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第22話:魔法使いのお空の旅は、お弁当と水筒でパンパンです!〜特製花火も積んで遠くの街までひとっ飛び〜

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

 

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

永禄四年(一五六一年)一月十日 


時系列は少し戻る。

 新相良の街が産声を上げ、工業区画に焼玉機関の音が響き始めたその日、私は衛戍地の北端、崖を穿うがって作られた航空分遣隊の格納庫に足を運んでいた。


冷たい海風が吹き抜ける格納庫の影には、二十三名の航空隊員たちが整列していた。

 先頭に立つのは、分遣隊長の如月きさらぎ大尉。その後ろには、古参偵察員の高木特務曹長や、油にまみれた作業服を着た「魔法使い」こと鳶沢とびさわ特務曹長たち整備班12名が控えている。ようやくこの空の空気に馴染み始めた新人搭乗員三名――佐藤、伊東、田中も、緊張の面持ちで直立不動の姿勢を取っていた。


 彼らの背後では九八直協(九八式直接協同偵察機)の二機の稼働機(一番機、二番機)と三式(三式指揮連絡機)が冬の薄い陽光を浴びて静かに翼を休めている。さらに奥には、彼らが着陸失敗で大破し、現在再生作業が進められている三番機と、状態が悪すぎて部品取り用として横たわっている四番機の残骸が、シートに覆われて眠っていた。



「如月大尉、並びに航空分遣隊諸君。新年早々だが、諸君に『甲一五六一號』作戦の根幹を成す特命を与えに来た」


私は彼ら一人一人の顔を見渡した。教導飛行団から「島流し」同然に配属された、癖の強いベテランとはみ出し者たちの集団。だが、彼らの「目」がなければ、この作戦は成立しない。


「我々は三月、太平洋を北上し、釜石かまいし常磐じょうばんを制圧する。……如月大尉。九八直協で、釜石までの威力偵察、並びに直協任務は可能か」


如月が、眉間に微かな皺を寄せた。彼は優れたリアリストだ。精神論で飛ぶ男ではない。


「……相良から釜石までは片道およそ六〇〇キロ。往復で一二〇〇キロを超えます。九八直協の標準航続距離は約一一〇〇キロですが、それはあくまで燃料を使い果たした場合の理論値です。洋上での未知の気象条件、さらに現地での滞空時間を考えれば、今のままでは『片道切符』になりますな。……連隊長殿、まさか特攻をしろと仰るわけではありますまい?」


「馬鹿を言え。貴様らを死なせるほど、私は贅沢ではない。……だからこそ、こうして鳶沢とびさわ曹長を三日前から拉致して工廠と製油所の技術部と話しあってきたんだ」


私は、脇に控えていた鳶沢に顎をしゃくった。


 鳶沢は、脇に抱えていた丸まった青写真を指揮台の上に広げ、石を置いて固定した。そこには、九八直協の美しいフォルムに、いくつもの「こぶ」を付け足したような、異様な姿の機体図面が描かれていた。


「通称『釜石長距離型』。……鳶沢曹長、説明しろ」


「はっ!」

 鳶沢が、汚れの染み付いた指で図面を叩いた。


「大尉殿、これに乗って釜石まで飛んで、現地でお仕事をした後、帰ってきてもらいます。そのためには燃料を倍近く積む必要があります。まず、胴体中央部の爆弾架を強化し、二〇〇リットルの『半固定式ボート型増槽』を吊り下げます。さらに、翼下には本来の小型爆弾架を流用して配管を通し、各九六リットルの落下式増槽を懸吊。さらに機内の重心付近のデッドスペースに五〇リットルのタンクを増設します。 合計四四二リットルの増量。これで総燃料は八四二リットル、航続時間は八時間を超えますな。理論上は、青森までの日帰り出張ができますぜ」


