表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜は続くよどこまでも  作者: 10MA
オーバー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/35

020.先輩

「カフェでの私の進行もなかなかのものだったでしょう?」


街灯の明かりで、三上の得意げな顔がよく見える。

よくそんな事を言えるものだ。

思わず開いた口が塞がらない。

僕達は今日も今日とて、深夜のパトロール中だった。

もはやオトリの意味も無いので、こうして肩を並べて雑談を交えつつ周囲を警戒している。


「お前はもう少し人間の心というものを学んだ方がいい。佐倉のおかげで変な空気にならなかったけど、親しくも無い相手に、初手でぶちかます話では無かったぞ」

「なんでよ。和泉に人の心をどうこう言われたくないわ。心外よ」

「あのなぁ。確かに僕も胸を張れるようなコミュニケーションスキルは持ってないよ。でもな、いきなり『彼氏いる?』なんて余程の恋愛脳か、ナンパ師くらいしか聞かない。お前は佐倉と恋仲になりたいのか?」

「そんなわけないでしょ。‥‥彼女とそんな仲になるなら、私は和泉くんの方が‥‥」


三上の上目遣いに、しおらしい態度に、心臓が静かに跳ねる。

じっと見つめてくる三上の瞳は、いつもの射るような目線では無い。熱っぽく潤んでいるように見える。


「ぼ、僕は‥‥‥」

「ふっ、馬鹿ね。こんな手に引っかかるなんて。しかも私相手に。和泉は女なら誰でもいいようね」

「お前っ‥‥!」


意外と器用な真似をするじゃないか。

少しだけ意識してしまった。少しだけ。

それにしても『私相手に』と言ったが、こいつは己の容姿の優秀さに気付いていないのだろうか。

いや、きっとそんな事に興味も無いだけだろうな。

人に認識されないように生きてきたら、容姿に触れられることも無かっただろう。

そう思うと、意地の悪い、悪意のこもった笑いでも、少しでも多く笑っていて欲しいと思う。


「そういえば、増援が来てくれる事になったの」

「増援?三上みたいなプロが来るってことだよな」

「そ。私の先輩がね。理性が強く、力も強い事を報告したら、この件の警戒レベルが上がったの。先輩は私より優秀だから、私なんか敵わないくらいの人だから、すぐ片付くかも知れない」


そうか、ようやく平和が戻ってくるのか。

平々凡々たる僕の人生が戻ってくるのか。

普通の大学生が、こんな何度も死ぬような目に遭う事なんて無いのだ。普通は。

でも、それはつまりー‥‥


「この件が片付いたら、三上は?」

「まぁ、今まで通りなら次の任務。他の街に行くと思うわ」

「‥‥そうか」

「なに?寂しいの?」

「そそそんなわけ無いだろうっ」


反射的に否定したのだが、確かに僕の声とテンションは明らかに下がっていた。

言われて初めて自覚した。

僕は寂しいのか?

確かに、こんなに毎日のようにつるむような友人のような関係は、大学に入って初めてだった。

でも、それだけじゃ無い気がする。

そもそも友人かと言うと、かなり怪しい関係だし。

人間のために、僕達のために戦っている人達がいると知ったうえで、僕は何もしない日常に戻るというのか?

ぁあ、これが三上が言った『知らなかった自分には戻れない』なのか。


「僕も三上の所で雇ってもらえないもんかな。バイト先もあんな事になっちゃったし」


気まずさを誤魔化すように、軽口を叩く。

僕はマゾヒストでは無いが、今だけは三上の小言を、さらに罵詈雑言を受け入れよう。今だけは必要だから。

だけど、三上は期待に応えてくれなかった。


「やめておきなさい。本当に、本当に‥‥」


いつもの無表情ではあるが、目を伏せている。

どんな感情かは読み取れないが、冗談でも言っていいような話では無かった事だけは伝わってきた。

三上はいったい今までどんな経験をしてきたのだろうか。

流石の僕でもそれを聞くのは禁忌である事は分かる。

僕のためにも、三上のためにも、この話を続けてはいけない。


「なぁ、ところで今日はどこに向かっているんだ?」

「人の話聞いてたの?その耳は飾り?何の加点要素にもなってないから外したら」


今は罵詈雑言いらないんだよ。

いや、三上も、三上なりにいつもの調子を取り戻そうとしているのかも知れない。


「はいはい悪かったよ。いいから答えを教えてくれよ」

「先輩が来るって言ったでしょう。今日までの経緯を報告しに行く」

「来るって言ってたけど今日とは聞いてないよ!」


おいおいマジか。ってことは三上がいるのも、下手をすれば今日までって事か!?

下手をすればなのか、上手くいけばなのかは、悩ましい所なのだけれども。

兎にも角にもらあの嗜虐ゴリラを倒す日は近いって事じゃないか。

別れの日は近いって事じゃないか。


「ちょっと、こんな夜中に大声出さないで」

「くっ、それはそうだけど」


話しながら住宅街の角を曲がると、すらりとした影が立っていた。

このタイミングで!?

反射的に身構える。

三上も一瞬腰に手を回そうとしたが、警棒が取り出される事は無かった。

姿勢良く直立し、大きくは無いが通る声で、人影に声をかける。


「お疲れ様です先輩」

「ああ、お疲れミカミ〜。元気してた?」


影が街灯の明かりが届くところまで歩み寄って来る。

かなりの長身で、髪の長い男性だった。

年齢は少し上くらいか?近付かないとよく見えないが、薄っすらと化粧をしているように見える。

第一印象は獣退治のプロというよりは、ホストだとか、バンドマンのように見える。


「で、君が和泉くん?俺の名前はレイ。本名じゃないけどね。短い間だけどよろしく」


自己紹介をしながら目の前まで歩み寄って来る。

面と向かうと、やはり大きい。190はあるんじゃないのか?

シンプルな白いワイシャツに、タイトで真っ赤なレザーパンツ。武器を持っているようには見えないが、三上の警棒にしたってそうだから一概には断言できない。


「ええ、僕が和泉です。初めまして」

「へえ。君の事はミカミからの報告で知っているよ。本当に普通の男の子って感じだ」


三上の方を見るが、無言だ。

オーバーと対峙した時に見せた、プロの顔をしている。


「ミカミ、報告書にあった通り精査済みとはいえ、本当にこの子にレベル2までの情報開示して大丈夫なの?役に立つ?」

「情報漏洩に関して言えば、まず大丈夫かと。役に立つかで言うと、自信ないですが」


そこはフォローしてくれないんだ。少し寂しい。

確かに特別役に立てた覚えも無いけども。

それにしても、この男は本当に僕の事を見下している。

三上も僕を見下しているが、そんな生易しい物ではない。

三上はあれで、僕という人間を尊重してくれている。

だけどこの男は違う。


「ふ〜ん。いつもマジメで堅物のミカミちゃんがそう言うならいっか。ま、俺が来たからにはもうお役御免だ。安心しなよ」


乾いた声で男は笑う。明らかに笑う場面でも、感情でも無いだろうに。


「さて、ミカミちゃん。オーバーの事聞かせてよ」


三上は無言で僕の隣を離れ、レイと名乗った男と闇に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