表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜は続くよどこまでも  作者: 10MA
オーバー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/35

028.対話

駄目だ。

戦えない僕には、せめて盾になるとか、対話するとかしか出来ないのに、それすら通じないのだこの生き物には。

僕はなんでここにいるんだ。

僕に何ができるんだ。

もうこのまま食い物にされるしかないのか。

なんて、なんて理不尽。

何をしても変えられない結果。

努力も、祈りも、言葉も、何も届かない。


「さ、どいて。一緒に円ちゃんが死ぬとこ見ようね」

「それに‥‥それに何の意味があるってんだよ!もう止めようぜ!なあ!?」

「え‥‥?和泉くん、泣いているの?」


言われて初めて気が付いた。自分の顔を伝う生暖かい液体の感触。

どうしようもない思いが、どうにもできない現実が、僕の感情を爆発させたようだ。

この歳で、どうにもならない現実に泣く事になるなんて。

地面でのたうちまわりこそしていないが、童子そのものだ。幼い頃に、玩具を買ってもらえずに泣いた時の気持ちを思い出す。

だが今欲しいのは玩具では無い。もっと大切なものだ。


「くそっ、泣いて悪いかよ!仕方がないだろ、人間なんだから。人間ってのはそうできてるんだよ!感情がある。失いたくないものがある。抗うし我慢する。自分のためだけじゃない、他人のためにもだ!それをお前はなんだ!?店長の店もそうだ!三上の先輩も!その他の人々も!楽しいからやりたいからで簡単に他人を不幸にしやがって!本当に何なんだよ!」


目からボロボロと涙が溢れている事は分かったが、もう全てぶつけてやらないと気が済まない。

僕では拳も届かなければ、言葉さえも届かないのかも知れない。

それでも、せめて最後に想いは伝えたかった。

共感はされなくても、僕の思いだけは。


「‥‥‥‥‥‥‥」

「佐倉‥‥?」


しばらくの沈黙。

佐倉の足は止まっている。


「分からないよ。私だって、わからないっ!」


絞り出すような悲痛な声。

この日初めて、佐倉は人間の言葉に笑わなかった。


「え?」

「分からないのっ!私の何がいけないの!?他人を殺すことがそんなに駄目!?牛や豚は殺すのに!」

「食事目的とは違うんじゃ‥‥」


我ながらマヌケな答えだ。

佐倉が聞きたいことはそんな事では無いと分かっているが、予想外の事態に頭が付いていっていない。


「じゃあハンティングは!?釣りは!?遊びで命を奪うじゃない!」


返す言葉が無い。僕はやった事は無いが、そういうことを趣味とする人間は確かに存在する。

佐倉は今、友人の和泉に問いかけているのでは無い。人類に問いかけている。


「我慢できないんだよぉ‥‥殺したくて、殺したくて、殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて!!殺したくてえっ!!」

「なっ‥‥」


言葉が出ない。

佐倉は血走った目で、涙を流しながら悲痛な叫びをあげる。

僕と同じだ。

抗いようの無い理不尽に、どうする事もできずに泣いている。


「頭の奥で、心の中で声がするの‥‥殺せって、壊せって。我慢できないんだよぉ。我慢すると死にたくなるの。生きる意味が分からなくなるの。自分が消えてしまいそうで怖いんだよぉ」


ついに佐倉はその場に座り込んでしまった。

地面に手を付いて項垂れて、その表情は見えないが、地面には次々と涙が落ちてアスファルトに染みていく。


「ごめん‥‥」

「‥‥ごめん?」

「ああ、うまく言えない。言いたい事も分かって無いと思うけど。どうしようもないって、その気持ちだけは分かるから」

「ふふっ。この状況で私に同情できるなんて異常だよ。今から私に殺されるんだよ?」


佐倉は目を擦りながら、ゆっくりと立ち上がる。

少しだけ、ほんの少しだけ彼女の心の片鱗に触れたとは思う。

それでも、結果は変わらないらしい。

でもそんな事は今更だった。

自分でもどうかしてるとは思うけれども、僕は目の前の敵を、今から僕を殺そうとしている相手を、救いたいと思っている。


「そうだな。自分でもおかしいと思うよ」

「私のこと好きになった?」

「馬鹿言え。お前だけは絶対に無い。僕達の、人類の天敵じゃないか。でも僕はな、そんな佐倉にだって生きる権利は、幸せになる権利あると思うんだ」

「その結果、和泉くんも含めた人間が殺されても?」

「はは、それはできれば勘弁して欲しいけどさ。でも佐倉が人間じゃないというならば仕方がないさ。佐倉には人間のルールは関係ないんだろう?僕達の幸せと、佐倉の幸せの両立できないようだから」

「同じ生き物として、対等な立場で受け入れるって事?」

「そうだ。とはいえ、受け入れるとは言ったけど、それは佐倉の主張を、存在を受け入れるってだけで、黙ってやられるって事では無い。こちらにだってやり返す権利はあるだろ。それでこそ対等だ」

「やっぱり異常だなぁ、和泉くん」


佐倉は何やら思案しているようで、腕組みをして目を瞑っている。

隙だらけのように見えるが、そもそも能力に差がありすぎて、この隙を僕がどうこうできる事はない。

せめて三上が万全なら何かできたかも知れないが、彼女は未だ目を覚ます気配が無い。


「対等ね‥‥不思議と悪い気分じゃないかも。いつもなら人間と同列に扱われたら不愉快でしかないけど」

「どっちが優秀って論争も、できれば止めないか?」

「それは無理。生きている意味が、理由が欲しい。人間より優秀である事が私の存在証明」


淡々と紡がれた言葉には、決意が宿っている。

お互いに話し合ってもゴールは無い。妥協点すら見つからないだろう。

それは佐倉も理解しているはずだ。

何か言いかけては、止めてを繰り返している。


遠くからサイレンの音が聞こえる。

さすがに近隣住民が通報したのかも知れないし、全くの別件かも知れない。

どちらにしても、せっかくだが僕にとって福音とは言い難い。

対話の終わりを告げる合図だ。

仮に僕達のために鳴らされたサイレンだとして、佐倉の手と、パトカーのどちらが早く僕の元へ届くかなんて考えるまでも無い。

案の定、佐倉は音の方を向くと、次に僕の顔を見る。


「はあー‥‥」


彼女は大きなため息を吐くと、駐車場に面している道へと歩き出した。

そしてふいに腕を大きく振りかぶり、電柱を叩き折った。


「は!?」


僕の声と同時に、周囲の明かりが一斉に消えて、辺りは真の暗闇へと落ちた。


「ねえ和泉くん」

「!?」


暗闇から佐倉の声が響く。

どこから話しかけてきているかは分からない。

近いかも知れない。もう側まで来ているのかも知れない。

冷や汗が流れる。


「諦めたわけじゃないからね。むしろ和泉くんだけは絶対に私が殺すから。何があっても、絶対に」

「くっ‥‥!」


身構える。

意味があるかと言われれば、無い。

僕が構えたところで、佐倉に抵抗できるわけがない。

力の差もそうだが、この暗闇だ。

襲われた事に気付く間も無くあの世行きだ。


だがいつまで待っても、佐倉が僕に触れる事は無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