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第14話:海から迷子のお友達と『素敵なお宝』がやってきた!〜ワクワク海辺のDIYがスタートです〜その1

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

 

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

永禄三年(一五六〇年)七月二十日。

遠江国、相良衛戍地さがらえいじゅち


 我々がこの狂った中世の異世界において、今川氏真率いる二万二千の軍勢を相良の谷底で文字通り「処理」してから、一ヶ月の歳月が経過していた。


 遠州の空は梅雨の重苦しい雲を脱ぎ捨て、暴力的なまでの真夏の太陽が容赦なく照りつけている。深い谷間に位置するこの相良衛戍地には、肌にまとわりつくような濃密な熱気がよどみ、絶え間ない蝉時雨が鼓膜を打っていた。


 だが、そのむせ返るような熱波も、谷の最奥に鎮座する製油プラント群が発する地響きのような重低音の前では、単なる背景音に過ぎなかった。


 かつて、昭和二十年ニ月にこの地に赴任したばかりの頃、私はこの谷底に漂う原油の甘だるい匂いや、接触法硫酸プラントから漏れ出す亜硫酸ガスの刺激臭を忌み嫌っていた。それは、敗北へと向かって転がり落ちる祖国の、末期的な泥縄の象徴のように感じられたからだ。


 しかし今、私の中でその認識は百八十度反転していた。


 地下一五〇〇メートルから汲み上げられる黒い血脈は、我々がこの未開の中世世界に新しい秩序を打ち立てるための、絶対的な力の源泉である。トッピングプラントの高さ十五メートルの精留塔が陽炎の中で黒々とそびえ立ち、ポンピングジャックが単調な金属音を響かせながら規則正しく上下運動を繰り返す。


 鼻腔を満たす油の匂いと、ボイラーから吹き上がる熱気は、もはや悪臭などではない。それは、狂信と身分制度に縛られた旧世界を物理的に解体し、科学と工業力による新たな文明を産み落とす、誇り高き「産声」そのものであった。


 この一ヶ月間、我々の実働部隊である歩兵大隊の小隊群は、松平元康と彼の配下たる旧三河武士たちを伴い、旧今川領を駆け回っていた。


 彼らは刀を捨て、算盤そろばんと検地帳を握りしめ、我々の圧倒的な武力を背景とした「説得工作」に従事している。抵抗する素振りを見せた土豪は、容赦なく機関銃の掃射でなぎ倒され、恭順を示した者には、純白の塩と砂糖という、中世においては黄金にも等しい価値を持つ物資が配給された。


 結果として、遠江から駿河の一部に至る平野部は、我々「相良守備隊」の実効支配下に驚くべき速度で組み込まれつつあった。飴と鞭、そして一切の感情を排した無機質な事務手続きによる統治機構の拡大である。


 一方、周辺の巨大勢力である甲斐の武田信玄や、相模の北条氏康といった連中は、不気味なほどの沈黙を保っていた。


 二万二千を超える大軍が、たった数十分で一人の生存者も残さずに文字通り「蒸発」したという凄惨な報告は、草の根を分けて彼らの耳にも届いているはずだ。中世の軍事常識を根底から覆す我々の異質な存在に対し、彼らはあえて手を出さず、息を潜めて「様子見」を決め込んでいるのだろう。


 我々にとっては、それは極めて好都合な状況であった。無闇に弾薬や燃料を消費することなく、インフラ整備と戸籍整理、そして新たな統治基盤の構築に専念できるからだ。 





 その日、私は木造平屋の連隊本部庁舎の執務室で、すり減った軍靴の補修と被服の配給計画書にサインをしていた。


「大佐殿! 緊急の報告があります」


執 務室の扉が乱暴に開かれ、通信中隊長の真田慧さなだ けい大尉が、幾分血走った目で飛び込んできた。彼は時空転移の瞬間にあの「神の周波数」を聞いて以来、我々が上位存在の盤上の駒に過ぎないという虚無感と知的好奇心に取り憑かれ、夜な夜な無線機の前で電波の海をさまよっている男だ。


「どうした、真田。武田の忍びが鉱石ラジオでも作り始めたか」


「冗談を言っている場合ではありません。……平文ひらぶんです。暗号化すらされていない、明確な日本語のSOSを受信しました。発信源は駿河湾の沖合、御前崎の南方海上です」


 真田は、僅かに震える手で一枚の電信用紙を私の机に差し出した。


『――こちら大日本帝国海軍、掃海特務艇・第二十三号艇ほか計七隻。現在、御前崎沖ニ集結中。食料・真水枯渇ニツキ、至急ノ貴隊トノ合流及ビ救援ヲ求ム。相良守備隊、応答願ウ』