隊員たちの間に、低いうめきのようなどよめきが広がった。


「八時間……。尻が腐っちまうな」と、古参の高木が零す。


 新人の佐藤が「そんなに燃料を積んで、本当に浮くのか……?」と震える声で隣の同期に囁いた。


「上がるさ。なんせこいつは短距離離着陸(STOL)の申し子だ。離陸滑走距離は伸びるが、この相良の七〇〇メートル滑走路なら余裕だ。……多分な、でもな」


 鳶沢が、如月を見据えて声を低くした。

「速度は落ちます。こいつの売りの軽快な操縦性も、ひどく鈍重になる。おまけにエンジンのキャブレターを燃費優先の『薄い』セッティングに固定しちまうから、いざという時の急加速もきかねぇ。……格闘戦(戦闘機相手の戦い)性能は、完全にゴミになりますよ」


「……この空にグラマンはいない」

 如月が図面を凝視しながら、確かめるように呟いた。


「俺たちに必要なのは格闘性能じゃない。「届く」ことだ。届いて、地上の連中に神の視点を与えることだ」




「足の長さだけではない。如月、今回は武装も根本から見直す」


 私は、図面の機首部分を指差した。

「私は常々、直協機の七・七粍は改善の余地があると考えていた。満州の匪賊にだってあの豆鉄砲1挺では弱武装過ぎる。これからは武将や山賊の人型目標以外にも、敵船や施設への攻撃に有効な武装が必要だろうと認めた。大尉、貴様も12月の年末総括でもあげていたな」


「はい」


「長距離を飛ぶ以上、不必要な重量増は避けたい。偵察員席の旋回機銃はそのままとすると、機首には1挺しか積めんし、口径を拡大するしかあるまい。翼下への機銃増設も検討はしたが、反動が読み切れんという事で、武装は現在の機首の七・七粍機関銃を外し、大破した一式戦と四式戦から回収したホ一〇三(一式十二・七粍固定機関砲)へ換装する」


「……十二・七粍を、ですか」  

 如月が僅かに目を見張った。


「そうだ。戦術的な意味合いは劇的に変わる。七・七粍弾の重量が約十グラムであるのに対し、十二・七粍弾は三十グラムを超える。運動エネルギーは桁違いだ。それにホ一〇三の弾は曳光弾(一式曳光徹甲弾)と焼夷弾(マ一〇二)と炸裂弾(マ一〇三)の組み合わせだ。木造の建物や船相手だと、どえらく楽しいことになるな」


 曳光徹甲弾は通常の徹甲弾の中に曳光剤、つまり火を噴きながら飛ぶ薬剤が充填されており、マ一〇二とマ一〇三は空気信管により着弾時に火災と爆発を起こす。つまり、戦国時代の木造船や陣屋の櫓、密集した長槍部隊に対し、銃弾一発一発が鉄をも貫く小型の「火炎弾」「炎上弾」「爆発弾」として機能するということである。火縄銃や強弓が絶対に届かないアウトレンジから、中世の構造物を物理的に粉砕することが確定的な兵器だ。


さらに私は、寺本軍曹(計器班長)が慎重に抱えてきた木箱を開けさせた。


「これを取り付けろ。一式戦闘機から外した一式光像式照準器だ。第二工場の光学機器班の修理がやっと間に合った。調整はそっちでしてくれ。折角の花火だが搭載弾数は限られてる、戦国の連中が城門の陰に隠れようが、上空からその眉間を狙って当ててくれ」


鳶沢が腕を組み、唸るように言った。

「十二・七粍はデカい。プロペラ同調装置の再調整と、反動が桁違いになりますからマウント基部の補強は必須です。一式戦は七・七粍から十二・七粍に換装した際に、それでえらい苦労したと聞いとります。かなり機首回りを鋼材で固めて重くしませんと、最悪、反動で発動機が壊れます。それに、機体が重くなる分、発動機エンジンへの負荷は相当なものになりますぜ」




