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第17話:魔法のシートでラクラクお買い物!〜可愛い☆星型のお家と、みんなで作るポカポカ家族計画〜その1

今回は全編会話劇に挑戦してみました


この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

永禄三年(一五六〇年)十一月。

遠江国、相良衛戍地さがらえいじゅち


牧之原台地を吹き抜ける風は、本格的な冬の到来を告げるように鋭く冷たさを増していた。

 だが、連隊本部の庁舎に隣接する三十坪ほどの「第二格技場」、かつて兵士たちが柔道や剣道の汗を流したその場所は、畳が引っぺがされて無骨な板張りの床が打たれ、今や狂騒にも似た熱気に包まれていた。


数週間前に新設された、我が相良の小さな宰相府たる『民政部』の巨大な執務室である。


壁という壁には、駿河、遠江、三河、尾張の四カ国を網羅した詳細な航空測量図が張り出され、占領状況や土木建築計画の進捗を示す無数の赤ピンが突き刺さっている。赤々と燃える数台の石油ストーブの熱気、私が吹かす恩賜の煙草の紫煙、そして大量のインクと和紙の匂いが入り混じり、息苦しいほどの密度を生み出していた。

 壁際の黒電話がけたたましいベルを鳴らし、板張りの床の上では、何十丁もの算盤そろばんを一斉に弾くパチパチという音と、手回し計算機の歯車が回る音が、絶え間ない驟雨しゅううのように鳴り響いている。


わずか数ヶ月で四カ国を飲み込んだ結果、我々司令部の面々の頭は、押し寄せる膨大な統治業務の波によって物理的にパンクする寸前まで追い込まれていた。

 事態を重く見た私は、連隊の大規模な組織改編を断行した。


 「特務配置調整室」を解体的発展させ、新たにこの『民政部』を創設。その下に「調整室」「民政室」「開発室」「流通経済室」、さらに「司法室」「徴税室」と細分化して配置し、兵士の中からさらなる人材抽出を行った。行政手続き、銀行業務、法務、教育、衛生管理、あるいは土木建設の事務方に長けた者たちを五十名ほどかき集め、この第二格技場に叩き込んだのである。


 特務配置調整室の室長であった桂木宗平かつらぎそうへい大尉を特例の戦時昇進で少佐へと引き上げ、領地領民の統治にかかわる民政から法整備、税制、土木工事のスケジュールまでを統括・管理するこの怪物のような部署のトップ(民政部長)に抜擢した。


「大佐殿。旧領四カ国の検地および戸籍の仮登録、およそ八割方が完了いたしました。現場の指揮を執る松平殿の配下たちが、実によく動いております」


書類の山から顔を上げた桂木少佐が、目の下に濃いくまを作りながらも、的確に整理された報告書を私の前に差し出した。


私はそれを受け取り、彼の横で緊張した面持ちで控えている松平元康を視界に入れた。彼は今や、軍服(作業袴)の上に防寒の外套を羽織り、民政部・民政室長の下で、現地との実務調整の要という重責をその若い肩に担っている。


「ご苦労だった、桂木少佐、そして元康。……さて、今年の年貢の徴収だが」


「はっ。今川・織田の旧法に倣えば、収穫の四割から五割を米にて徴収するのが通例にござる。国人衆の中には、相良への忠誠を示すため、六割を差し出すと申す者もおりまするが……」


「……米は一粒も要らん」


私が書類から目を離さずに遮ると、元康は弾かれたように顔を上げた。

いつからだったどろうか、私は彼を元康と名前で呼ぶようになっていた。


「……は? 年貢を、取らぬと仰せで?」


「ああ、年貢はな。だがな、税は一分たりとも負けはせん。だが、これより我が連邦内において、税はすべて相良が発行する不換紙幣『相良圓さがらえん』でのみ納めさせる」


私は机の上に、透かしの入った新しい軍票を一束、ドンと置いた。


元康は絶句し、その真新しい紙切れを凝視した。

 農民が税を納めるには、この紙切れを手に入れなければならない。そのためには、自分たちが作った米を相良の買い取り所に売るか、相良が計画している大規模な普請場ふしんばに出向いて労働に従事するしかない。


「米を直接奪うのではなく、米を我々の紙幣に変えさせ、その紙幣を回収する。……左様になされば、領民は否応なしに相良の銭に頼らねば生きていけなくなり申す。……大佐殿、これは刀で首を刎ねるより、遥かに酷烈な支配にござるな」


元康の背中に、冷たい戦慄が走るのが見て取れた。武力による略奪ではなく、経済という逃げ場のない檻に領民を閉じ込める。十九歳の若き知性は、この紙幣がもたらす絶望的なまでの支配力を即座に理解していた。





「それにしても、わずかな期間でよく四カ国、およそ四千にものぼる村々の戸籍と石高を八割方押さえたものだな。力押しでどうにかなる数ではないぞ」


私が残り少なくなった両切りの煙草を灰皿に押し付けながら感心して見せると、元康は薄く笑みを浮かべた。


「民政室の方たちと綿密な打ち合わせを行いました。役場の元書記や、工場の労務係だったという皆様のお知恵を借りて教練の型を作り、相良の歴戦の下士官殿や古参兵の方々を教官に迎えて、四日間の特別教練で七百名の人員を仕立て上げました。手足となったのは私の旧家臣だけではありませぬ。いち早く刀を置き、相良のことわりに従う道を選んだ、旧今川・織田の元侍たちにござる」


