第56章 偽りの真実
「シルヴィア嬢には、陛下の惻妃として王宮入りしていただきましょう」
俺は率直に言った。
シルヴィアと第二夫人の顔が一気に明るくなる。
「あなたたち、お聞きになって。私のシルヴィアは陛下の惻妃になりますわ」
第二夫人は勝ち誇ったように宣言する。
第三夫人は顔を歪めた。
「何と……恥知らずな。この娘は、、、。」
「落ち着いてください」
俺は静かに言葉を遮る。
「その先は、絶対に口にしてはいけません」
場の空気が一瞬で張り詰めた。
「いいですか。シルヴィア嬢の件は、すでに陛下の耳にも入っています。
私も宰相から一通り聞きました。……もう、もみ消すことはできません」
侯爵が、苦い顔で俺を見る。
「今さら違うと言ったところで、陛下のご気性です。ただでは済まないでしょう」
俺は淡々と続けた。
「第三夫人。あなたは第5惻妃様の妹君。場合によっては助かるかもしれない。
ですが、あなたのご子息はどうでしょう」
侯爵が、顔色を変えた。
「……」
「だから、侯爵。腹を括るしかありません」
俺はそう言った。
「誰が何と言おうと、陛下のお子として押し切ること。
それ以外に道はない。……絶対に、ブレてはなりません」
「しかし……それはあまりにも恐れ多い。陛下を謀るなど……」
侯爵は項垂れる。
「侯爵」
俺は静かに言った。
「あなたが気に病む必要はありません。陛下にも責任はある」
「それに、陛下はあなたの大切な娘を、慰み者にしたのです」
侯爵の肩がわずかに震える。
「畏怖する必要はない。怒っていいはずだ」
だが、それでも侯爵は決断できない。
「しっかりしてください、侯爵」
俺は強く言った。
「あなたが迷えば、あなたの家族が滅びる」
侯爵は、ゆっくりと顔を上げた。
「……しかし、すでにシルヴィアの悪い噂が……」
「噂は噂です」
俺は即座に切り捨てる。
「不敬だと一蹴すればいい。私も協力します」
俺は力強く言い切った。
しばらくの沈黙の後、
侯爵は、ようやく決断した。
「……それしか、あるまいな」
その瞬間、シルヴィアと第二夫人は歓声を上げた。
浅はかだな。
俺は内心で嘲笑する。
国王はおそらく、シルヴィアの美貌に心を奪われる。
そして侯爵家の功績を称え、惻妃として迎えるだろう。
一度認めてしまえば、覆すことはない。
それは、国王自身の面子に関わるからだ。
不都合なことを口にする者は、不敬の一言で排除される。
……今はいい。
だが、目が覚めた時はどうなるか。
そんなことを考えていると、
「あの子は……エレノアは大丈夫でしょうか」
イザベラ夫人が青ざめた顔で言った。
俺は、穏やかに微笑む。
「大丈夫です。エレノアは、私が必ず守ります」
その言葉に、イザベラ夫人はほっとしたように表情を緩めた。
「殿下……娘を、よろしくお願いいたします」
「エレノアは聡い子ですが……嘘がつけない子なのです」
その言葉に、俺も静かに頷く。
「だから、殿下。もしお許しいただけるのであれば……」
イザベラ夫人は遠慮がちにいう。
「私は、エレノアの側にいたいのです。
こんな恐ろしいことを知ってしまった娘を、支えたい」
当然だ。
俺も、エレノアのそばにこの人がいた方がいいと思った。
「わかりました。義母上、どうかエレノアを支えてやってください」
そう答えると、イザベラ夫人は静かに頭を下げた。




