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第6話:ド派手な花火でご近所さん達もビックリ!〜いらないモノはお掃除して、土地を綺麗に更地にしました〜

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

永禄三年(一五六〇年)五月十九日

未の刻(午後二時)

尾張国、桶狭間近郊・田楽狭間


 大地を執拗に叩きつけていた豪雨が、嘘のように上がり始めていた 。分厚い雲の切れ間から初夏の西日が一条の光となって射し込み、泥に塗れた暗い谷間を劇的に照らし出す 。それは、何百年ものちの歴史家たちが「天が織田信長に味方した奇跡の晴れ間」と記すはずの、完璧な舞台転換であった 。


 今川義元の本陣を眼下に見下ろす裏山の稜線 。そこにはずぶ濡れの南蛮胴を身につけた織田信長と、彼が手塩にかけて鍛え上げた精鋭の馬廻衆が、息を殺して泥の中に伏せていた 。


「…雨が上がるぞ。今川の兵どもは、雨具を脱ぎ、弓のつるを張り直そうと気を抜く」


 信長は、眼下に広がる二万の軍勢―白に二つ引両の旗印がひしめく巨大な陣容を、飢えた狼のような暗い熱を帯びた目で見下ろした 。敵は圧倒的な多勢である 。しかし、頭から尾まで無防備に伸びきっていた 。そしてその「頭」たる義元の本営は、すぐ目の前の谷底に鎮座している 。


「この機を逃すな。狙うは義元の輿こしのみ」


 信長は、腰の太刀の柄を固く握りしめた 。研ぎ澄まされた武将の直感が、今この瞬間こそが己の生涯を決定づける特異点であると叫んでいる 。


「続け! 尾張の泥を舐めて生きてきた我らの牙を、駿河の太守の喉笛に突き立てて―」


 信長が跳ね起き、全軍に突撃の絶叫を下そうと太刀を振り上げた、まさにその刹那せつなだった 。



―ズ、ズゥン…!



 遥か彼方 。東方の山々の奥深くから、地鳴りのような重低音が響いてきた 。

 雷ではない 。


 それは複数の、巨大な何かが腹の底から空気を叩き割ったような、ひどく非人間的な爆音の連続だった 。

 それに少し遅れて



―ドンッ、ド、ドンッ…!



 最初よりは軽いものの、やはり梢を震わすような衝撃音が続いてきた。


 信長は太刀を振り上げた奇妙な姿勢のまま、いぶかしげに東の空を振り返った 。その音は、彼が知る種子島(鉄砲)の乾いた破裂音とは次元が違った 。強いて言えば、巨大な山そのものが真っ二つに割れたような、生理的な嫌悪感を催す響きだった 。


「…殿?」


 馬廻のひとりが、怪訝そうに空を見上げた 。


ヒュルルルルルルルルルッ…!


 突如として、上空の雲を引き裂くような、甲高い風切り音が響き渡った 。それは一つではない 。十、いや十数個の「見えない何か」が、恐ろしい速度で虚空を切り裂きながら、田楽狭間の真上へと落ちてくる音だった 。


「なんだ、あれは…!」


 信長が空を見上げた瞬間 。彼がこれから突撃し、その手で首を討ち取るはずだった「中世の歴史」が、理不尽極まりない未来の暴力によって、呆気なく消滅した 。





「弾着、今ッ!」


 田楽狭間から八千メートル後方 。第三三五独立機動重砲大隊の射撃陣地 。堤大尉が握りしめた秒表ストップウォッチの針が、計算尺で弾き出された着弾時刻を正確に指し示した 。


 その瞬間、田楽狭間の遥か上空で、曳火信管(時限信管)をセットされた九六式十五糎(15センチ)榴弾砲十六門と、機動九一式十糎(10センチ)榴弾砲四門から放たれた砲弾が、十五糎留弾(149.1mm榴弾)は今川の本陣の頭上二十メートルの高度で、十糎榴弾(105mm榴弾)は織田の本陣の同じく高度二十メートルで十秒遅れて、それぞれに一斉に空中爆発を起こした 。