「……海軍、だと?」


 私は思わず立ち上がり、電信用紙の文字を凝視した。  


 我々と同じように日本から、あの昭和の敗戦間際の夏から、この時代へと放り出された部隊が存在するというのか。しかも、それは陸軍たる我々とは組織を異にする帝国海軍の艦船であった。


「どう対処されますか、大佐殿。……海軍の連中が、我々陸軍に素直に助けを求めてくるとは」


 真田が慎重な面持ちで問う。


 昭和の軍隊における「陸海軍の対立」は、時に敵国に対するそれよりも根深く、陰湿なものであったのは事実だ。予算獲得から兵器開発、作戦指導に至るまで、両者は常にいがみ合ってきた。  


 だが、大戦末期、本土決戦が現実味を帯びてきた時期においては、現場レベルでの物資の融通や局地的な協力関係はそれなりに存在していた。何より、この見知らぬ中世の世界に放り出され、絶望的な孤立感を味わっている状況下で、かつての軍組織の縄張り争いなど何の意味を持つのだろうか。


「罠などという下らない勘繰りは無用だ。彼らもまた、我々と同じ地獄に放り出された同胞に他ならん。それに、我々にとって『海』への足がかりとなる船舶は、喉から手が出るほど欲しい戦略資産だ。ただ何故彼らは我々を知っている?我々は陸軍内部でも秘匿部隊だぞ?」


 直感的にアレかと意識に上ってきたが、まあ、会って話せばわかるだろう。

私は即座に決断を下した。


「海堂中尉を呼べ。彼なら、海の連中の言葉や事情が誰よりも分かるはずだ」





数時間後。  


 私は、海軍の独立陸戦隊指揮官である海堂竜一中尉を伴い、九四式六輪自動貨車に揺られて遠州灘の海岸へと向かっていた。


 この海へとつながる道路は、中央第一軍道が東へ五キロほどほぼ直線に伸びた道で、小さな廃漁村に偽装された「秘匿接岸施設」に繋がっていた。ふざけた事に衛戍地を中心とした半径三キロの円の外周から、正確に百メートル幅の直線で接岸施設までがつながり、接岸施設ごと綺麗に転移していた。


 一見すると放棄された100世帯くらいの中規模の漁村にしか見えないが、港の外側に見える防波堤は外側が8メートル近く浚渫され、不自然なほど幅広になっている。係船柱が防波堤に埋め込みになっているという事は以前聞いていた。内航用の小型タンカーや千トン未満の貨物船が横付けできる水深が確保されており、自走五トンクレーンや浚渫台船も秘匿格納されている。転移間際の時点では、無人だったはずである。


 廃村には小さな漁船が何艘か残っていて、我々の食卓を少し豊かなものにしてくれている。

 少し離れた場所には交易用の塩を作る製塩所が、先日、廃村の魚市場だった建物を再利用して、相良の集合体施設から分離して本格稼働されたばかりだった。






 真夏の強い日差しが遠州灘の海面をギラギラと照り返す中、我々は防波堤の上で目を凝らした。


 やがて、水平線の彼方から、波を割って七つの黒い船影が姿を現した。


 海堂中尉が送られてきた電文から、船の名前や簡単な種類を我々に解説してくれた。先頭を進むのは、鋭い艦首を備えた鋼製の大型漁船にも似た船型の特務艇。船首には商船用の短十二糎砲が鈍く光っている。第一号型掃海特務艇の最終艇、第二十三号艇だ。


 その後ろには、遠洋マグロ漁船を改装した特設監視艇「第二永徳丸」、八糎(76.2mm)くらいだろうか小さな主砲を前甲板に装備したカツオ漁船ベースの「第一海東丸」、二本マスト(ガフスループ型)の「観洋丸」、小さな一本マストのカッター型の「第七大黒丸」、二本マスト(スクーナー型)の「第三天祐丸」、そして最後尾にこの小艦隊の中では、ひときわ大きい、とは言っても小型油槽船の「目白丸」が続いていた。


 双眼鏡で確認する限り、建造されてからさほど年月が経っていないのか、古臭い感じは一切せず、船体の塗装もまだそれほど傷んではいないようだ。ただ、接近するにつれ、スクーナー型の第三天祐丸だけは船体に幾つかの痛々しい損傷が見られ、甲板で乗組員が手動ポンプを動かしている様子を見て取れた。全体として、いかなる過酷な航海を経てきたのか、どの船もひどく「くたびれた」疲労の影をまとっていた。


