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第7話:クレーマーなご近所さんはお断り!〜迷惑なお城は燃やして、スッキリ解決しちゃいます〜

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

永禄三年(一五六〇年)五月十九日


 尾張国は田楽狭間でんがくはざまにおいて、今川義元と織田信長というこの時代を象徴する二つの巨大な星が、文字通り「物理的に消滅」した 。


 情報伝達すら早馬と足軽の駆け足に依存するこの泥濘でいねいの時代にあって、田楽狭間での惨劇が正確な事実として周辺諸国へと波及するには、数日の時間を要した 。


 だが、奇跡的に挽肉ひきにくとなることを免れた敗残兵たちがもたらした断片的な光景


「空から火が降り、両軍が一瞬で消え去った」


「南蛮の妖術使いが、鉄の牛に乗って山を喰らっている」


という報告は、おぞましい怪談となって尾張、三河、そして遠江とおとうみの国人領主たちの間に恐慌パニックを引き起こしていた 。


 しかし、いつの世にも、己の知能と常識の限界を超えた事象を直視できず、既存の矮小な枠組みの中で都合よく解釈しようとする阿呆は存在する 。この時代では旧態依然とした権威にすがり、己の血筋と刀の切れ味だけを狂信している特権階級、すなわち「武士」たちである 。




五月二十二日  遠江国・相良


 我々第三三四独立混成連隊が構築した、泥と油の匂いが立ち込める衛戍地えいじゅちの正門前 。


 この堅牢な陣地に、数十人の武装した騎馬武者と足軽が、土煙を上げて威風堂々たる態度で乗り込んできた 。遠江国における今川方の有力国人であり、引馬城ひくまじょうを居城とする飯尾連龍いいお つらたつの使者であった 。


「我こそは、引馬城主・飯尾豊前守ぶぜんのかみが名代! 

貴様ら、得体の知れぬ武器を用いる南蛮の傭兵崩れと見受けた!

今川の御屋形様が討たれ、遠州は今や動乱の坩堝るつぼ! 

孤立した貴様らも心細かろう! 

我が飯尾家に恭順し、その奇妙な荷車と火筒を差し出すならば、末代まで面倒を見てやろうぞ! 」


 正門を固める土嚢の向こう側で、色鮮やかな鎧兜に身を包んだ使者の侍が、馬上でふんぞり返りながら声高に叫んだ 。


 彼らは決して知能が低いわけではない。


 中世の軍事常識に照らし合わせれば、主家を失った土地で独立勢力が孤立した場合、近隣の有力者に吸収されるのが最も合理的な生存戦略であるからだ 。


 彼らは、我々の陣地の奥に黒々と鎮座するトッピングプラントの巨大な精留塔や、太陽光を鈍く反射するハーフトラックを見ても、それを「少し変わった強力な武器を持つ野盗の群れ」程度にしか認識できていなかった 。未知の圧倒的な技術格差を、己の知る『戦国』という矮小な盤上の駒として計算してしまうという、致命的な錯誤を犯していたのだ 。



 私は、正門の土嚢の裏に設営された前線指揮所の天幕で、欠けた軍用陶器に注がれた粗悪な茶を啜りながら、その滑稽な光景を冷ややかに眺めていた 。


「…いぬい中尉。あの道化は、何を喚いているのだ? 」


「はっ。要約しますと、『お前たちはパトロンを失って困っているだろうから、俺たちの家来になれ。武器を寄越せば少しは偉くしてやる』とのことです、大佐殿」


 副官の乾中尉が、眉一つ動かさずに軍規通りに通訳した 。隣に座る黒田首席参謀が、手元の計算尺をカチリと弾きながら、氷のような息を吐く 。


「事態の推移と、彼我の絶望的な戦力差すら計算できない劣等な知能ですね。今川義元という巨大な傘が消滅したことで、周辺大名の草刈り場になる前に、我々の火力を己の権力闘争に利用しようという、ひどく浅薄な魂胆でしょう」


私は茶碗を野戦机に置き、軍服のしわを伸ばしながらゆっくりと立ち上がった 。


「我々は誇り高き大日本帝国陸軍だ。無知な野蛮人にも、軍法に則った最後通牒アルティメイタムを与えてやらねばならん」


私は土嚢の上に靴音を響かせて立ち、馬上から見下ろしてくる使者の侍を、虫けらでも見るような冷徹な眼差しで見据えた 。


「私は第三三四独立混成連隊長、櫻井大佐である。飯尾家の使者とやらに通告する。我々は貴様らのような時代遅れの山賊どもと交渉する意思は一切ない。一族郎党すべて武装を解除し、領地を明け渡し、我が軍門に下るならば命だけは助けてやる。…回答の猶予は一分だ」