 閃光 。そして、一拍遅れて、空そのものが物理的に砕け散ったような轟音が、尾張の山々を揺るがした 。





「…ッ!」


 床几しょうぎに座り、白扇を開きかけていた今川義元の視界が、真っ白に染まった 。彼に何が起きたかを理解する時間は、一秒たりとも与えられなかった 。


 上空で炸裂した約三十六キロの十五糎榴弾は、その分厚い鋼鉄の弾体を数万の鋭利な破片へと変え、超音速の散弾となって地上へ降り注いだ 。十五糎弾一発の有効殺傷半径は約五十米に及び、十六門の同時着弾だけで、約三万平方メートルに密集した二万五千名全員をすっぽり覆う面積を完全な死の領域キルゾーンへと変貌させた 。


 それは「赤い霧」などという、文学的で生温い死の描写ではなかった 。圧倒的な運動エネルギーを持った鉄の破片は、精巧な当世具足とうせいぐそくを濡れた障子紙のように易々と貫通し、肉体を引き裂いた 。兜は頭蓋骨ごと砕け散り、胴丸は内臓ごとえぐり取られ、馬は首と胴体を切断されて血の噴水を上げながら泥に倒れ伏した 。同時に発生した爆風の超過圧は、兵士たちの内臓を破裂させた 。


「ぎゃああああああああっ!」

「腕が! 腕がああああっ!」

「お館様! お館様をお守り―」


 第一射の同時弾着の瞬間だけで、内臓破裂や四肢切断によって数千名が即死、あるいは戦闘不能の重傷を負ったが、忠勇なる今川の旗本たちは、勇敢にも義元の輿の周りに集まろうとした 。だが、彼らの悲痛な叫びは、続く第二射、第三射の着弾によって、文字通り「肉の破裂音」にかき消された 。


 十五糎重砲の直撃を受けた地面は、巨大なすり鉢状の漏斗孔クレーターを形成し、その場にいた数十人の武将と兵士は、誰が誰だか判別することも不可能な、無惨な挽肉の塊へと変わった。陣幕は引き裂かれて燃え上がり、義元の見事な塗輿も、主の肉体ごと原形を留めぬ木端こっぱと化していた 。


 第一射で生き残った軍馬たちは、近代兵器の爆音と爆風、強烈な閃光を受けて完全に狂乱した 。パニックを起こした馬群は四方八方へ暴走し、二射目、三射目と数を減らしながらも、密集して逃げ場のない自軍の兵士たちを次々と踏み潰していった。連続爆発を神仏の怒りか魔法としか理解できない足軽たちは極限の恐怖に陥り、すさまじい群衆雪崩(ドミノ倒し)を発生させ、瞬時に大量の圧死者を生み出していった。


 地獄の様相を呈する飽和攻撃の中、被害は直接の破片や爆風によるものだけにとどまらなかった。空中で炸裂する砲弾の衝撃波は、地上に転がる刀や槍、砲撃による死者や圧死者の死体、そして持ち主を失った具足をも容赦なく砕き割り、それらが致命的な二次破片となって周囲の生存者を切り刻んでいく 。更に加えて、爆発に伴う超高温の熱は、乾燥していた陣幕や木材などの資材を一斉に発火させ、視界の利かない陣内は業火の吹き荒れる火の海と化した 。


 遥か上空から、目に見えない死の矢が無限に降り注ぎ続ける極限状況。昨日まで語り合っていた仲間たちが瞬く間に原形をとどめない肉片へと変わっていく光景を前に、かろうじて息をしていたわずかな兵士たちも、その精神が完全に崩壊し、狂乱の叫びを上げるほかなかった 。





「ひ、ひぃぃぃぃっ!」


 突撃の直前、丘の稜線でその光景を目の当たりにした織田信長は、生涯で初めて、尻餅をついて無様に泥の中へ後ずさった。彼の覇道、彼の戦術、彼の冷徹な理性のすべてが、眼下で起きた物理現象の前に完全に機能不全を起こしていた。眼前で繰り広げられているのは、いくさではない 。神仏の怒りか、あるいは地獄の釜の底が抜けたとしか思えない、一方的で無慈悲な大殺戮だった 。


