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第27話:ギザギザ海岸の秘密の入り江〜みんなが待ちわびたお土産が届きました〜その1

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

 

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

永禄四年(一五六一年)五月十五日。


奥州・網地島あみじしまの高台に、相良の「神経」たる無線塔が屹立してから数日後。

 海堂中尉率いる特設艦隊は、さらに北へと舳先へさきを向けていた。


 常磐の小名浜で見慣れた、なだらかな砂浜と松林の続く海岸線は、ここ三陸に至って完全に姿を消していた。


 海からそそり立つような荒々しい断崖絶壁。ノコギリの歯のように複雑に入り組んだ無数の入り江と、その奥深くに隠された深緑の森。そして、海底の地形が急峻に落ち込んでいることを示す、吸い込まれるような濃紺の海面。

 これが、三陸特有のリアス式海岸である。中世の水軍にとっては、無数の隠れ家と奇襲の機会を提供する天然の要塞であり、同時に外洋の荒波が容赦なく打ち付ける海の難所であった。


 その複雑な海路を、航空偵察により修正された沿岸の地形図とコンパス、そしてディーゼルエンジンの力強い律動を頼りに縫うように進み、艦隊は宮城県北部の気仙沼大島へと到達した。


 本土の気仙沼湾を塞ぐように浮かぶこの島は、外洋の荒波と強風をその身を挺して受け止める「緑の防波堤」である。島と本土の間に形成された海峡は、水深が深く、湖のように穏やかな天然の良港を形成していた。

 相良司令部が策定した「東方資源回廊」計画において、ここは前線の釜石と後方の相良を繋ぐ、最も重要な「洋上ハブ」となる場所であった。


艦隊の最後尾から、ひときわ重低音の機関音を海面に響かせながら、一つの「動く山」が海峡へと滑り込んできた。

 総トン数一〇八〇トンを誇る油槽船タンカー「目白丸」である。ずんぐりとした鋼鉄の船体には、特設艦隊の心臓を動かすための膨大な重油とディーゼル燃料、そして航空機用の揮発油ガソリンが満載されている。当時の日本最大級の軍船である安宅船でさえ、その足元にも及ばない圧倒的な質量であった。



「……よし、目白丸の錨を下ろせ。ここから先、あの巨体は釜石の未整備な浅い海には入れない。気仙沼大島を、我々の一時拠点とする」


旗艦・第二十三号艇の艦橋から、海堂中尉が冷徹に命じた。

 ガラガラと鼓膜をつんざくような轟音を立てて、目白丸の巨大な錨が海底の泥を深く噛む。それは、相良という巨大なシステムが、三陸の海に確固たるくさびを打ち込んだ瞬間であった。


 錨が下ろされると同時に、吃水きっすいの浅い特設運貨船「第七大黒丸」が海岸に舳先を乗り上げ、陸戦隊と工兵隊が気仙沼大島の沿岸部へと迅速に展開し始めた。


 大島に住む者たちもまた、網地島と同様に海と共に生きる屈強な民であったが、彼らの抵抗の意志は、砂浜に揚陸された均土機が唸りを上げて岩を砕く光景の前に、瞬時にへし折られた。

 一正を介した「交渉」は、ここでも極めて事務的に行われた。九九式軽機関銃の冷たい銃口という圧倒的な暴力の片鱗を見せつけられた直後に、純白の塩と氷砂糖という「抗いがたい豊穣」を手のひらに乗せられる。

 恐怖によって思考を停止させられ、甘味によって胃袋を支配された島民たちは、瞬く間に相良の「荷役労働力」としてシステムに組み込まれていった。



 一方、この気仙沼から石巻にかけての広大な沿岸部を実質的に支配していたのは、奥州の有力大名・葛西かさい氏であった。


 彼らが誇る葛西水軍は、リアス式海岸の複雑な潮流を知り尽くし、この海域では無敵を誇っていた。しかし今、彼らは自らの庭であるはずの海峡に突如として現れた「鋼鉄の浮き城(目白丸)」と、それを護衛する黒塗りの特設駆潜艇「第一海東丸」の威容を前に、本土側の断崖の陰から息を潜めて監視することしかできなかった。



