第75話 無力な王太子
俺は、その日エレノアが眠りにつくまで、そばで見守っていた。
食欲もなく、顔色も悪い。
とても学院に行ける状態ではなかったため、休ませることにした。
しばらくは休むことになるかもしれない。
エレノアに必要なのは、心の休息だ。
だが、その休息すら与えてやれない。
同じ宮殿にはクラリッサがいる。
また彼女によって、エレノアが追い詰められてしまうかもしれない。
俺は公務の最中、宰相や大臣に8妃について相談した。
宰相は険しい顔で言う。
「殿下もすでにご理解しているとは思いますが、
後宮のことには、我々は口出せません。」
宰相の言う通りだった。
国王の後宮には、王太子である俺でさえ口出しできない。
それでも、8妃が命を落とせば、エレノアの心が壊れてしまうかもしれない。
俺はできるだけ時間を見つけては王宮へ戻り、エレノアのもとへ向かった。
エレノアはそのたびに「大丈夫だ。」と言う。
だが、とてもそうは見えなかった。
俺は、8妃のことを王太后に相談することにした。
「お祖母様、ご機嫌いかがですか?」
俺は王太后に挨拶をする。
「珍しいな、レオニスが来るとは。」
王太后は穏やかに笑った。
俺はすぐに本題に入り、第8惻妃に恩赦を与えられないかと相談する。
だが、話すほどに王太后の表情は険しくなっていった。
「ところで、レオニス。
一つ確認じゃが、シルヴィアの子供は本当に陛下のお子か?」
王太后が鋭く俺を睨む。
「当然ですよ、お祖母様まで、噂に踊らされているなんてこと、ありませんよね。」
俺はあえて明るく答えた。
「お前はあくまで、そう押し切る気じゃな。
なんとも畏れ多い。」
「まあ、お前が誰を守っているのかは聞かなくてもわかるがな。」
王太后は静かに言う。
「だがな、レオニスよ。
陛下の後宮においては、私も管轄外じゃ。
なので、力になれん。」
「やはり、そうですか?」
俺はカップに口をつけた。
わかっていた答えだった。
王太后は続ける。
「前にも言ったが、エレノアに王妃の荷は重いのではないか?」
「お祖母様だからお話ししますが、私はエレノア以外とは結婚する気はありません。
惻妃も持ちません。」
俺ははっきりと断言した。
「それは、また問題発言じゃな。だが、後継者はどうする。
エレノアが男子を産むとは限らんぞ。」
「別に私自身は女王でもいいと思います。
それにもしもの時は、レオンハルトがいます。」
王太后がじっとこちらを見る。
「レオンハルト、あやつか。」
「はい、レオンハルトが王になっても、きっとこの国は今よりいい国になります。」
俺は迷わず言い切る。
「そなたの気持ちはわかった。だが、エレノアは王妃の器ではない。」
俺は一瞬言葉を選び、それでも口にした。
「そうでしょうか?私はエレノアは良い王妃になると思います。」
王太后は黙って俺を見る。
「エレノアは人の優劣はつけない。誰に対しても公平であろうと務めています。
決して器用ではありませんが、これも王妃の資質ではありませんか?」
「・・・・。」
「それに、私はエレノアが狡猾で計算高い女だったら、愛さなかった。
不器用でまっすぐなエレノアだからこそ、惹かれたのです。」
王太后は思わず吹き出した。
「レオニス、そなたは賢く、毅然としていて、完璧な王太子であるのに、
エレノアのことを話している時は普通の男に見えてしまう。」
「お祖母様、私はエレノアの前ではただの一人の男ですよ。
私は国王の後宮のような場所にエレノアを置きたくはない。
王妃としての重責を担ってもらわないといけないのだから、
せめて、家でくらいは安らかに穏やかに過ごしてほしい。」
王太后は小さく笑った。
「それはそれとして、レオニス。
8妃のことだが、私でも口を挟めない。」
王太后は厳しい表情で言い切る。
「もし、陛下を諌めることができるとしたら、
マリアンヌ王妃だけだろうな。」
「王妃様ですか?」
俺は思わず眉をひそめた。
王妃とは長い間敵対関係にあり、ほとんど面識もない。
だが、エレノアのためだ。
何としてでも、道をこじ開けるしかない。
「お祖母様、ありがとうございます。
王妃様にお話できるよう、お願いしてみます。」