 だが近代火砲による制圧射撃は一発撃って終わりではない。遥か後方の砲兵陣地で冷徹な計算尺が弾き出した座標へ向け、十五糎重砲の時限信管が正確に空を割り続ける。


 そしてかっきり十秒後、信長たちの頭上にも十糎榴弾が炸裂した。閃光とともに鉄の土砂降りが陣へ降り注ぐたびに、数百の人間が一瞬にしてただの「血肉の袋」へと変わっていく 。陣幕や楯の裏に隠れていた兵士たちを、容赦なく鋭利な破片が身体を貫いた。名乗りを上げる者も槍を合わせる者もいない 。同時に発生する致死的な爆風(超過圧)は、直接破片を浴びなかった兵士たちの肺胞を内側から破裂させ、眼球や耳孔からどす黒い血を噴き出させて次々と絶命させていく。


 ほぼ同時にそれに追従する九五式野砲および九四式山砲の十二発の七十五ミリ榴弾がが着発信管によって地面で炸裂し、地上を粉砕する爆発を引き起こした。信長の陣を囲む柵、馬防柵、幔幕まんまくが猛烈な爆風で吹き飛ぶとともに、大地がえぐり取られて巨大なクレーターへと変貌した 。最初の数秒で、繋がれていた馬たちは四肢を吹き飛ばされるかパニックを起こして暴走し、織田軍の指揮系統は一瞬にして麻痺した 。


「逃げよ! 逃げよ! あれは人の業にあらず!」


 尾張の精鋭であるはずの馬廻うままわり衆すら、完全に恐慌パニック状態に陥っていた。彼らの鼓膜は連続する着弾の轟音によってとうに破れ、平衡感覚を失いながら泥濘の山を転げ落ちようとする。武士としての矜持も、主君への忠義も、剥き出しの圧倒的な暴力の前では紙屑同然だった。


 だが、逃げ場などどこにも存在しなかった。本能的に地面に伏せて爆風をやり過ごそうとすれば、上空からの榴弾の曳火射撃が背中を串刺しにする 。逆に立ち上がって逃げようとすれば、地上で炸裂する七十五ミリ榴弾の爆風と、巻き上げられた泥や木片の散弾を全身に浴びることになるのだ 。狂気の密度で叩き込まれる弾幕は、第一次世界大戦の塹壕戦すら凌駕していた。


 砲弾の炸裂熱により、引き裂かれた布や砕けた木材が発火するが、激しい爆風がすぐにそれを吹き飛ばすため燃え広がる暇すらなく、ひたすらに爆発の閃光だけが連続する


 計算し尽くされた弾幕が、死角となる谷底や稜線の裏側を舐め回すように炸裂する。爆発のたびに、泥水と千切れた四肢、引き裂かれた内臓の破片が数十メートルの高さまで泥間欠泉のように噴き上がった。地表面を低く薙ぎ払うように広がる爆風と鋼の刃が、這いつくばる残存兵の肉体を容赦なく削り取り、ミンチ状の肉塊に変えていく。咽せ返るような硝煙の臭いと、蒸発した血液の生臭さが周囲をどす黒く染め上げていた。


「あ、がっ…!」


 信長のすぐ隣で、狂乱して逃げ出そうとしていた小姓の胴体が、飛来した榴弾の破片によって真横から両断された。熱を持った鋭利な鋼鉄の刃は、絹の直垂ひたたれもろとも小姓の腹部を深く抉り切り、切断された上半身が不自然な角度で宙を舞う。残された下半身からは、鮮血と共に赤黒いはらわたと内容物が泥土の上へどさりとぶちまけられた。


その凄惨な光景と、直後に襲いかかった熱波を伴う爆風が、信長の身体を泥水の中へと無慈悲に吹き飛ばした。陣があった場所はすでに戦場(いくさば)ではなく、次々に降ってくる着発弾によって隠れ場ごと土をえぐり取られ、何度も掘り返された耕された泥の荒野へと変貌しつつあった 。


「お、のれ…いずこの神仏が邪魔を立てるかぁぁぁッ!」


 泥と、最も愛した小姓の生温かい臓腑の血にまみれた信長は、顔の半分を真っ赤に染めながら狂ったように天へ向かって絶叫した。この理不尽な破壊をもたらしたのが人間であるなどと、彼の頭脳は最後まで理解を拒絶していた。神か、悪魔か。どちらにせよ、己の覇道を阻む理不尽な超常の存在への底知れぬ怒りと絶望。