「……見ろ。帆も張らずに潮を逆上のぼり、黒い煙を吐いておる。あれが、小田原の北条を一夜で海の藻屑にしたという、相良の化け物船か……」


 入り江の奥に隠された関船せきぶねの上で、葛西の武将が顔を青ざめさせて呟いた。

 彼らの常識では、船とは数十人、数百人の漕ぎ手が汗水流して動かすものだ。だが、目の前の巨大な鋼の塊からは、人間の気配が全くしない。ただ、内臓を揺るがすような不気味な心臓の音(ディーゼル機関)だけが響き渡り、海面には虹色の毒(重油の漏れ)が漂っている。接舷して斬り込もうにも、船体が高すぎて取り付く島すらなかった。


「艇長、葛西の関船が三隻、あの対岸の岬の陰からこちらを窺っておりますぜ。……どうやらビビり上がって、手出しはできないようですがね」

 第一海東丸の艦橋で、双眼鏡を覗き込んでいた見張員が、鼻で笑いながら声を上げた。


「放っておけ。我々の目的は戦国の小競り合い(チャンバラ)に付き合うことじゃない」

 艇長は、海図から目を離さずに答えた。


「近づいてくれば、二十五ミリで撫でて挽肉にしてやればいい。我々の任務は、この島を、北条だろうが葛西だろうが、何があっても守り抜くことだ」



 こうして、気仙沼大島は相良の「不沈の補給処」として機能し始めた。


 南の常磐・小名浜からは、石炭を満載した「第三天祐丸」などの船団がピストン輸送でこの気仙沼へとやってくる。そして、これから彼等が向かう最前線・釜石からは、一次加工された「銑鉄せんてつ」が小型の運貨船で運び出されてきて、ここ気仙沼の波静かな海上で、待機する大型船の船倉へとクレーンを使って積み替えられる手筈となっている。



燃料の補給、石炭の中継、銑鉄の集積。

 中世の武将たちが領土と名誉を賭けて血を流している傍らで、相良はそんなものには目もくれず、ただ冷徹に資源の血管を繋ぎ合わせていた。

 すべての兵站線が交差するこの気仙沼の海域は、相良という巨大な機械の「左心室」として、力強く、そして暴力的な脈動を開始したのである。





五月二十二日。

 三陸特有の濃霧を切り裂くように、特設艦隊の主力は、ついに最終目的地である陸奥国閉伊郡(へいぐん)、昭和の釜石湾へと滑り込んだ。


旗艦・第二十三号艇を先頭に、浅喫水の第七大黒丸、輸送を担う観洋丸、そして気仙沼の防衛から合流した特設駆潜艇・第一海東丸の四隻が、黒煙を棚引かせながら波静かな湾内へと進入する。


 九八直協による事前の航空測量によれば、釜石の西方、内陸に少し入った甲子かっし村周辺に、地表に露出した良質な磁鉄鉱の鉱脈が存在することが確認されていた。


当時の釜石周辺は、極めて複雑で血生臭い勢力争いの只中にあった。

 沿岸部は中小の国人衆である閉伊氏一族が細々と割拠し、内陸の遠野周辺は強力な阿曽沼あそぬま氏が支配している。さらにその背後には、北から圧力をかける三戸南部氏と、南から隙を窺う葛西氏という二大勢力が迫っており、常に国境での小競り合いが絶えない場所であった。



「……さあ、本番だ。相良の胃袋を満たす『鉄の飯』を食いに行くぞ」


 海堂中尉は、甲板で出撃準備を整える陸戦隊と国民軍の兵士たちを見下ろしながら、爽やかな笑みを浮かべた。


上陸は、これまでと同様、一切の妥協を許さない暴力的な速度で行われた。

 第七大黒丸が釜石湾の砂浜に強引に乗り上げ、バウ・ランプを叩きつける。唸りを上げる均土機が先陣を切り、松林をなぎ倒して中世の土を削り取り始めた。


だが、釜石の地は小名浜のように無血とはいかなかった。

 未知の鉄の船から吐き出される異形の集団に対し、沿岸の権益を侵されると直感した閉伊氏の在地武士や、南部の息がかかった野盗まがいの土豪たちが、即席の連合を組んで数百の兵で襲い掛かってきたのである。


