第78話 王家の約束
レオンハルトは約束通り、王妃との謁見の場を設けてくれた。
しかも、レオンハルト自身も同席してくれるらしい。
「レオンハルト、ありがとう。恩に着る。」
俺は何度も礼を言った。
レオンハルトは笑う。
「大袈裟だな。だが言っておく。
母上に何の用があるかは知らねぇが、要求が通るかどうかはわからねぇからな。」
俺はレオンハルトと共に王妃のもとへ向かった。
通されたのは客間だった。
「王妃様、本日はお時間をいただき、ありがとうございます。」
俺が頭を下げると、
「挨拶はよい。楽にしなさい。」
王妃はそう言って、俺とレオンハルトに席を勧めた。
「ところで、あなた方はいつからそんなに仲良くなったのです?」
王妃は不思議そうに俺たちを見る。
本来、俺たちは王位を巡り牽制し合う関係だ。
決して“仲良く”などなれる間柄ではない。
「母上。俺はレオニスを疎ましく思ったことはねぇ。
いつも澄ましてて気に食わねぇ奴だとは思ってたがな。」
レオンハルトは肩をすくめる。
「王妃様。私もレオンハルトを気持ちの良い男だと思っています。
今では弟というより、良き友です。」
俺も正直に答えた。
レオンハルトは照れたのか、ふんとそっぽを向く。
「王太子とレオンハルト、二人の気持ちはよくわかりました。」
王妃は優しく微笑んだ。
「それで、王太子は私に何の用があるのです?」
俺は第8惻妃の件について話した。
「なるほど。言いたいことはよくわかりました。」
王妃は静かに頷く。
「では、その前に少し昔話をいたしましょう。」
その目は、どこか遠くを見ていた。
「私とアンネローゼ様は、世間が思うほど険悪な仲ではありませんでした。
同じ陛下の妃であるため、複雑な感情は確かにありましたが……
もし立場が違えば、良き友になれたやもしれません。」
王妃は目を伏せる。
「エレノア嬢は、清廉潔白なアンネローゼ様によく似ていらっしゃる。
王太子は無意識に、母君に似た方を選ばれたのでしょうね。」
「陛下もまた、昔はアンネローゼ様に振り回されておいででした。
当時の国王であろうと王妃であろうと、思ったことを率直に申し上げる方でしたから。」
「王太子であった陛下は、その度に尻拭いをなさっていたのですよ。」
(あの国王が……尻拭いを?)
俺は内心で驚く。
「陛下にとって最も寵愛された妃は、間違いなくアンネローゼ様です。」
王妃は静かに言った。
「私のことも大切にはしてくださいました。ですが、それは政治の上でのこと。
信じられないかもしれませんが、陛下は、王太子と同じく、一途な方でした。」
王妃は寂しげに微笑む。
「私たちの気持ちとは裏腹に……特に王太子とレオンハルトが生まれてからは、
権力争いは次第に苛烈になっていきました。」
「ただ、私とアンネローゼ様の間には、一つ約束がありました。」
「どのような結果になろうとも、子供たちは巻き込まない。」
「互いの子に手を出さない、と。」
俺はその言葉を聞きながら、
この人を誤解していたのかもしれないと思った。
「結果は……ご存知の通りです。」
「アンネローゼ様が去られてから、陛下は変わられました。
私を警戒し、王太子には決して近づけなかった。」
「そして、心の隙間を埋めるかのように、惻妃を次々と召されるようになりました。」
王妃は一口、茶を含む。
「陛下は、いずれアンネローゼ様を呼び戻すつもりでおられました。」
「ですが、あの方はそれを拒まれた。」
「幼い王太子が哀れだと言っても、」
「“あの子の母は、もういない”と――」
「それほどまでに、潔白な方でした。」
俺は、母上のことを思い出していた。
「王妃様、お話を聞かせていただき、ありがとうございます。」
隣でレオンハルトが笑う。
「母上。親父の女好きは、たぶん本物だぜ。」




