(番外編)甘い誘惑の先④
抱き抱えられ、連れて行かれたエレノアは、レオニスに乱暴にベッドへ押し倒された。
エレノアは、どうしたらいいのかわからなかった。
その表情には、恐怖、恥ずかしさ、安心、好奇心、そして少しの期待。
様々な感情が入り混じっている。
あどけなさと色香が同居した、その顔。
レオニスは内心、ずるいな、その顔は、と思った。
怒っているはずなのに、怒りが静まりそうになる。
そう心の中で呟く。
それでもレオニスは、
「エレノア、私は君をこんなところで抱く気はない。」
そう言い放ち、エレノアから離れた。
それから終始、何も言わない。
エレノアを見ようともしない。
エレノアは、恐る恐る口を開いた。
「殿下、怒っていますか?」
やっと出た言葉は、何とも間の抜けたものだった。
レオニスは答えない。
だが、しばらくの沈黙の後、
「怒っている。君がこんなに軽率な真似をするとは思わなかった。」
一言、そう告げた。
「失望させてしまいましたか?」
エレノアはしゅんとする。
「君に失望することはない。ただ・・・。」
レオニスは一瞬、目を伏せる。
「ただ、私はこんなことをされたら、一瞬たりとも君から目を離せなくなる。
安心して、公務にも赴けない。」
「申し訳ありません、殿下。」
エレノアは謝罪する。
「もし、偶然にも君を見つけられなかったらどうなっていたか、
そう考えたら、居ても立っても居られない。」
レオニスは静かに言った。
その怒りは、エレノアを責めるものではない。
エレノアを心配してのものだった。
「本当に申し訳ありません、殿下。このようなこと、二度と致しません。」
エレノアはもう一度謝る。
「まだ、怒っていますの?」
潤んだ瞳でレオニスを見つめる。
レオニスはため息をついた。
そして、
「もう怒っていない。」
と答えた。
「では、何故、こちらを見てくださらないの?」
エレノアは詰め寄る。
レオニスは自分の上着を脱ぎ、エレノアにかけた。
「そんな魅惑的な姿で近寄られたら、私の理性が持たなくなってしまう。」
そう言って、わずかに頬を赤くする。
一方で、リリアはルシアンに、
「リリア、君は何を考えているんだ?」
と怒られていた。
「ごめんなさい、ルシアン。お金は必ず返すから。」
リリアは言った。
「お金はいいし、そもそもそういう問題じゃない。」
ルシアンはリリアを見る。
その表情は真剣だった。
「君にもしもの事があったらと思ったら、私はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。」
ルシアンは、本気でリリアを心配していた。
「ルシアン、もしかして、心配してくれた?」
リリアは問いかける。
「当たり前だ。リリア、君はレオニスしか見えていないだろうが、
私は、君を特別に思っている。」
気の利いた言葉ではない。
華やかさもない。
それでも、その誠実さは、確かにリリアの胸に届いていた。
セレナは部屋に入った瞬間、大はしゃぎだった。
そして、カイルの雷が落ちた。
「まったく、あなたと言う人は。」
「えっー、何でこういう展開になるの?ここは恋人らしく、ムーディに。」
「なりませんよ、そんなことには。」
カイルの説教は続く。
「カイル様、せっかく、私を買ったんだから、少しは。」
セレナの言葉に、カイルは、
「本当に、無駄な出費です。」
とキッパリ答える。
「出費って、カイル様ひどーい。」
セレナは噛み付くが、カイルの説教は朝まで続いた。
その後、任務の方は、レオンハルトとアルベルトによって無事、完了された。
「全く、お前達は、何考えてるんだ?少しはヴィオレッタを」
レオンハルトはヴィオレッタを見習えと言いたかったのだろうが、
セレナに遮られた。
「ヴィオレッタも来る気満々で、流石に妊婦だから断るの大変だったんだよ。」
その言葉に、レオンハルトは、
「そうか、じゃあ、あいつも帰ったら説教だな。」
と不敵に笑った。
後日。
セレナ、ヴィオレッタ、エレノア、リリアの四人は、お茶会をしていた。
それぞれの出来事を語り合い、女子トークが炸裂する。
エレノアの話を聞いて、
「やっぱ、レオニスかっこいい。」
とリリアが言った。
「あの男はずるいからね。」
セレナはそう言って、ニヤける。
「で、リリアはどうだったの?」
リリアは少し照れながら報告する。
「新しい恋の予感だね。」
セレナが軽口を叩き、
「そんなんじゃないもん。」
とリリアはそっぽを向いた。
「セレナはどうでしたの?」
エレノアが尋ねる。
セレナの表情が暗くなる。
「カイル様の朴念仁。」
そして、ありのままを話す。
ヴィオレッタはそれを聞いて苦笑する。
「でも、ヴァンデル卿は屈強の騎士ですから、いかなる場合でも任務を放棄する方ではありませんわ。
今回は、任務よりもセレナを優先した、、、。」
エレノアは静かに言った。
セレナの顔が、ぱっと明るくなる。
「そうか、そうよね。そうだよね。」
セレナは満足げに微笑んだ。