 船団が防波堤の外側の海底を浚渫した偽装桟橋に静かに接岸し、まず第23号艇からタラップが下ろされる。


 降りてきたのは、パリッとした第二種軍装に身を包んだエリート海軍士官たち……ではなかった。どの時空から転移してきたのかは未だ判らないが、彼らは半袖の第二種夏服や、汗と潮風にまみれた防暑衣、あるいは薄汚れた作業着姿であった。海堂が言うには、掃海特務艇や徴用船舶の乗組員の大半は、臨時応召された民間船の船長や、強制徴募された元・漁師たちを中心とした男たちなのだそうだ。


 その先頭に立ち、重い足取りながらも背筋を伸ばして敬礼をしてきたのは、まだ顔に幼さすら残る二十代半ばの海軍中尉と、その後ろに控える三十代半ばの筋骨隆々としたベテラン兵曹長だった。


「大日本帝国海軍、第二十三号艇艇長、秋田宗助中尉であります。相良守備隊の皆様におかれましては、平文での無礼な救援要請に迅速にお応えいただき、感謝の念に堪えません」


 若き中尉は、極度の疲労と緊張で声をわずかに震わせていた。彼らの瞳にあるのは敵意や警戒ではなく、同郷の人間に出会えた安堵と、生き延びたことへの深い感慨であった。


海堂中尉が一歩前に進み出た。


「第二十三号艇長だな。俺は相良海軍陸戦隊の海堂竜一中尉だ。……失礼だが、貴官、クラス(兵学校の期)はいくつだ?」


「はっ、海兵七十二期であります!」


「そうか。俺は七十期だ。階級は同じ中尉だが、俺の方が先任になるな。……よくここまで船と部下を持たせた。ご苦労だった」


「はっ……! 海堂中尉が先任でありますな。第二十三号艇以下六隻、ただちに先任の指揮下に入ります!」


秋田艇長は、同じ海軍の直属の先輩の言葉に、張り詰めていた糸が切れたように深く息を吐き出した。海軍という絶対的な序列社会において、「頼れる先輩(先任将校)」が見つかった安堵感は計り知れない。後ろに控えていた少し年嵩の兵曹長も、海堂に深々と頭を下げた。


 彼らにも、私の内心にも、陸海軍の反発などという下らない意地は微塵も存在しなかった。我々は皆、この絶望的な異世界に放り出された、同じ船の乗組員なのだ。


「それにしても、よく平文で救援など打ってこられたな。暗号書を紛失したわけではあるまい」


 海堂が穏やかな口調で問うと、若き艇長は苦笑するように首を振った。


「我々がこの空間に放り出されたのは、実はつい十五日前のことなのです。転移した時はそれぞれバラバラの海域で、ようやく昨日、予定されていたこの御前崎沖の海域に全船が集結できた次第でして……」 


「十五日前だと? 我々の転移から半月もズレがあるというのか」  


 私が驚いて口を挟むと、海軍の男たちは一斉に頷いた。


「はい。その転移の際、我々の頭の中に直接、あの奇妙な……妙に馴れ馴れしい訛りのある声が響きまして」


「……あのふざけた”声”か」


「はい。『相良にいる陸軍の連中が、すでに今川と織田を殲滅し、この時代の武士階級を根絶やしにする大立ち回りを始めている』と、既定の事実として丁寧に教えてくれました。そして、『御前崎の沖に集合しろ。そうしなければ海のもくずとなって死ぬぞ』と煽り立てたのです」


 やはり、あの気まぐれで悪趣味な”邪神”か。我々がこの一ヶ月で成し遂げた蹂躙劇を、わざわざ海軍の連中に開陳して見世物の筋書きを進めたというわけか。  


 だが、そのおかげで話が極めて早くなった。相良の陸軍がすでに中世の軍隊を圧倒的な力で粉砕し、新たな支配体制を敷いていると知らされ、しかも十五日間も見知らぬ海を漂流して食糧も燃料も底を突いていたとなれば、小細工や意地など張る必要はない。彼らは純粋に、生き延びるための最善の手として平文で連絡を寄越したのだ。


「よく来た。貴様らの船には、相良の油を腹の底まで食わせてやる。真水も、温かい飯と風呂も用意してある。まずはゆっくりと骨を休めるがいい」


私が静かにそう告げた瞬間、屈強な海の男たちの日に焼けた顔がくしゃりと歪み、安堵の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。





その2に続く

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