 使者の侍は、一瞬呆けたような顔をし、次いで血が沸騰したように顔を真っ赤にして激昂した 。


「貴様ッ! たかが素性の知れぬ傭兵風情が、誇り高き武士に向かって何たる妄言! 交渉は決裂ぞ! 斬り捨てい! 」


 侍が軍配を振り下ろすと同時に、騎馬武者たちが一斉に抜刀し、土嚢陣地へ向かって甲高い怒声と共に突撃を開始した 。


 私は呆れ果てて小さく息を吐き、革手袋をはめた右手を軽く振った 。


「…やれ」


 号令と同時だった 。正門の両脇の土嚢に据え付けられていた九二式重機関銃、通称「啄木鳥きつつき」が、腹の底を揺らすような特有の重低音を響かせて火を噴いた 。


 毎分四百数十発の七・七粍ミリ弾が、扇状の猛烈な十字砲火の弾幕となって、突撃してくる騎馬武者たちに無慈悲に襲い掛かる 。


「あ、がっ! 」


 先頭を駆けていた使者の胴体が、見えない巨大なのこぎりで挽き切られたように真っ二つに裂け、赤黒い臓物を泥濘にぶちまけながら落馬した 。


 続く武者たちも、己の身に何が起きたか理解する暇すら与えられなかった 。彼らが絶対の自信を持っていた華美な当世具足とうせいぐそくなど、近代の被甲弾フルメタルジャケットの前には何ほどの防御力も持たない 。馬の頭蓋骨がトマトのように弾け、足軽たちの手足が飴細工のように千切れ飛び、文字通り「血の霧」が相良の泥土に降り注いだ 。


 わずか十秒 。三十発の保弾板を次々と撃ち尽くし、放熱フィンを備えた銃身から濛々《もうもう》と白煙と硝煙の入り混じった死の匂いを立ち昇らせる重機関銃の前には、もはや原型を留めて動くものは何一つ残っていなかった 。


「歩兵大隊長、武田少佐」


 私は、鼻腔を突くむせ返るような血と硝煙の匂いを嗅ぎながら、微塵の感情も交えずに命じた 。


「今の礼儀知らずどもの本拠地は、浜名湖の東、引馬城と言ったな。徹底的な排除を行う。装甲兵車は置いていけ。燃料の無駄だ。歩兵第二中隊および大隊砲兵中隊、工兵一個小隊を随伴させろ。自動貨車(トラック)で城の二キロ手前まで進出し、以後は徒歩で接近しろ」


 武田少佐が、太い首をゴキリと鳴らし、獣のような獰猛な笑みを浮かべた 。


「はっ。城もろとも、周辺の武士どもを一人残らず駆除してまいります」


「待て。一つ条件をつける」


 私は、武田の好戦的な目を真っ直ぐに見据え、言葉の重みを乗せて告げた 。


「あの城郭を、物理的にこの世から完全に消し去れ。武士どもが拠り所とする強固な防壁など、我々の前ではわらの家同然であると、周辺のダニ共に視覚的かつ徹底的に理解させる必要がある」


 合理主義の化身である黒田少佐が、不快げに眉をひそめた 。


「大佐殿。城郭を完全に更地にするには、膨大な燃料と爆薬を消費します。費用対効果コストパフォーマンスが合いません」


「これは初期投資だ」


 私は一切の反論を許さぬ語気で言い切った。


「圧倒的な恐怖の流布は、以後の平定作業における弾薬消費を劇的に抑える。武田、工兵と打ち合わせしてガソリンと黄工薬を必要量を2割増しで積ませろ。骨組み一本残さず焼き尽くしてこい。無論、白旗を上げようが、一切の降伏は認めるな」


「了解いたしました。地獄の釜を開いてまいりましょう」





翌五月二十三日 。遠江国・引馬城 。


 飯尾連龍が居城とするこの平城は、周辺の国人領主の拠点としてはそれなりに堅牢な水堀と、高くそびえる土塁を備えていた 。守る兵力はおよそ千 。彼らは昨日、使者が誰一人として帰還しなかったことから、得体の知れない敵の襲来を予期し、堀に柵を巡らせ、弓と鉄砲を構えて厳戒態勢を敷いていた 。