「よろしい。如月大尉、航空隊全員に告ぐ」


 私は最後の一葉の煙草に火をつけた。


「今日から三月までの二ヶ月間、この『一番機』の改装を最優先事項とする。二番機の改修は一番機の試験結果を待って判断するが、資材は確保しておけ。魔法使い諸君。北へ渡る翼を造り出せ」


「「「はっ!!」」」


こうして、航空隊の長く、泥臭い「闘争」が始まった。





 一月から二月にかけてのジャンクヤードは、怒号と笑い声、そして金属が擦れ合う悲鳴に満ちた、まさに「魔法使いの工房」と化していた。整備班十二名は、二十四時間体制でそれぞれの専門分野に没頭した。


 中でも最も過酷な壁に直面していたのが、荒木曹長率いる発動機班であった。


 ある日の深夜。油とタバコの煙が充満する整備テントの奥で、荒木曹長、坂本軍曹、堀井伍長、吉岡兵長の四名が、木箱から下ろされたばかりの新品の「ハ一三甲」エンジンを前に深刻な顔で車座になっていた。


「……機体班の権田の親方から上がってきた、最終的な全備重量の数字がこれだ」


 荒木が油まみれの指で、黒板に書かれた数字を叩いた。


「燃料の特設ラックに落下タンク、ホ一〇三機関砲まで積んで、約二一五〇キロ。標準より六〇〇キロ以上重え」


「二一五〇……冗談でしょう。単発の直協機が飛ぶ重さじゃありませんぜ」

 堀井伍長が呆れたように吐き捨てた。


「対するウチの心臓は、日立のハ一三甲。離昇出力は五一〇馬力だ」

 荒木が重い声で応じる。


「この重さじゃ、七〇〇メートルの滑走路を目一杯使っても、浮くか浮かないかの瀬戸際だ。無理に引き起しゃ失速して崖の下へドカンだ。大佐殿は釜石まで渡れと仰ったが、海に出る前に終わっちまう」


「なら、加圧制限(リミッター)を解除して、吸気圧を無理やり上げますか? 五八〇馬力くらいまでなら、一時的になら引っ張り出せますぜ」


 吉岡兵長が身を乗り出したが、坂本軍曹が即座に首を横に振った。


「馬鹿野郎、そんな真似したらシリンダーが異常過熱オーバーヒートしてノッキングを起こす。離陸した瞬間に発動機が焼き付いて終わりだ。それに、長距離を飛ぶためにキャブレターの主噴口(メインジェット)は『極限の低燃費仕様』に絞り込むんだ。混合気が薄い状態で加圧だけ上げたら、それこそ火を噴くぞ」


「離陸時のパワーと、巡航時の低燃費……。背反する二つを、この一つの発動機でどう両立させりゃいいんだよ」


 重苦しい沈黙がテントを支配した。彼らもまた、昭和の技術的限界という壁の前に立たされていた。無理な出力の拡張は、単なる自滅を意味する。


不意に、坂本がタバコを灰皿に押し付けた。

「……迂回路バイパスを作りましょう」


「迂回路?」


「ええ。キャブレターの主噴口は、予定通り巡航用の極薄仕様で組みます。その代わり、操縦席から直接燃料を吸気管へ吹き込める『手動の過剰燃料迂回管』を自作して増設するんです」


坂本は黒板の隅に、チョークで走り書きを始めた。


「離陸の瞬間だけ、如月大尉に手動でバルブを開けてもらい、燃料を滝のように発動機へぶち込みます。濃すぎる燃料は気化熱を奪い、シリンダーを強制的に内部から冷却する。これなら、加圧のリミッターを外してもノッキングは防げます」


