第87話 甘いひとときと影
エレノアとは、その後、楽しいひとときを過ごした。
エレノアに俺の服を貸そうとし、比較的小さめのものを選ぶが、
どれもぶかぶかだった。
大きすぎるのだ。
「エレノア、君は華奢だな。
本当に食べているのか?」
「ええ、殿下。
これでも私は太ってしまいましたのよ。」
エレノアは顔を赤くしながら言う。
「もう少し太ったらどうだ?
君は細すぎる。」
俺は心からそう言ったが、エレノアは首を振る。
「これ以上太ったら、豚になってしまいます。」
その様子があまりにも可愛くて、俺は思わずくすりと笑う。
「殿下、お笑いになりましたね。」
エレノアは拗ねたように言う。
「いやあ、例え君が豚になってしまっても、
私の心は変わらないよ。
きっと可愛らしい豚に違いないから。」
俺がそう言うと、
「殿下。」
エレノアは真っ赤な顔で、ますます拗ねてしまった。
その様子に、エマが苦笑する。
「殿下、エレノア様には今の殿下のサイズの服は、どうしても合いません。
エレノア様から見たら、殿下は長身の大男ですから。」
「そうか、どうりで私から見たエレノアは、華奢で可愛らしいはずだ。」
エマは続ける。
「ですので、殿下の数年前の服などいかがでしょうか?」
「それはいい考えだな。」
俺は素直に頷く。
「では、後で何着か選んでお持ちしますね。」
エマはそう言った。
やがて、エマは何着か服を持ってきた。
「エレノア、いいじゃないか?」
「はい、殿下、ぴったりですわ。」
エレノアは、エマと俺に何度も礼を言った。
「もう少しここにいたらいいじゃないか?」
用事を済ませて帰ろうとするエレノアを、俺は引き止める。
「殿下、ですがこの後は、王妃様に呼ばれているんです。」
エレノアはそう言った。
おそらく、国王帰還の際の要人をもてなす宴の件だろう。
俺はエレノアを見る。
「大丈夫か?エレノア。君は疲れていないか?」
「殿下、本当に大丈夫ですから。」
エレノアは微笑んだ。
何事にも一生懸命なエレノア。
一度決めたら、周りが見えなくなるほど真剣になる。
だから、俺は心配なのだ。
「エレノア、約束してほしい。
助けが必要な時は、絶対に頼ってほしい。」
エレノアは頷いた。
俺は離れがたかったが、エレノアを部屋まで送ることにした。
その途中、クラリッサと出くわした。
クラリッサは俺に何か話しかけようとしたが、
俺はそのまま素通りする。
「殿下?」
エレノアは不安そうに俺を見る。
「エレノアが気にすることはない。」
俺はそう言った。
正直、クラリッサへの怒りは、嫌悪とともに増すばかりだった。