 だが、近代軍事の数学的システムは、一人の天才の叫びなど歯牙にもかけない。榴弾の曳火射撃が面の生命体を徹底的に刈り取り、着発射撃が点と構造物を物理的に破砕する 。絶対に防げない二段構えの砲撃戦術が容赦なく続く 。


 無情なる、次弾着弾。


 信長の足元の泥土に突き刺さった七十五ミリ野砲弾が、着発信管を正確に作動させた。


 閃光。


 尾張のうつけの絶叫も、彼が築くはずだった天下布武の未来も、超音速で膨張する摂氏数千度の火球と鋼鉄の嵐の中に吸い込まれた。すでに肉片と木端になったものをさらに細かくすり潰すだけの最終段階において 、信長も、彼の名将たちも、誰が誰であったか判別することすら不可能な状態となり、跡形もなく消え去ったのである 。





「…砲撃、止め」


 後方の砲兵陣地 。堤大尉が、温度を持たない冷え切った声で射撃の中止を命じた 。約十分間にわたって火を噴き続けた砲身からは、濛々(もうもう)と白煙が立ち昇り、周囲の空気には硝煙の刺すような匂いが充満している 。


 私は、射撃陣地の横に停めた九五式小型乗用車の発動機覆ボンネットに腰掛け、双眼鏡を静かに下ろした 。遥か遠く、田楽狭間の方角からは、天を焦がすような黒煙が立ち昇っていた 。終わったのだ 。中世のロマンも、武士の誇りも 。すべてが、我々の撃ち込んだ数百発の榴弾によって、無価値な鉄屑と肉片の山に変わった 。


「見事な効力射だ、堤大尉」


 私が煙缶はいざら代わりにしている空の薬莢に恩賜のタバコの灰を落とすと、堤大尉は分厚い眼鏡の奥の目を細め、静かに敬礼した 。


「はっ。今川の本営、および織田勢とほぼ確定していた軍勢が突撃しようと陣を張っておりました周辺の稜線に至るまで、完全に更地にいたしました。生存者がいたとしても、戦闘能力は皆無かと」


「武田少佐。二階堂少佐」

 私は、傍らで戦慄の表情を浮かべながら煙を眺めていた歩兵大隊長と戦車大隊長に声をかけた 。


「演目の時間は終わりだ。これより舞台の清掃作業に入る。

残存兵を掃討しろ。降伏する者は生かして捕虜にせよ。だが、刃向かうものは、一人残らず轢き潰せ」


「了解しました」

 二階堂少佐が、狂気じみた優雅な笑みを浮かべて戦車帽を被り直した。





 地響きを立てて、三式中戦車十両、九七式中戦車四両、そして一式半装軌装甲兵車十四両に分乗した一個中隊の機動歩兵が、田楽狭間へと進撃を開始した。


 谷底へ降り立った戦車兵と歩兵たちが直面したのは、もはや「戦場」と呼べる光景ではなかった。それは、二万数千人分の人間と数百頭分の馬をすり潰した、巨大な挽肉機ひきにくきの底面だった。


 見渡す限りの泥濘は、一面がどす黒い赤色に染まり、原型を留めない肉片と砕けた甲冑の残骸で埋め尽くされている。生存者は確かにいた。ほんの僅かではあったが。だが、彼らの殆どは鼓膜を破られ、爆風で眼球の毛細血管を弾けさせ、虚ろな目で宙を見つめているか、自身の千切れた四肢から流れる血をただ呆然と眺めているだけの、生けるしかばねだった。


 轟音を立てて迫る「鉄の怪物」の群れに対し、残る敗残兵の中で、辛うじて武器を手に取り、立ち上がろうとした者は両軍合わせても、十名にも満たなかった。それとも十名近くもいたと言うべきだろうか。


「ば、化け物……退けぇっ……!」


 奇跡的に破片を免れた一人の年老いた武将が、ひん曲がった十文字槍を杖代わりに立ち上がり、先頭を進む三式中戦車(チヌ車)の前に立ちはだかった。だが、その足取りは泥に取られて覚束なく、全身の震えは止まっていない。彼が武士としての最後の意地で繰り出した槍の突きは、三式中戦車の分厚い防盾ぼうじゅんに当たり、乾いた音を立てて呆気なく折れた。