「……なるほど」

荒木が目を細めた。


「離陸の数十秒だけ、五八〇馬力を絞り出す。上空に上がって巡航に入ったらバルブを閉じ、あとは超低燃費で回るバケモノにするってわけか」


「ただし」

坂本が苦笑する。


「大尉殿には、操縦桿を引いて離陸しながら、片手で燃料増量レバーを細かく調整し、さらに油圧計とシリンダ温度計を睨みつけてもらうことになりますがね」


「あの人ならやるさ。『飛行機は機械じゃなくて生き物だ』って笑う人だからな」


 荒木はそう言うと、立ち上がって新品のハ一三甲の冷たい金属肌を叩いた。


「しゃあねえな。吉岡、今夜中に予備のハ一三甲をもう一基ベンチに乗せろ。坂本と堀井の言ったセッティングで組む。俺がクランクの芯出しを極限まで詰めて、高加圧の振動を少しでも散らしてやる。テストでエンジンが一基パーになるかもしれねえが、明日までに仕上げるぞ」


「「「了解!!」」」


 こうして発動機班は、長時間の連続運転による油温上昇を防ぐため機首下のオイルクーラーを二〇%大型化する加工を施しつつ、低燃費かつ離陸時の限界出力を両立する、血のにじむようなチューニングを追い込んでいった。



一方で、電装・計器班の寺本軍曹は、一式戦の光学照準器を直協機の狭いコクピットに収めるため、計器盤のレイアウトを丸ごと作り直していた。


「……高度計の配置を二センチ下げろ。照準器の視野が確保できん。大尉殿、もう一度座席に座ってください。視線の角度をミリ単位で較正します」


 銀座の高級時計職人だった彼の繊細な指先が、無骨な軍用機を精密機械へと変えていく。



武装の換装も凄まじい執念だった。


 大型のホ一〇三機関砲を収めるため、工廠の佐藤伍長らが削り出した特殊なマウント基部が持ち込まれ、機首のスペースに強引に、しかし完璧な計算の下に据え付けられた。


 新人三名は整備の手伝いをさせられながら、先輩たちの凄まじい気迫に圧倒されていた。


「……四番機が、バラバラになっていく」  

 伊東が、かつて自分たちが磨いた翼の残骸を見て、小さく呟いた。


「感傷に浸るな、伊東」

 田中が、スパナを握り締めながら言った。


「あいつの部品は、一番機と三番機の中で生き続けるんだ。……俺たちも、少しでも早く先輩たちの役に立つようにならなきゃならないんだ」



 各種問題が解決する中、最後まで残った問題は、翼の下に吊るす「落下式増槽ドロップタンク」だった。


 昭和から持ってきた予備の金属製タンクは数に限りがある。これからの消耗を考えれば、現地で代用品を造るしかなかった。


「……連隊長殿、これを見てくださいよ」

 二月中旬、視察に訪れた私に、鳶沢が呆れたように一つの物体を見せた。


 それは、現地の桶職人に造らせた、流線型の「木製タンク」だった。


「竹を編んで、中に柿渋を塗った布を張ってみましたが、漏れが止まらねぇ。今度は杉の薄板を貼り合わせて、漆で固めてみました。……見た目は立派ですが、重いのなんの。如月大尉が『こんな漬物桶を翼にぶら下げて飛べるか!』って怒鳴り込んできやがった」


 私は、その不格好な「木製増槽」を見て、思わず吹き出した。


「だが、漏れないなら成功だろう。重さは燃料が減れば解決する。空中投下した後の後片付けも、木製なら環境に優しい」


「環境って何ですかい? ……まあ、結局、製油所の結城所長に泣きついて、薄い鉄板をプレスしてもらうことになりやしたがね。ただ、その溶接を誰がやるかで、また船舶砲兵の連中と喧嘩になりやしたよ。『船の機銃台座が先だ!』『いや、空のタンクが先だ!』ってな」


