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第17話:魔法のシートでラクラクお買い物!〜可愛い☆星型のお家と、みんなで作るポカポカ家族計画〜その2

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。


零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

「……さて。帳簿と銭の話はここまでだ。次は、血と肉の話をしよう」


 私が冷めた茶を飲み干すと、桂木少佐が頷き、分厚い戸籍の束から別の報告書を抜き出した。


「兵たちの『規律』の問題ですね。……事態は、表向きの報告以上に深刻です」

 桂木少佐の顔から、先ほどの統治の成果を語る際の明るさが消え、重苦しい疲労の色が浮かんだ。


「前線から外され、単調な土木作業や警備に回されている五千の若い兵士たちです。彼らの鬱屈とした不満と渇望が限界に達しつつあります。……すでに要領の良い者たちは、配給の菓子や酒を融通し、現地の娘や後家と上手くやって不満を逸らしておりますが、問題はそれに漏れた者たちです」


桂木少佐は、傍らに立つ元康を一度一瞥してから、淡々と恐ろしい事実を口にした。

「先月だけで、いくつかの村での強姦事件が数件発生しました」


「……」

 元康が息を呑む音が聞こえた。この時代、兵の婦女への乱暴など当たり前すぎるくらい当たり前ではあったが、相良の法では、略奪や強姦は死罪に値するはずだからだ。だが、桂木少佐の口から出た事後処理は、中世の武将の想像を遥かに絶する過酷なものであった。


「発覚した際、我々は下手人の兵士に上官からの苛烈な鉄拳制裁を加えました。しかし、それ以上に恐ろしいのは『その後』です。……我々相良軍が、現地の女を犯したという事実。その悪評が四カ国に広まることは、連邦の支配の根幹を揺るがす。ゆえに、我々は憲兵と歩兵を動かし、被害に遭った女とその家族、および事情を知る村人をすべて『口封じのために皆殺し』にしました。一揆の残党による凶行、という筋書きで」


「なっ……!?」

 元康の顔から、一瞬にして血の気が引いた。法と正義を掲げる相良の軍隊が、自らの兵士の罪を隠蔽するためだけに、何の罪もない被害者の一族を根絶やしにしている。


「……皮肉な話です。この苛烈な口封じの事実を部隊内に暗黙の裡に知らしめたところ、強姦の件数は激減しました。兵士たちは上官の鉄拳を恐れたのではありません。自らの衝動のせいで、犯した相手やその家族が自軍の手によって理不尽に惨殺されるのを見せつけられ、哀れさと罪悪感で精神が保たなくなったのです。……それでも欲望を抑えきれず、凶行を重ねようとした数名の常習犯については、先週の普請場での作業中に『不慮の事故死』として処理いたしました」


執務室に、重く冷たい沈黙が落ちた。

 私は窓の外を見やった。晩秋の冷たい風の中、遠くの練兵場や普請場では、兵士たちが無機質な号令の下で泥にまみれている。彼らをこの狂った中世の泥土に繋ぎ止めているのは、もはや「天皇への忠誠」などという虚飾ではない。いつ暴発してもおかしくない、生物としての本能を抱えた若い雄の群れなのだ。


「このまま裏で口封じと粛清を続ければ、遠からず部隊は内側から腐り落ちる」

 私が低く呟くと、桂木少佐も深く頷いた。


「左様であります。それに、この戸籍の集計から、もう一つの深刻な問題が浮き彫りになっております。……我々が先の戦で物理的に消滅させた今川の兵力は、四万人を超えます」


桂木少佐は分厚い戸籍の束を叩き、酷薄な数字を口にした。


「回収した帳簿から推計される旧今川領の総人口は、およそ四十万人。つまり、全体の約一割が消滅した計算になります。……しかも、その四万人はすべて働き盛りである『成人男子』です。老幼を除いた成人男子の数から見れば、実に三割から四割の男が、この数ヶ月で消え失せたことになります」