 城から二粁離れた鬱蒼とした街道で自動貨車を降りた武田少佐直率(じきそつ)の歩兵第二中隊は、分隊ごとに正確な散兵線を敷きながら、足音も立てずに粛々と城へと接近した 。


 また、大隊砲兵中隊の一式機動四七粍速射砲と九七式曲射歩兵砲は人力で、前日の三式指揮連絡機による航空偵察により定めたそれぞれの砲撃位置へ移動していった。速射砲は距離一キロの城郭への見通しがきく場所に、曲射歩兵砲は距離五百メートルの遮蔽物がある丘の脇へ。


「速射砲小隊、放列布ほうれつしけ」


 砲兵中隊長の号令により、速射砲が、熟練の砲兵たちの無駄のない手つきによって瞬く間に射撃準備が整えられた。


 速射砲の標的は、城の正門である威圧的な木造の薬医門、およびその両脇の矢倉だ 。


「目標、正門。榴弾、瞬発信管。てッ! 」


 空気をつんざく甲高い砲声が二つ重なり、四十七粍の榴弾が一直線に城門へと殺到した 。


 轟音と共に、樹齢数百年の大木を用いたはずの強固な門扉が、無数の無残な木片となって吹き飛び、矢倉の上にいた弓足軽たちが爆風で血だるまとなって、泥水なみなみとたたえる堀へと転落していく 。


「な、何事じゃ! 敵の石火矢か! 威力が違いすぎるぞ! 」


 城内から、具足の音をガチャガチャと鳴らして侍たちがなだれ出てくる 。彼らは門が吹き飛んだ理屈がわからず、土塁の上から必死に周囲を見回した 。しかし、戦国の歴戦の武将として、彼らの動きは決して愚かではなかった 。即座に弓隊を前列に並べ、後方から鉄砲隊が火縄にチロチロと火をつける 。


「よし、距離を詰めるぞ。各小隊、躍進やくしん! 」


 武田少佐が吹く笛の甲高い音を合図に、大日本帝国陸軍の歩兵たちが、無言のまま死神のように距離を詰めていく 。彼らは中世の兵のように密集して突撃などしない 。地形のわずかな起伏に身を隠し、分隊ごとの相互支援カバーリングを機械的な正確さで徹底する 。


「敵はあそこじゃ! 放て! 」


 城の土塁から、雨あられと和弓の矢が降り注ぎ、数十丁の火縄銃が一斉に白煙を噴き上げた 。


 だが、有効射程が五十メートルそこそこの火縄銃や、初速の遅い和弓の矢は、泥まみれになって散開して進む近代歩兵たちを捉えきれない 。


「機関銃分隊、制圧射撃。擲弾筒てきだんとう分隊、土塁の裏を洗え」


 歩兵たちが小脇に抱えた三〇発入り箱型弾倉の九九式軽機関銃が火を噴き、正確無比なバースト射撃が、土塁の上に身を乗り出した侍たちの頭を次々とスイカのように吹き飛ばしていく 。


 火縄銃は次弾装填に時間がかかりすぎる 。その致命的な隙間を、軽機関銃の猛烈な連射が容赦なく死で埋め尽くした 。


 さらに、八九式重擲弾筒が「ポン」という間の抜けた音を立てて榴弾を空へ放り投げた 。放物線を描いた小柄な榴弾が、土塁の裏側に隠れていた足軽たちの頭上に極めて正確に落下し、炸裂する 。


「ぎゃあああっ! 」


「防げぬ! 盾が紙のように割れるぞ! 」


 引馬城が誇った堅牢な防御機能は、開戦からわずか三十分で完全に沈黙した 。


 武田少佐は、黒焦げになって吹き飛んだ城門の跡から、散歩でもするような悠然とした足取りで部隊を城内へと突入させた 。


 刃を交える白兵戦など起こりようがない 。決死の覚悟で名槍を構えて突っ込んでくる武者がいれば、数人の歩兵が九九式短小銃のボルトを引き、冷酷なまでに事務的な動作でその胸板を撃ち抜いていくだけだ 。金属的なボルトの作動音と、熱を帯びた空薬莢が泥に落ちるチャリンという音が、工業的な殺戮さつりくの旋律として城内に響き続ける 。