 チヌ車の操縦手は、速度を緩めることすら手間に感じた。


 メチャッ、という鈍い音が無限軌道の下から響いた。


 名乗りを上げることも、武名を残すことも許されず、戦国武将の誇りは十五トンの鋼鉄の塊の下で、文字通りただの泥へと圧し潰され、平らにならされた。


 他の場所でも「戦闘」とは呼べない一方的な処理が事務的に進められていた。


 恐怖のあまり錯乱し、石や折れた弓を装甲兵車に投げつけてくる足軽がいたが、車上から身を乗り出した歩兵たちの九九式短小銃の射撃の後は、一瞬で泥まみれのボロ布へと変わった。


「降伏を促す必要はない。抵抗の意思の有無も問うな。我々が求めるのは、完全な更地だ!」


 砲塔から身を乗り出した二階堂少佐が、冷徹に命じる。


 降伏の作法すら分からず、ただ泥に頭を擦り付けて震えるだけの農民兵は履帯の間に通してやり過ごした。だが、武具の装飾が良く、少しでも身分の高そうな武士と見れば、それがまだ人の形をしていれば、戦車の九七式車載重機関銃が頭部を撃ち抜いていった。





 同じ頃。田楽狭間から離れた大高城の出城。松平元康と石川数正は、城のやぐらの上から、遥か遠方の山間で繰り広げられた世界の終焉(この世の終わり)を、声もなく見つめていた。


「……殿。あれは、一体……」


 数正が、震える声で絞り出した。元康は、何も答えなかった。あの谷底にひしめいていた巨大な軍勢が、たった数分の雷鳴の後に、物理的に消滅してしまったのだ。


 元康は、何も答えなかった 。彼の若き瞳から、先ほどまで胸に抱いていた「天下静謐」の野心が音を立てて崩れ落ち、冷たい絶対的な恐怖へと塗り替えられていくのを、彼は自覚していた 。


 あの正体不明の軍勢の前では、己が鍛え上げた三河武士の忠義も、今川義元の権威も、織田信長の才覚も、等しく無意味なのだと 。刀や槍で戦をする時代は、たった今、あの空から降ってきた理不尽な雷によって、完全に終わったのだと 。


「…数正」


 元康は、唇から血が滲むほど強く噛み締めながら、低く言った 。


「槍を置け。兵たちに、絶対に刃向かうなと伝えよ。神か天魔かわからぬが、我々は今…真の絶対者(逆らった死ぬ相手)の到来を目にしているのだ」





午後四時 。田楽狭間の制圧が完了した 。


 私は車を降り、泥と血、そしてひまし油の不完全な排気ガスが混ざり合う死刑台の跡地をゆっくりと歩いた 。足元には、誰のものとも知れない具足の破片と、引き裂かれた布切れが散乱している 。


「大佐殿」


 副官が、泥まみれの軍靴のまま歩み寄ってきた 。


「残敵の掃討、並びに僅かではありますが降伏した足軽の武装解除、完了しました。…今川義元、および奇襲を企てていた織田信長と思われる首脳陣は…」


 乾は一瞬言いよどみ、惨状を見渡した 。


「砲撃の直撃により、遺体の判別は不可能です。ですが、間違いなくこの泥の中に『混ざって』おります」


「そうか」


 私は煙缶代わりの薬莢をポケットにしまい、深く息を吐いた 。この瞬間、数百年後に皇国を滅ぼすはずだった古い権威の骨組みの一本は、我々の暴力によって粉々に砕け散ったのだ 。


「…見事な作業だったな、乾中尉」


私は、分厚い雲が切れ、西日が差し込み始めた尾張の空を見上げた 。


 私たちの第一歩は、こうして、日本史上最も残酷で、最も一方的な殺戮と共に幕を閉じた 。私たちはもはや、哀れな時の迷子の昭和の軍人ではない 。歴史の理を凌駕する、絶対的で傲慢で忌々しい神の使徒として、この戦国時代に君臨する準備を始めたのである 。



第6話了

のぶのぶが好きなので、お掃除シーン(される方ですが)は、ちょっと長めに書いてみました。

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