「四割の、男が……」


元康が絶句した。四割の男手が消える。それはすなわち、農作業が立ち行かなくなり、村という共同体そのものが崩壊することを意味している。


「現在、各村には働き手を失い、自前で田畑を耕すこともできず、この冬を越す算段すら立たない未亡人や娘たちが溢れ返っているのです。放置すれば、大規模な飢餓が発生します」


男を失い、飢えに直面する数万の中世の女たち。

 そして、持て余した力と欲望を抱える五千の相良の若者たち。


「……需要と供給、というわけだな」

 私は、桂木少佐と元康を真っ直ぐに見据えた。


「まずは早急に、衛戍地の外れに公営の慰安所(特飲街)を設置する。だが、素人や軍医に女衒ぜげんの真似事はさせん」


 私が言うと、桂木少佐が思い当たったように頷いた。

「先日の職業調査の網に掛かった、あの二人ですね」


「そうだ。東京吉原の妓楼の跡取り息子である主計中尉と、名古屋の中村遊郭で番頭見習いをしていた砲兵上等兵。この二人を専任の管理官として引き抜け」


 元康が不思議そうに首を傾げた。

「吉原……中村遊郭、とは?」


「我々の時代における、女と酒を商う大規模な『傾城町けいせいまち』のことだ。その道の玄人くろうとだよ。彼らを核にして、現地の目端の利く名主や商人らを引き込み、まずは数軒の慰安所を立ち上げさせる。いずれは新しい街にも自然と歓楽街が生まれていくだろう。その種になれば尚良い」


私は新しい煙草を指に挟みながら、言葉を継いだ。

「水清ければ魚棲まず、だ。軍隊という暴力装置の規律を保つためには、おりを溜めるための泥水を人手で用意してやらねばならん」


「……見事な手際にござる。業火のごとき将兵の欲を、商いと法で完全に手懐けてしまうとは」


「だが、慰安所はあくまで一時的な『ガス抜き』に過ぎん。本命は別にある」


 私は煙を細く吐き出し、元康を見た。

「現地の女との『婚姻』を、大々的に奨励する」


「……婚姻、でありますか?」

「そうだ。村に溢れる未亡人でも、農家の娘でも構わん。相良の兵士たちに、この時代の女を妻としてめとらせろ。結婚した兵士には、相良圓での家族手当を増額し、後述する新都市に一戸建ての住居と土地を無償で与える」


兵士たちにとっては、己の帰るべき場所ができ、獣に堕ちる恐怖から救われる。

 現地の女たちにとっては、餓死から解放され、相良という絶対的な庇護下に入れる。


「彼らに守るべき家族を持たせろ。女房や子供の顔を見るようになれば、男は無謀な略奪など起こさんし、何より、この地から決して逃げようとはしなくなる」


「……相良の兵たちを、駐留軍ではなく、この国の『父親』になさるのですね」

 桂木少佐が、息を呑んで言った。

「四万の男を根絶やしにしたその空白に、我々自身の血を流し込み、地縁と血縁でこの国を内側から作り変える。……これほど理にかなった侵略はありませぬ」


「武士の刀を奪い、帳簿で首根っこを掴み、最後は女たちの腹を借りて相良の根を張る。……大佐殿。お味方ながら、背筋が凍る思いにござる」

 元康は、自らの両腕を抱くようにして深く息を吐いた。自国の民が、文字通り相良という巨大なシステムの一部として組み込まれていくのを、彼は肌で感じていた。


「我々は侵略者だからな」


 暴力による破壊は、すでに終わった。これからは、血と肉を交わらせ、インフラを敷き、経済を回すことで、この中世の景色を完膚なきまでに我々のものへと塗り替えていくのだ。





私が煙草の火を灰皿でもみ消すと、不意に、第二格技場の重い引き戸が開く音が響いた。


「司令、ただいま戻りました」


すすと泥にまみれた軍装。だが、その眼光だけは鋭く整った若者が、私の前で不動の姿勢を取った。連隊副官、いぬい中尉だ。彼はこの数週間、特命を帯びて衛戍地の外に張り付き、新都市建設の予定地となる相良港周辺の用地接収と、資材搬入路の確保に奔走していた。