「敵襲ッ! 前方の松林より、武装した侍と足軽の群れ!」


怒号が飛び交う中、上陸したばかりの国民軍の兵士たちが、慌ただしく浜辺に散開して円陣を組んだ。


「落ち着け! 銃床を肩に当てろ! 狙いを定めて……撃てぇッ!」


元足軽の分隊長、辰三たつぞうの号令の下、十八年式村田銃の乾いた銃声が一斉に響き渡る。

 黒色火薬の煙が立ち込める中、旧式の単発銃とはいえ、近代的な施条ライフリングを持つ十一ミリの鉛玉は、中世の竹束や薄い甲冑を容易く貫通し、突撃してくる侍たちを次々と薙ぎ倒していった。


しかし、地の利に勝る敵兵の一部が銃弾の網を潜り抜け、側面から矢の雨を降らせた。


「ぐあッ!」


 国民軍の若い兵士の一人が、肩口に矢を深々と受けて砂浜に倒れ込む。隣の兵士が悲鳴を上げ、陣形がわずかに崩れかけた。中世の戦の現実が、訓練を終えたばかりの農民兵たちに牙を剥いた瞬間だった。


「ひるむな! 後ろに下がれば海だぞ!」


留吉とめきちが、震える手でボルトを引き、新たな弾薬を装填しながら絶叫する。

 陣地の内側で待機していた海軍陸戦隊のプロたちが、すかさず九九式軽機関銃の銃座を据え付け、側面へ回り込もうとした敵部隊に猛烈な掃射を浴びせて足止めした。


「一正殿、下がっていてください。彼らは『痛い目』を見ないと理解できない連中のようだ」



海堂の冷酷な声が、無線機を通じて湾内の艦艇に飛ぶ。

「海東丸! 沖合から、あの敵が湧いてくる背後の尾根を削り取ってやれ!」


指示を受け、釜石湾に展開していた第一海東丸の八糎高角砲が火を噴いた。

 ヒュルルルル……という風切り音に続き、国民軍と交戦する武士たちの頭上を越えた砲弾が、背後の岩山の中腹に正確に着弾した。


凄まじい轟音と共に、何十トンもの岩盤が爆砕され、地響きと共に土砂崩れとなって谷底へ崩れ落ちていく。

 物理法則を無視したかのようなその圧倒的な破壊力と、背後の山が吹き飛ぶ光景に、閉伊の武士たちは戦意を完全に喪失し、武器を放り出して蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。



この日を境に、相良の橋頭堡は磐石なものとなった。

 その後も、南部の尖兵や地元の国人衆による散発的なゲリラ攻撃は続いたが、相良は後方からの往復船で絶え間なく増援を送り込み、五月末の時点では国民軍の派兵数は一個中隊、およそ二百名にまで拡大していた。


連日の防衛戦闘を凌ぐうち、国民軍の兵士たちの顔から農民特有の怯えは消え失せ、土気色の頬に硝煙と血の匂いをこびりつかせた「本物の兵隊」の顔つきへと変わっていった。

 彼らの損耗率は二~三パーセント。中世の足軽が最前線に立たされた場合の生存率からすれば奇跡のような数字だが、それでも数名の死者と十数名の負傷者が釜石の砂浜を血で染めた。


「……俺たちは、もう元の土いじりには戻れねえんだな」


波打ち際に立てられた真新しい仲間の木札(墓標)の前で、留吉は煤けた村田銃の銃床を強く握りしめ、ポツリと呟いた。

 かつてのように、領主の鞭や野盗の影に怯えて逃げ惑うだけの農民はもういない。彼らは自らの手で引き金を絞り、仲間の死という絶対的な痛みを対価として支払うことで、相良という巨大な暴力装置の「末端の歯車」としての居場所を、血の匂いと共に静かに受け入れ始めていた。



