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第8話:ぽかぽかお風呂と、綺麗な未亡人との甘〜い時間?〜新しい事務員さんも土下座で入社希望です!〜

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

永禄三年(一五六〇年)五月下旬


 遠江国・引馬城ひくまじょうを、文字通り「物理的な更地」へと変えた第三三四独立混成連隊の歩兵第二中隊は、九四式六輪自動貨車の荷台に揺られながら、相良の衛戍地えいじゅちへと帰還する途上にあった 。


 車列が泥濘でいねいの街道を進むたび、ほろの張られた荷台の兵士たちの身体は大きく上下に跳ねた 。彼らの軍衣には、激しい白兵戦の証である返り血や肉片は一切付着していない 。染み付いているのは、自動貨車の排気ガスに含まれるひまし油のすすと、陣地転換の際に這いずった遠江の泥だけだ 。


 中世の城郭を一つ、城主一族もろとも完全に消滅させるという軍事行動を完遂したにもかかわらず、彼らの表情には「死線を潜り抜けた高揚感」も「敵を討ち取った武功の誉れ」もなかった 。あるのはただ、単調な土木作業を終えた後のような、ひどく気怠い疲労感だけである 。


「……おい、煙草ピース持ってる奴いねえか。さっきの揺れで、俺の分、水溜まりに落としちまった」


 荷台の隅で、九九式短小銃を股の間に挟んでいた二等兵がぼやいた。


「馬鹿野郎、こんな時代に貴重な恩賜おんしの煙草を無駄にしやがって。ほれ、半分吸いかけでよけりゃくれてやるよ」


 古参の上等兵が、短くなった煙草を放り投げる 。二等兵は器用にそれを受け取り、燐寸マッチを擦った。紫煙が、荷台の上の汗臭い空気に混ざる。


「それにしてもよ」


 上等兵は、九九式軽機関銃の銃身をウエスで拭きながら、吐き捨てるように言った。


「今日の『草むしり』は、呆気なかったな。まさか城門が吹き飛んだ後、土塁の上で一列に並んで的になってくれるとはよ。あのちょんまげの連中、こっちが機関銃撃ってるのに、逃げようともしねえのな。あれが武士の意地ってやつか?」


「馬鹿言え。腰抜かして動けなかっただけだろ」


別の兵士が鼻で笑った。


「あいつら、俺たちの軽機を『連発する巨大な火縄銃』か何かと勘違いしてやがったんだ。だから、一発撃った後の装填の隙を突いて槍で突っ込もうと、馬鹿みたいに待機してやがった。……三十発が一瞬で飛んでくるとも知らねえでよ」


「おかげで、こっちは満州での的撃ち演習より楽だったぜ。肩が凝ったのは、銃の反動のせいだけだ。……だけどよぉ」


 二等兵が、短くなった煙草を指先で摘まみながら、ふと暗い顔をした。


「あいつらも、同じ日本人なんだよな。言葉だって、まあ大体通じるしよ。抵抗しねぇ女子供たちまで……俺たち、とんでもねえ罰当たりなことしてんじゃねえのか?」


その言葉に、荷台の空気が一瞬だけ重く沈んだ。


 彼らは昭和二十年の皇軍兵士だ。天皇陛下のために戦い、同じ大和民族としての誇りを胸に刻み込まれてきた。それが今や、数百年前の祖先たちを、まるで害虫を駆除するように機関銃で薙ぎ払っているのだ 。正気の沙汰ではない 。


「……阿呆」


 部隊の隅で目を閉じていた歴戦の下士官、星勘太ほし かんた曹長が、静かに、しかし凄みのある声で言った。


「お前、昨日頭ン中に響いたあのふざけた神様の声を忘れたのか。俺たちの知ってる日本は負けるんだよ。んで、ずっと未来ででっかい爆弾落とされて、全部真っ白になって消えちまうんだ。……大佐殿が言ってただろ。俺たちが今やってるのは、その病気の元を絶つ作業なんだよ。武士なんていう、威張るだけのダニどもを血を残さねえ様に根こそぎな」


「わ、わかってますよ、曹長殿」


「なら黙ってろ。俺たちは今、神様の手伝いをしてるんだ。……それに、どうせ死ぬなら、満州の雪原で腹空かせて凍え死ぬより、この時代で温泉浸かって、腹いっぱい飯食って死ぬ方がマシだろうが」


 星曹長の言葉に、兵士たちは力なく笑い、同意した。


 そうだ。彼らは無意識のうちに己の魂を悪魔に売り渡すための「言い訳」を必要としていた。圧倒的な文明の落差は、相手を人間ではなく「動く的」や「歴史のバグ」として認識させる。自分たちは未来を救う神の使いであり、新国家の建設者なのだと。そう思い込まなければ、殺戮の狂気で脳髄が破裂してしまうのだ。