 本丸の御殿から、威風堂々たる大鎧おおよろいを着込んだ城主・飯尾連龍が、数名の側近と共に転び出るように現れた 。


「おのれ、卑怯な妖術使いども! 我こそは飯尾豊前守連龍! 潔く一騎打ちで勝負せ―」


 乾いた小銃の音が一つ響き、名乗りを上げていた連龍の額の真ん中に、ぽっかりと黒い風穴が開いた 。


 武家の誇りを胸に撃たれた彼を撃ち抜いたのは、分隊長である歴戦の下士官である 。彼はボルトを引いてチンと空薬莢を弾き飛ばすと、それを拾い上げポケットに入れた。そして作業工程を確認するような無表情な声で分隊に指示を出した 。


「敵将沈黙。次、右の建物から出てくる奴らを掃討しろ。薬莢拾いを忘れるな!」


 功名のために首を討ち取るような、前時代的で非衛生的な真似はしない 。ただ純粋に効率をもって、城内にいた「武士」という武士を皆殺しにする 。城内にいたものは、農民上がりの小者であろうと、女子供であろうと一切選別せずに、すべて撃ち殺していった。


 抵抗が完全に止んだ後、後方で待機していた工兵小隊が静かに動き出した 。


 彼らは背負ってきたドラム缶から、ドロリとした重油を引火性の高いガソリンに混ぜた液体を、本丸の御殿や土蔵、隅櫓の壁に惜しげもなくぶち撒けていく 。さらに、建物の主要な柱の根元に、導火線を結んだ黄工薬の包みを事務的に仕掛けた 。


「点火! 」


 大爆発が連鎖し、引馬城の中枢部が腹の底に響く轟音と共に崩れ落ちた 。


 直後、撒かれた油に火が放たれ、城郭全体が巨大な火柱となって薄暗い天を焦がした 。数百年の歴史を持つ権力と支配の象徴は、わずか半日のうちに、黒焦げの柱一本すら残らない完全な灰燼かいじんへと姿を変えたのである 。


 武田少佐は、焼け落ちていく凄惨な城を背に、戦死者ゼロという完璧な戦果のまま、弾薬と燃料の消費量だけを野帳に几帳面に記載し、トラックの荷台に揺られて相良へと帰還していった 。





 この引馬城の完全消滅という事実は、中世の人間たちが血と泥で築き上げてきた「戦の作法」を根底から無価値なものへと破壊する、決定的な絶望であった 。


 そして、その地獄が持つ真の意味を、最も正確に、最も震える心で読み解こうと足掻いた男がいた 。三河・岡崎城に帰還していた若き武将、松平元康である 。






五月二十五日 。


 岡崎城の薄暗い奥座敷で、元康は、伊賀忍びの頭領である服部半蔵(はっとりはんぞう)正成(まさなり)からの報告に、背筋を這い上がるような冷たい汗を流し、生きた心地がしなかった 。


 感情を殺したはずの忍びの頭領である半蔵は、普段の冷徹な面影を完全に失い、恐怖に顔を引き攣らせながらその惨状を絞り出すように語った 。


「殿。それがし、遠くから奴らの戦ぶりをしかと見届け、半日経って火が収まったのちに、城の跡地へ潜入いたしました。…あれは、戦ではありませぬ。ただの屠殺とさつにござる」


「屠殺。だと? 」


「はい。奴らは首を一つも取りませぬでした。そればかりか、飯尾の蔵にあった米や金銀、見事な武具を奪うことすらしない。ただ、城内のすべてのものを、まるで畑の害虫を潰すように淡々と殺し…城の隅々まで油を撒いて、すべてを燃やし尽くして去っていきました。領地は手付かずのまま放置されておりまする」


 元康は、肺の奥底まで凍りつくように息を呑んだ 。


 その夜、彼は一睡もできず、重い暗闇の中で血を吐くような自問自答を繰り返した 。戦国の常識において、城を攻め落とす最大の目的は「領地を奪い、自らの富と兵力を増やすこと」である 。金銀を無視し、戦略的要衝である城を占拠せず更地に戻すなど、常軌を逸した狂人の所業だ 。



