


青い空。


蝉の声。


海の匂い。


三人で歩いた。


あの町に、もう一度だけ。


帰りたかった。


――


長い旅の果て。


大きな扉の前に、


一人で立っていた。


扉を見上げる。


ここまで来た。


ずっと。


このために。


手を伸ばす。


そして。


扉が、ゆっくりと開いた。


――


ハクトは、


一人で歩いていた。


夕方の町。


長く伸びた自分の影を見る。


右手を上げる。


さっき、


消えかけた手。


今は、


元に戻っている。


「……」


手を下ろす。


少し前を、


湊が歩いている。


ハクトは、


その背中を見た。


何も言わなかった。


蝉の声だけが、


二人の間に響いていた。

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