 自動貨車の車列が相良の谷間に入ると、濃厚な硫黄と重油の匂いが彼らを包み込んだ。それは彼らにとって、もはや懐かしい「故郷」の匂いになりつつあった。




相良衛戍地、厚生エリア。


 豊富な重質油を燃やして沸かした巨大なトタン張りの大浴場では、泥と硝煙にまみれた兵士たちが、巨大なコンクリートの湯船に身を沈めながら、極楽のような声を上げていた。


「ああぁぁ……骨の髄まで生き返るぜぇ……」


「おい、石鹸の使いすぎだぞ! 補給がいつあるかわからねえんだからな!」


「馬鹿野郎、結城のオヤジの部下が、ひまし油の搾りかすと灰から新しい石鹸を試作してるって話だぜ。この谷にゃ、何でも作れる魔法使いが揃ってんだからよ」


 湯気と男たちの汗の匂いが立ち込める中、彼らはもはや「人を殺した」という忌避感を完全に忘却の彼方へと追いやりつつあった。熱い湯船、配給されるふかし芋とわずかな酒 。そして、決して空から焼夷弾が降ってくることのない、安全な中世の空。


 ここは地獄の日本軍にあって、間違いなく奇跡のようなオアシスだった。彼らはこの狂った世界で生き残るため、そして何よりこのささやかで豊かな日常を守るために、どれほど冷酷な殺戮者にもなれる。彼らはすでに、櫻井大佐という冷徹な指揮官の完璧な手足―「暴力の装置」として完成しつつあった。





その夜。

私は連隊本部の執務室で、民間人のトップである結城蔵人ゆうき くらんど所長と、薄暗い予備バッテリー駆動の電球の下で向かい合っていた。


「……大佐殿。歩兵大隊からの報告書、および弾薬・燃料の消費決算書、目を通させていただきました」


結城所長は、手元の分厚い帳面を神経質に指先で叩きながら、極めて冷ややかな声で言った。


「引馬城という無価値な木造建築を一つ消し去るために、自動貨車のガソリンを数十立米、七十五粍榴弾を十六発、七・七粍弾を約二千五百発消費しています。……ご存知ですか、大佐殿。我々のコンビナートの弾薬製造ラインは現在、手詰めの家内制手工業レベルです。無駄な暴力は、我々の生存可能期間を削るだけです」


「無駄ではないさ、所長」


私は、煙缶はいざらに恩賜の煙草の灰を落としながら、薄く笑った。


「あれは、この時代の人間たちに『我々には絶対に逆らえない』と魂の底まで理解させるための、初期投資だ。引馬城の消滅により、周辺の国人領主たちは、我々の火力を『戦術』ではなく『天災』として認識する。これであの周辺のダニどもは、完全に戦意を喪失する。長期的に見れば、反乱鎮圧の手間が省け、弾薬の節約になる」


「……相変わらず合理的な考え方に感服しますよ。叛徒制圧と一緒だとおっしゃるんですね。ですが、更地にした後の領地はどうするおつもりですか?」


 結城所長は、丸眼鏡の奥の目を鋭く光らせた。


「軍人さんたちが更地にするのは結構です。ですが、我々の施設と衛戍地を維持するには、周辺の農村からの食糧供出と、何より『労働力』が不可欠です。武士を殺し尽くした無政府状態の土地では、農民も逃げ出し、経済が死にますよ」


「だからこそ、あんたの出番だろう」


 私は身を乗り出し、机の上に遠江・三河の広域図を広げた 。


「明日以降、我々の圧倒的な暴力に震え上がり、軍門に下ると泣きついてくる国人領主や村名主が現れる。彼らの処理は、あんたとウチの輜重中隊に任せる。……俺たちは彼らの領地から、刀狩りならぬ『武士狩り』を行い、特権階級を解体する。そして、農民たちに我々のインフラを見せつけ、新しい法の下に生きていかせるのさ」


結城は、帳面を閉じ、深く頷いた。


「先ずは度量衡の統一ですね。この時代の不合理な『石高こくだか』や、バラバラのますの規格を廃止し、我々の『メートル法』と『キログラム』を強制する。それから関所をすべて焼き払い、ヒトとモノの移動を自由化する。……ええ、それこそが私が夢見た、完全なる計画経済都市の第一歩です。そのためなら、軍人さんたちの『荒事』の後始末、喜んで引き受けましょう」


