第64話 病の王子
レオンハルトの言葉に、場は騒然となった。
宰相は引きつりながら、
「殿下、なんてことを……。」
とレオンハルトに詰め寄る。
「ああ、悪い。気にするな。
俺は10年以上、幽閉されていたんだ。礼儀作法なんぞ、忘れちまった。」
レオンハルトは悪びれもなく言った。
そして、ある一点を見つめる。
その視線の先にいたのは、ヴィオレッタだった。
レオンハルトは駆け寄り、言い放つ。
「ヴィオレッタ、俺と結婚してくれ。」
当然、場はさらに混乱する。
俺は、肩を震わせていた。
「殿下?」
隣でエレノアが心配そうに見ている。
堪えきれない。
俺は、思わず吹き出した。
レオンハルト、いいじゃないか。
なかなか気持ちのいい男だ。
俺は、レオンハルトに好感を持った。
「どうやら、私たちの心配は杞憂に終わりそうだ。
ヴィオレッタ嬢のことは、レオンハルトに任せていればいい。」
俺は笑いながらエレノアに言った。
だが、この場は収めなくてはならない。
国王は、憤慨のあまり怒鳴り散らしている。
その声を、レオンハルトは指で耳を塞ぎながら、
「ばかやろう、クソ親父。誰が言いなりになるかよ。」
と悪態をついていた。
案の定、宰相や重鎮たちが「この事態を収めろ」と言わんばかりに俺を見る。
俺は、ため息をついた。
「仕方がないな……。」
俺は、陛下とレオンハルトの間に割って入る。
そして、側で控えていた衛兵に命じた。
「レオンハルトを連れていけ。」
衛兵は、
「レオンハルト殿下、失礼致します。」
とレオンハルトを連れ出そうとする。
「何しやがる、レオニス!」
レオンハルトは暴れる。
そんなレオンハルトに、俺は冷たく言い放った。
「お前は病気だ。しかもかなり重症の。もう下がれ。」
レオンハルトはさらに暴れ、衛兵五人がかりでようやく下がらせた。
別に俺としても、レオンハルトが本当に病気だと思っているわけではない。
だが、この場を収めるためには、それしかなかった。
とにかく、コーネリアとルミナリア、両国の体面を守らなければならない。
俺は陛下に向き直る。
「陛下、レオンハルトは病気です。」
「なんじゃと?」
国王は俺を睨む。
「レオンハルトの心は、10年以上もの幽閉生活で壊れてしまいました。」
俺は静かに続ける。
「そうでなければ、この事態は説明がつきません。
カミラ姫のような美しい姫に心を奪われず、まして私の妃に求婚するなど、ありえません。」
国王は苦々しい表情を浮かべたが、その場は俺に合わせた。
「そうじゃな……それならば仕方あるまい。」
そして、俺はカミラ姫へ向き直る。
「弟が失礼を致しました。
ですが、弟は病気なのです。幸い、貴方との婚約の前にわかり良かった。
どうか、カミラ姫。寛大な心で納めていただけないでしょうか。」
カミラ姫は静かに息を吐いた。
「仕方ありませんね。そういうことなら。
このお話はなかったことにしましょう。」
そう言って、カミラ姫は立ち去った。