五月二十六日 。


 元康は、腹心の石川数正を呼び出し、血走った目で激論を交わした 。


「殿。奴らが城を維持せぬというのなら、我らにとっては好機やもしれませぬ。奴らは一箇所に留まる野盗の群れ。ならば、我らは三河の総力を挙げて城の防備を固め、周辺の国人たちと強固な同盟を結んで―」


「数正。お主は何もわかっておらん! 」


 元康は、数正の浅はかな言葉を激しい怒鳴り声で遮った 。


「引馬城は半日で灰になったのだ! 堀も土塁も、奴らの『いかずち』の前には意味を成さん。数万で囲もうが、田楽狭間の義元公のように、一瞬で肉片にされるだけだ! 」


 元康は、爪が手のひらに深く食い込み、血がにじむほど強く拳を握りしめた 。


「半蔵の報告を思い出せ。奴らは金銀を奪わず、農民を殺さなかった。ただ『武士』だけを殺したのだ」


「それが、何を意味すると…? 」


「奴らは、領地が欲しいわけではないのだ。我々の恭順も、武功も、忠義も求めてはおらん」


 元康の脳裏に、田楽狭間の空を黒く覆い尽くした、あの理不尽な爆発と鉄片の嵐がフラッシュバックする 。あの得体の知れない軍勢は、今川を倒して覇を唱えることが目的なのではない 。彼らの真の目的は、自分たちの存在そのものの、「武士」というものの排除なのではないか 。



五月二十七日 。


 三日三晩、極限の恐怖と死の淵で狂わんばかりの思考を旋回させ続けた元康は、ついに一つの冷酷な真理へと到達した 。


(奴らにとって我々は、理由や理屈はわからんが、不要、いや取り除くべきものなのだろう。しかし何故(なにゆえ)に?

我々は、これからの奴らの時代に邪魔な存在なのか。武士が邪魔?

あれ程までのチカラがあれば、武士なぞ何ほどのものでもなかろうに…

チカラがある…


そうか!


国を民を治めるのに、国を民を守るのに十分なチカラがあれば。

…なるほど奴らの治める国には武士はいらないな。

奴らの作る時代には武士はむしろ統治の邪魔者なのだ。

既存の権力者である武士というものが存在する限り、奴らの統治に干渉するは必定。

国を収めるにも、守るにも武力は必須だからだ。


ただ奴らから見れば武士の干渉も協力も不要。

……だとすれば……はじめから面倒なものであるの判っているであれば、先に存在を消し去るのが道理に適う。

従わないのがわかっているのであれば、禍根を残さぬように問答無用で皆殺しと言うのもわかる。

異国では攻め滅ぼされた国では、王族や貴族や武士(騎士)の全てが皆殺しになることもあると言う。それと同じか?

ならば公家は?まさか禁裏もか…⁈)


元康は、き物が落ちたようにゆっくりと立ち上がった 。その顔からは、三河武士の主としての誇りも、天下静謐てんかせいひつという甘い夢も、すべてが削ぎ落とされ、ただ純粋にして醜悪な「生存への執着」だけが、冷たい刃のように鈍く輝いていた 。


「数正、半蔵。直ちに触れを出せ」


元康は、微かな震えすら止まった、氷のような声で命じた 。


「刀を置け。具足を脱げ。全軍に完全な武装解除を命じよ。わしはこれより、わずかな供回りだけを連れ、丸腰で相良へ向かう」


「なっ! 丸腰で、あの地獄の釜の中へ飛び込むとおっしゃるか! 殺されますぞ! 」


数正が喉を引き裂くような悲鳴を上げて叫んだ 。


「殺されるものか」


元康の目には、絶望のどん底から這い上がろうとする、泥にまみれてもなお逞しい野心の火が、妖しく灯っていた 。


「奴らがただの破壊神ならば、とっくにこの岡崎も火の海にしておる。奴らは武士の存在を迷惑だと考え、その誇りを邪魔だと憎み、奴らの新しいことわりでこの日ノ本を塗り替えようとしているのだ。ならば、武士であることを捨て、泥犬に成り下がり、奴らの靴を舐めてでも…」


元康は、自らの腰にあった代々伝わる名刀を外し、無造作に床へと投げ捨てた 。


「儂はあの強さの秘密を、新しい時代の理を、盗み出してみせる」



第7話了

もとやす君、根がまじめだから一生懸命考えましたね。いい子です。


最後までお付き合いいただき感謝します。

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