第72話 王太子の休息
「はあ、今日も疲れたな。」
俺はゆっくりと背伸びをする。
「お疲れ様です、殿下。」
宰相や大臣達が頭を下げる。
今、国王は外国の式典に出かけていて不在。
そのため、王太子の俺が国王の代わりに国政を担っていた。
学院に、王太子としての公務。
俺は多忙極まりない生活を送る。
エレノアとは、学院や王宮で顔を合わせているが、あまり話せていない。
シルヴィアの一件においては、相変わらず警戒は怠ってはいなかった。
最近、学院では俺がリリアを寵愛しているという噂が立っていた。
もちろん、単なる噂で、根も葉もないことだ。
リリアは最近、精力的に聖女として人々のために活動している。
その支援や同行などで、共に行動することが多い。
宰相からも、
「最近の聖女様は成長されました。
やはり、聖女様を殿下に預けた事は正解でした。」
と言われていた。
俺もリリアの成長を、正直嬉しく思っていた。
それに、リリアは貴族達が絶対に気が付かない指摘をする。
金持ちの貴族には、いわゆる庶民の感覚がわからない。
ましてや、この国の最下層の者のことなど気にも留めない。
だが、リリアは違う。
そのことを自覚させてくれる。
俺にとっても、この国にとってもありがたい存在だった。
ある日、俺達はスラム街で大々的に炊き出しをすることになった。
そのため、リリアとその打ち合わせがてら、昼食を一緒にとる。
リリアは、
「栄養価も高く、安価で、たくさんの人に食べられるものって、なんかないかな?」
と俺に言う。
「そうだな、煮込み料理とかどうだ?」
「そうねえ、それいいかも。」
とリリアは笑った。
そして、炊き出しのメニューはシチューに決まった。
リリアは張り切って動いていた。
俺が教室に戻ると、アルベルトがやってきた。
「ねえ、レオニス。最近、聖女様といい感じじゃないですか?」
ニヤケ顔のアルベルト。
「別に、公務の話しかしてない。」
俺はキッパリ否定する。
「でも、セレナが言っていましたよ。
レオニス、ラブ作戦、成功って。」
「なんだ、それ。」
そう言って、俺は苦笑した。
だが、そんな風に誤解されていたとなれば、、、、。
俺はエレノアを見る。
エレノアは丁寧にノートを書き写していた。
俺は、公務の合間にエレノアを呼んだ。
「エレノア、最近、私とリリアの妙な噂が流れているが、
単に公務の話をしているだけだ。」
エレノアは俺を見る。
「別に気にしておりませんわ。」
その言い方は、どこか冷たかった。
「それに、リリアさんも惻妃候補のお一人ですので、
殿下が気にかけるのは当然のことですわ。」
エレノアの微笑みは、完璧で美しい。
(ああ、また正妃モードに入っているな。)
俺は苦笑した。
「そうか、でも、私は君に誤解してほしくなかったんだ。」
エレノアは俺を見る。
「私が愛するのは、君だけだ。
それをわかってくれたら、それでいい。」
俺は微笑んだ。
エレノアはあたふたしながら、
「殿下、それはずるいですわ。」
と言った。
「エレノア、私は少し疲れた。
休ませてくれないか。」
と俺は言う。
「・・・・。」
そう言って、俺はエレノアの膝を枕に寝そべった。
「殿下。」
エレノアは叫ぶ。
「いいじゃないか、少し、本の少しでいいから。」
俺は懇願した。
エレノアは、
「少しだけですからね。こんなだらしない姿、見られたら
殿下の威厳に関わってしまいますから。」
とそっぽを向いた。
俺は苦笑した。
だが、俺はよほど疲れていたのか、本当に眠ってしまったらしい。
気がついた時には、外はすでに暗かった。
エレノアは、ずっと膝枕をしていてくれたらしい。
「すまない、どうやら私は眠ってしまったらしい。
起こしてくれたら、良かったのに。」
と俺は言った。
「殿下はとてもお疲れのようでした。
それを起こすなんて、できませんでしたわ。」
エレノアは微笑む。
俺は立ち上がるが、エレノアは足が痺れて動けない。
それも当然だ。
あれだけの時間、膝枕をしていたのだから。
俺はエレノアをひょいと抱き抱える。
「殿下、下ろしてください。」
エレノアはジタバタするが、
「私のせいで動けないのだから、当然だ。」
と俺は離さない。
「でも、重いですわ、殿下。」
エレノアはなおも抗議する。
「君は羽のように軽い。ちゃんと食べているか?」
と俺はエレノアを見つめた。
エレノアは、それ以上は何も言わず、俺に身を預けていた。