これら七百名を用いた巡回監査は、泥臭くも極めて組織的な計画であった。

 人員を「三〜四名と駄馬一頭」を基本とする約百七十の班に分ける。相良の兵は直接赴かず、班の中で最も身分の高い元侍を責任者として巡回監査長……略して『巡査長』と名付け、彼らに村々を回らせた。休養と補給の予定も組み込み、四十日間をかけて四カ国のすべての村、すべての降伏した国人領主の館をシラミ潰しに回ったのだ。


「各村での手順は全て同じに統一いたしました。村の広場に名主や顔役を集め、『此の地は今後、相良が支配致す。法に則り、定めの期日までにこの帳面へ家数、名主・小作の姓名、田畑の広さと作りの高を書き記し、役場へ差し出せ』と申し渡すのみにござる」


「当然、ここの百姓や地侍どもだ。馬鹿正直に本当の数字など書くまい?」


「ええ。田畑の面積も収穫量も、平気で半分以下に誤魔化して申告してきます。彼らにとって、領主や代官の目を誤魔化して年貢を中抜きするのは、息を吐くのと同じ『常識』ですからな。……ですが、我々は一旦、その嘘の数字をそのまま受理してやりました」


元康はそこで言葉を区切り、手元の書類に視線を落とした。


「そして帰り際、彼らに『挨拶代わり』として、駄馬に積んできたものを一つ置いて立ち去るのです。……純度十割の、真っ白な塩を一俵」


私は小さく息を吐いた。戦国時代の内陸部において、泥の一粒も混じっていない純白の塩一俵(約六十キロ)がどれほどの価値を持つか。それはもはや、金銀に等しい。相良には油田のボイラー熱を利用した平釜の製塩工場があり、月に十トン余りの塩を生産しているが、民政室からの指示により、その貴重な約一ヶ月分の生産量を、惜しげもなく「心理戦の爆弾」としてばら撒いたのだ。


「村の者たちは、腰を抜かして平伏したそうにござる。脅し文句や武将の威光など欠片も通じぬ野盗のような百姓どもが、たった一俵の塩を無造作に置いていく我らの財力を前に、完全に度肝を抜かれたのです」


「……圧倒的な富と物量による暴力、というわけだ。だが、嘘の数字を出させたままでは終わらせんのだろう?」


私が問うと、隣で報告書をめくっていた桂木少佐が、静かな声で引き継いだ。


「はい。帳簿を回収した後、民政室の事務官たちが過去の検地帳や人口比率と照らし合わせました。そして、明らかに度を超えて誤魔化している村や国人衆の領地を無作為に抽出。見せしめとして武装した監査部隊を送り込みました。……結果として、悪質な隠匿や、裏で一揆を企てていた二つの国人領主の館と、三つの村を物理的に更地にしております」


「アメとして塩を配り、度が過ぎた嘘つきは徹底的に潰す。この絶妙な匙加減もまた、民政室の皆で話し合って決めたことにあります。……一度約束した法は必ず守る。『相良は嘘をつかない』。その強烈な事実が四カ国に知れ渡るのに、時間はかかりませんでした」


桂木少佐の言葉に、元康も深く頷く。


「左様。今でもこっそり隠田を作ろうとする者はおりますが、以前のように半分も誤魔化すような度胸のある者は激減しました。皆、後で抜き打ちの検分に入られて村ごと焼かれるのを恐れ、多少の手心はあれど、以前より遥かに実態に近い数字を渋々出してきております」


「それでいい」


私は深く頷き、湯呑みに残っていた冷めた茶をすすった。


「最初から一分一厘の正確な数字など求めてはいない。重要なのは、彼らが『相良の法を破れば代償を払わされる』と骨の髄まで理解し、我々の敷いた枠組みの中で算盤を弾き始めたことだ」


私は机の上に積まれた真新しい「相良圓」の札束に目をやった。


「元康、お前たちが泥臭く集めたこの実態に近い帳簿の数字と、法による恐怖の裏付けがあって初めて、このただの紙切れが『銭』としての信用を持つ」


「……裏付け、でござるか」


「そうだ。農民たちは塩欲しさに我々に従った。だが、いつまでもただで塩を配り続けるわけにはいかない。これからは、彼らが作った作物を相良がこの軍票で適正に買い上げ、彼らはこの軍票で塩や日用品を買う。この紙幣を中心とした銭と物の巡りを四カ国に定着させることが、次なるお前たちの仕事だ」


元康は真剣な面持ちで私の言葉に耳を傾け、小さく頷いた。


「いずれ必ず商機を嗅ぎつけて、大坂や堺から商人たちがやって来るはずだ。彼らはしたたかだぞ。金銀の裏付けがない我々の紙幣を、最初は鼻で笑うだろう」


「……その時は、いかがなされますか」


「その時こそ、お前たち民政部の腕の見せ所だ。四カ国の物産、関所の通行、塩や医薬品の専売。これらすべてを、相良圓でしか決済させないようにしろ。奴らがこの地で商売をしたければ、否応なしに我々の紙切れを頭を下げて受け取るしかない状況を作り上げるのだ。武力で脅す必要はない。ただ、商流の首根っこを押さえるだけでいい」


私の説明に、元康はしばらく沈黙し、やがて静かに息を吐き出した。


「武力ではなく、商いの流れそのものをすげ替える……。相良の恐ろしさは、鉄砲や大砲よりも、むしろその冷徹な算段にありますな。承知いたしました。この紙切れが天下の金銀を凌駕する様、私がしかと差配してご覧に入れます」


刀の時代は終わった。これからは、血肉の帳簿と、冷徹な法、そしてこの不換紙幣こそが、我々の最大の武器となるのだ。



この項つづく

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