橋頭堡の安全を絶対的なものにするため、相良は次なる一手――航空機による外科手術を実行に移した。

 釜石の北、大槌おおつち周辺を支配し、南部氏と結んで釜石への侵攻を窺っていた北方の国人・大槌氏への先制攻撃である。


網地島の飛行場から飛び立った、如月大尉と風間中尉の駆る二機の九八直協が、大槌氏の堅城へと襲い掛かった。


『……風間、目標の大槌城を視認。下から登れば何日もかかる山城も、上から叩き潰せば一瞬だ』


『ええ、隊長。中世の砦なんて、上空から見ればただの薪の山ですよ。……行きます』


二機の九八直協は、急降下しながら十五キロ爆弾を次々と投下した。

 標高のある山頂に築かれた本丸が、立て続けに起こる爆発によって火山の噴火のように吹き飛ぶ。眼下では、何が起きたのかも理解できないまま、大槌氏の兵士たちが炎に包まれて崖から転落していくのが見えた。抵抗の余地すら与えない、一方的な蹂躙であった。





 この「天から降る神の怒り」と、釜石の海に浮かぶ「鉄の城」の噂は、風の速さで内陸を支配する阿曽沼氏の耳に届いた。


 六月に入り、阿曽沼氏の当主・阿曽沼広郷あそぬまひろさとは、わずかな供回りだけを連れて、釜石の相良陣地へと姿を現した。


 広郷は、先に小名浜で震え上がった岩城重隆とは違い、奥州の過酷な権力闘争を生き抜いてきた老獪な武将であった。彼は相良の圧倒的な武力を認めつつも、それを自らの家の存続に利用しようと目論んでいた。


「我らは遠野を治める阿曽沼。相良殿の武威、しかと見届け申した」


広郷は、天幕の中で海堂と一正を前にし、尊大な態度を崩さずに言った。


「北の大槌を焼き払っていただいたこと、感謝いたす。どうであろう、我ら阿曽沼と相良殿で同盟を結び、この陸奥を平定しては? 相良殿が南部の軍勢をそのいかずちで打ち払ってくださるなら、釜石の鉄の山、我らの領民を使っていくらでも掘り出させようぞ」


広郷の提案は、中世の武将としては極めて合理的で、したたかな外交戦術であった。武力を持つ傭兵集団に領地の資源を対価として与え、自らの盾とする。彼にとっては、相良もまた、利用価値のある「強力な武装勢力」の一つに過ぎなかったのだ。


だが、海堂はつまらなそうに欠伸を噛み殺し、一正が冷ややかに言い放った。


「阿曽沼殿。貴殿は大きな勘違いをされている。我々は貴殿らの傭兵ではないし、同盟などという対等な関係を結ぶつもりも一切ない」


「な、何だと……?」


「我々はこの釜石の鉄を、我々の意志で、我々のために採掘する。貴殿の領民は、我々の定めた規律と報酬の下で働く労働力となる。……貴殿に許された選択肢は、『相良の指示に従って人を集める現場監督になる』か、『先日の大槌氏と同じように、城ごと山から消え去る』か。その二つだけだ」


広郷の顔色が変わった。

 彼は海堂の目の中に、領土への野心も、武勲への渇望も、武士としての誇りすら見出すことができなかった。そこにあったのは、ただ「鉄という物質を最も効率よく抽出する」ための、冷たい機械のような合理性だけだった。


「……武士の誇りを、無下に踏みにじるか」


「誇りで鉄が溶かせるなら、いくらでも重んじてやろう。だが、溶かせない。だから不要だ」


海堂中尉が冷たく切り捨てた直後、天幕の外でブルドーザーが耳をつんざく咆哮を上げ、山肌を無慈悲に削り取る音が響いた。

 広郷は、自らの持つ「権力」や「武略」が、この異次元の者たちには全く通じないことを悟った。だが、一度踏みにじられた自尊心は、彼を合理的な判断から遠ざけた。


「相良……貴様ら、後悔させてくれるわ!」


広郷は激昂したまま席を立ち、遠野へと引き揚げた。彼が選んだのは、恭順ではなく、武士としての意地を懸けた「排除」であった。



この項つづく


最後までお付き合いいただき感謝します。

気に入っていただけたら、ページ下部よりブックマークとポイント評価をお願いします。


別シリーズの短編をアップしました。

「異聞 五稜郭」

https://ncode.syosetu.com/n4984mc/


宜しければこちらもどうぞ

「南山共和国建国史シリーズ」

https://ncode.syosetu.com/s0124k/


ご興味がある方はご一読くださいませ。


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