「戻ったか、乾。大儀だったな。状況はどうだ」


「はっ。港周辺の民家との立ち退き交渉、並びに軍用道路周辺の障害物の除去、概ね完了いたしました。……失礼、少しばかり砂を噛んでしまいまして」


乾は短く詫びると、私の傍らに立ち、手慣れた動作で湯呑みに冷めた茶を注いだ。この連隊において私が最も信頼する右腕の帰還に、張り詰めていた空気がわずかに和らぐ。


「ちょうど良いところに戻った。今、桂木少佐と今後の『家族づくり』の話をしていたところだ」


私がこれまでの経緯を手短に伝えると、乾は一瞬だけ元康に視線を移し、それから桂木少佐の報告書に目を落とした。


「……なるほど。慰安所の設置、並びに婚姻の奨励ですか。……少佐、一つ付け加えさせていただきたい。この時代、まだこちらには梅毒のような『あちら』で猛威を振るった恐ろしい花柳病は伝わっていないはずです」


乾の鋭い指摘に、桂木少佐が頷いた。


「左様。慰安所の開所に先立ち、まずは全将兵への徹底した一斉健康診断を実施すべきかと。万が一、感染の初期段階であれば、瀬戸中尉の作る『碧素へきそ』で叩けますからな」


「人道的な理由からではないぞ」


私はあえて冷たく言い放った。


「もし我々の兵が持ち込んだ未知の腐れ病が、遊女や現地の女たちを通じて四カ国に蔓延してみろ。人々はそれを『相良の呪い』『相良病』と呼んで忌み嫌うだろう。無用な恐怖と一揆の火種をばら撒くような真似は、我々の支配の根幹を揺るがす。衛生管理は白河婦長らに徹底させろ。……だが、婚姻した者や素人との間に避妊具の類は不要だ」


「はっ。身籠もれば、そのまま産ませて育てさせます」


乾が淀みなく答える。


「それがこの時代のことわりであり、我々の血をこの大地に根付かせる何よりのくさびとなります」


そのやり取りを黙って聞いていた元康が、図面の端をじっと見つめながら、低く、押し殺したような声で呟いた。


「……兵の血と種すらも、国を縛るための楔になさるか」


元康の顔には、大仰な感嘆ではなく、底知れぬ合理主義に対する静かな戦慄が浮かんでいた。


「我ら武士は、力で土地を奪い、民を従わせるのがいくさだと思っておりました。しかし相良は、民の営み、血の繋がり、果ては病の理に至るまでを計算し尽くし、国の形そのものを内側から作り変えようとしておられる。……大佐殿。恐れながら、これほど冷徹で隙のない絡め手を、私は他に知りませぬ」


「我々からすれば、刀で撫で斬りにするよりよほど手っ取り早くて確実なだけだ。……さて。人が増え、家族ができるとなれば、いつまでもこの谷底の衛戍地えいじゅちに彼らを閉じ込めておくわけにはいかん」


私は卓上に広げられた測量図の上に、重厚な真鍮しんちゅうの文鎮を置いた。


「これより我々は、衛戍地の外側に街を築く」


「乾中尉が確認してくれた、ここから相良港まで伸びる五メートル幅の軍用道路。あれを都市開発の主軸にします」


桂木少佐が、図面の上に赤鉛筆で線を引いた。


「ああ。そして都市の要となる執政庁は、昭和の時代に相良女学校になるはずだったあの高台に置く。……建物の図面は開発室と工兵中隊の連中に引かせた」


私が別の筒から取り出して広げた青写真を見て、元康が目を丸くした。


「これは……城、にござるか? なんとも奇妙な形をしておりますが」


「異国で完成された『稜堡式りょうほうしき要塞(ヴォーバン様式)』だ。日本の城のように高くそびえる天守はない。代わりに、星型に鋭く突き出した石と煉瓦の防塁が、死角を完全に消し去る。どの壁に取り付こうとも必ず側面から十字砲火を浴びる、幾何学的な殺戮陣地だ」


