表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

核心

「湊、お前怪物は見えるか」


言葉が出なかった。


どうして父さんがそれを知っているのか。


僕には理解出来なかった。


「……なんで」


ようやく出たのは、


それだけだった。


父さんは、


閉じた木箱を見ていた。


「見えるんだな」


「……うん」


父さんは、


少し黙った。


「俺には見えない」


「え?」


「一度も見たことはない」


「じゃあ、なんで怪物のこと知ってるの?」


父さんは、


木箱に手を置いた。


「じいさんだ」


「ひいおじいちゃん?」


「ああ」


父さんは、


客室に飾られた写真を見る。


「じいさんは、怪物と戦ってた」


「……」


さっき触った剣を見る。


古い鞘。


傷だらけの柄。


「この剣も?」


「ああ」


「……本当に?」


「俺も親父から聞いただけだ」


父さんは、


それ以上何も言わなかった。


頭が、


追いつかなかった。


怪物なんて、


少し前まで存在すら知らなかった。


それを、


ひいおじいちゃんは知っていた。


それどころか。


戦っていた。


「……何と戦ってたの?」


父さんが、


僕を見る。


「怪物だ」


「それは分かってるよ」


少しだけ間が空いた。


「その中に、かなり強いのがいたらしい」


父さんは、


木箱へ目を落とす。


「じいさんは、そいつを倒した」


「……倒した?」


「ああ」


だったら。


「もういないの?」


「いや」


父さんは、


すぐに答えた。


「完全には倒せなかった」


「……」


「身体は消えた。だが、力は残った」


父さんが、


自分の胸元に手を置く。


「いくつもの欠片になってな」


欠片。


その言葉に、


黒い石が頭に浮かんだ。


怪物を倒した後に残った、


あの黒い欠片。


「……欠片」


父さんが、


僕を見る。


「見たのか」


「……うん」


また、


沈黙が落ちた。


蝉の声が、


外から聞こえている。


「欠片は、また集まろうとする」


父さんが言った。


「時間が経てば、少しずつな」


「集まったら?」


「元に戻る」


「……怪物が?」


「ああ」


父さんは、


淡々と答えた。


「数十年か、百年か。それは分からない」


少しだけ、


声が低くなる。


「じいさんは、いつか復活すると考えてた」


「……」


「だから、一つだけ残した」


「残した?」


父さんが、


僕を見る。


「集まらないようにな」


意味が分からなかった。


「一つだけ、白波家で封印した」


「封印……?」


「ああ」


「どこに?」


父さんは、


何も言わなかった。


ただ。


僕を見ていた。


「……」


嫌な感じがした。


胸の奥。


さっきから、


ずっと鳴っている場所。


「……まさか」


父さんが口を開く。


「お前の中だ」


「……」


胸へ手を当てた。


「僕の?」


「ああ」


「……なんで?」


「代々そうしてきた」


父さんは、


それだけ言った。


「俺にもあった」


「父さんにも?」


「ああ」


初めて聞いた。


そんな話。


一度も。


「でも、父さんは怪物見えないんでしょ?」


「見えない」


「力とかは?」


「何もなかった」


父さんは、


自分の胸を見る。


「俺の時は、ただ封印されてただけだ」


「……」


じゃあ。


僕は?


怪物が見える。


欠片を取り込んだ。


傷が治った。


具現化。


それに、


あの歪み。


「……僕の中にあるのは」


声が、


少し詰まった。


「怪物の欠片ってこと?」


「欠片とは少し違う」


父さんが言った。


「コアだ」


「……コア?」


「ああ」


「じいさんは、そう呼んでた」


胸に置いた手を見る。


ここに。


怪物の一部がある。


ずっと。


僕が知らなかっただけで。


「……」


ふと、


木箱を見る。


「さっき」


「何だ」


「剣に触った時、何か見えた」


父さんが、


僕を見る。


「何を」


「分からない」


思い出す。


一瞬だった。


目の前に、


刃があった。


「この剣が」


木箱を見る。


「僕に向かって振り下ろされてた」


父さんは、


しばらく黙っていた。


驚いているようには見えなかった。


「……それも、じいさんが残してる」


「え?」


「コアは記憶を持つらしい」


「記憶?」


「ああ」


父さんが、


木箱を開ける。


剣が、


もう一度姿を見せた。


「元々、一つの怪物だったものだ」


「……」


「何があったのか。何を見たのか」


父さんは剣を見る。


「欠片になっても残るらしい」


僕も、


剣を見る。


じゃあ。


あれは。


僕が見たんじゃない。


僕の中にある、


こいつが。


「……この剣を知ってる?」


「ああ」


父さんは頷いた。


「じいさんが、そいつを倒すのに使った剣だからな」


「……」


もう一度、


柄に触れる。


今度は、


何も見えなかった。


ただ。


さっきまでとは違う。


柄の形。


鍔。


刃の長さ。


重さ。


手に伝わる感触。


ゆっくりと、


剣を箱へ戻した。


「……帰るか」


父さんが立ち上がる。


「うん」


木箱が閉じられた。


僕は、


自分の胸に手を当てた。


何も変わらない。


いつもの鼓動。


なのに。


自分の身体じゃないものが、


ずっと前からそこにあった。


そんな気がした。



家に着いた頃には、


外は暗くなっていた。


部屋へ戻る。


電気をつける。


ベッドに座った。


父さんから聞いた話が、


頭から離れなかった。


怪物。


欠片。


コア。


封印。


そして、


ひいおじいちゃん。


「……」


右手を見る。


少し迷ってから、


立ち上がった。


手を伸ばす。


目を閉じる。


思い浮かべる。


昼間、


触った剣。


柄。


鍔。


刃。


重さ。


手に残った感触。


ドクン――


胸が鳴った。


黒い粒が、


右手へ集まり始める。


「……」


形になっていく。


柄。


鍔。


そして、


刃。


昨日までなら、


ここで止まっていた。


小さなナイフ。


でも。


今日は違った。


黒い刃が、


その先へ伸びていく。


「……」


目を開けた。


手の中に、


一本の剣があった。


黒い剣。


昼間見たものとは、


色も質感も違う。


それでも。


形は。


「……同じだ」


ひいおじいちゃんの剣と、


全く同じだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