「ふん、計画経済と言うのはアカの専売特許だとは思ったが、それもいいだろう。頼むぞ。我々はこれから、この泥と血に塗れた中世に、鉄とコンクリートの根を張り巡らせるのだからな」


 結城が退室した後、私は一人、静まり返った執務室でタバコの煙をゆっくりと吐き出した。

 冷徹な指揮官を演じてはいるが、私の内面は、決して一枚岩の鋼鉄ではない 。昭和二十年のあの日、妻の不貞を目撃し、離縁状を叩きつけて以来、私の心の中には常に「虚無の空洞」が空いていた。軍という組織の中で出世し、お国のために命を捧げることだけを己の精神的支柱にしてきた。だが、その皇国すら降伏し、未来で滅びる運命にあると知った今 私が抱える孤独と絶望は、この中世の闇よりも深く、冷たかった。




(……少し、頭を冷やすか)


 私は椅子から立ち上がり、執務室を出て、コンビナートの工業区画へと足を向けた。


 夜間も休むことなく稼働し続ける精留塔の炎が、空を赤く染めている。硫黄の匂いと、ひまし油の焦げる匂いが入り混じる、この相良特有の空気。そして、一定の間隔で地響きを立てて原油を汲み上げるポンピングジャックの単調な金属音。


 それはまるで、この狂った異世界で生きる我々全員の命を繋ぐ、巨大な「機械の心臓」の鼓動のように聞こえた。


 ふと、谷の最深部にポツンと建つ、厚い土塁に囲まれた小さな木造の建屋に明かりが灯っているのが見えた。


「危険棟」―雷管工房である。


 私は無意識のうちに、その建屋へと歩み寄っていた。静電気による引火を防ぐため、入り口で軍靴を脱ぎ、備え付けの草履に履き替えて中に入る。


 そこは、常に床に水が撒かれ、冷やりとした湿気が漂う異常な空間だった。少しの摩擦や衝撃で大爆発を起こす「雷酸水銀」を扱う、この要塞で最も死と隣り合わせの職場である。

 薄暗い裸電球の下で、一人の女性が黙々と作業をしていた。


 雷管手詰ハンドロード工房の職長、神崎玲子(かんざき れいこ)。元・高等女学校の理科教師であり、数年前に夫を病で亡くしたという二十八歳の未亡人である。


 彼女は、ガラス棒の先につけた微量の起爆薬を、使用済みの雷管の小さな真鍮のカップに、息を殺して詰め直していた。その横顔は、大理石の彫刻のように白く美しく、そしてこの狂った世界から完全に切り離されたかのように、静謐せいひつだった。


「……夜分にすまない。まだ作業をしているのか」


 私が声をかけると、彼女はピタリと手を止め、静かに振り返った。


「大佐殿。……ええ。明日のノルマ分が、少し遅れておりましたので」


 彼女の声は、冷たい湧き水のように透き通っていた。


「ここは危険です。軍服の金具が擦れて火花が散れば、私も大佐殿も、木っ端微塵ですよ」


「構わんさ。もしここで吹き飛べるなら、それもまた一つの救いだろう。さすがにタバコは吸わんがね」


 私は自嘲気味に笑い、冷たい板壁に寄りかかった。


「……今日、引馬の城を一つ、灰にしてきた。我々は、この国を救うという大義名分を掲げながら、やっていることはただの残虐な殺戮者だ。……あんたから見ても、我々軍人は救いようのない狂人に見えるか?」


 私がなぜ、彼女にそんな弱音めいたことを口走ったのか、自分でもわからなかった 。指揮官として決して見せてはならない脆さ 。だが、彼女の持つ、すべてを達観したような静かな瞳が、私の内なる虚無を暴き出したのかもしれない。


 玲子は、作業台の上の湿った布でそっと手を拭き、傍らの土瓶から湯飲みに茶を注いで、私に差し出したた。


「……麦茶です。冷めていますが」


 私はそれを受け取り、一口飲んだ。焦げた麦の素朴な味がした。


「狂人だとは思いません」


 玲子は、静かに、しかし確かな強さを持った声で言った。


「私は教師でした。純粋な生徒たちに『お国のために命を捧げよ』と教え、天皇陛下は神であると説き、何人もの教え子を戦地へ送り出しました。……でも、あの頭に響いた未来史が本当ならば。私の教えは、子供たちを無駄死にさせただけの、ただの嘘だったことになります」


 彼女の瞳の奥に、深く暗い悲しみの色が揺れた。


「私たちは、ただの燃えやすい肉の塊に過ぎなかった。……だから、大佐殿たちが古い歴史の嘘を破壊し、理不尽な身分制度を壊して新しい国を作ろうとなさるなら。どれほど残酷な道のりであろうと、私はこの火薬を詰め続けます。二度と、教え子たちが理不尽な死を迎えずに済む、新しい朝を迎えるために」