そんな悶着は日常茶飯事だった。

 人材再配置で技術系に回された八十六名の兵士たちは、空と海と陸の各現場から「俺のところの部品を先に造れ」と引っ張りだこにされていたのだ。





 二月の末には、四番機(かつて新人達が着陸に失敗して大破した残骸)を巡って笑い話が起きた。

 整備兵の一人が誤って、如月が愛用していた「四番機から拝借したはずのシートクッション」を、建築隊の田中曹長に「測量台の座布団」として貸し出してしまったのだ。


「俺の尻の恋人をどこへやった!」と血相を変えて怒鳴り込む如月。


「知らねぇよ! 田中が『ケツが痛くて測量ができねぇ』って泣きついてきたから、四番機のガラクタから適当に渡したんだ!」と開き直る鳶沢。


 結局、新相良の街外れで、ブルドーザーの爆音の中でクッションを敷いて昼寝をしていた田中曹長が、航空隊全員に追い回される羽目になった。





だが、そんな騒動の裏側で、確実に一番機は「変貌」していった。

 胴体下には、兵器廠第一工場が執念でプレスさせた流線型の二〇〇リットル増槽が、鈍い銀色の輝きを放って装着された。


 燃料配管には、工廠の佐藤伍長が旋盤で削り出した迅速継手(クイックカプラー)が組み込まれ、わずか三十分でタンクの脱着が可能になった。


 さらに、長距離飛行での搭乗員の疲労を軽減するため、鳶沢たちは軍馬廠と被服製靴廠に相談し、馬毛とスプリングを多層構造にした特製クッションを完成させた。


「……これなら、釜石まで行っても尻は無事だな」

 如月が、ようやく戻ってきたクッションを確かめて満足げに頷いたのは、三月に入ってからのことだった。






三月十日。

新滑走路端。


 そこには、一見して「過積載」とわかるほど、腹の下と翼の下に重々しいタンクを抱えた九八直協一番機がいた。機首からは、追加された機銃の銃口が不気味に突き出している。


エンジンが、低燃費セッティング特有の、少し乾いた規則正しい爆音を奏でている。

 操縦席には如月大尉。後席には、長時間の無線と航法を受け持つ古参・高木特務曹長。

 

「……如月大尉。飛行試験、開始だ」


私の号令に、如月が頷く。

 エンジンが、低燃費設定特有の、少し乾いた規則正しい爆音を奏で始めた。


「いくぞ、高木!」

「へいへい。心中してやりますよ、大尉殿」


エンジンの回転が上がると同時に、一番機は緩慢な動作で滑走を開始した。

 標準仕様なら百メートルもあれば浮き上がるはずの九八直協が、今日は三百メートル、四百メートルと地面を舐めるように走り続ける。途中でエンジン音が変わり派手な爆音を出し始める。

滑走路の端が、刻一刻と迫る。見守る新人三名が、拳を握りしめて祈るように見つめている。


……六百メートル。

 ようやく尾輪が浮き、崖の直前、滑走路の限界点ギリギリで、一番機は相良の空へと這い上がった。


「……上がったな」


 上空を旋回する一番機。

 その姿は、かつての軽快な直協機ではない。

 多くの犠牲と、多くの理不尽な「段取り」を飲み込み、太平洋の向こう側にある資源を、そして相良の未来を掴み取るために鍛え上げられた、鋼鉄の使徒そのものだった。


一番機は、低く太い排気音を街の住民たちへ響かせながら、ゆっくりと黒潮の流れる南の空へと機首を向けた。


 飛行試験は、今のところ順調だ。

 一番機の成果が確認できれば、二番機の改修、そして三番機の再生へと、相良の翼はさらに数を増やしていくだろう。

 

 地上では、佐藤伍長たちの工場から響く焼玉機関の音が、空の音と共鳴するように一段と高く鳴り響いていた。


 空、海、陸。

 そして生産。


 すべての準備が、三月二十一日の「抜錨」という一点に向けて、加速しながら収束していく。


 私は、空を指差すように立ち上る工場の煙と、その向こう側を飛ぶ翼を眩しそうに見つめる新相良の住人たちの横顔を見て、小さく頷いた。


 相良の、いや、この国の歴史が、猛烈な速度でその形を変えようとしていた。



第22話了

最後までお付き合いいただき感謝します。

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男の子は、メカが好き

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