第62話 婚約と犠牲
宮中では、レオンハルトの王子復権と、
コーネリアのカミラ姫との縁談話が水面下で進んでいた。
レオンハルトの闇属性は、ルミナリアでは「闇付き」と偏見を持たれている一方で、コーネリアやヴァレンシアといった大国では、まったく別の見方がされている。
闇属性は単なる魔法属性の一つであり、しかも光属性同様、希少性の高い属性だ。
そのため、闇属性保有者は国によっては優遇されている。
カミラ姫にとっても、闇属性の王子を婿に迎えることは、この上なく良い話だろう。
レオンハルトにとっても、差別の多いこの国よりコーネリアへ行くことは、むしろ好条件に思えた。
俺はレオンハルトに会いたいと申し出たが、許されなかった。
俺とレオンハルトは兄弟である前に、政敵。
そのため、俺がレオンハルトに何かするのではないかと警戒され、近づくことすらできないのだ。
俺は、エレノアにヴィオレッタの件について話をした。
「エレノア、私は場合によっては、このままヴィオレッタ嬢を惻妃に迎えようと思う。」
エレノアは、静かに俺を見つめた。
俺は続ける。
「もちろん、レオンハルト次第だが、私はレオンハルトがどんな男かわからない。
カミラ姫との縁談は、レオンハルトにとって悪い話ではない。
レオンハルトがヴィオレッタ嬢ではなく、カミラ姫を選ぶ可能性も十分にあるだろう。」
「その場合、ヴィオレッタ嬢は一人で産み育てるというが、そんなに甘くはない。
王太子に婚約を破棄された挙句、父親のわからない子供を産んだとなれば、
財務大臣ヴァンデル侯爵家の面子にも関わってくる。」
エレノアは、何も言わずに俺を見ている。
「それに、生まれてくる子供には罪はない。
誰かが責任を取らなくてはならない。」
エレノアは一呼吸おいて、
「殿下はヴィオレッタさんを大切に思っているのですね?」
と、どこか複雑な表情をした。
「誤解するな、エレノア。
私はヴィオレッタ嬢に同情しているだけだ。君への思いとは全然違う。
私が愛するのは、君だけだ。」
俺は断言する。
エレノアの顔が、みるみる赤くなった。
「ですが、殿下。
ご自身の子ではない子供をお子としてお認めになるのですか?」
俺は、小さく息を吐く。
「愚かだと思うか?」
そう問いかける。
エレノアは一瞬目を閉じ、ゆっくりと答えた。
「わかりません、殿下。」
「ただ、私は殿下のなさろうとしていることがとても好きですわ。
私も微力ながら、殿下とヴィオレッタさんのお力になりますわ。」
そう言って、満面の笑みを浮かべた。
俺はエレノアを思い切り抱き寄せた。
その後、レオンハルトとカミラのための晩餐会が、国王主催で執り行われることになった。
主要な貴族はもちろん、今回は陛下の惻妃たちや他の王族も出席する。
そこで、レオンハルトの王位復権と婚約が発表される予定だ。
だが、俺は、レオンハルトにヴィオレッタ嬢のことを伝えられないでいた。