乾が、青写真の星型の角を指でなぞりながら淡々と説明する。


「堀も深く掘り下げ、傾斜を計算して敵の砲弾を逸らす設計になっています。威圧感よりも、純粋な防御の機能美を極めた形ですね」


「この星型の庁舎の裾野に、兵士とその家族が住まう住宅街と、整然とした市街地を展開する。……ただ、セメントや鉄筋は我々にとっても貴重品だ」


私は腕を組み、図面を睨みつけた。


「だから、コンクリートを使うのはこの執政庁の骨格と、港湾の基礎設備のみに限定する。一般の街並みは木と石と煉瓦で作らせろ。それだけでも、中世の寄せ集めの村とは次元の違う都市になる」


「大佐殿、その港についてもう一つ」


乾が思い出したように顔を上げた。


「相良港の浚渫しゅんせつはどうなさいますか。七メートルの水深を維持できなければ、いずれ相良の海軍が座礁します」


「あれを使う。転移の際、港の堤防の内側に秘匿してあった旧式の台船浚渫機だ。幸いにも保全状態は悪くない」


「なるほど。あれならボイラーの火さえ落とさなければ、泥を掻き出し続けられますね」


要塞庁舎、計画的な市街地、そして海へと繋がる近代港湾。次々と決まっていく巨大な普請の全貌に、元康は圧倒されたように黙り込んでいた。


「……元康。お前たち民政部の出番だぞ」

 私が声をかけると、元康は弾かれたように顔を上げた。

「はっ。これほどの途方もない大普請、一体どれほどの人足が必要になることか……」


「その人足の確保がお前たちの仕事だ。だが、賦役で無理やり駆り立てる必要はない」

 私は、傍らに積まれた「相良圓」の札束を指差した。

「四カ国の村々に布告を出せ。相良の普請場に来れば、雨風をしのげる飯場があり、一日三度、腹一杯の飯が食える。そして労働の対価として、必ずこの軍票を支払うと」


「……なるほど」

 元康の目に、鋭い理解の光が宿った。

「男手を失い、自前で田を耕せなくなった家の生き残りや、飢えに苦しむ次男坊、冬の仕事にあぶれた者たちが、喜んで押し寄せてくるという寸法にござるな。そして彼らは、稼いだ軍票でまた相良から米や塩や古着を買う……」


「そうだ。今川の世では餓死するしかなかった民が、相良の下で働けば生き延び、豊かになれる。その事実と評判を、人足たちの口を通じて四カ国中に浸透させるんだ。法による恐怖の裏側には、必ず確かな富と命の恩恵を用意してやらねばならん。恐怖で縛り、富で飼い慣らす。それが国家というものだ」


「承知いたしました。この元康、人足の手配から飯場の設営まで、一切の隙なく差配してみせましょう」

 元康は深く、しかしどこか武者震いするような面持ちで頭を下げた。


執務室の板張りの床では、相変わらず何十丁もの算盤が驟雨のように弾かれ、電話のベルがひっきりなしに鳴り響いている。

 このむさ苦しい第二格技場から発せられる紙切れと指示の一つ一つが、今、四カ国の地形を削り、人間の営みそのものを根本から書き換えていこうとしているのだ。


私は青写真の上に視線を落としたまま、新しく火を点けた煙草の煙を、ゆっくりと天井に向けて吐き出した。

 痛みを抱え、他人の命を計算する罪深さを背負ってでも、我々はこの血塗られた時代に、未来に繋ぐ新しい「理性」の土台を築かねばならない。

 冬の隙間風が吹き込む執務室の中で、私は、この未開の地に刻み込まれていく新しい歴史の鼓動を、確かな重みとして感じていた。



第17話了


会話文はむずいです。キャラを立てようとすると漫画チックになるし、ほっとくと全部同口調になるし。

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