第61話 告げられない想い
俺は、エレノアを部屋まで送り届けた。
そこで、イザベラ夫人に声をかけられた。
「殿下、少しよろしいかしら?」
「もちろんですよ、義母上。」
と俺は微笑んだ。
イザベラ夫人は、お茶を出してくれた。
「殿下、あの子、エレノアなんですが……あのように融通が利かないと言いましょうか……。」
イザベラ夫人は、言葉を選ぶように続ける。
「完璧な妻を目指しています。
そのせいで、可愛げがないと感じられるかもしれません。
でも、それは私たち親の責任ですわ。」
イザベラ夫人は、カップの紅茶に口をつけた。
「恥を晒すようですが、私は夫が側室を持った時、怖気づき、嫉妬に狂ってしまいました。
そのせいで、醜い夫婦の姿を見せ、あの子を苦しめてしまいました。
元々は、感受性の強い、感情豊かな子でしたのに、いつの間にか、完璧な淑女と言われるまでになってしまいました。」
イザベラ夫人は、静かにため息をついた。
「でも、殿下、わかってください。
あの子は殿下のことを子供の頃から好いています。
だから、私のように嫉妬に狂い、夫に見捨てられるのが怖いんです。
臆病なのですわ。」
俺は、イザベラ夫人を見た。
「義母上、わかっております。エレノアは純粋で不器用ですから。」
そう言って、俺は微笑む。
イザベラ夫人は頷き、
「そうですわね。最近のエレノアは、少し良い意味で変わってきました。
周りが見えずに突っ走ってしまうところもありますが、きっと殿下ならどんなあの子でも受け止めてくださるでしょう。
どうか、娘をよろしくお願いします。」
と頭を下げた。
俺は恐縮しながらも、あえてイザベラ夫人に誓う。
「義母上、私は誓います。エレノアだけを愛し、必ず幸せにします。」
翌日。
俺とエレノアは、ヴィオレッタの様子を見に行った。
ヴィオレッタは、相手のことについては何も言わず、口を閉ざしていた。
それでも、振る舞いは礼儀正しい。
大臣である父に罵られようとも、耐えているようだった。
軽率な女性には見えない。
むしろ、相手を守ろうとしている。
そして俺には、ヴィオレッタの相手について、ある程度見当がついていた。
頑ななヴィオレッタに、俺はかまをかける。
「ヴィオレッタ嬢、レオンハルトは妊娠した貴方を放り出すような最低な男なのか?」
その瞬間、ヴィオレッタの顔色が変わった。
「レオンハルトは最低だな、男として。」
俺は、わざと挑発する。
「おやめください。レオンハルト殿下はご存知ありません。
それに、私はレオンハルト殿下に申し上げるつもりもない。」
ヴィオレッタは、きつく俺を睨んだ。
「やはり、そうなのか。」
俺は小さく呟く。
レオンハルト、俺の同い年の弟で、ヴィオレッタの元婚約者。
だから、ある程度の予想はついていた。
ヴィオレッタは、
「お許しください。私が悪いのです。どうか、レオンハルト殿下には……」
と泣き出す。
「落ち着け、ヴィオレッタ嬢。
私は別にレオンハルトを責める気はない。
ただ、レオンハルトにも君のことを知らせるべきだ。」
と俺は優しく諭す。
だが、ヴィオレッタは首を振った。
「いけませんわ、そんなこと。
レオンハルト殿下は、カミラ様の婿養子になる話が進んでいるのです。
そして、そのために王位復権が認められました。
ようやく、あの方の本来進むべき道に戻ったのです。
私のために、それを妨げることはあってはなりません。」
ヴィオレッタの決意は固い。
「エレノア様はご理解くださるでしょう?
私の気持ちを。」
ヴィオレッタは、エレノアを見た。
エレノアは一呼吸おき、
「ええ、わかりますわ。ですが、私も殿下の言うように、レオンハルト殿下にお伝えするべきかと。」
と静かに答えた。
レオンハルトは弟でありながら、ほとんど関わらずにいた。
そのため、どんな男なのか分からない。
これは、一度レオンハルトと話をしないといけないな。