 私は、言葉を失った。


 彼女の手を見た。薬品で荒れ、火薬の煤が染み付いた、細く白い手。その小さな手が、この要塞の火力を、そして我々の野望の根底を支えているのだ。


「……強いな、あんたは」


 私は、湯飲みを持ったまま、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。五年間、冷たく凍りついていた私の胸の奥に、微かな、本当に微かな熱が灯るのを感じた。


「強くなどありません。……ただ、絶望するのに疲れただけです」


 玲子は、少しだけ、本当に少しだけ、唇の端を緩めて微笑んだ。それは、火薬の匂いと死の恐怖に満ちたこの部屋で咲いた、一輪の白い花のような微笑みだった。


「大佐殿。お風邪を召しますよ。本営にお戻りください」


「ああ……そうさせてもらう。邪魔をしたな」


 私は湯飲みを返し、逃げるように危険棟を後にした。夜風が火照った顔を撫でる 。


……馬鹿な男だ。この地獄の底で、齢四十五にして、女の微笑みに動揺するなど。だが、その夜の私は、時間の底に落とされて以来初めて、未来の業火の悪夢を見ることなく、深く眠りにつくことができた。




時が過ぎ、五月三十日


 引馬城の消滅と「武士階級のみを狙った殲滅」という事実を前に、三河の松平元康が「生存への完全なる屈服」を決断してから数日が経っていた。


 その日の朝、相良衛戍地の正門前に、異様な一団が姿を現した。立派な着物を纏いながらも、全身泥まみれになった十数人の男たちである。


 彼らは大小の刀はおろか、脇差一本、護身用の短刀すら持っていなかった。完全な非武装。そして彼らは、正門を固める土嚢の前に、まるで雨に濡れた捨て犬のように、深く深く泥の中に平伏していた。


「大佐殿」


 乾中尉が、足早に執務室に入ってきて報告した。彼の無表情な顔にも、微かな緊張が走っている。


「正門に、降伏の使者が参りました。……三河の、松平元康と名乗る男が、完全な非武装で恭順を申し出ております。供回りは十名ほど。石川数正、服部半蔵正成といった名があるようです。彼らは武士を捨てると申しているそうです」


 私は、手にしていた書類をゆっくりと机に置いた。あの夜の、微かな人間らしい感傷は、すでに完全に心の奥底へと封じ込めてある。私は再び、冷徹にして傲慢な征服者の仮面を被り、立ち上がった。


「来たか」


 私は軍刀を腰に帯びた。


「戦国の究極の現実主義者リアリストが」


 松平元康。のちに徳川家康と名乗り、この国に二百六十年の停滞した平和と、絶対的な身分制度を完成させるはずだった男。引馬城の完全消滅という事実から、我々が「領地」ではなく「武士という階級そのもの」を標的にしていると正確に読み解き、己の誇りも家名もすべて泥の中に投げ捨てて、生き残る道を選んだ天才。


「通せ」


 私は執務室を出て、野外の指揮所へと向かった。


「我々の新しい国家の最も優秀な統治者候補の顔を、拝ませてもらおう」


 私が正門の前に立つと、泥の中に平伏していた一団の先頭の若者が、ゆっくりと顔を上げた。


 額には泥がこびりつき、まげは乱れ、三河からここへ至るまでの数日間の過酷な道程を物語っていた。だが、その瞳だけは違った。恐怖に震えながらも、決して死んでいない。絶望のどん底にいながら、この理不尽な神の軍から何一つ見落とすまいと、周囲の製油所設備や、歩兵たちの装備を、餓狼のような目で観察し、吸収しようとしていた。


「……三河の松平蔵人佐(くろうどのすけ)元康(もとやす)にござる」


 若者は、ひび割れた唇から、地を這うような声を絞り出した。


「我が命、我が三河の土地、民草……すべて、貴方様方に捧げまする。どうか、我らを御使いくだされ」


 武士としての死。そして、新たなる「実務家」としての誕生。


 私は、彼を見下ろしながら、腹の底から湧き上がる黒い笑いを噛み殺した。


おもてを上げよ、松平元康」


 私は、冷酷な宣告を下した。

「今日この瞬間より、貴様は武士ではない。我、連隊の見習いだ。……歓迎するぞ、新しい世界へ」


歴史の歯車は、容赦なく、そして凄惨に、未知の軌道へと回転を始めていた。



第8話了

地味で美人の未亡人って最高じゃないですか?

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